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ハイブリッドAIインフラのネットワーク設計 — オンプレ×AWSで考える2025年の現実解

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ハイブリッドAIインフラのネットワーク設計 — オンプレ×AWSで考える2025年の現実解

背景

今後、AIワークロードはあらゆる企業システムの中核となります。
しかし、AIのためのインフラは従来のアプリケーション基盤とは異なり、データの重さ・GPU通信の帯域・モデルサイズ・リアルタイム性といった特有の要件を満たす必要があります。

その中でも注目されているのが**ハイブリッド構成(オンプレ+クラウド)**です。
クラウド単独では解決できない以下の課題に対して有効だからです。

  • オンプレGPU/HPCの再利用によるコスト効率化
  • 機微データやプライベート学習データの保持
  • クラウドのスケールと俊敏性を活かしたトレーニング/推論環境の拡張

そこで本記事では、「オンプレ×AWS」の典型構成を例に、AIワークロード特有のネットワーク設計上の考慮点を整理します。


1. AIハイブリッドネットワークの全体像

AIワークロードでは、GPU資源やデータを一箇所に集約するのではなく、オンプレとクラウドに分散させて協調動作させるのが一般的です。
これを支えるのがプライベート接続網(例:AWS Direct Connect)です。

特徴的なのは、単なる閉域接続ではなく「AI処理のデータフローに最適化されたWAN構成」になっている点です。
たとえば:

  • トレーニング用データ(数TB〜PB級)はオンプレ→クラウドに一方向・バッチ転送
  • 推論APIはクラウド側(地域別)に配置し、利用者の近くで応答
  • WANはEquinix Fabric / Megaport経由でグローバル相互接続し、GPU間通信の安定性を確保

これにより、オンプレのデータ主権とクラウドのスケール性能を両立します。


2. 分散AIトレーニングとその通信要件

🔹なぜ分散が必要か

AIモデルが巨大化するにつれ、1台のGPUでは学習を完結できません。
そこで、複数GPU・複数ノードを組み合わせて学習を行う「分散トレーニング」が用いられます。
代表的な分散方式には以下があります:

  • データ並列:各ノードが異なるデータバッチを処理し、勾配を同期
  • モデル並列:巨大モデルをノード間で分割して処理

🔹AIワークロード特有のネットワーク要件

AIの分散トレーニングは、通常のアプリケーション通信と比べて次の点が決定的に異なります:

通信タイプ 通常アプリ AIトレーニング
通信方向 クライアント→サーバー中心 全GPUノード間で双方向
パケットサイズ 小さい/多い 大容量・継続的
遅延許容 数百msでもOK 数ms単位で性能に影響

そのため、AWSではElastic Fabric Adapter (EFA)やRDMA通信を利用し、GPU間勾配同期をハードウェアレベルで最適化します。
オンプレ環境でも、Infiniband/NVLinkなどの低レイテンシネットワークが採用されます。


3. 推論ネットワークとリアルタイム処理の最適化

学習が終わると、モデルは各地域にデプロイされ、ユーザーのリクエストに応答します。
AI推論では以下の要件が特徴的です:

  • **ユーザーとの距離(レイテンシ)**が体感性能に直結
  • モデルサイズが大きく、読み込み・キャッシュ設計が重要
  • GPU推論サーバーを地理的に分散配置する必要あり

このため、推論APIはGlobal Accelerator + Route53 (Latency-based Routing)で最寄りリージョンに誘導し、
モデルキャッシュをSageMaker Endpoint
ECS/EFAノードに常駐させます。
これにより、生成AIのような高頻度リクエストでも安定したレスポンスを実現します。


4. トレーニング/推論におけるボトルネックの本質

AIワークロードでのボトルネックは、CPUやGPUよりもむしろ「通信とI/O」にあります。

フェーズ なぜボトルネックになるか 対策例
トレーニング 勾配同期が頻繁で、数百GB/s級の通信を要する EFA/RDMA/NCCLでGPU直結通信
データ読み込み ストレージI/Oが追いつかずGPU待機が発生 S3+FSx for Lustreで並列読み込み
推論 モデルのロード時間が大きい モデルをメモリ常駐・起動時プリロード
推論 地理的距離による遅延 グローバル分散配置+地域ルーティング

従来インフラでは「CPUリソースやDB遅延」が中心でしたが、AIインフラではネットワーク性能がそのまま学習効率を左右します。


5. データ局所性とベクトル/特徴量ストア設計

🔹なぜ局所性が重要か

AI処理は「データをどこで処理するか」によって性能とコストが大きく変わります。
クラウド間通信が頻発するとレイテンシ上昇+エグレス課金が発生します。
そのため、学習/推論データの「局所性(locality)」を重視して配置することが重要です。

🔹ベクトルストアと特徴量ストア

  • ベクトルストア:Embedding(文章や画像を数値化したベクトル)を保存し、類似検索に利用(例:OpenSearch Vector、Pinecone)
  • 特徴量ストア:モデル入力に使う統計的特徴量を管理(例:SageMaker Feature Store)

学習データは大量・一括アクセスが多いためS3/FSxに分散配置、
一方で推論向けベクトル検索は小規模・高頻度アクセスが多いため各リージョンに分散配置して応答を高速化します。


6. エージェントAIが求める通信構造の進化

マルチエージェントAIでは、複数のAIモデルやツールが協調してタスクを遂行します。
これらはエージェント間でメッセージをやり取りし、連携・調整・状態共有を行います。

🔹やり取りする内容の例

  • 他エージェントへの指示(「次の文書を要約して」など)
  • 状態情報の共有(文脈・進行状況)
  • 外部ツール呼び出し(API連携・データ取得)

🔹通信プロトコル

  • 同期通信:HTTP / gRPC
  • 非同期通信:Pub/Sub(EventBridge, Kafka, MQTT)

これを支えるネットワーク層では、

  • **サービスメッシュ(App Mesh, Istio)**で通信ポリシーとセキュリティを統制
  • OIDC+IAMロールフェデレーションで動的なエージェント認可を実現
  • イベント駆動通信で柔軟なタスク分散を可能に

これが、AIワークロード特有の「自律分散ネットワーク構造」を支えています。


7. まとめ:AIワークロード時代のネットワーク設計原則

AIワークロードのインフラ設計では、従来の「スループット中心」「接続性重視」から、
次のような原則にシフトしています。

  1. 通信を計算と同等に扱う(GPU間通信は処理パイプラインの一部)
  2. データ局所性を最適化する(通信を減らして性能とコストを両立)
  3. エージェント通信を設計対象に含める(AI同士のやり取りを前提化)
  4. ハイブリッド構成でデータ主権とスケールを両立

AIワークロードの増加により、ネットワークはもはや「補助インフラ」ではなく、
AIそのものの性能と知能を左右する要素となっています。

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