割符からマイナ保険証へ:身分証明の歴史と「合わせる」技術の進化
その昔、 「割符(わりふ)」 というシステムがありました。それは、身分証明や契約履行のための、いわば「合鍵」のような仕組みです。 この古の知恵と、2025年に廃止(新規発行停止)となる健康保険証、そしてマイナンバーカードへの移行には、驚くべき共通点と進化の物語があります。
古代の知恵「割符」の仕組み
割符の仕組みはシンプルですが、偽造防止の観点から極めて合理的でした。
- 作成: 木片や竹、厚手の紙に、約束の内容(金額や品目)や署名などを記します
- 切断: その文字や印の上をまたぐように、中央から二つに切断(または割る)します
- 合符(ごうふ): 取引や関所を通る際などに、双方が持っている片割れを合わせます
両者の断面のギザギザや、切断された文字・印がピタリと一致すること(合符)を確認できれば、「正当な権利者」であると証明されます。 この「物理的な形状の一致」は偽造が難しく、鎌倉・室町時代の所領譲渡や勘合貿易、戦場での身元確認など、重要な場面で使われました。
割符について参考にしました。
健康保険証の「身分証明書」としての限界
時は流れ、現代。日本の「健康保険証」は、長らく事実上の身分証明書として機能してきました。しかし、それは本来の意図ではありませんでした。
健康保険証が身分証明書として認められたのは、法律で定められたからではなく、 「公的機関が発行し、国民皆保険によってほぼ全員が持っている」 という普及率と信頼性による結果論に過ぎません。
しかし、2024年12月の新規発行停止(2025年12月には現行カードも無効化)に至る背景には、保険証が抱える構造的な限界がありました。それは、まさに 「割符(本人確認の確実な手段)」を持っていなかった という点です。
なぜ写真付きにならなかったのか?
運転免許証と違い、多くの保険証には「顔写真」がありません。そのため、銀行口座開設などの厳格な本人確認では「保険証+もう一点(住民票など)」が求められるなど、単体での信用力は弱いものでした。 それでも写真が入らなかったのには、やむを得ない理由があります。
- 目的の違い
- 保険証の主目的は「医療機関での受診資格の確認」であり、厳格な個人の認証ではありませんでした
- 膨大な事務コスト
- 日本の保険制度は、企業ごとの「組合健保」や地域の「国民健康保険」など多岐にわたります。転職や家族の増減のたびに、扶養家族全員分の写真を管理・更新するのは、事務負担とコストがあまりに莫大でした
保険制度のことを参考にしたページです。
「統一化」を阻む2本の柱
「じゃあ、保険証も写真入りにして、ICチップ(現代の割符)を埋め込めば万全では?」と思われるかもしれませんが、そこには 「運営主体の壁」 という大きなハードルがありました。
日本の医療保険は、「職域(会社員などの被用者保険)」と「地域(自営業などの国民健康保険)」という、財布も親分も違う2本柱で成り立っています。
さらにその中身は、何千もの健康保険組合や市町村に細分化されており、それぞれが独立国家のように運営されています。このバラバラな組織間で、「写真収集の手間やコストはどうする?」「システムの規格はどう統一する?」といった話し合いをまとめるのは至難の業でした。
財政が豊かな組合もあれば、火の車の自治体もあり、利害が対立するため、足並みを揃えて「セキュリティの高い割符(写真付きICカード)」へと移行する合意形成が、構造的に非常に難しい状況だったのです。
解決策としての「デジタル割符」
この「バラバラの保険者による非効率なカード発行」と「セキュリティの弱さ」を同時に解決する手段として選ばれたのが、保険証の統一ではなく、マイナンバーカード(マイナ保険証)への移行でした。
【現代の割符:公開鍵暗号】
実は、マイナンバーカードは 「デジタル版の割符」 と言えます。
- 昔の割符
- 木札を割り、断面のギザギザを合わせる
- 現代の割符
- ICチップ内の「電子証明書(秘密鍵)」と、システム側の「公開鍵」を合わせる
利用時にカードを読み取らせて暗証番号を入力すると、この二つの鍵データが数学的に正しく噛み合う(合符する)かが瞬時に計算されます。 かつて人々が目視で行っていた「断面合わせ」を、現代ではコンピュータが「暗号データの照合」で行っているのです。
道具は木札からICチップへと進化しましたが、 「対になるものを持ち合い、それを合わせることで本人と認める」 という認証の根本原理は、千年前から変わっていません。
まとめ
健康保険証は、公文書でありながら「顔写真(=本人と証書を割符のように繋ぐもの)」を持たなかったため、身分証明書としての役目を終えようとしています。
ちなみに、運転免許証にICチップが埋め込まれ「暗証番号(4桁の数字2組)」が必要になったのは2007年(平成19年)のことです。 我々の社会は、目視による確認から、デジタルな「割符」による認証へと、確実にシフトし続けているのです。
10年経過したのでマイナンバーカード更新する
マイナンバーカードを作成してから10年経過したので、物理カードの更新をします。
新デザインは2028年以降なので、今回の更新は対象外ですね。
このイメージのままですね。
おっと間違いました、それは住民基本台帳カードでした(笑)。
こっちですね。
とりあえず交付したので、受取日を予約してから行えばよいでしょう。

マイナンバーカードは、この受取手順だけがイケてないだよな・・・。

