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図を描きながら理解するK8s sample-controller

Last updated at Posted at 2025-09-24

目的

sample-controllerを読みながら、Custom Controllerを実装するときのポイントを理解していくのが目的です。

「カスタムリソース/カスタムコントローラとは?」という方は下記公式docを読むと良いです。
https://kubernetes.io/ja/docs/concepts/extend-kubernetes/api-extension/custom-resources/

sample-controllerの機能

ソースコードを読む前にsample-controllerでどのような機能が実現されるのかをみてみましょう。
ざっくりですが下記機能が実装されているようです。

  • CRDsのFooから、Deploymentを作成する
    • コンテナはnginx:latestを使用する
  • Foo.spec.replicasを変更すると、対応するDeployment.spec.replicasも変更される

下記のようなYAMLを適用するとexample-foo Deploymetが作成され、最終的に1つ(replicas: 1)のNginx Podが起動します。

apiVersion: samplecontroller.k8s.io/v1alpha1
kind: Foo
metadata:
  name: example-foo
spec:
  deploymentName: example-foo
  replicas: 1

コードを深堀する前に、想像で「こういう構成かな?」という図を描いてみます。

80f99fbe1337-20250924.png

FooDeploymentの操作を行うため、Kubernetes API Serverへ接続するための何かしらのクライアントライブラリを利用してResoruceを取得してそうです。
Kubernetes ClientはAPI Serverにアクセスし、得られたデータをFoo/Deploymentの処理を行う部分に渡し、具体的な処理が行われそうです。
.spec.replicasの差分があれば再度Kubernetes Clientを利用してResourceの更新もやりそうですね。

コードリーディングしつつ、上記図をブラッシュアップしていこうと思います。

コードリーディング

コードの構成

リポジトリ直下の

  • main.go
  • controller.go

で実装されているため、上記2つのファイルを主にみていこうと思います。

main.go

安全な停止処理(signals.SetupSignalHandler()

main.goのはじめの方で下記関数が呼ばれています。
コメントにあるように、SIGTERMSIGINTが送られたきたときの考慮がされています。

make(chan os.Signal, 2)の部分ですが、1度目のシグナル受け取りではcancel()でgracefullyに停止を試み、
2度目のシグナル受け取り時にはos.Exit(1)で強制的に停止させているようです。

また、SetupSignalHandler()は1度だけ呼び出されることを意図しているため、それをonlyOneSignalHander channelで制御しています。
複数回よばれたときclose(onlyOneSignalHander)panicを起こすので開発者が気づける仕組みです。

API Serverの接続情報の設定

Deploymentのアクセスで利用するクライアントと、Fooのアクセスで利用するクライアントをここでしています。
kubeInformerFactoryexampleInformerFactoryがありますが、このInformerがCustom Controllerを実装する上で非常に重要な要素となっています。
現時点では「API Serverとやり取りするためのもの」とみておきます。

はじめに想像で描いていた図を少し更新してみます。
変更点は「Kubernetes Client」の部分を「Informer」にしています。

33ff6901c3ba-20250924.png

Controllerの作成

用意した接続情報やInformerからControllerを作成しています。
具体的な処理は後述のcontroller.goで確認しましょう。

Informerの起動

Informerを起動させています。
具体的な処理は後述のcontroller.goで確認しましょう。

Controllerの実行

Controllerを実行しています。
具体的な処理は後述のcontroller.goで確認しましょう。

controller.go

Controllerの作成(func NewController()

Event処理

機能要件ではないですが、Custom Controllerがどのような処理をしていたのかを記録するためのEvent準備がここで設定されています。
なくてもFoo/Deploymentの操作には影響はないですが、運用を見据えると必要な仕組みです。

キューの設定

API Serverから取得したFooを一時的に保持するためのキューを作るのですが、その設定がされています。
RateLimiterとあるように、制限をかけるようにしているようです。1つずつ見てみましょう。

NewTypedItemExponentialFailureRateLimiter

ここで設定されている2つの引数ですが、下記を意味しています。

引数 意味 設定値
baseDelay time.Duration アイテム処理失敗時の待機時間に使用される遅延時間。 baseDelay*2^<num-failures>で計算される。 5*time.Millisecond
maxDelay time.Duration 最大待機時間 1000*time.Second

上記の設定により、繰り返し処理に失敗するようなFooは徐々に待ち時間が増えることになります。
仮に待ち時間がなかった場合、特定のキューが短時間で繰り返し処理されることになりコントローラに負荷がかかることが予想できます。

