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AIとペア設計・ペア開発:効能と影響レポート

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AIとペア設計・ペア開発:効能と影響レポート

はじめに

AIを活用したペア設計・ペア開発(ペアプログラミング)が注目を集めています。GitHub CopilotやChatGPTに代表される生成AIは、コード補完から設計レビューまで幅広く支援し、開発者の生産性向上やコード品質改善に寄与すると期待されています。本レポートでは、AIとのペア開発が個人の自己理解(メタ認知)設計・実装の精度向上に与える影響を、最新の調査結果や事例をもとに考察します。また、GitHub CopilotやChatGPT、Cursor、CodeWhisperer、Tabnineなど主要なAI開発支援ツールの特徴を横断的に紹介し、効果や因果関係に着目してそのメリットと課題を整理します。

目次

  • AIペアプログラミングとは何か
  • 主要AI開発支援ツールの概要
  • 生産性・開発スピードへの影響
  • コード品質・設計精度への影響
  • 自己理解・メタ認知への影響
  • 開発者の満足度・心理面への影響
  • AIペア開発の課題とベストプラクティス
  • まとめ:AIと共に成長するために

AIペアプログラミングとは何か

ペアプログラミングとは、本来2人のプログラマーが1つのPCを共有して協働でコードを書く開発手法です。1人がコードを書く“ドライバー”役、もう1人がレビューやアイデア提案を行う“ナビゲーター”役となり、リアルタイムで互いにフィードバックし合いますcut-the-saas.com。これに対してAIペアプログラミングは、人間の開発者がAIアシスタントをペアの相棒として作業する形態です。例えばGitHub CopilotのようなAIはナビゲーター役としてコードの自動補完や改善提案を行い、ChatGPTのような対話AIは設計やデバッグの相談相手にもなり得ます。AIとのペア開発では、AIが常に横にいる**“無限に頼れる相棒”**として働き、ドライバーである開発者の作業をリアルタイムで支援してくれます。

このようなAIペア開発は近年急速に普及し、2025年時点で開発者の84%が何らかのAIコード支援ツールを利用しているとの調査もありますindex.devindex.dev。AIはコード生成・補完だけでなく、エラーの検出・修正、情報検索、テストケースの提案など様々な形で貢献し、人間のペアと協働するのと似た効果を狙っていますcut-the-saas.com。次章では代表的なAIツールの特徴を概観し、その後、AIとのペア開発が具体的にどのような効果をもたらすかを詳細に見ていきます。

主要AI開発支援ツールの概要

AIペア開発を語る上で、まず主要なツールとその特徴を押さえておきましょう。本節ではGitHub Copilot、ChatGPT、Cursor、Amazon CodeWhisperer、Tabnineといった代表的なAIコーディングアシスタントを紹介します。それぞれ提供元や機能に特徴があり、組織や個人のニーズに応じて使い分けられています。

GitHub Copilot(マイクロソフト/GitHub社): 開発環境にプラグインとして組み込み、コードのリアルタイム補完を行うAIペアプログラマです。OpenAIのCodex(GPT-3系)やGPT-4ベースのモデルを用いており、コメントや関数名から次の数行~関数全体を提案しますmedium.com。豊富なOSSコードで学習しており、VS CodeやJetBrainsなど主要IDEに統合可能です。2023年にはチャットや音声入力に対応した「Copilot X」も発表され、より対話的なコードレビュー・生成が可能になりました。研究ではCopilot使用時に55%速くタスク完了との報告もありmultiverse.io、開発効率向上ツールの代表格です。

  • ChatGPT(OpenAI社): 大規模言語モデルGPT-4を使った汎用対話型AIで、コード以外の設計相談やデバッグにも広く使われます。IDE統合型ではなくブラウザやAPI経由で対話しますが、コードの説明やリファクタ提案、アルゴリズム設計のブレインストーミングなど幅広い用途でエンジニアに活用されています。例えば「このコードのバグ原因を教えて」「要求仕様に合ったアーキテクチャ案を考えて」といった問いにも応答でき、ペア設計の相棒としても機能します。2025年現在、開発者の82%がChatGPTを利用しており、最も人気のAIコーディング支援ツールですindex.dev

