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お客様との関係性を見える化するためにヘルススコアを導入しました(設計編)

Last updated at Posted at 2025-12-14

はじめに

本記事は、システム開発における要件定義・設計プロセスの実践例として、ノーコード・ローコードツールを使ったシステム構築の事例を紹介します。特に、定量的な指標を定義し、それをシステムに組み込むための設計思考について、実際の業務で使用しているヘルススコアの導入事例を通じて説明します。

取り組みの背景

当社では自社開発のERPパッケージソフトウェアをライセンス販売しております。導入はビジネスパートナー様に担っていただくことになりますので、実際に利用するお客様とのコミュニケーションはあまり発生しません。
しかし、間接販売の業態であるがゆえに、実際に利用しているお客様とのコミュニケーションが希薄になってしまいがちです。そうなると、お客様の生の声が聞こえなくなってしまいます。当社のソフトウェアを利用いただいているお客様がより良い形でソフトウェアを利用できるよう、お客様の声を伺う活動が必要だと思います。
この活動ができない場合、長期的に見れば、当社ソフトウェアがお客様の声を直接伺い、製品に反映することができなくなってしまうため、製品価値の向上機会を逸失することになりかねません。

こういった観点で、当社はライセンサーとして、間接販売をしているB2Bパッケージソフトウェアのカスタマーサクセス活動を導入先のお客様に対して行っております。これ自体とても難しいことで、日々試行錯誤の連続です。

そんなカスタマーサクセス活動の状況を見える化する試みとして、ヘルススコアを定義して参照できるようにしました。ヘルススコアの値により、お客様のファン度合いを確認することができます。
また、ヘルススコアの値を表示するだけでなく、ヘルススコアに応じて当社が行うべき次のアクションを提示する仕組みを構築しました。
まだまだブラッシュアップは必要ですが、その取り組みについて今回の記事でご紹介いたします。

ヘルススコアとは、お客様が当社の製品やサービスを継続して利用するか否かを数値化した指標です。スコアが高いほどサービスの利用が良好、低いほど解約リスクが高い、ということになります。

こちらの記事では要件定義~設計までのお話を書かせていただきます。

業務上の悩み

カスタマーサクセス活動をする中で、当社メンバーは以下のような悩みを持っております。

CX活動をするお客様の数が当社リソースに対して膨大である

これは、限られたリソースでより多くのお客様に適切なサポートを提供するため、フォロー体制の効率化が必須であることを意味します。
全てのお客様にハイタッチでフォローするのはもはや不可能。
限られたリソースでより多くのお客様に当社ソフトウェアを利用することの価値を提供するため、より効率よく作業をすることが求められております。

ハイタッチ、ロータッチ、テックタッチはカスタマーサクセス用語です。

ハイタッチ :個別に手厚いサポート
ロータッチ :複数の顧客を効率的にサポート
テックタッチ:テクノロジーによって自律的に動けるようにするサポート

計画性や目的をもって、お客様別に最適なカスタマーサクセス活動を展開するための材料や情報が不足している

そのお客様は現在どのような活用のステージにいるのか。
そのお客様に対して、どんなサービスやアドバイスを提供すると活用度が向上し、喜んでいただけるのか。
これらはまだまだ手探りで、俗人的な勘と経験に頼っている状況です。
これを知財化し、お客様のステージと次に行うべきアクションが提案されるようになれば、今よりも更に的確なフォローアップができるのではないでしょうか。

先方担当者様の世代交代などで当社ソフトウェアの活用度や当社へのファン度合いが下がってしまう

B2Bカスタマーサクセスなので立て付け上は組織同士のやり取りになるのですが、紐解いていくとやはり人と人との関係に帰着します。
お客様の担当の方がファンになってくださることが第一歩。それがないと、お客様の組織そのものにファンとなっていただくのは難しいです。
そしてその担当の方がご異動やご退職、ご昇進などで後任の方に交代される時もあります。その際は、後任の方とも良好な関係を構築し、引き続きファンとなっていただけるよう全力を尽くします。
しかし、毎回担当者さんが変わるごとに関係構築をしていくのは、お客様および私たちの双方にとって大変です。
どこかで会社自体をファンにしてしまわないといけないのですが、それがなかなか難しいのです。

情報が分散しており、確認しづらい、見える化ができていない

カスタマーサクセスを実現するために、いろいろなツールを使っております。
基本的にはローコード・ノーコードツールにアプリを増やして、得られた内容(お客様情報、イベント参加情報、コンタクト情報、ユーザ情報など)を情報の種類に応じたそれぞれのアプリに格納しています。
ただ、このアプリの情報を横串で見ようとすると、なかなか手間がかかるのも事実です。
もうちょっと簡単にそのお客様の情報をまとめて見られないものか、という悩みもありました。