処理ができなかった場合などの障害系を考慮した設定だと思います。

TypedBucketRateLimiter

こちらですが、rate.NewLimiterの引数をみてみましょう。

引数 意味 設定値
r Limit 1秒あたりに処理可能なアイテム数 rate.Limit(50)
b int 一時的な高負荷時のバースト数 300

障害系のためのNewTypedItemExponentialFailureRateLimiterにたいして、こちらは安定化のための制御です。
sample-controllerではFooの内容からDeploymentの操作を行うため、ここで処理速度の制限をすることでAPI Serverに負荷をかけすぎないような仕組みにしているのだと思います。

controllerの作成

Controllerの実体がここで作成されます。各項目についてみていきましょう。

項目 説明
kubeclientset Kubernetesがもともと持つ各種Resourceへアクセスするクライアント
sampleclientset sample-controllerのCRDs Resourceへアクセスするクライアント
deploymentsLister deploymentInformerがもつDeploymentのキャッシュへアクセスするためのもの
deploymentsSynced deploymentInformerのキャッシュが同期できたかのフラグ
foosLister fooInformerがもつFooのキャッシュへアクセスするためのもの
fooSynced fooInformerのキャッシュが同期できたかのフラグ
workqueue Fooを一時的に保存するキュー
recorder Events Resource登録用のもの

WorkQueueとLister、clientsetも図に追加しましょう。
recorderは機能には影響がない部分なので割愛します。

35e1eff32f07-20250924.png

Informerの設定

main.goで出てきたInformerですが、このInformerのAddEventHandlerを使うことで対象Resourceの作成/更新/削除が行われたときに処理を実行できます。

Foo Resourceに対する処理の登録

Foo Resourceが新たに作成された場合(Add)と更新があった場合(Update)はenqueueFooを呼び出しキューへの登録を行います。

削除された場合(Delete)の挙動は実装されていません。
多分ですが、あるFooが削除されたとき、対応するDeployment.metadata.ownerReferencesの情報をもとに自動で削除されるためではないかと思います。

Deployment Resourceに対する処理の登録

こちらはDeployment Resourceに対するイベント登録で、新規作成/更新/削除に処理(handleObject)が登録されています。

handleObject()

handleObject()ですが、いくつかの分岐があり"ならでは"の考慮がされています。
こちらも一つずつ見ていきます。

UpdateFuncResourceVersionの比較

UpdateFuncは更新があった際に呼び出される」と理解していたのですが、下記コードを読むとnewDepl.ResourceVersionoldDepl.ResourceVersionの比較がされています。
ここが同じになることがありうるのか、という点についてですが、コメントにあるように「Periodic resync`を有効にしていると、Informerがもつキャッシュに対してUpdate Eventを発行させるようです。

実はその設定もmain.goの中でされていました。

30秒ごとにInformerがもつキャッシュにUpdateFuncを実行させて、更新イベントを拾えなかった場合のフォローをしています。

DeletedFinalStateUnknownの考慮

client-goの内部の話になりますが、InformerはAPI Serverから取得した情報をキャッシュとして保持しています。
一時的なネットワーク切断等、Informerが持つキャッシュに保持される前にResourceの作成と削除が行われてしまった場合の考慮がここでされています。
ちなみにtombstoneという変数名は「墓石」を意味しています。

このような状況は普通に起こりうることのようで、kubernetes/ingress-nginxの下記issueでも「cache.DeletedFinalStateUnknownを取り扱う必要がある」とコメントされています。
https://github.com/kubernetes/ingress-nginx/issues/10015

正常系である場合は次の処理になります。
クラスタ内に存在するDeploymentですが、Fooが管理していないものは対象外としてreturnし、Fooが管理するDeploymentの場合は対応するFooenqueueFoo()で登録しています。

一旦ここまでで図の再整理をしてみましょう。
Informerに対するAddFunc/UpdateFunc/DeleteFuncを追加しています。

  • FooDeploymentInformerを作る
  • それぞれのInformerAddFunc/UpdateFunc/DeleteFuncで処理を登録する。
  • キューを用意し、Fooを投入する。

8b416e718b97-20250924.png

ここまででAPI ServerへのFooDeploymentの取得処理と、キューへの登録ができるようになりました。
この後はキューからFooを取得し処理をしていけば良さそうです。
図にあるDeploymentLister/kubeclientset/sampleclientsetはあとあとでてきます。

Controllerの実行(func (c *Controller) Run(ctx context.Context, workers int)