  • Cursor(Cursor社): VS CodeをフォークしてAI機能を内蔵した新しいIDEですmedium.com。GPT-4やClaudeなど複数モデルを利用可能で、高度なコード補完、エラーフィックス、自然言語によるコマンド操作などをサポートしていますdaily.dev。エディタ内でAIとのチャットができ、プロジェクト全体を理解したコードリファクタリングやコード解説を実現している点が特徴です。いわばエディタとAIのシームレス統合により、ワークフロー中断なくAIの恩恵を受けられるツールです。

  • Amazon CodeWhisperer(AWS): AWSが提供するクラウドベースのAIコード補完サービスで、AWSサービスやJava/Python/JavaScriptなどに最適化されています。GitHub Copilotと同様にIDEプラグインで使用し、コードコメントからの自動生成が可能です。AWSによるとCodeWhisperer利用でタスク完了速度が57%向上したとの報告がありindex.dev、自社クラウドに密接に統合された利点もあってセキュリティスキャン機能などエンタープライズ向け機能も備えています。

  • Tabnine(Tabnine社): 比較的早期からあるAIコード補完ツールで、プライバシー重視のオンプレ展開や多数言語対応が強みですtabnine.com。機械学習を用いたコード予測により次の一行を提案するのが中心でしたが、近年は大規模言語モデルを活用しより長文の補完やチャット対応も進んでいますtabnine.com。GitHubやAWS製に比べ採用率は低めですが(調査ではTabnine利用者は5%程度index.dev)、社外クラウドにコードを送らずにAI支援を導入したい企業などに利用されています。

以上のように、AIアシスタントにも様々な種類があり、それぞれ得意領域や統合環境、提供企業が異なります。例えばChatGPTは汎用的で設計議論にも使えますがIDE連携が薄め、CopilotやCodeWhispererはIDE統合で即時補完が強力、といった違いがあります。複数ツールを併用する開発者も多く、59%の開発者が3つ以上のAIツールを並行利用しているとの調査もありますindex.dev。それでは、これらAIとペアを組むことで具体的にどのような効果が得られるのか、次章以降で詳しく見ていきます。

生産性・開発スピードへの影響

AIとのペア開発においてまず顕著なのは、生産性やコーディング速度の向上です。複数の実験や調査が、AIアシスタントの導入でコーディング所要時間が大幅に短縮されることを示しています。

例えば、Microsoft ResearchとGitHubの合同実験では、JavaScriptで簡易HTTPサーバを実装する課題においてGitHub Copilot利用者のグループは非利用グループよりも55.8%速くタスクを完了しましたarxiv.org。具体的には平均完了時間が**71分(AI利用)対161分(非利用)となり、約半分の時間で開発できたことになりますcut-the-saas.com。この結果は「AIペアプログラマが生産性を飛躍的に高める」**ことを定量的に示したものです。

またGitHub公式ブログによれば、Copilot利用者は**「コーディング中の精神的負荷が減り、より本質的な創造的作業に集中できる」と報告していますcut-the-saas.com。あるエンジニアは「考える時間が減り、考える時は面白い部分だけになった。コーディングがより楽しく効率的になった」と述べておりcut-the-saas.com、AIが雑多な実装の手間を肩代わりすることで“フロー状態”に入りやすくなる効果があるようです。実際、Copilot利用開発者の73%が「AIのおかげで開発中に集中を維持できる」と感じておりcut-the-saas.com、これは生産性向上と精神的余裕**の両面でプラスに働いています。

GitHub Copilot有無でのタスク完了率比較(AI使用時の成功率78%に対し未使用時70%)index.dev。AIアシスタント利用者はタスク成功率が向上する傾向にある。

効率面で特筆すべきもう一つのデータは、タスクの成功率(完遂率)の改善です。上記実験では、AI利用グループの方が課題を最後までやり遂げられた参加者の割合が7%高かった(AI利用78%、非利用70%)ことも示されていますcut-the-saas.com。これはAIが途中で詰まった時に適切なヒントやコード断片を与えてくれるため、結果的にゴールにたどり着ける人が増えることを意味します。特に経験の浅い開発者ほどこの恩恵は大きく、コーディング経験年数が少ない人ほどAI支援による効率向上効果が顕著だったとの報告もありますcut-the-saas.com

さらに、AWSの調査によれば自社のCodeWhisperer導入でもタスク完了時間が57%短縮しておりindex.dev、これは前述のCopilot実験結果とほぼ同等の改善率です。このようにプラットフォームを問わずAIコード補完ツールは一貫して開発スピードを約1.5~2倍に高める傾向が見られます。

