昨年2022/11/09に行われたGitHub Universe 2022において様々な発表が行われましたが、その新しい試みのひとつがGitHub Acceleratorです。
将来有望そうなメンテナやチームに対してGitHubが支援を行い、フルタイムでOSSにコミットできるようにするというプロジェクトです。
まあ要するに、GitHubがスポンサーのGitHub Sponsorsですね。
で、これの第一期対象の発表が2023/04/12にありました。
1000以上の応募から、20プロジェクト32名が選出されました。
彼らは最初の10週間で2万ドルを受け取り、その資源で財政的に持続可能な開発を目指します。
今後の展開次第ではさらに継続して支援を受けたりもできるようです。
そうしてフルタイムでOSSにコミットできる人材を増やすことが、GitHub Acceleratorの最終的な狙いのようです。
さて、この結果発表を紹介している日本語記事は、何故か一切ありません。
一切ですよ。
こういうとき大抵出てくるGigazineとかZDNETあたりも完全スルーです。
元の発表のほうはいろんなところが紹介しているのに。
どうして。
ということでここでは、第一期GitHub Acceleratorにどんなプロジェクトが選ばれたかを見ていこうと思います。
Meet the 20 projects in GitHub Accelerator!
analogjs/analog ☆1.3k
Analogは、Angularのフルスタックメタフレームワークです。
ざっくり言うとAngular版Next・Nuxt・SvelteKit。
ていうかこれ、Googleが支援してるわけじゃなかったんですね。
参考記事:AngularのメタフレームワークAnalogを試す
Atri-Labs/atrilabs-engine ☆4.2k
Atriは、バックエンドにPythonを使うPWAフレームワークです。
具体的にどんなものが作れるかはAtri自身が多彩なサンプルを用意してくれているのでたいへんわかりやすいです。
個人ブログからEコマース、社内アプリまで様々なものが作れるようです。
日本語記事は全く見当たらない。
bigskysoftware/htmx ☆12k
HTMXは、ほぼHTMLのままインタラクティブ要素を使用できる便利なテンプレートです。
<button hx-post="/clicked" hx-swap="outerHTML">
Click Me
</button>
これだけで、buttonを押すと/clicked
にリクエストが飛び、要素がレスポンスで置き換えられます。
サイト全体をごりごり書き替える必要はなくて一部だけ書き替えたいとか、CI/CDが入ってない環境にとりあえず部分更新を入れたいとか、そういう場合によさそうです。
逆に、既にフロンエンドフレームワークが入りきっている場合は出番がなさそうですね。
参考記事:htmxを使ってみる
code-hike/codehike ☆3.6k
codehikeは、MDX 2用のコードブロックプラグインです。
そもそもMDXが何なのかというとMarkdown + JSX
でありMarkdownにJavaScriptを書けるようになります。
codehikeを使うと、さらにMDX内でコードブロックを表現できるようになります。
codehikeのサイト自体がcodehikeで作られているみたいなので、デモを見てみるのが一番でしょうか。
参考記事:コードハイライター Code Hikeを使ってみた
DioxusLabs/dioxus ☆9.6k
Dioxusは、クロスプラットフォームのUIを構築するRust製アプリです。
WASMにコンパイルしてブラウザ動作、デスクトップ/モバイルアプリ、CLI、サーバサイドレンダリングなどがワンソースで実現できるらしいです。
にわかには信じがたい。
実際ドキュメント中いろんなところに「制限があります」「まだ実験的サポートです」的な文言が散見されるため、現状ではまだ実運用するのは厳しいっぽいです。
参考記事:Dioxus と Tailwind CSS を使って簡易 Web サイトを実装してみた
EddieHubCommunity/LinkFree ☆4.1k
LinkFreeは、OSS開発者が自分のスキル、会社、コンテンツ、ソーシャルメディア、コミュニティなど、あらゆる情報へのリンクを置いておくことのできるコンテンツハブです。
具体的になんなのってのは作者の例を見ればわかるでしょう。
開発プロジェクトではなく運用プロジェクトに支援を行っている珍しい例ですね。
FashionFreedom/Seamly2D ☆0.4k
Seamly2Dは、オーダーメイドの服をデザインするソフトウェアです。
ファッション業界標準のフォーマット準拠、型紙の共有などができるみたいです。
正直ファッションはさっぱりなのでhaute couture
とかhistorical pattern
とか何なのかよくわからない。
フォーラムにはそこそこの書き込みがあって、けっこう使われているようです。
参考動画:Test your Seamly2D sewing pattern with Marvelous Designer
fastai/nbdev ☆4.4k
nbdevはnotebookドリブンの開発プラットフォームです。
と言われてもよくわからんのだけど、どうやらJupyter Notebookがそのまま本格開発環境になるよ、という代物みたい。
Jupyter Notebookはちょっとした動作検証などには便利なのですが、それ以上大きなことをやるのは難しいわけですが、そのまま巨大プロジェクトも扱えるなら便利そうですね。
参考記事:Jupyterで全てを完結させる ~nbdevの紹介~
formbricks/formbricks ☆1.7k
Formbricksは、Webサイトを訪れたユーザのカスタマージャーニーを分析し、コンバージョンや離脱率を改善するためのプロダクトです。
まあGoogleAnalyticsのようなものですが、全てがオープンソースであるため、プライバシーコンプライアンスに強く、Googleにデータを収奪されることもありません。
さらにランダムな頻度で「この機能はどうでしたか?」みたいな質問を出して結果を集計したりといった様々な機能もあるようです。
まあ正直、公式トップにある動画を見ると何をやったかが事細かに記録されていてうわあって気分になりますね。
GyulyVGC/sniffnet ☆7.7k