Informerが持つキャッシュの初回同期待ち

Informerの起動直後はInformerが内部で保持するキャッシュの同期がされていない状態であるため、その同期が完了するまでの待機処理が書かれています。

キューからデータを取得して処理するワーカの起動

キューの書き込みはInformerに登録したAddFunc/UpdateFunc/DeleteFuncが担っているのに対して、書き込まれたFooをキューから取得して処理をするワーカが必要です。
そのワーカの起動がここで行われています。

workersはmain.goの下記で指定された2が入っており、2つのワーカがキューからFooを取得して処理するような仕組みにしているようです。

キューからのデータ取得

processNextWorkItem()でキューからのデータの取得と処理が行われています。
キューからの取得ですが、下記が主な処理になっています。

メソッド名 内容
Get() キューからFooを取得する。
Done(objRef) 処理の成功/失敗に関わらず、objRefの処理が終わったことをdeferで伝える
Forget(objRef) 処理が成功し、objRefをキューから除く
AddRateLimited(ObjRef) 処理が失敗したため、RateLimitつきでキューに再投入する

業務ロジック(syncHandler)

syncHandler()がsample-controllerの核となる業務ロジックが実装されている部分です。

foosListerというものが使われていますが、先述したようにこれはInformerが内部で保持するキャッシュにアクセスするためのものです。
objectRef.NamespaceobjectRef.Nameで絞り込んでFooを取得しています。

foosListerと同じくdeploymentsListerを使って処理対象のFooに対応するDeploymentを取得しています。

まずはFooが存在するが、対応するDeploymentがまだ存在しない場合の処理が実装されています。
Create()でAPI Serverに新たなDeploymentの情報を渡していますね。

次はFooが存在し、かつ対応するDeploymentも存在する場合です。
Foo.spec.replicasDeloyment.spec.replicasを比較して、必要に応じてDeplomentのレプリカ数を変更する必要があります。

最後にはFoo.statusの更新をして業務ロジックの実装は完了となります。

非機能ではありますが、Eventの登録も最後にしていました。

キューからデータを読み取り、FooDeploymentの処理をする部分についても図に整理しましょう。

以上です。

sample-controllerリポジトリの概要図と比較してみる

ここまで、コードリーディングを進めつつ図を更新しました。
実はsample-controllerのリポジトリにはclient-goとCustom Controllerの各種役割が描かれた概要図があります。その概要図と今回作成した図を見比べてみましょう。

client-go-controller-interaction.jpg

sample-controllerリポジトリの図 今回作成した図
Resource Event Handlers fooInformer/deploymentInformerに登録した各種処理
Informer Reference fooInformer/deploymentInformer
Indexer Reference foosLister/deploymentsLister ※Listerは内部でIndexerをみている
Workqueue Fooを格納するWorkQueue

大まかな流れは同じのようです。
client-goの部分は今回は深堀していませんが、ReflectorもResourceを監視する上で重要なコンポーネントとなります。

sample-controllerから読み取れたポイント

sample-controllerを一通り読んでみて、どのように設計すべきかのポイントが見えてきたのでまとめてみます。
ただ、これは主観的な部分もあるため「かならずこうすべき」というものではないことを先に述べておきます。

API Serverに負荷をかけない

K8sならではのポイントはこれでしょうか。
Kubernetesを構成する要素の中でもAPI Serverは特に重要なものです。特定のCustom Controllerが負荷をかけてしまいクラスタ全体が不安定になっては目も当てられません。
sample-controllerではRateLimitをかけたキューを使うことで正常系/異常系の速度調整がされています。
また、今回は深堀しませんでしたがInformerにもAPI Serverへの負荷をかけないようにする機能が備わっています。

分解点を作って処理をわける

InformerAddFunc/UpdateFunc/DeleteFuncsyncHandler()までの処理を詰め込むのも可能ですが、負荷のかかる処理を書いてしまった場合にそこで処理が止まってしまう可能性もあるでしょう。
そういった点も考慮し、キューなどを挟んで「API Serverから必要なデータを取得して溜める」処理と「溜めたデータを読み取って、API Serverに書き込みリクエストを送る」処理とで分けているのではないかと思います。

運用を考える(独自のEventを登録する)

「Custom Controllerの中で何が起きていたのか」の理解の手助けとしてEventを登録しておくのも運用を見据えると大切だと思います。
ログの出力でもよいかもしれませんが、Kubernetesのエコシステムの中で動くものなのでEvent登録は便利だなと思いました。

宿題

下記は宿題として残しておきます。

  • client-goの内部の仕組み
    • 今回はReflector/DeltaFIFO/Informer/Indexerへはあまり深入りしませんでした
    • SharedIndexInformerなどの機能も深堀していきたいです
  • Custom Controllerのリーダ選出
    • sample-controllerは単体で動かしますが、冗長構成にしたときにはどのような考慮が必要になるでしょうか
    • client-goにそういった機能はありそうです
  • カスタムリソースの作り方、関連のGoコードの生成
    • 今回はCRDsはすでに提供されており、sampleclientsetなどのコードもすでに生成されていました

参考リンク

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