以上のデータから、AIとのペア開発は定型コーディング作業を自動化・効率化し、人間の開発者が創造的な問題解決や設計により多くの時間とエネルギーを割けるようにすることで、開発の総合的な生産性を向上させるといえます。では、スピードだけでなく成果物の質にはどんな影響があるのでしょうか。次節でコード品質や設計精度への寄与について見ていきます。

コード品質・設計精度への影響

AIとのペア開発は、コードの正確さや品質の向上にも寄与し得ます。単に速く書けるだけでなく、「よりバグの少ないコード」や「テストで高い合格率を示すコード」を生み出すという報告が出始めています。

例えばある調査では、GitHub Copilotを使った開発では単体テストを全てパスする確率が非使用時より53.2%も高かったことが示されていますindex.dev。これはAIがバグを事前に防ぐようなコード提案を行ったり、境界ケースを網羅する補助をしてくれる可能性を示唆します。またCopilotが生成に関与したコードは、人間だけで書いたコードより行あたり13.6%バグが少なかった(エラー率が14%減少)とのデータもありますindex.dev。さらにコードレビューでの承認率もAI利用コードの方が約5%高かったことが報告されておりindex.dev、品質面で**“よりマージしやすい(受け入れられやすい)”**コードになる傾向が示唆されています。

AIが品質向上をもたらす理由の一つは、蓄積知識に基づくベストプラクティスの自動適用でしょう。大規模言語モデルは膨大な過去のコードから学習しているため、例えば「一般的にバグを生みやすいパターン」を避け「効率的で読みやすいコード」を提案する傾向があります。事実、Copilotはしばしばコーディング規約に沿ったクリーンなコードや欠陥の少ない定石的な実装を提示してくれます。その結果、人間がゼロから書くよりも品質指標が向上することがあるのですindex.dev

一方で、設計段階へのAIの関与は現時点では限定的です。アンケートによるとシステム設計やアーキテクチャ策定にAIを使う開発者はまだ4~5%程度に留まっておりindex.dev、主用途はコード記述やデバッグ支援が中心ですindex.dev。これは、設計という上流工程ではAIの提案をそのまま信頼しにくい(文脈を把握した高次の判断が必要)ことや、設計方針はプロジェクト固有で汎用解が存在しにくいことが背景にあります。ただし、ChatGPTのようなツールに**「設計レビューを依頼する」「ユースケースに対する典型的なアーキテクチャ案を聞く」といった使い方をする例も増えており、アイデア出しや検討漏れのチェックには役立つとの声があります。現状では設計精度の向上効果は定量化が難しいものの、コードレベルでは上述のようにテスト合格率やバグ低減といった客観指標でポジティブな影響**が確認されています。

もっとも、品質面でAIを活用する際に注意も必要です。AIが**「一見正しそうだが微妙に間違ったコード」を提案するケースもあり、開発者が検証を怠るとバグを見落とすリスクがありますindex.devindex.dev。後述するように、多くの開発者はAIの精度を完全には信頼しておらず**、提案コードはあくまでベースとして自分でレビュー・修正する姿勢が重要だと認識しています。このようにAIを適切に活用すれば品質向上につなげられる一方、過信は禁物というバランス感覚が求められます。

自己理解・メタ認知への影響

AIとペアを組むことは、開発者本人の思考プロセスやスキルの自己認識(メタ認知)にも影響を及ぼします。ここでは、AIとの対話や協働を通じて得られる自己理解の深まりや学習効果について考察します。

まず、AIは**「常に質問できる相棒」として機能するため、開発者は自分の知識の穴や思い込みに気づきやすくなると言われます。人間同士のペアプロでも、自分とは異なる視点の指摘によって気づきを得る効果がありますが、AI相手でも「なぜこのコードを書くのか」「他に方法はないか」を説明・検討する中で自問自答が促される効果がありますceur-ws.orgceur-ws.org。例えば、AIに「この関数の目的を説明して」と促されたり、逆にこちらがAIに実装意図を語るような対話をすることで、自分の設計思想を言語化し頭の中を整理する作業が発生しますceur-ws.org。このプロセスはいわば“AI相手のラバーダッキング”に近く、AIを第三者に見立てて丁寧に考えを説明することでメタ認知が刺激される**のです。

