はじめに
前回は、同じSN 1987Aの3観測について、Chandra/ACIS-Sのzeroth-order PSFをno grating / HETG / LETGで比較しました。
画像解析ではPSFに加えて、そもそもzeroth orderにどの程度のphotonが入ってくるのか、つまりeffective areaも重要です。
これまで研究でChandraのzeroth-order imageを使う機会はありましたが、no grating / HETG / LETGのeffective areaを実際に並べて見たことはありませんでした。
そこで今回は、前回と同じSN 1987Aの3観測についてzeroth-order ARFを作り、「実際どのくらい違うのか」を簡単に確認してみました。
zeroth-order imagingについて
grating観測では分散spectrumが主役になりがちですが、zeroth-order imageも研究上有用です。
ACISのzeroth orderでは、天体の空間情報に加えてevent energyも利用できるため、energy bandごとの画像を作るなど、空間情報とenergy情報を組み合わせた解析ができます。
一方、HETGやLETGの分散spectrumからは、高いエネルギー分解能でlineやvelocity structureを詳しく調べることができます。これをzeroth-order imageと組み合わせることで、「画像上のこの構造はどのenergy componentに対応しているのか」、逆に「spectrumで見えているlineやvelocity componentは空間的にどこに対応しているのか」をcross-referenceしながら考えることができます。
このように、zeroth orderの空間・energy情報と、分散光から得られる高分解能なspectral informationを相補的に使えることも、grating観測の大きな利点です。
実際、Sakai et al. (2025) ではChandra/HETGのzeroth-order dataを用いてSS 433のarcsecond-scale imagingとspatially resolved spectroscopyを行いました。また、Sakai et al. (2026) でも、SN 1987AのChandra imagingにzeroth-order dataを利用しています。
比較するデータ
今回使ったのは、前回と同じ3観測です。
| 観測設定 | ObsID | 観測日 |
|---|---|---|
| ACIS-S / no grating | 7637 | 2007-07-13 |
| ACIS-S / HETG | 7590 | 2007-04-17 |
| ACIS-S / LETG | 9590 | 2007-09-16 |
いずれも2007年のSN 1987Aの観測です。ACISではcontaminationの時間変化が特に低エネルギー側のeffective areaに影響するため、今回はできるだけ時期の近い観測を選んでいます(CXC: ACIS QE Contamination)。
ただし、この3観測はgratingだけを入れ替えた完全な同一条件の観測ではなく、pointingやSIM-Zなども異なっています(詳細は前回の記事)。そのため、detector上の位置やvignettingなどの違いもeffective areaに影響し得ます。
したがって、以下で比較するのはgrating単体の理想化された透過率ではなく、各ObsIDの実際の観測条件を反映したzeroth-order effective areaです。
zeroth-order ARFを作る
今回はCIAOの specextract を用いて、SN 1987Aを中心とする半径5秒角の領域からスペクトルとARFを作成しました。
ここでは細かい解析手順には立ち入らず、得られたARFをそのまま比較してみます。
effective areaを並べてみる
結果は次のようになりました。

SN 1987Aを中心とする半径5秒角の領域について求めた、ACIS-S no grating / HETG / LETGのzeroth-order effective area。横軸はenergy、縦軸はeffective area。
実際に並べてみると、no gratingに比べて、HETG / LETGではzeroth-order effective areaが大きく低下していることが分かります。
これはgratingを入れることで、入射photonの一部が±1次をはじめとする高次の分散光へ振り分けられるためです。
もう一つ面白いのは、no grating / HETG / LETGの違いが単純な定数倍ではないことです。
HETGとLETGのzeroth-order effective areaにはそれぞれenergy dependenceがあり、例えば1 keV前後ではLETGの方がHETGより大きい一方、数keVではHETGの方が大きくなっています。つまり、HETGとLETGの大小関係そのものもenergyによって変化します。
そのため、異なるgrating configurationのzeroth-order imageを比較するときには、露光時間だけでなく、解析するenergy bandでeffective areaがどの程度異なるのかも確認しておく必要があります。
特にenergy-dependent morphologyを調べる場合や、異なる観測configurationの画像を比較する場合には、このenergy dependenceが効いてきそうです。
比較するときの注意
今回のeffective areaはgratingだけで決まっているわけではありません。
Chandraのeffective areaには、mirror、gratingのzeroth-order efficiency、ACISのquantum efficiency、contamination、detector上の位置など、さまざまな要素が含まれています。
さらに、今回の3 ObsIDでは観測日やpointing、SIM-Zなども異なります。そのため、この図の差をそのまま「gratingを入れたことだけによる違い」と解釈することはできません。
一方で、実際の解析では「このObsIDのzeroth orderで、どの程度のeffective areaがあるのか」を知りたい場合も多いと思います。その意味では、実際に使用するObsIDのARFを並べて確認してみるのが一番分かりやすそうです。
まとめ
今回は、SN 1987Aの3観測について、Chandra/ACIS-Sのzeroth-order effective areaをno grating / HETG / LETGで見比べてみました。
実際に並べてみると、
- gratingを入れるとzeroth-order effective areaは大きく低下する
- HETGとLETGでもeffective areaは異なる
- その差は単純な定数倍ではなく、energy dependenceを持つ
- HETGとLETGの大小関係もenergyによって変化する
ことが分かります。
Chandraのzeroth-order imageを使ってenergy-dependentな構造を調べたり、異なるobserving configurationの画像を比較したりするときには、PSFとあわせてeffective areaも一度確認しておくと役立ちそうです。
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参考資料
- 前回記事:Chandra/ACIS-Sのzeroth-order PSFをno grating / HETG / LETGで見比べてみた
- Y. Sakai et al. (2025), “Arcsecond-scale X-ray imaging and spectroscopy of SS 433 with the Chandra High-Energy Transmission Grating,” Publications of the Astronomical Society of Japan, 77, 1113–1125 — arXiv:2507.19042 / DOI: 10.1093/pasj/psaf088
- Y. Sakai et al. (2026), “Chandra X-Ray Imaging and Spatially Resolved Spectroscopy of SN 1987A: Energy-Dependent Morphology of the Equatorial Ring,” The Astrophysical Journal, 1006, 93 — arXiv:2607.06302 / DOI: 10.3847/1538-4357/ae7c72
- Chandra X-ray Center,
specextract - Chandra X-ray Center, ACIS QE Contamination