Sniffnetはトラフィック監視ツールです。
通信をリアルタイムで監視し、わかりやすいビジュアルで表示してくれます。
表示だけではなくテキストでレポート保存したり、さらに特定イベントが発生したときに通知したりもできるようです。
LinuxだけでなくWindows用ビルドもあるので、サーバの監視だけではなくローカルマシンのチェックなどにも使えますね。
参考記事:ネットワークトラフィックモニタのSniffnetを試す
JessicaTegner/pypandoc ☆0.6k
声に出して読みたいpypandoc。
pypandocはPandocのラッパーであり、PandocをPythonから操作できるようになります。
Pandocは汎用的な文書変換ツールで、HTML、LaTex、Word、PDF、マークダウンなどを相互に変換できるライブラリです。
普段は使い慣れたマークダウンで記述しておいて、提出だけWordにするといったことができるわけですね。
どうしてpandoc自体ではなくあえてpypandocを選んだのだろう。
参考記事:Qiita記事を電子書籍化する
mockoon/mockoon ☆5.2k
Mockoonは、APIのモックを作成することに特化したツールです。
GUIから/foo
に{"bar"}
って書くと、http://localhost:3000/foo
で{"bar"}
が返ってきます。
とりあえず初期にAPIを後回しにして開発したり、外部連携APIをモックでシミュレーションしたりできるわけですね。
また返す値も固定値だけでなくFaker.jsから取ってきたり、繰り返しや分岐などのロジックもそれなりに書けます。
あんまりやりすぎるとモックじゃなく実装しろよって話になる気がしますが。
チュートリアルがとてもわかりやすくていいかんじです。
参考記事:外部連携APIのMock API Server化を検討する (Mockoon)
nuxt/nuxt ☆45k
nuxtは……説明する必要ある?
Vue.jsのフルスタックフレームワークであり、要するにVue版nextです。
残念ながら最近はnextに圧されているようです。
参考記事は山ほど出てくるので省略。
responsively-org/responsively-app ☆20k
Responsively Appは、名前のとおりレスポンシブWeb開発のためのツールです。
様々なサイズのスクリーンを一気に表示して動作を確認し、要素を分析したりスクリーンショットを一括で撮ったりできる、極めて便利なツールです。
参考記事:レスポンシブの確認がこれで快適に!複数のスクリーンサイズで同時に確認できる無料ツール -Responsively App
ところで私これとほとんど同じもの見たことあるわ。
Sizzy。
simonw/datasette ☆7.9k
Datasetteは、あらゆるデータを公開・検索するためのツールです。
ということなのですがよくわかりませんね。
サンプルとして世界の発電所データが公開されているので見てみるとよいでしょう。
データベースに様々な切り口での分析UIを持たせたものという感じでしょうか。
ツールやプラグインもたくさんあり、CSVや他の形式のデータをインポートしたり、出力を地図やグラフにカスタマイズしたりもできるようです。
SQL書くのめんどくせーってなときにいいかもしれませんね。
参考記事:【Python】自分のコンピュータでDatasetteを使用する
spyder-ide/spyder ☆7.6k
spyderは、Pythonで書かれたPythonのための統合開発環境です。
見た目は完全にVSCode。
編集・分析・実行・デバッグ・プロファイリングとIDEの機能は当然揃っており、プラグインでさらに機能を強化することもできます。
また最初からNumPy、SciPy、Matpotlibといったライブラリが同梱されており、科学や分析といった用途にすぐ使えます。
参考記事:【Python機械学習】初心者向けSpyder活用のすすめ(2020年8月時点)
strawberry-graphql/strawberry ☆3.3k
Strawberryは、Python用のGraphQLライブラリです。
PythonのGraplQLライブラリとして有名どころであるGrapheneがどうも最近滞っているようで、その隙に勢力を伸ばしてきているようです。
Djangoから簡単に使えるエンドポイントも用意されていました。
参考記事:Django + Strawberryで作るGraphQLサーバ
termux/termux-app ☆22k
Termuxは、Android用のLinuxエミュレータです。
部屋に転がっている古いAndroidをLAMPに仕立ててWordPressを動かしたりできます。
さらにUbuntuなどのディストリビューションをインストールすることもできて、そうすると本格的にサーバとして動かすこともできるかもしれませんね。
参考記事:root化せず気軽にAndroidスマホでLinux「Termux」!PHP+Apache+MariaDBを入れてWordpressを動かしてみる
TimothyStiles/poly ☆0.5k
polyは合成生物学のためのGoパッケージです。
codonの最適化、primerの設計など、他のライブラリでは対応できない問題にも取り組んでいます。
いったい何を言っているんだ。
あまりに高度すぎてそもそもこれが何なのかわからない。
あとドキュメントがほとんどないのもつらいですね。
なぜかsynbioについて学べとか言われますし。
どうやら一から生命体を創造しようという壮大な計画の一端であり、遺伝子を設計・解析するライブラリっぽいです。
日本語記事も一切見当たらず。
誰か詳しく教えて。
trpc/trpc ☆26k
tRPCは、タイプセーフなAPIを簡単に構築できるツールです。
具体的にはクライアントとサーバで型情報を共有します。
サーバ側で型を変更したら、なぜかクライアント側で型エラーが発生しました。
どういうことだってばよ。
参考記事:ちまたで噂の tRPCとは。
感想
GitHubが支援したということは、GitHubが将来有望なプロジェクトであると認識しているということです。
既に有名なものもありますが、まだまだcontributeが少ないプロジェクトもあります。
それでも選ばれたということは、なにか光るところがあるから注目されたということでしょう。
今のうちにcontributeとか手を出しておけば、今後何かいいことがあるかもしれませんね。