はじめに:今年のI/Oは「AIアプリの年」じゃない、「エージェント基盤の年」だ
毎年I/Oの記事は山ほど出るが、ほとんどが「Geminiがすごい」「新機能の紹介」で終わる。
それじゃ意味がない。
現場のエンジニアが本当に知りたいのはこの3つだ:
- 自分の使っているツールは生き残るのか?死ぬのか?
- 移行のデッドラインはいつか?
- コストは上がるのか?下がるのか?
この記事では Google I/O 2026 の発表を 開発者の生存戦略 という視点で全部まとめる。先に結論を言うと、Gemini CLI を使っている人は今すぐ移行計画を立てたほうがいい。 詳細は後述。
目次
- 一番大事な話:Gemini CLI が6月18日に死ぬ
- Gemini 3.5 Flash - Flash なのに前世代の Pro を殴り倒した
- Antigravity 2.0 - IDE から「エージェントOS」へ
- Gemini Spark - 個人用24/7エージェントの登場
- インフラの話:TPU 8t/8i と1兆トークン経済圏
- その他の発表まとめ
- 結局、現場のエンジニアは何をすべきか
1. 一番大事な話:Gemini CLI が6月18日に死ぬ
これ、地味だけど一番のニュースだと思う。
Gemini CLI と Gemini Code Assist IDE 拡張機能の消費者向けアクセスは、AI Pro / AI Ultra / 無料ティアユーザーに対して2026年6月18日に終了する
つまり、Gemini CLI に依存しているワークフローがあるなら 28日以内に Antigravity CLI (agy) に移行する必要がある。エンタープライズ契約者は当面継続できるが、個人開発者は実質的に強制移行だ。
これを Sundar はキーノートで強調しなかった。盛り上がる話じゃないからね。でも、自分のシェルスクリプトに gemini コマンドを埋め込んでいる人は今すぐ確認してほしい。
# 自分の依存箇所を一気に洗い出す
grep -r "gemini " ~/.zshrc ~/.bashrc ~/scripts/ 2>/dev/null
grep -r "gemini-cli" ~/projects/ 2>/dev/null
2. Gemini 3.5 Flash - Flash なのに前世代の Pro を殴り倒した
これが今回の本丸。
ベンチマークがバグってる
| ベンチマーク | Gemini 3.5 Flash | Gemini 3.1 Pro | 勝者 |
|---|---|---|---|
| Terminal-Bench 2.1 | 76.2% | 70.3% | Flash |
| MCP Atlas | 83.6% | 78.2% | Flash |
| Finance Agent v2 | 57.9% | 43.0% | Flash |
| GDPval-AA (Elo) | 1656 | 1314 | Flash |
| Humanity's Last Exam | 40.2% | 44.4% | Pro |
| ARC-AGI-2 | 72.1% | 77.1% | Pro |
15ベンチマーク中11個で Flash が前世代の Pro に勝っている。Flash ティアが昨年のフラッグシップを殴っているのは、業界の暗黙ルールを破る出来事だ。
ただし、よく見るとパターンが見える:
- エージェント系・コーディング系・ツール使用系 → Flash が勝つ
- 学術的推論・純粋な知識問題・長文文脈 → Pro が勝つ
つまり Google は「仕事をするAI」に振り切った。論文を読むAIじゃなく、Terminal を叩くAIだ。これは正しい方向だと思う。
価格は罠
公式キーノートでは「Flash は他のフロンティアモデルの半額」と言っている。確かに Claude Opus 4.7 や GPT-5.5 と比較すれば安い。でも、前世代の Gemini 3 Flash と比較すると3倍高い。
| モデル | 入力 ($/1M tok) | 出力 ($/1M tok) |
|---|---|---|
| Gemini 3.5 Flash | $1.50 | $9.00 |
| Gemini 3 Flash | $0.50 | $3.00 |
| Gemini 3.1 Flash-Lite | $0.25 | $1.50 |
| Gemini 3.1 Pro | $2.00 | $12.00 |
| Claude Opus 4.7 | $5.00+ | $25.00+ |
Artificial Analysis のベンチマークスイート全体を回すと、3.5 Flash は 3 Flash の 5.5倍 のコストになる。トークン単価3倍に加えて、エージェント的にトークンを大量消費するから。
Sundar の「年間10億ドル節約できる」発言は他社モデルからの移行を前提にした話で、Google 内での Flash → Flash アップグレードでは逆にコストが上がる可能性がある。 ここは正直に書いておきたい。
結局どう使うか
私の現場で実験した感覚はこう:
- エージェント・コーディング・MCP連携 → 3.5 Flash に全振りでOK
- 長文ドキュメント要約・RAG・大量の入力処理 → 3.1 Flash-Lite でいい
- 複雑な推論や調査 → 来月出る 3.5 Pro 待ち
3. Antigravity 2.0 - IDE から「エージェントOS」へ
Antigravity 1.0 は「Gemini が動く VS Code」だった。これは Cursor のクローンに近い。
2.0 は別物。
Antigravity 2.0 は5つの面で構成されている:
- デスクトップアプリ - エージェント管理の中央ハブ
-
CLI (
agy) - ターミナルからエージェント起動 - SDK - 自前インフラに Antigravity 風エージェントを埋め込む
- Managed Agents API - Gemini API 内で隔離Linux環境を提供
- Gemini Enterprise Agent Platform - GCP直結のエンタープライズ展開
