デルタシグマ(ΔΣ)ADCの高精度の本質
1. 雑音を「逃がす」設計
- オーバーサンプリングで量子化雑音を広帯域に拡散。
- ノイズシェーピングで、雑音を信号帯域の外に追いやる。
- デジタルフィルタで雑音を除去すると、帯域内は非常に低雑音。
→ 有効分解能(ENOB)が大きくなる。
2. アナログ誤差に鈍感
- SARやPipelineはD/A精度や比較器のオフセットが性能を直撃する。
- ΔΣはアナログブロックの精度要求が比較的緩く、
誤差は 平均化・デジタル補正で吸収できる。
→ 高い直線性(線形性)を得やすい。
3. 高いSNR/SNDR
- 雑音フロアが下がることで信号対雑音比が向上。
- 特にオーディオや計測用途では 100 dBを超えるSNR を実現可能。
4. デジタル処理に依存
- キャリブレーションや補正がデジタルで可能。
- アナログ素子の温度変動・ばらつきに強い。
→ 長期安定性と再現性に優れる。
ADC方式の比較表
| 特性 | SAR-ADC | ΔΣ-ADC | Pipeline-ADC |
|---|---|---|---|
| 分解能 | 8〜16ビット程度 | 16〜24ビット(高精度) | 8〜14ビット程度 |
| 速度 | 数MS/s〜100MS/s超(高速) | 数十kS/s〜数MS/s(低速) | 10〜数百MS/s(高速) |
| SNR/SNDR | 中程度(数十dB〜80dB) | 高い(90dB〜120dB級) | 中程度(60〜80dB) |
| 線形性 | D/A精度に依存しやすい | 高い(誤差が平均化される) | 中程度(補正必須) |
| アナログ要求 | 比較的高い精度が必要 | 緩い(デジタル補正に依存) | 高い(ゲイン誤差に敏感) |
| レイテンシ | 小さい | 大きい(デシメーション必須) | 小さい(パイプライン処理) |
| 回路規模 | シンプル(低消費電力) | デジタルフィルタ込みで大規模 | 中規模〜大規模 |
| 主な用途 | 通信機器、センサ、SoC | オーディオ、計測器、医療機器 | 映像処理、無線通信、高速計測 |
まとめフレーズ
- SAR-ADC:中分解能・高速・低消費 → 汎用・通信向け
- ΔΣ-ADC:高分解能・高線形性 → 精密計測・オーディオ・医療向け
- Pipeline-ADC:中分解能・超高速 → 映像処理・無線通信向け