実際、大学のプログラミング教育で**「AIに自分の考えを逐一説明しながら解く課題」を導入したケースでは、学生がより深く問題を理解し、自分の誤解にも気づきやすくなったとの報告がありますceur-ws.orgceur-ws.org。AIは人間のように批判したり呆れたりしないため、学生たちは恥や遠慮なく自分の考えを試し、間違いから学ぶことができたといいますceur-ws.org。これは職場の開発者にとっても同様で、AIは「無限の忍耐力」を持つ非評価的な相棒なので、「こんな初歩的なこと聞いたら恥ずかしいかな」という懸念なく素朴な質問ができますreddit.com。結果として疑問点を曖昧に流さずに済み、理解が浅い部分をその場で補強**しやすくなるわけです。

さらに、AIは即座にフィードバックや追加情報を提供してくれるため、学習サイクルを早める効果もあります。例えば「このエラーの原因がわからない」と悩んだ時、人間ペアなら一緒にデバッグしますが、AIはエラーメッセージに対して候補原因や解決策を即提示してくれます。それを検証する過程で**「自分は何を見落としていたか」が明確になり、以降同じ間違いを避ける自己学習につながります。こうしたリアルタイムのガイド役**として、AIは開発者のメタ認知(自分の強み・弱みや理解度合いの認識)を高めるツールとなり得ます。

ただし一方で、AI依存によるメタ認知低下のリスクも指摘されています。2025年の研究では、AIと組んだ開発者はAIの提案を深く検証せず受け入れてしまう「過度の信頼」傾向が観察されましたtheregister.comtheregister.com。人間同士なら「本当にそれでいいの?」と遠慮なく議論する場面でも、AI相手だと反論せず流してしまうケースが多かったのです。その結果、表面的には効率よく進んでも深い学びにつながる議論が減る可能性がありますtheregister.comtheregister.com。例えばペアプロ中に雑談や遠回りな検討が実は知識共有につながることがありますが、AI相手では脱線が少ないぶん新しい発見の機会も減るという指摘ですtheregister.com

このように、AIとのペア開発が自己理解・メタ認知に与える影響は一長一短です。積極的に対話に活用すれば認知を深めるツールとなり、逆に盲信すれば思考停止を招くリスクもあります。重要なのは開発者側の姿勢であり、AIを**「答えを与えてくれる魔法の箱」ではなく「共に考える相棒」として扱うことが肝要です。適切に問いを投げかけ、提案に対して「なぜこうなるのか?」と自問する習慣**を持つことで、AIは強力なメタ認知支援者となるでしょう。

開発者の満足度・心理面への影響

AIとのペア開発は、開発者の心理的な満足度やモチベーションにも影響を及ぼします。ここでは、AI導入によるストレスや不安の軽減、仕事満足度の変化といった人的側面の効果を見ていきます。

まず、初心者や学生にとってAIは「安心感のあるパートナー」となり得ます。2023~2024年に行われた大学の比較実験では、GPT-3.5やClaudeを用いたAIペアプログラミングにより、学生の内発的動機づけが向上し、プログラミング不安が有意に低減しましたstemeducationjournal.springeropen.com。AIと組ませたグループは従来の人間ペアや単独作業よりも課題性能が高く、「怖さが減ったので積極的にコードに向き合えた」との声がありましたstemeducationjournal.springeropen.com。この研究ではAIを有用だと感じるポジティブな認知が効果を媒介していたとも報告されておりstemeducationjournal.springeropen.comAIに対する肯定的な受け止めがモチベーションアップにつながったようです。

現場のプロ開発者についても、AIは退屈な作業の負担軽減による満足度向上に貢献しています。GitHubの調査では、開発者の81%がAIコード補助ツールによって「面倒な作業から解放され、より楽しい仕事に集中できている」と回答し、70%が**「既に大きなメリットを実感している」と述べていますgithub.bloggithub.blog。また、前述の実験でCopilotを使った開発者は「反復的なコーディングで精神力が節約できた」と87%もの人が感じておりcut-the-saas.com、ルーチンワークの負荷軽減=ストレス低減につながっていることがうかがえます。その結果、AI利用者の全体的な仕事満足度や幸福感も向上**したと報告されていますcut-the-saas.com

