RとPythonどっちを使うべき?データサイエンス学生が語る使い分けのリアル
はじめに
この記事は CA Tech Lounge Advent Calendar 2025 15日目の記事です 🎄
「データ分析を始めたいんだけど、RとPythonどっちを勉強すればいいの?」
この質問、何度聞かれたかわかりません。そして私自身も、学び始めた頃に同じ疑問を抱えていました。
結論から言うと、どちらか一方ではなく、両方使っています。でも、闇雲に両方やっているわけではありません。場面によって明確に使い分けています。
この記事では、データサイエンスを学ぶ中で見つけた「RとPythonの使い分け方」を、実体験ベースでお伝えします。「どっちから始めるべき?」という方にも参考になれば嬉しいです。
先に結論:私の使い分け
忙しい方のために、先に結論をお見せします。
| やりたいこと | 私の選択 | 理由 |
|---|---|---|
| 探索的データ分析(EDA) | R | tidyverseが最強 |
| 統計検定・統計モデリング | R | 専門パッケージが豊富 |
| 機械学習・深層学習 | Python | scikit-learn、PyTorchが優秀 |
| データ可視化(論文用) | R | ggplot2の美しさ |
| データ可視化(インタラクティブ) | Python | Plotly、Streamlitが便利 |
| Webスクレイピング・自動化 | Python | 汎用性が高い |
| レポート作成 | R | R Markdownが楽 |
これが現時点での私の答えです。以下で詳しく説明していきますね。
Pythonの強み:汎用性とエコシステム
機械学習・深層学習は圧倒的にPython
正直なところ、機械学習をやるならPython一択だと思っています。
# scikit-learnでの機械学習は本当にシンプル
from sklearn.ensemble import RandomForestClassifier
from sklearn.model_selection import train_test_split
X_train, X_test, y_train, y_test = train_test_split(X, y, test_size=0.2)
model = RandomForestClassifier()
model.fit(X_train, y_train)
scikit-learnの統一されたAPI(fit→predict)は本当に美しいです。一度覚えれば、どのモデルでも同じ書き方で使えます。
深層学習も、PyTorchやTensorFlowのコミュニティの大きさを考えると、Pythonを選ばない理由がありません。最新の論文実装もほぼPythonです。
「プログラミング言語」としての完成度
Pythonはデータ分析専用言語ではなく、汎用プログラミング言語です。これが大きな強みになります。
- Webアプリを作りたい → Django、FastAPI
- スクレイピングしたい → BeautifulSoup、Selenium
- 自動化したい → 普通にスクリプト書ける
- APIを叩きたい → requestsライブラリ
データ分析の前後の工程(データ収集、アプリ化、自動化)まで一貫してPythonで書けるのは、実務では大きなメリットです。
私がPythonを選ぶ場面
- 機械学習モデルの構築
- Webスクレイピングでデータ収集
- 分析結果をStreamlitでアプリ化
- 他のシステムと連携する必要があるとき
Rの強み:統計解析とデータ可視化の美しさ
tidyverseという革命
Rを使う最大の理由はtidyverseです。特にdplyrとggplot2。
# tidyverseでのデータ操作は直感的で読みやすい
library(tidyverse)
df %>%
filter(age >= 20) %>%
group_by(category) %>%
summarise(
mean_value = mean(value),
sd_value = sd(value),
n = n()
) %>%
arrange(desc(mean_value))
パイプ演算子(%>%)でつなげていく書き方は、思考の流れとコードの流れが一致するので、書いていて気持ちいいんです。
Pythonのpandasでも同じことはできますが、私は探索的データ分析(EDA)ではRの方が速く書けると感じています。
ggplot2の美しさは別格
データ可視化において、ggplot2は本当に美しいグラフを作れます。
ggplot(df, aes(x = category, y = value, fill = group)) +
geom_boxplot() +
theme_minimal() +
labs(title = "カテゴリ別の値の分布",
x = "カテゴリ",
y = "値") +
scale_fill_brewer(palette = "Set2")
「文法」に従ってレイヤーを重ねていく設計思想(Grammar of Graphics)は、一度理解すると非常に柔軟です。論文に載せるグラフは、ほぼRで作っています。
統計解析の専門パッケージ
統計学者が作った言語だけあって、統計解析のパッケージは圧倒的に充実しています。
- 生存時間解析 →
survival - 混合効果モデル →
lme4 - ベイズ統計 →
brms、rstan - 因果推論 →
MatchIt、CausalImpact
特にニッチな統計手法になればなるほど、「あ、Rにはパッケージあるのか」となることが多いです。
私がRを選ぶ場面
- データの探索・可視化(EDA)
- 統計検定、回帰分析
- 論文用のグラフ作成
- R Markdownでレポート作成
具体的な使い分け例
例1:Kaggleコンペ
KaggleではほぼPython一択です。
- ノートブック環境がPython前提
- 公開されているノートブックの大半がPython
- scikit-learn、LightGBM、PyTorchの連携が楽
ただし、EDAの段階でRを使って可視化することもあります。CSVでエクスポートして、Rでサクッと探索するイメージです。
例2:授業のレポート
大学の授業レポートではRを使うことが多いです。
- R Markdownで分析と文章を一体化できる
- コードと結果が同じドキュメントに残る
- PDF出力も綺麗
再現性の観点からも、R Markdownは優秀です。
どっちから始めるべき?
