週次価格予測(Gold & S&P500)理論メモ ─ 精度評価に焦点
対象:金(GC=F)・S&P500(GSPC)
頻度:週次
作成日:2025-10-30
1. 研究目的と設計思想
- 目的:金とS&P500の1週先の価格中央値(point) を統計モデルで予測し、予測精度(誤差)を定量評価する。
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設計:
- 終値を金曜締めの週次に整形し、両系列の共通週のみを使用(期間整合)。
- 比較モデルは 3系統:
- 幾何ランダムウォーク(RW)
- ARIMA(自己系列のみ)
- ARIMAX(相手系列の1週ラグを外生として利用)
- 評価:ローリング拡張(expanding)ウィンドウで毎週1週先予測。RMSE/MAE/MAPEで誤差を測定。
2. データと前処理(精度の観点)
2.1 週次化(W-FRI)
- 日足から金曜終値を抽出し週次化(Open=週初、High/Low=週内極値、Close=週末終値)。
- 営業日カレンダー差を吸収し、同一金曜日で完全に同期させることで誤差評価の公平性を確保。
2.2 対数収益で学習
- 価格 ( S_t ) から週次対数収益 ( r_t=\log(S_t/S_{t-1}) ) を作成し、モデル学習は収益系列で実施。
理由:(準)定常性・加法性・スケール不変性が得られ、推定の安定性→予測精度の再現性に寄与。
3. モデル(予測式と精度的含意)
3.1 幾何ランダムウォーク(RW)
- 仮定: 毎週の「対数収益(今週の価格と先週の価格の比のログ)」は、平均とばらつきが一定の同じ分布から独立に生まれる、とみなす。
- 1週先の条件付き中央値(≒平均):
「来週の伸び率は、学習区間で観測した平均的な伸び率と同じくらい」と仮定し、
現在の価格に“平均的な伸び率”を掛け戻した値を来週の予測値とする。 - 含意:前提が最小で過学習しにくいため、1週先のような短期では外しにくい基準(精度のベースライン)として安定して機能する。
3.2 ARIMA(ARMAを収益に適用)
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収益 ( y_t=r_t ) に ARIMA(p,0,q) を当てる((d=0))。代表式:
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含意:
- AR:慣性/反転の癖を拾う → 当てはまる局面でRWより誤差が下がる可能性。
- MA:誤差の自己相関を吸収 → 短期誤差の減衰に寄与。
3.3 ARIMAX(外生ラグを追加)
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目的 ( y_t )(例:GOLDの収益)、外生 ( x_t )(例:S&Pの収益)を用い、情報リーク防止のため ( x_{t-1} ) のみ採用。代表式:
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含意:他市場の先行シグナルが実在する局面でわずかな精度改善を期待(ただし恒常的ではない)。
4. 推定・モデル選択(精度を落とさない工夫)
- 推定:最尤(SARIMAX実装)。
- 選択:AIC/BIC を基準に**小さな次数(p,q ∈ {0,1})**を優先し、過学習と計算不安定化を抑制。
- 外生ラグ:まずは1週遅れ(追加ラグは不安定化し精度悪化の恐れ)。
5. 検証設計(精度検証の厳密化)
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拡張(expanding)ウィンドウ:
初期80週で学習→その時点までのデータだけで1週先を予測→翌週に学習集合へ1週追加…を反復。
現実の逐次予測に近い評価で、楽観バイアスを低減。 -
指標:
- RMSE:大誤差に敏感(外れ週の影響を可視化)。
- MAE:直感的な価格誤差の平均。
- MAPE:%表示で資産間比較がしやすい。
- 誤差の定義:価格ベース(point予測と実際の終値の差)。
6. 実験結果
6.1 今の1週先 point(中央値)
直近終値:GOLD = 3,960.70, SPX = 6,890.59
- RW → GOLD: 3,968.73(+0.20%), SPX: 6,898.52(+0.12%)
- ARIMA → GOLD: 3,968.76(+0.20%), SPX: 6,892.61(+0.03%)
- ARIMAX → GOLD: 3,965.43(+0.12%), SPX: 6,892.95(+0.03%)
所見(精度観点):3モデルのpointは差がごく小さい(<0.2%)。
= 1週先では強い決定的シグナルが出にくい(予測値の収束)。
6.2 バックテスト誤差(拡張ウィンドウ, 1週先/価格誤差)
| 資産 | モデル | RMSE | MAE | MAPE |
|---|---|---|---|---|
| GOLD | RW | 51.84 | 37.38 | 1.71% |
| GOLD | ARIMA | 52.24 | 38.01 | 1.75% |
| GOLD | ARIMAX | 53.29 | 38.17 | 1.76% |
| SPX | RW | 110.27 | 83.22 | 1.96% |
| SPX | ARIMA | 110.78 | 83.31 | 1.97% |
| SPX | ARIMAX | 110.38 | 83.54 | 1.97% |
- 規模感(現水準比のRMSE):GOLD ≈ 1.31%, SPX ≈ 1.60%。
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解釈:RWが最小~同等の誤差を示し、短期1週では最も堅実。
ARIMA/ARIMAXは局所的には改善余地があるが、通期で恒常的優位は限定的。
ARIMAXの効果が小さいのは、先行関係が弱い/時変で平均化されるためと考えられる。
7. 限界と今後の精度向上策
限界(精度上のボトルネック)
- 収益の線形・ガウス仮定:ジャンプ・厚い尾・レジーム転換は十分に表現できない。
- 外生1ラグのみ:マクロ・金利・為替など構造ドライバーを未導入。
- ボラの時間変化を素朴に扱っている(条件付き分散を明示モデリングしていない)。
精度向上の方向性
- 外生拡充:ドル指数・金利・CFTCポジション・マクロ指標(CPI/PMI)等。



