1. はじめに
「最高のおうちオフィスではたらく ~快適なリモートワーク環境の作り方~」にマイクをアップグレードする話があり、筆者が使っている100均のスマホ用イヤホンマイクの音声を試しに聞いてみたところ普段使いには十分なもののケーブルのタッチノイズやポップノイズで時々聞きづらくなることが分かりました。
マイクはメカ、エレキ、ソフト(信号処理)のフルスタックなので素人が自作してもなあと思っていたのですが、即席で作ったマイクをCreativeのSound Blaster PLAY!4に接続してCreativeアプリのNoiseClean-outをONすると話し声がめちゃんこクリアでリモートワークのマイクはしばらくはこれでよいかなと思いました。
この記事はその即席マイクの製作記事です。
本記事を用いた開発、製作、運用は、必ずご自身の責任と判断に基づいて行ってください。その結果について、筆者はいかなる責任も負いません。
2. 構成
構成を以下に示します。
- エレクトレット・コンデンサ・マイク(以下、ECM)の音声出力はレベルが小さいためマイクアンプで増幅します。
- マイクケーブルおよびヘッドセット用Φ3.5mm変換ケーブルを経由してマイクアンプの出力をSB-PLAY!4へ入力します。
3. 電子工作
3.1 回路
回路図を以下に示します。
- 電池ボックスおよびマイクケーブルはブレッドボードの以下の座標に配線します。
- 電池(+):0d
- 電池(-):1e
- MIC OUT:8d
- MIC GND:10d
- マイクアンプはFCZ研究所のマイクアンプ回路です。
- 回路はエミッタ接地の反転増幅器です。
- 自己バイアス回路(R3)と電流帰還バイアス回路(エミッタ抵抗VR)のハイブリッドで二重に負帰還がかかっていて利得は低めです。
- 音量調整はVRで利得を調整して行います。
- オリジナルはC1:1uF、C2:10uFですが手持ちの部品に合わせて変えています。
- C1、C2をバイポーラ(無極性)電解コンデンサに変更しています。
- C1:使用するマイクを変える際に電解コンデンサの極性を変え忘れるのを避けるため。
- C2:マイクアンプとオーディオインターフェースのどちら側からも直流電圧がかかるため。
- 回路はエミッタ接地の反転増幅器です。
- ECMは極性があります。また、ECMの筐体はGNDと接続されてるのでショートしないよう注意してください。
- マイクアンプの電源ONがわかるようLEDでインジケータを設けます。
- 適当に1mAくらいで電流制限しています(まぶしく光っても目障りで電池ももったいないので)。
- 電源は単三電池4本、6Vです。
- 最初はUSB充電器で電源を取ろうとしたのですがノイズに負けましたorz
- 単三電池2本、3Vでも動作します。この場合はR1の抵抗を4.7kΩ→1kΩに変更します。
3.2 マイクアンプとマイクケーブルの配線
Φ3.5mm ミニフォーンプラグの模式図1を以下に示します。
- マイクアンプのMIC OUTをミニフォーンプラグのLeftおよびRightに配線します。
- マイクアンプのMIC GNDをミニフォーンプラグのGNDに配線します。
3.3 動作
初めにマイクに向かって話しているときのECMの出力(CH1、黄色)とマイクアンプで増幅後の出力(CH2、水色)の波形例を以下に示します。
続いて1kHz、数ミリボルト程度のサイン波信号をマイクアンプへ入力したときの入力(CH1、黄色)と出力(CH2、水色)の信号です。信号が小さいためノイズが大きく見えます。
-
VRを0Ωに回しきったときの電圧利得は42倍でした。
-
筆者のPC環境でマイクに向かって話した時に-9dB程度の音量となるようにVRを調整したところ電圧利得は7.8倍でした。
4. CreativeアプリのNoiseClean-outの効果
Creativeアプリにマイクのノイズを低減する "NoiseClean-out" という機能があります。マイクアンプの入力をGNDに落とし、NoiseClean-outをON/OFFしたときの周波数特性を以下に示します。
OFFの時に発生している「サー」というノイズがONにすると聞こえなくなります。ONにすると話し声がめちゃんこクリアになります。
なお、NoiseClean-outをONする場合はMicrosoft Teamsなどの通話系アプリの同等機能(ノイズ抑制機能)はOFFにします。詳しくはCreative社の「主要ソフトウェアでの設定例」をご覧ください。
5. 部品表
- 筆者の実装例は手持ちの部品で代用している部分があります。
- マイクスタンドは100均のスマホスタンドなど工夫してみてください。
- 単三電池4本はその重さのため三脚によっては安定しない可能性があります。
- 値段は記事作成時点のものです。
アイテム | 型番 | 個数 | 税込単価 | 販売店 | 備考 |
---|---|---|---|---|---|
ECM | XCM6035 | 1 | ¥50 | 秋月電子通商 | |
トランジスタ | 2SC1815L-GR-T92-K | 1 | ¥100 | 秋月電子通商 | 価格は1パック20個入り |
無極性電解コンデンサ・0.47uF 50V | UES1HR47MDM | 1 | ¥15 | 秋月電子通商 | |
無極性電解コンデンサ・10uF 50V | UES1H100MPM | 1 | ¥20 | 秋月電子通商 | |