実現したいこと

  • どのお客様に何をするのが効果的か、活動の目安や方針をシステムから提案させたい
  • お客様の状況変化をタイムリーに捉え、今最も価値を提供できるお客様から順に最適なアプローチができる仕組みを作りたい
  • 指標に基づき、アプローチすべきタイミングや内容が誰にでもわかるようにしたい
  • 全ての情報を1つの画面で参照できるようにしたい

上記のようなことを実現すべく、活動を開始しました。

今回の活動では「先方担当者様の世代交代などで当社ソフトウェアの活用度や当社へのファン度合いが下がってしまう」への対応は諦めました。妙案があれば是非教えてください:wink:

本活動で取り組んだこと

ノーコード・ローコードツール上に「ヘルススコア」を確認できるアプリを作りました。
このアプリを使うと、以下のようなことが実現できます。

  • お客様との関係性の状態がわかる
  • お客様との関係をより良好なものとするために行うべき活動が提示される
  • 分散格納された様々な情報が1つの画面で確認できる
  • 各アプリを更新すると、ヘルススコアアプリの内容も連動して更新される
  • 独自に考えている活動内容も組み込むことができる

具体的にどんな活動をしたのか、この後の項で記載します。

ヘルススコアの仕組み

  • ファンの定義に従い、ファン度合いを示すヘルススコアを定義する
  • ヘルススコアの値が変わる行動を定義する
  • ヘルススコアの値に応じたアプローチ推奨内容をデータおよび指標から導出し一覧化する
  • 指標にしたいが存在しないデータを収集するための仕組みを作る

大きくは上記のような活動を行い、ヘルススコアのアプリ仕様を策定しました。

このアプリを作るために、設計として取り組んだことはヘルススコアおよび活動内容の定義です。
どんな状態になればヘルススコアが良好でお客様との関係が良好であるか、あるいは中立な立場なのか、はたまた改善が必要な状態なのか。その定義を皆で議論しながら決定し、それに応じたお客様との関係性の度合いを示すヘルススコアの段階を定義していきました。その上で、お客様との関係をより良好にするためには何を活動すべきなのかを定義し、自動提案されるようにしました。

以下、それぞれの活動の概要を示します。

ファンの定義

当部門では、カスタマーサクセス推進を通じて目指している活動を定義しております。

お客様の成功(成長:企業価値向上・売上利益増大やお客様の人材育成など)を通じて:

  1. お客様との良好な関係を築く(お客様との関係づくり)
  2. お客様が長期にわたって継続利用いただけるようサポートする
  3. 当社のCS/CX意識向上:事業本部全体・全社活動への昇華(文化にする)
  4. 当社のブランド価値向上(市場拡大と深化)

CS:カスタマーサクセス
CX:カスタマーエクスペリエンス

1で記載している「お客様との良好な関係」が構築できている状態を、私たちは「ファン」と呼んでいます。
ファンとは、当社の製品・サービスを積極的にご活用いただいているお客様であったり、当社の製品・サービスを通じて成功・成長していただけているお客様であると考えます。
また、そこから更に関係性が良化し、当社の製品・サービスに関してフィードバックをいただける関係性であることや、当社の製品・サービスをご推薦いただけるような関係になれれば最高だと考えております。

ヘルススコアの定義

上記のようなファンの定義に沿って、その度合いを明確化するための指標としてヘルススコアを採用することにしました。ヘルススコアが高ければ高いほど、お客様との関係が良好であると判断できます。

ヘルススコアの定義を検討するにあたり、日ごろの活動の中でどんなアクションをいただけたらファンになっていただけたと考えられるかを議論しました。
定量的な指標として、以下のようなアクションを挙げることにしました。

  • ユーザ登録  :あり/なし
  • メール受信  :許可/不許可
  • ユーザ会   :加入/非加入
  • アンケート回答:分析月より起算して2年以内
  • イベント参加 :分析月より起算して1年以内
  • コンテンツ閲覧:分析月より起算して2ヶ月以内

上記の内容の中でも、優先度の濃淡はあります。

「ユーザ登録」がないと、私たちがフォローアップすべきアプローチ先を判断できません。
その意味で「ユーザ登録の有無」は最重要項目としました。
ユーザ登録がないお客様は、当社からの直接的なコンタクトが難しいため、最も低いスコアに設定しています。そしてユーザ登録が1名でもあれば、一つ上のスコアに進む形で設計しました。

ユーザ登録がない場合は、ビジネスパートナー様に対して、お客様のユーザ登録を促す活動を行います。

また、私たちとの接点をどこまで作れるかという観点で考えると、接触回数が多くなればファンになってくれる可能性が高くなるのではと想定しました。
接触回数に直結する指標として「お知らせメール受信:許可」「ユーザ会加入」の2点を重視することにしました。

