- 増幅の基本原理 / Principle of Amplification
MOSFETによる増幅の本質は「電圧制御電流源」にある。
入力電圧 v_gs の微小変化に対して、出力電流 i_d が比例的に変化する。
i_d ≈ g_m * v_gs
ここで g_m(トランスコンダクタンス)は入力電圧変化に対する電流変化率であり、
増幅器の「変換能力(電圧→電流)」を示す。
電流が出力ノードの負荷抵抗 r_o または R_L に流れることで電圧変換が生じる。
その結果、出力電圧 v_out は次式で表される。
v_out = - g_m * v_gs * r_o
よって、電圧利得 A_v は次のように定義される。
A_v = v_out / v_in = - g_m * r_o
ここで負号は入力と出力の反転を意味する。
- 各パラメータが増幅に与える影響 / Parameter Impact on Amplification
(1) W(ゲート幅)
・大きくするほど g_m = (2μ_nC_ox(W/L)I_D)^(1/2) が増大。
・入力電圧の微小変化に対する電流変化が大きくなり、A_v が向上。
・ただし寄生容量 C_gs, C_gd が増加し、周波数応答が悪化する。
→ 利得↑, 帯域幅↓ の関係。
(2) L(ゲート長)
・長くするほど r_o = 1/(λI_D) が増加。
・ドレイン電流の変化に対して電圧変化がより大きくなるため、利得が上昇。
・一方で、Lが長いとトランジスタ速度(f_T)が低下し、高周波特性が劣化。
→ 利得↑, 高周波特性↓。
(3) Finger(フィンガー数)
・同じWを分割配置することで寄生容量を低減。
・C_gdが減るため、出力ノードの位相遅れ(ミラー効果)を抑制でき、GBW改善。
→ 帯域幅↑, 安定性↑。
(4) Multiplier(マルチプライヤー)
・同一トランジスタをN倍並列化。
・総g_mが比例的に増加(g_m_total = N * g_m_unit)。
・総r_oは並列効果で減少(r_o_total ≈ r_o_unit / N)。
→ A_v = g_m_total * r_o_total ≈ 定常、ただし電流能力↑。
→ 出力駆動力↑, 消費電力↑。
(5) I_D(ドレイン電流)
・g_m ≈ 2I_D / (V_GS - V_TH) より、I_Dが増えると利得向上。
・しかし同時に r_o = 1/(λI_D) が減少し、一定以上ではA_v飽和。
→ A_vにピークあり。過剰なI_Dは利得効率を悪化させる。
- 増幅段における相互関係 / Combined Effects in Amplifier
差動入力段では、g_m が信号電流変換効率を、r_o が電圧変換効率を決める。
A_v = g_m * (r_o || R_load)
→ g_m支配領域: 入力感度(感度・ノイズ特性)
→ r_o支配領域: 出力電圧スイングと負荷応答
もし r_o が大きく、R_load も大きければ高利得となる。
反対に、負荷容量 C_L が大きいと高周波特性(GBW)は低下する。
- 増幅・帯域・ノイズの関係 / Gain–Bandwidth–Noise Interplay
高利得 A_v を得るには:
・g_m↑(W↑, I_D↑)
・r_o↑(L↑, I_D↓)
この2つは互いに逆方向の操作を要求するため、トレードオフが生じる。
ノイズを減らすには:
・g_m↑(有効だが電力↑)
・L↑(1/fノイズ低減だが速度↓)
帯域を広げるには:
・寄生容量↓(Finger化)
・負荷容量↓(C_L小)
・g_m↑(GBW = g_m / (2πC_L))
したがって、増幅とは単に「A_vを上げる」ことではなく、
「必要な帯域・ノイズ・電力条件下で最適なA_vを得る」ことである。
- 増幅器設計における設計者の判断基準 / Designer’s Gain Strategy
(1) 高利得指向:
→ L長, I_D小, W大
→ A_v↑ ただし 速度↓, 面積↑
(2) 広帯域指向:
→ L短, I_D大, Finger化
→ GBW↑ ただし 消費電力↑
(3) 低ノイズ指向:
→ g_m↑ (W↑, I_D↑), L長
→ e_n↓ ただし P↑, f_T↓
(4) 低消費電力指向:
→ I_D↓, W/L↓
→ Power↓ ただし A_v, GBW低下
- まとめ / Summary
増幅とは、入力信号を大きな電圧変化として出力するための
「g_m と r_o の積の最適化」である。
A_v ≈ g_m * r_o
・g_m は入力→電流変換効率
・r_o は電流→電圧変換効率
・W, L, Finger, I_D はそれらを支配する設計変数
・増幅性能は単独ではなく、トレードオフの中で決まる
設計者はこの関係を理解し、目標仕様に応じて
「どこで妥協し、どこを最大化するか」を判断することが重要である。