カーボン抵抗・1kΩ (1/2W) | CFS50J1KB | 1 | ¥100 | 秋月電子通商 | 価格は1パック100本入り |
カーボン抵抗・2.2kΩ (1/2W) | CFS50J2K2B | 1 | ¥100 | 秋月電子通商 | 価格は1パック100本入り |
カーボン抵抗・4.7kΩ (1/2W)※1 | CFS50J4K7B | 1 | ¥100 | 秋月電子通商 | 価格は1パック100本入り |
カーボン抵抗・100kΩ (1/2W) | CFS50J100KB | 1 | ¥100 | 秋月電子通商 | 価格は1パック100本入り |
半固定ボリューム・200Ω | GF063P B201K | 1 | ¥30 | 秋月電子通商 | |
LED | OS5RPM5B61A-QR | 1 | ¥150 | 秋月電子通商 | 価格は1パック10個入り |
電池ボックス(単三4本)※1 | SBH-341-1AS | 1 | ¥120 | 秋月電子通商 | カバー・スイッチ付き |
ミニブレッドボード用ベースプレート | ZY-002(WHITE) | 1 | ¥120 | 秋月電子通商 | |
ミニブレッドボード・55穴※2 | ZY-55(WHITE) | 1 | ¥60 | 秋月電子通商 | |
3.5mmΦステレオミニプラグ | MP-019LC | 1 | ¥60 | 秋月電子通商 | |
マイク用1芯シールドケーブル | 坂東電線・シールド0.3sq× 1芯 | 1 | ¥132 | オヤイデ電気 | 価格は1mのもの |
ポップガード | 粉ふるい(ミニ) | 1 | ¥110 | ダイソー | |
マイクスタンド(上部) | スマホ用ミニ三脚 | 1 | ¥110 | ダイソー | ホルダー部分を利用 |
マイクスタンド(下部) | DCA-109SL | 1 | ¥702 | ヨドバシカメラ | |
ヘッドセット用 Φ3.5mm変換ケーブル | AV-35AD02BK | 1 | ¥662 | ヨドバシカメラ | |
オーディオインターフェース | SB-PLAY!4 | 1 | ¥2,980 | ヨドバシカメラ | |
その他 | スズメッキ線、ブレッドボードのジャンパ線、輪ゴム | 適宜 | |||
合計 | ¥5,821 |
※1:単三電池2本で動作させる場合は4.7kΩの抵抗を1kΩに、電池ボックスをSBH-321-3AS150に変更します。
※2:BBD-ZY55(aitendo)でも入手できます。
6. おわりに
- 部品点数10点、20mm x 30mmのブレッドボードに収まる簡単な回路でマイクができました。
- 実運用ではユニバーサル基板にはんだ付けすることをお勧めします(ブレッドボードに挿している部品に手が当たったり振動が加わったりするとノイズの元になります。このノイズがマイクアンプで増幅されると耳障りな音になる可能性があります)。
- FCZ研究所のマイクアンプ回路は機能性能とコストを両立しているように思いました。
- 利得が低いと言ってもマイクアンプに必要な利得はある
- VRをゼロオームに回しきっても自己バイアスのおかげで安定的である
- 一般的な電流帰還バイアスのエミッタ接地増幅器と比べて部品点数が少ない(ベース-GND間の抵抗がない)
- 部品代の半分をオーディオインターフェースが占めているとはいえ合計六千円となるとメーカー製のUSB接続マイクが買えます。一方で自作は仕組みの理解に役立ったり部品レベルでカスタマイズができます。既製品、自作それぞれメリットがありどちらの選択肢も取れるようになるのが一番かもしれません。
- 品質エンジニア(QA)なのにオシロの使い方が分からないのはまずいと思うものの、今時のオシロは数万円程度の機種でも機能が満載で使ったことのない機能があります。本記事の執筆がノイズの影響を軽減する機能をいろいろ試す機会になり自作してみて良かったです。
付録A. 参考資料
付録B. ブレッドボードの中身
金具を引き抜くと連射式クリップに切れ込みを入れたような部品が出てきます。
クリップには部品の足をガイドするためのくぼみが付けられています。
ブレッドボードはこのような金具のバネの力で電子部品の足を挟んでいます。
付録C. 信号発生器
「最高のおうちオフィスではたらく ~快適なリモートワーク環境の作り方~」によると
▼本書を読み終わるとこんな状態になっています
- リモートワークに対して前向きになっている
- これ使ってみたいな、という商品が見つかってウキウキしている
- 物欲が刺激されて「あれも欲しい!これも欲しい!」となっている
とのことです。
筆者はアナログ信号を触るなら信号発生器内蔵の上位機種のオシロを買っておけばよかったorzと思いつつも、とはいえ試しにちょっと作ってみるのレベルだと買い替えてもそんなに出番あるかなあ、、、ということで秋月で信号発生器を購入しました。オシロで入力と出力を見ながら動作確認ができ、買って良かったです。
ファンクションジェネレーター miniDDS(完成品)
GF18-US1512-T
なお、この機種は「出力振幅範囲 0V~10VP-P」となっていますが振幅は0.1V単位で設定します(0Vの次は0.1Vになります)。今回は0.1Vよりも小さい信号が欲しかったので適当に抵抗2本(20kΩと1kΩ)で分圧しています。
付録D. オシロのプローブ
周波数の高い信号や微弱な信号を扱う場合はフックチップとグランドリードを外してグランドスプリングを装着し配線を短くします。