「で、結局どっちから始めればいいの?」という質問への私の答えはこうです。
Pythonから始めるのがおすすめな人
- プログラミング自体が初めて
- 機械学習・AIに興味がある
- Web開発やアプリ制作もやりたい
- 就職を見据えている(求人はPythonが多い)
Rから始めるのがおすすめな人
- 統計学を本格的に学びたい
- 研究・アカデミアで使う予定
- とにかくデータ可視化を綺麗にやりたい
- 大学の授業でRを使っている
迷ったら...
迷ったらPythonからでいいと思います。
理由は単純で、Pythonの方が「プログラミング」としての基礎が身につくからです。Pythonを学んだ後にRを学ぶと、「あ、こういう書き方もあるんだ」とスムーズに入れます。
逆にRから入ると、Rの独特な文法(<-での代入、ベクトル操作など)に慣れすぎて、他の言語に移行するときに少し戸惑うかもしれません。
両方使うときのTips
両方使うようになると、いくつか便利なTipsがあります。
1. データの受け渡しはCSVかParquet
シンプルにCSVで受け渡すのが確実です。大きなデータならParquet形式が高速でおすすめ。
# Python側
df.to_csv("data.csv", index=False)
df.to_parquet("data.parquet")
# R側
df <- read_csv("data.csv")
df <- read_parquet("data.parquet") # arrowパッケージ
2. RStudioとJupyterを両方使う
- RStudio:R用。R Markdownもここで書く
- JupyterLab:Python用。インタラクティブな分析に便利
- VS Code:両方対応。最近はこれ一本の人も多い
私はRはRStudio、PythonはVS Code + Jupyterという組み合わせです。
3. reticulateで橋渡し(上級者向け)
RからPythonを呼び出せるreticulateパッケージもあります。
library(reticulate)
use_python("/usr/bin/python3")
# RからPythonのコードを実行
py_run_string("import pandas as pd")
ただ、個人的にはCSV経由で分けた方がシンプルで好みです。
よくある誤解を解いておく
「Rはオワコン」は本当?
全然そんなことありません。
確かにKaggleやAI分野ではPython優勢ですが、統計学・バイオインフォマティクス・社会科学などの学術分野では、Rは今でも主流です。目的によって最適なツールは違います。
「Pythonの方が速い」は本当?
場合によります。
純粋なループ処理ならPythonの方が速いことが多いですが、Rのベクトル化された処理やdata.tableパッケージは非常に高速です。体感としては、普通のデータ分析で速度差を感じることはほとんどありません。
「両方やると中途半端になる」は本当?
むしろ相乗効果があります。
両方学ぶことで、「この処理はRの方が楽だな」「これはPythonだな」と判断できるようになります。道具が増えれば、できることも増えます。
まとめ
長くなりましたが、私の使い分けをまとめると:
- Python:機械学習、深層学習、自動化、Webスクレイピング、アプリ開発
- R:探索的データ分析、統計検定、可視化(論文用)、レポート作成
どちらが優れているかではなく、どちらが今の目的に合っているかで選ぶのが正解です。
最終的には両方使えるようになると、データ分析の幅がグッと広がります。まずはどちらか一方から始めて、慣れてきたらもう一方にも手を出してみてください。
皆さんのデータ分析ライフが、より楽しく効率的になることを願っています!