はじめに
Sakai et al. (2026)では、1999–2025年のChandra観測データを用いて、SN 1987AのX線放射構造とFe K輝線の長期変動を調べた。
本記事では、その補足解析として実施したChandra/HETGのHEG ±1次スペクトルによるFe K輝線の解析結果をまとめる。
データ処理とスペクトル解析
Chandra/HETGの観測データをCIAO 4.17のchandra_reproを用いて再処理した。
各ObsIDについて、HEGの±1次スペクトルと対応する応答ファイルをcombine_grating_spectraで結合した。その後、Sakai et al. (2026)と同じ観測時期の区分およびマージ方針に従い、combine_spectraを用いてHETGスペクトルを約4年ごとの時間ビンに統合した。
得られたスペクトルに対し、XSPECを用いて5.0–8.0 keVの範囲でスペクトルフィットを行った。モデルには、吸収を考慮したpower-lawとGaussianからなる
tbabs*(powerlaw+gauss)
を採用し、水素柱密度を $N_{\rm H}=2.17\times10^{21}\ \mathrm{cm^{-2}}$ に固定した。
結果
各時期のHEG ±1次スペクトルとフィット残差、およびFe K輝線のフラックスと中心エネルギーの時間変化を以下に示す。
図:Chandra/HETGのHEG ±1次スペクトルから求めたSN 1987AのFe K輝線の長期変動。(a) 5.0–8.0 keVの観測スペクトルとベストフィットモデル、(b) フィット残差、(c) Fe K輝線フラックス、(d) 輝線中心エネルギー。スペクトルと残差は見やすさのため縦方向にオフセットして表示した。エラーバーは1σを示す。
2007–2010年の観測からFe K輝線に対応する成分が認められ、その後の観測では輝線フラックスが全体として増加する傾向が得られた。ただし、HEG ±1次スペクトルでは光子統計が限られており、特に初期の観測における輝線パラメータの制約は弱い。
輝線の中心エネルギーはおおむね6.6–6.7 keVに分布しており、フラックスと中心エネルギーの時間変化はいずれもSakai et al. (2026)で報告したゼロ次スペクトルの解析結果と誤差の範囲で整合している。
以上より、Chandraのゼロ次スペクトルで測定されたFe K輝線の長期変動は、統計的な制約は大きいものの、HEG ±1次の分散スペクトルからも整合的な結果が得られることを確認した。
参考文献
Sakai et al. (2026), Chandra X-Ray Imaging and Spatially Resolved Spectroscopy of SN 1987A: Energy-Dependent Morphology of the Equatorial Ring, The Astrophysical Journal.
https://doi.org/10.3847/1538-4357/ae7c72