優先度の例)
「ユーザ登録あり、かつメール受信許可」>「ユーザ登録あり、かつメール受信不許可」>「ユーザ登録なし」

それ以外に、私たちが提供するコンテンツやサービスに興味を持っていただけているかをヘルススコアの指標として活用する方針としました。

これ以外に、定性評価もある程度組み込めるようにしたいと考えました。
定性評価には何があるか。訪問した際に伺った感想や課題、これまでの当社担当との関係性、ビジネスパートナー様にとってのお客様重要度、アプローチ不要の意思表示を受けている、など。いくつか挙げてみましたが千差万別です。
これらを数字に組み込めればベストですが、定性評価なので自動判定は難しいです。
こういった定性評価をアプリ上で閲覧できるようにした上で、人が判断してヘルススコアの値を変更できる仕様にしました。加えて、アプローチ優先度判断にも表示されるようにして、アプローチの参考情報として活用できるようにしました。

これらの情報を総合して、ヘルススコアの段階を1~7で定義し、それぞれのお客様との関係性の状態を把握できるようにしました。具体的には以下の通りです。

7:メール受信許可/ユーザ会入会/アンケート・イベント・コンテンツ条件を満たす
6:メール受信許可/ユーザ会入会/アンケート・イベント・コンテンツ条件を満たさない
5:メール受信許可/ユーザ会未入会/アンケート・イベント・コンテンツ条件を満たす
4:メール受信許可/ユーザ会未入会/アンケート・イベント・コンテンツ条件を満たさない
3:メール受信不許可 ※3以上は「ユーザ登録あり」が前提
2:ユーザ登録なし
1:アプローチ保留

※1は、お客様のご意向やご状況を尊重し、当社からの積極的なアプローチを控える状態(定性評価でのみ登録されます)

アプローチ方法の定義

ヘルススコアの定義ができたので、段階を上がるにはどのような状態になればいいかがわかるようになりました。
では、その段階に到達するためには、我々はどのようなアプローチをすればいいのか?
これも可視化できるだろうと考え、段階を上がるために必要なアプローチを定義しました。

例えば、ユーザ登録数がゼロのお客様が1名でもユーザ登録してくださることでヘルススコアの段階が1つ上がる、という定義があります。そうすると、この段階で必要なアクションは「ユーザ登録をしていただく」というアプローチになります。

このように、段階ごとに何をするかを検討し、そのアクションがヘルススコアのアプリ上で表示されるようにしたいと考えました。暗黙知を知財化する試みです。

アプローチ優先度判断の定義

こうして、ヘルススコアの段階と、その段階におけるアプローチが定義できました。
しかし、その同じ段階に多数のお客様がいらっしゃる場合、どのお客様からアプローチすべきか?という方針が定まっている方が動きやすいです。総当たりでアプローチするのでは、結局今までと同じです。より私たちを必要としているお客様に速やかにアプローチできるようにする。それを実現するための工夫が必要と考えました。

そこで、定性評価として参考になる情報が表示されるよう工夫しました。
一例として、以下のような項目が表示されます。

  • お客様の会社概要
  • お客様へのコンタクト履歴
  • 導入モジュール

これらの情報を、当部門で作ったアプリや他部門が作ったシステムから連携し、ヘルススコアアプリに蓄積して表示するような仕組みを作りました。
担当者はこれらの情報を見ながら、アプローチ優先度を判断し、実行することになります。

全てのお客様が高いヘルススコアになれば最高ですが、現実的にはそうはならないケースもあります。ヘルススコアを定義し、定性評価を見ながら検討した結果「このお客様はこのヘルススコアを維持すればいい」という結論になることもあり得ます。お客様にとって最適な状態を明確化することも、ヘルススコアにおける重要な役割となります。

終わりに

本記事では、カスタマーサクセスにおける課題解決のために、いかにしてヘルススコアの業務要件と設計を定義したかを解説しました。
この取り組みを通じて、お客様との関係性を可視化し、限られたリソースの中で最適なアプローチを行うための仕組みが整備されたと考えています。

なお、今回説明したヘルススコアアプリの開発は、Power Automate DesktopやExcel(Office365)などの要素技術を使って構築を行いました。
構築を担当したメンバーにて、実現する際の技術検証や詳細設計時の工夫などについてまとめた別記事を公開しておりますので、あわせてご覧になっていただければと思います。
ビジネスエンジニアリング株式会社 Advent Calendar 2025の12月16日の記事「お客様との関係性を見える化するためにヘルススコアを導入しました(構築編)」もあわせてどうぞよろしくお願いいたします。

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