これが何を意味するかと言うと、Google は「コードを書く AI」じゃなく「コードを書くエージェントを管理するプラットフォーム」を売り始めた。 開発者の役割が「コードを書く人」から「エージェントを指揮する人」に変わるという賭けだ。
Cursor や GitHub Copilot との競争でいうと、Cursor にはこの規模のエンタープライズ層がない。Windsurf は近いがGCP統合がない。Google Cloud を使っている企業にとっては、計算が大きく変わる発表だった。
個人的な懸念点
DEV Community の Isaac Yakubu さんの記事 (dev.to) が良いことを書いていた:
Antigravity のタスクは Gemini API クレジットを消費するが、エージェントの実行前に何クレジット使うか予測しづらい。
これは本当に痛い。トークン予算管理が難しくなる。個人開発者は Pro プランで様子見、本格的に使う前にコスト試算を厳しめにやるべき。
4. Gemini Spark - 個人用24/7エージェントの登場
Spark は「あなた専属のAIエージェント」だ。要点:
- Google Cloud の専用VM上で動く
- 24/7稼働、ノートPCを開いていなくてもタスクが進む
- Gemini 3.5 + Antigravity ハーネスで長期タスクをこなす
- MCP 対応で外部ツール連携(今後数週間で展開)
- メール・チャットからも操作可能
- Android では「Halo」という新UI領域でライブ進捗表示
つまり 「AIアシスタント」じゃなく「AI同僚」を目指している。 Beta は来週から AI Ultra 加入者(米国)向けに開始。
正直、これは Anthropic の Claude や OpenAI の ChatGPT Agent との直接対決だ。勝つかは分からないが、Google が「ブラウザの中で動くエージェント」(Chrome統合)を持っている点は強い。
5. インフラの話:TPU 8t/8i と1兆トークン経済圏
数字で殴ってくるパート。
- 2022年: capex $31B/年
- 2026年: capex $180-190B/年(約6倍)
- 月間処理トークン数: 3.2 京(quadrillion) ← 1年で7倍
- API経由: 190億トークン/分
- 1兆トークン以上処理した GCP 顧客: 375社以上
そして 8世代目TPU が登場。今回は初の「学習用」「推論用」の二刀流:
- TPU 8t: 学習用、前世代の約3倍の演算性能、100万TPU超を跨いだ分散学習が可能
- TPU 8i: 推論用、レイテンシ最適化
- 両方とも 電力効率2倍
Google が JAX + Pathways で「単一データセンターの制約を超えた」分散学習基盤を持っているのは、競合との明確な差別化だ。NVIDIA一強に対する Google の数少ない技術的アドバンテージである。
6. その他の発表まとめ
ボリュームの都合で軽く触れる:
| 発表 | 一言コメント |
|---|---|
| Gemini Omni Flash | 任意の入力 → 任意の出力(まず動画)。Veo + Gemini の融合 |
| Ask YouTube | 動画の「該当箇所」にジャンプ。検索体験の再発明 |
| Docs Live | 音声で Google Docs を作成・編集。日本語対応は気になる |
| Daily Brief | メール・カレンダー・タスクを朝の要約に。Gmail があれば実質オン |
| Google Pics | Nano Banana ベース。要素ごとに編集可能な画像生成 |
| Information Agents | Search 内でバックグラウンドで情報を集める常駐エージェント |
| インテリジェントアイウェア | 音声グラスが今秋。Display版はその後 |
| Gemini for Science | 30以上の生命科学DBに接続するAgentic Science 用Skills |
| SynthID 拡大 | OpenAI、Eleven Labs、Kakao が参加。業界標準化が進む |
特に注目したいのが SynthID に OpenAI が参加 したこと。AI 生成コンテンツの透かしが事実上の業界標準になる兆しがある。これは長期的に大きな話だ。
7. 結局、現場のエンジニアは何をすべきか
私の結論:
今週やること
- Gemini CLI 依存箇所の棚卸し - 6月18日に死ぬ
- Antigravity 2.0 のインストール - 触ってみないと評価できない
- 既存の API コストの再試算 - Flash 3 → 3.5 で実コストは3倍前提
1ヶ月以内にやること
- チームのコーディングワークフローを Antigravity 視点で見直す - エージェントに振れる作業の洗い出し
- MCP 対応の検討 - Spark が MCP 経由でツール連携を広げてくる
- 3.5 Pro リリース待機 - 来月出る。本命はこっちの可能性が高い
中期で考えること
「コードを書く役割」と「エージェントを設計・運用する役割」が分離していく。前者だけのエンジニアは数年後に厳しくなる可能性が高い。
これは煽りじゃなく、Antigravity 2.0 を実際に触った後の正直な感想だ。テンプレコード書く仕事は急速に消えていく。
おわりに
今年のI/Oは派手な発表が多かったが、本質は 「Gemini はモデルじゃなくプラットフォームになった」 ということだと思う。
モデルだけ見ていると Gemini 3.5 Flash や Omni に目が行くが、長期的に効くのは Antigravity 2.0 と Spark のほうだ。これらは Google が 「Anthropic の Claude Code」「OpenAI の ChatGPT Agent」と真正面から殴り合う準備ができた ことを意味する。
少なくとも私は、来月の Gemini 3.5 Pro と Antigravity の本格運用を試した後に、続編を書く予定だ。