第一次AIブームと「推論」「探索」
第一次人工知能ブームの中心となった概念が推論と探索である。
推論
与えられた情報から、新しい知識を導き出す方法である。
例えば、「すべてのカラスは黒い」という事実があり、さらに「目の前の鳥はカラスである」と分かっている場合、この鳥が黒いことを導き出せる。これは、IF-THENルールを用いて与えられた情報から新しい事実を論理的に推論する例である。
探索
さまざまな可能性を試して、正しい答えを見つける手法である。
例えば迷路で出口を探すとき、行ける道を順番に試していくのが探索である。
研究者たちは「推論」と「探索」を組み合わせることで、コンピュータが人間のように複雑な問題を解けると考えた。
トイ・プロブレム(Toy Problem)
当時のAI研究が扱っていたのは、単純で明確なルールを持つ問題である。現実の複雑な問題と比べて小規模で、“おもちゃ” の問題ということで トイ・プロブレム と呼ばれた。
例:パズル、迷路、チェッカー、ハノイの塔
探索アルゴリズム
幅優先探索(BFS)
特徴は以下
- 最短ルートが保証されている
- 訪れた場所の情報をすべて保持する必要があり、メモリを大量に消費する
猫
を探す例:家の周囲から影分身して近くの道をすべて確認 → 最短距離で猫発見
深さ優先探索(DFS)
一本道を突き進むように、ひとつの経路をとことん進む方法である。

特徴は以下
- 必要な情報が少なく、メモリ消費が少ない
- 見つかったルートが最短とは限らない
- 運により早く終わることもあれば、非常に時間がかかることもある
猫
を探す例:一本の道を奥まで進む → 行き止まり → 別の道 → 発見するまで続く
木構造とグラフ構造
基本構造
ノード(頂点):データ単位で親・子ノード情報を保持
枝(エッジ):ノード間をつなぐ線
ルート:木構造の最初のノード
親子関係:ルートに近いノードが親、遠いノードが子
兄弟:同じ親を持つノード
葉(リーフ):末端のノード
グラフ構造
特長は以下
- ノードが自由に接続可能。それにより複雑で柔軟なネットワークを表現できる
- サイクル(閉じたループ)が存在可能
- 操作や解析は複雑で計算コストが高くなることがある
応用:交通網、SNS、ネットワーク分析など
木構造
特長は以下
- 親子関係による階層構造でサイクルはない
- ルートが必ず1つ存在する
- 階層表現が単純で検索しやすい
応用:組織図、ファイルシステム、系統樹など
グラフ構造と木構造の比較
| 項目 | グラフ構造 | 木構造 |
|---|---|---|
| ノード間のつながり | 自由につながる(サイクルあり) | 親子関係でツリー状(サイクルなし) |
| ルート | 特に決まっていない場合も多い | 1つのルート(根ノード)が必ず存在 |
| サイクルの有無 | サイクル(輪)が存在可能 | サイクルなし |
| 応用分野 | 交通網、SNS、ネットワーク分析 | 組織図、ファイルシステム、系統樹 |
| 表現の複雑さ | 柔軟で複雑 | 単純で階層的 |
グラフの種類
- 有向グラフ
辺に向きがある
- 無向グラフ
辺に向きがない
- 重み
辺には距離や時間などのコストを表す重みを設定できる
- パス
隣接する頂点の列。パスには始点と終点がある
- 閉路(サイクル)
パスの始点と終点が同じ場合は閉路(サイクル)と呼ぶ
- 連結グラフ
すべての頂点がパスでつながっている場合は連結グラフと呼ぶ
- 木
閉路のない連結グラフ
- 森
閉路のない非連結グラフ
他のセクションも全部まとめて変換したい場合は、そのブロックを貼
前向き推論(順方向連鎖)や後向き推論
前向き理論とは
結論を求めず、事実(データ)から出発して、推論規則に従って次々と推論を進める方法
「わかっていること」 → 「そこから導けること」 → 「さらに導けること」のように、事実を積み上げていき、最終的に結論に辿り着く。
「雨に濡れている」 → 「外にいた」
「外は雨だった」 → 「傘を持っていなかったかもしれない」
このように、事実から派生して推論を拡張していく。
後ろ向き理論とは
まず結論(ゴール)を決め、その結論を導くために必要な条件を遡って探索する方法。
ゴール:「Aさんは風邪をひいている」
→ そのために必要な条件:「熱がある」「咳がある」
条件:「熱がある」
→ 体温データを確認
条件:「咳がある」
→ 咳の症状を確認
このように、目的に向かって必要な条件を遡ってチェック する。
| 観点 | 前向き推論(Forward reasoning / chaining) | 後ろ向き推論(Backward reasoning / chaining) |
|---|---|---|
| 出発点 | 既知の事実からスタート | ゴール(結論)からスタート |
| 進め方 | 規則に従って導ける事実を広げていく | ゴールを満たすために必要な条件を遡って調べる |
| 向いている用途 | センサー情報・ルールベース処理・イベント駆動型AI | 診断、証明、問い合わせ、問題解決型AI |
| 強み | 事実が次々入る場面で強い | ゴールが明確なとき非常に効率が良い |
| 弱み | 必要ない推論まで広がりやすい | ゴールが曖昧だと進められない |
| 実装例 | エキスパートシステム、IFTTT、監視AI | Prolog、診断AI、問題解決型エージェント |
知識表現
知識表現とは、人間の言葉や考えをコンピュータが理解できる形式に変換することである。これにより、推論や検索を通じて新しい知識を導くことができる。
オントロジー
オントロジーは、知識や情報を構造化して整理するモデルである。例えば、「動物」という概念の下に「犬」「猫」「鳥」といった分類を作り、それぞれの属性を定義することで、コンピュータが「犬は哺乳類である」と推論できるようになる。
ナレッジグラフ
ナレッジグラフは、実際のデータとその関係性を可視化する技術である。ノード(エンティティ)、属性、関係性(エッジ)で構成され、データ同士のつながりを理解・活用できる。オントロジーが設計図であるのに対し、ナレッジグラフは現場で使う地図のようなものである。
古典的AIと現代AI
古典的AIは、あらかじめプログラムされた制御に従って動作し、探索や推論を用いて問題を解決してきた。迷路AIやエキスパートシステムがその例である。知識データを利用して、限られた条件下で複雑な問題を解くことができるが、未知の状況には弱く柔軟性に欠けるという課題があった。
現代AIはこれを克服し、データから自ら学習する機械学習や、多層ニューラルネットワークを用いる深層学習を用いる。機械学習には、入力データと正解ラベルを使う教師あり学習、ラベルなしデータからパターンを見つける教師なし学習、環境との相互作用を通じて報酬を最大化する強化学習がある。これにより、顔認証、ロボットの歩行制御、自動運転など、多様で高度な問題に対応できるようになった。
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