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障害福祉領域の画像生成AI活用:ガイドライン策定の背景とこだわり

Last updated at Posted at 2025-12-18

1. はじめに

こんにちは。LITALICO(りたりこ)のデザイナーです。

LITALICOのWebサイトやサービスで使われる画像。普段、何気なく目にしていますが、その背景にはデザイナーによる「届けたい相手に響くか」「ブランドイメージを体現しているか」といった検討が日々行われています。

特に私たちが携わる障害福祉領域では、その表現に細心の注意が求められます。
急速に進化する画像生成AIは、制作現場の大きな助けとなる一方、新たなリスクも生み出しています。

そこで今期、LITALICOでは画像生成AIガイドラインを策定し、プロンプト集も作成しました。

2. 前提:デザイナーが画像にこだわる理由

LITALICOが提供するサービスは、児童発達支援(障害のある未就学のお子さまとご家族への支援)や就労支援(障害のある方の働くことに向けた支援)など多岐にわたります。

それぞれのWebサイトやグラフィックで最大限の成果を出すためには、その先にいる「届けたい相手」の心に響く画像を戦略的に選定する必要があります。

重要なのは、単に被写体の属性を合わせるだけではありません。写真の構図、距離感、ポーズといった要素が、ターゲットの持つ「現場のリアルな感覚」と合致しているかが鍵となります。
乖離すると、直感的に「自分たちのためのサービスではない」と誤認され、離脱につながるリスクがあります。

選定例:ターゲット別の画像生成の違い

対象別写真比較ff.png

些細なディテールこそが、ユーザーの「自分ごと化」を促し、「この企業/サービスは自分を理解してくれている」という信頼を生み出します。

ターゲットごとの現場感を正しく可視化することは、単なる装飾ではなく、事業成果を左右する重要なコミュニケーションです。

だからこそ、デザイナーは妥協せず「最適な一枚」にこだわり続けています。

3. 課題:従来の素材探しで直面していた3つの壁

しかし、この「最適な一枚」を探す作業は大変です。

  • 素材の枯渇
    「児童発達支援・放課後等デイサービスらしさ」のある写真素材は、一般的な素材サイトには極めて少なく、時間をかけて探しても納得のいく写真が見つからないこともあります。
  • モデルへの配慮
    素材サイトの規約上、モデル保護の観点から「障害領域」での使用には注意が必要なケースがあります。モデルやクリエイター(撮影者)への個別確認が必要になることもあり、その工数が事業スピードを妨げる要因となっていました。
  • 独自性の欠如
    数少ない適切な素材は、当然ながら他社も使用しています。結果として競合他社とイメージが被ってしまい、「LITALICOらしさ」や独自性を表現しづらいという課題がありました。
    Gemini_Generated_Image_howocxhowocxhowo 1.png

4. 解決:画像生成AIがもたらしたメリット

これらの課題を解決する可能性として浮上したのが、画像生成AIです。

AI活用がもたらしたメリット

時間の抜本的な削減

  • これまで何時間もかかっていた素材探索の時間を大幅に削減できました。
  • 特に一度理想のモデルやトーンを生成できれば、同時に複数の場面を生成できるので時間を有効活用できます。

心理的安心感

  • 「探しても見つからないかも…」という不安がゼロになり、クリエイティブそのものに集中できます。
  • 「イメージと少し違うが、これしかないので妥協する」というストレスがなくなり、納得いくまで理想のビジュアルを追求できるようになりました。

表現の多様化と拡張

  • これまで写真素材がない領域でも、届けたい相手や訴求、レイアウトに合わせた画像を生成できるようになりました。
  • 写真だけでなく、イラストや3Dアートなど、媒体のトーン&マナーに合わせた画風の使い分けも自在になり、ブランドの世界観をより豊かに表現できます。

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5. 画像生成AIガイドライン策定

画像生成AIは便利な反面、誤った使い方は重大な企業リスクに直結します。そこで、文化庁やAIリードカンパニー(Google/OpenAI等)、クリエイティブツール/素材サイト(Adobe/PIXTA等)など、国内外の多様な基準をリサーチし、LITALICOのガイドラインを策定しました。

この策定プロセスは、単なるルール作り以上の学びとなりました。行政や各社の基準を横断的に比較することで、AIを取り巻く社会的な現状への理解が深まっただけでなく、「ガイドラインには、その企業が何を大切にしているかが表れる」と気付きました。

事業特性によって異なる各社のスタンスに触れることは、改めて「LITALICOが大切にすべき軸は何か」を再確認する機会となりました。

【実際に策定したガイドラインの項目】

  • 権利侵害の防止:著作権・商標権への抵触回避
  • 権利の帰属:生成AIにおける著作権性の理解
  • 肖像・パブリシティ権:架空の人物であっても配慮すべき点
  • 法的・倫理的NG:当社の理念・ビジョンに照ら合わせて不適切な内容になっていないかなど
  • 推奨活用場面:トラブルを防ぎつつ効果を出す運用フロー

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6. ノンデザイナー向けのプロンプト集

児童発達支援や就労支援事業の社員向けにGoogle公開のプロンプトをベースにした「LITALICO版プロンプト集」も作成しました。
ここで最も重視したのが、「意図せぬ差別表現」の回避です。

一般的に、AIが生成する「指が6本ある手」などは、AIの技術的な「不完全さ(エラー)」として語られがちです。
しかし、もし、多指症の手術をされた方が「指が多い=修正すべき不完全なもの」という文脈を見たら、どう感じるでしょうか?

特にこのプロンプト集は、児童発達支援や就労支援事業に携わる社員(ノンデザイナー)が使用することを前提としています。

もし、障害福祉領域に携わる自社の資料に「身体的特徴を否定・修正対象とする」ようなニュアンスが含まれていれば、それを見た社員が自社に対して不信感を抱く可能性があります。

本来、差別や偏見のない社会であれば、身体的特徴の違いについて過剰に気にする必要はないはずです。しかし、現時点での社会的認識を踏まえると、LITALICOが発信した表現が、意図せず当事者を深く傷つけたり、差別や誹謗中傷に晒したりするリスクは否定できません。

だからこそ、プロジェクトチーム内では「意図せぬ表現を避けること」を明文化しました。

【実際に作成したプロンプト集の項目(一部)】

  • 1.基本事項:画像生成AIの概要、利用規約およびガイドライン
  • 2.業務別実践ガイド
    • テキストからの生成:教材・支援ツールの作成(例:お子様用ご褒美シートの作成)
    • Image to Image:見え方に配慮した配色対応(例:利用者様にとって見えやすい色に調整)
    • 複数参照による生成:業務プロセスの可視化(例: 就労先の流れを画像にして、働くイメージを具体的に共有)
    • キャラクターの一貫性保持:ストーリー性のある支援ツールの作成(例:登校などの見通しを立てる視覚支援ツールの作成)
  • 3.出力後の確認点:身体構造と服装等の確認

7. まとめ

AIモデルによって得意・不得意は異なります。AIはあくまでツールであり、LITALICOのガイドラインと社会的責務を理解した人間が、最終的な公開判断を行うことを徹底する必要があります。

障害福祉領域に携わるLITALICOだからこそ、AIの可能性を最大限に追求しつつ、同時にその技術によって誰も傷つくことのないよう、どの企業よりも配慮深くあるべきだと考えています。

LITALICOの皆様にとって、このガイドラインとプロンプト集が、安全で効果的なクリエイティブ制作の一助となれば幸いです。
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