興味深い点として、AIとのペア開発は自己効力感やコードへの自信を高める効果も確認されています。調査によれば、開発者の85%が「AIツールのおかげで自分のコードに以前より自信を持てるようになった」と答えていますindex.devindex.dev。AIが背後でチェックしてくれている安心感や、提案を受けて修正したコードの品質に納得できることが背景にあるようです。この心理的後ろ盾は特に新人にとって大きく、AIがあることで「一人で書くより間違いが減るはず」と安心してコーディングに臨めるという声もあります。実際、AI導入により学生のプログラミング自己効力感(自分でもできるという感覚)が向上したという研究結果もありますstemeducationjournal.springeropen.com

もっとも、心理面にはネガティブな側面もあります。最近の調査では、AIコード生成ツールの精度への信頼度が2023年の40%から2025年には29%へ低下しており、開発者の懐疑心が増していることが示されていますindex.dev。これは、実際に使ってみると**「確かに速いが完全ではない」と理解したユーザーが増えたためと考えられます。多くの開発者(66%)が「AI生成コードの修正に思った以上に時間を取られている」と感じておりindex.devindex.dev、過剰な期待が現実と擦り合わされてきた段階とも言えるでしょう。このような期待と現実のギャップは一部フラストレーションを生むものの、同時に「AIを使いこなすには人間側のスキルも重要」と再認識させています。結局、人間はAIを同僚の一人(完全ではないが役立つ存在)**と見なすようになり、他の人間同僚と同様に成果物をチェックし合う関係に落ち着きつつあります。

総じて、AIとのペア開発は開発者の心理的な安心感・満足感を高め、モチベーション維持に寄与する一方、過度な信頼や依存による期待外れ感も適度に現れている状況です。適切に使えば**「面倒が減り楽しくなる」ツールであり、誤用すれば「余計な手直しに追われる」こともあるため、次章で述べるベストプラクティスを踏まえて心理的メリットを最大化する工夫**が重要でしょう。

AIペア開発の課題とベストプラクティス

ここまで述べたように、AIとのペア設計・開発には多大なメリットがありますが、同時に乗り越えるべき課題も存在します。本節では代表的な課題と、それらに対処しAIの効果を最大化するためのベストプラクティスをまとめます。

課題1: AIの出力精度と信頼性
AIは万能ではなく、「ほぼ正しいが微妙に違う」コードを出力することがありますindex.devindex.dev。この90点止まりの回答により、開発者が細かなデバッグ修正に時間を割かれる問題が報告されています。対策としては、AIの提案は必ず自分の目でレビューし、ローカルでテストを走らせて検証することが不可欠です。いわば**“AIがナビゲートしてもハンドルは自分で握る”姿勢で臨み、AIのコードもチームの一人が書いたコードと同様にコードレビュー対象とします。また、不明点があれば人間の同僚にも相談する**ことをためらわないことです(不安な場合、75%の開発者はAIより人間に聞くことを優先するといいますindex.devindex.dev)。信頼と検証のバランスを取り、AIのミスを人間がカバーする体制が理想です。

課題2: 開発者のスキル低下・思考停止
AIに頼りきりになることで基礎力や思考力が落ちてしまう懸念もあります。例えばAI提案を丸呑みしてしまうと、自分でロジックを構築する機会が減りスキル習得が妨げられる可能性がありますtheregister.comtheregister.com。これを防ぐには、意識的にAIを学習ツールとして使うことが重要です。具体的には、AIの出したコードに対して**「なぜこの実装になるのか」「他にアプローチは?」と自問し、自分なりに解釈してから採用する癖をつけます。また、AIに「このコードの説明をして」と頼んだり、自分が書いたコードに改善提案を求めてみるのも有効でしょう。AIを双方向の師匠とみなし、常に理由を問い質す対話型の使い方をすることで、むしろ自分の考え方が洗練されていく**効果が期待できますceur-ws.orgceur-ws.org

課題3: プロンプト(指示)の質
AIに何をどう聞くか(プロンプトの書き方)次第で得られる答えの質は大きく変わります。最初は期待通りの補完が出ない/会話が噛み合わないと感じる場面もあるでしょう。ベストプラクティスとして、具体的で文脈を与えたプロンプトを心がけます。例えば「この関数でバグが出る。直して」ではなく**「関数XでYの入力時にZという不正な結果が出ます。原因を推測して修正してください」のように詳細に伝えると、AIからより的確な回答が得られます。また、望ましくない提案をしてくる場合は「そのアプローチではなく、○○の観点で解決して」と追加指示するなど、段階的に対話しながらAIの出力を誘導するテクニックも有効です。プロンプトエンジニアリングもスキルの一部ですので、社内で上手なプロンプト事例を共有したりAIに詳しいメンバーがノウハウをレクチャー**する仕組みを作ると良いでしょう。

課題4: セキュリティ・機密性
AIコード補完ツールを使う際、自社の機密コードやAPIキーなどが外部に送信されるリスクも考慮しなければなりません。現状、GitHub CopilotやChatGPTなどはユーザーの入力をサービス提供者側で保持・学習に利用する可能性があります。そこで、社内ポリシーを定めて機密情報を含むコードはAIにかけない、あるいはオンプレミス版AI(例: Tabnineのローカルモデル)を利用する選択肢も検討しますtabnine.com。AWS CodeWhispererは送信コードを一部マスキングする機能や、出力コードのライセンス情報提示などセキュリティ配慮がなされています。自社に適したツール選定と設定(必要ならファイアウォール内での利用など)を行い、便利さとセキュリティのバランスを取ることが重要です。

以上の課題に対処しつつ、AIとのペア開発を最大限に活かすためには、「人間が舵取りしAIが加速エンジンとなる」関係を築くことが肝心です。人間が最終判断者・学習者として主導し、AIは提案と補助に徹する。この役割分担を明確に意識することで、AIは我々の能力を底上げする頼もしいパートナーとなってくれるでしょう。

まとめ:AIと共に成長するために

本レポートでは、AIとのペア設計・ペア開発が個人にもたらす様々な効能と影響を見てきました。まとめると、AIアシスタントはコーディングの速度を飛躍的に向上させ(最大で約半分の時間で完了)multiverse.io、コードのバグを減らし品質を高める可能性があるindex.dev。同時に、開発者の不安を和らげ自信を育む心理的メリットも大きくstemeducationjournal.springeropen.comindex.dev、モチベーション維持や集中力向上に寄与することがわかりました。一方で、AIへの過信や依存は学習機会を奪い、誤ったコードの見逃しにつながるリスクも指摘されておりtheregister.comindex.dev、AIと人間の協働には正しい付き合い方が求められます。

幸い、適切な運用さえ心がければ、AIは**「エラーも指摘してくれる親切な相棒」**として人間の能力を拡張してくれます。実務では既に、**AI支援で月15~25時間の作業削減(年間数千ドル相当の効率化)**が実現したとの報告もありindex.devindex.dev、企業も個人もその恩恵を享受しつつあります。重要なのは、AIと人間がお互いの長所を活かすことです。AIは知識量とスピードで勝り、人間は判断力と創造性で勝ります。両者を組み合わせれば、これまで不可能だった高次元の生産性と品質に到達できるでしょう。

最後に、社内でAI活用を進めるにあたっては、積極的な情報共有と学習文化が鍵となります。AIツールの使い方や成功事例、躓いた点をチームで共有し、ペアプロのように互いに教え合うことで組織全体のAIリテラシーが向上します。AIは日進月歩で進化していますので、常に最新動向をキャッチアップしアップデートする姿勢も大切です。本レポートが、皆さんがAIとのペア開発に踏み出す一助となり、AIと共に成長する開発文化の醸成につながれば幸いです。

参考文献・出典:本レポートで引用・参照した主な情報源を以下に示します。

  • Peng et al., “The Impact of AI on Developer Productivity: Evidence from GitHub Copilot” (arXiv 2023)arxiv.orgmultiverse.io
  • GitHub Blog, “Quantifying GitHub Copilot’s impact on developer productivity and happiness” (2023)cut-the-saas.comcut-the-saas.com
  • Multiverse Blog, “What is Microsoft Copilot, and how can it boost your productivity?” (2025)multiverse.io
  • Index.dev, “AI Pair Programming Statistics: How Developers Use AI in 2025” (2025)index.devindex.devindex.dev
  • Fan et al., “AI-assisted pair programming vs human–human pair programming in education”, Int. J. STEM Educ. 12, 16 (2025)stemeducationjournal.springeropen.com
  • The Register, “Coders paired with bot buddies work fast, but take too many shortcuts” (Nov 4, 2025)theregister.comtheregister.com
  • Paludo & Montresor, “Fostering Metacognitive Skills in Programming: Leveraging AI to Reflect on Code”, AIxEDU Workshop (Nov 2024)ceur-ws.orgceur-ws.org
  • その他、GitHub Copilot公式サイト、Amazon CodeWhisperer公式ブログ、Tabnine公式ドキュメント等。
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