概要
最近、ブレストについての違和感を感じていたのと、
ブレストに関する記事が増えてきたので、自分も文献を少し読んでみた。
ちょっと整理してみる。
ブレスト新たな形
会社にて「ブレストやりましょう」なんて言葉をよく聞きませんか?
新商品、新企画を打ち出すときに必ず出てくるキーワード。
最新の研究ではこのブレストの形を変えるべきだ。
という議論が有力のようです。以下に全容を記載していきます。
会社で新商品/新サービス/新企画を担当する方は必見です。
ブレインストリーミングとは
ブレインストリーミングは「アイデアを出すための会議方法」で、
「ブレスト」と略されて日本中いや世界中で愛されている超有名な会議手法です。
アイデアを出すための「ツール/テクニック/手法」として広く認知されています。
日本で認知された経緯(私の想像)
マーケティングに関するセミナーやコンサルティングで登場する先生方が、
新米コンサル、大御所コンサルに限らず どや顔 で、「ブレストやりましょう!」と
日本中で語っていきました。彼らの活躍により、
ブレストは「(沢山の)アイデアを発散(出す)する」ツールとして広く認知されました。
ブレストの始まり
- 1950年代にAlex Faickney Osborn氏によって考案
- 会議手法としては、従来より50%以上も創造性が高まると言われていた。(過去形)
ブレストのルール
一般的に認知されているルールは以下のようなルールだと思います。
- 参加者が全員で(可能な限り)たくさんのアイデアを出す
- 他人のアイデアへの批判や判断はしてはいけない(アイデアを発散するのが目的)
- ユニークで斬新なアイデアは「イイね」と言う空気感を熟成するのが望ましい
- 出てきたアイデアを繋いだり捻ったりして収束させていく(ブラッシュアップ)
ブレスト意味ないよ
このようにして、ブレストは流行り、
みんなでアイデアを出し合えば良いアイデアが出る!
と強く信じられてきた時代が50年続きました。
しかし...このブレストの効能は、後の研究で否定されることになります。
否定する研究はいくつもあります。
特に、
Brian Mullen, Craig Johnson, Eduardo Salas らが行ったメタ分析により、
「ブレストって意味ないよね」ということが明らかとなりました。
様々な研究を超要約すると以下の通りです(詳細は論文をよく読んでください)
- アイデアなんてものは1人でその個人の創造性を駆使して出した方が良い。
- なぜかというと、どれだけ平場(平等)と主張しても声がデカい人が勝ってしまう。
- 人は「誰が発言したか?」に無意識にでも影響されるバイアスがある。
- 内向的な人がアイデアを発言しなくなる。という実験結果が出ている。
- 内向的な人の方が創造性が高い。という研究もある。
- 他人(比較的声のデカい人)が発言していると発想の邪魔。
- せっかくいいアイデアが出そうになっても他人の意見を聞いていると消えてしまう。
- 自分の好きなタイミングで他人のアイデアを見てアイデアを膨らませる方が良い。
ブレストその先へ
「ブレスト意味ないよ」と言い続けていてもしょうがないので、
研究者たちはさらに進んだブレストの手法を提案しています。
ブレインライティング
一般的なルールは以下のような感じかと思います。
- アイデアを紙に書きだす
- 誰が書いたアイデアかは伏せる
- (ところにより)紙をシャッフルして参加者で交換する
- (ところにより)交換した紙に書いてあるアイデアに意見する形でアイデアを連鎖させる
ブレインライティングにするとブレストの悪いところを克服できそうです。
しかし、デメリットとしては、以下がありそうです。
- 紙に書くのが手間
- 要約していくのも時間がかかる
- 参加者全員のアイデアを俯瞰しにくい
- 結局、みんなで同じ場所に集まる必要がある
- アイデア出しは1人で!という研究があるのに結局、みんなで集まるんかい!
このデメリットなんとかならないものか…
これらデメリットを解消できそうな手法はないのか。
あります。エレクトリックブレインストリーミングです。
エレクトリックブレインストーミング
1993年にクイーンズ大学が提唱した手法です。
後の研究で、従来型のブレストが否定されたために、
この手法が注目されているのではないでしょうか。
実際に、アメリカの大学などで研究されていて効果が実証されています。
- アイデアの質も量も大きく向上する
- 通常のブレストと比べ、2倍のアイデアが出る
とのこと。
ルール
- 参加者は他の参加者と顔を合わせない
- 誰が発言したか分からない
- 自分のアイデアをコンピューターに入力していく
- 他の参加者が書き込んだアイデアをリアルタイムで確認することができる
- そこへさらに新たなアイデアを入力していくこともできる
メリット
集まる必要なし
会議のために集まる無駄がない。
最近流行りのリモートワークにも対応できる。
意見を出しやすい
「この意見どう思われるだろう」
「こんなアイデア出したら恥ずかしいかも」
このような評価に対する不安が軽くなります。
また、声のデカい人と顔を合わせないので意見しやすくなります。
良いアイデアが消えてしまう「勿体ないお化け」が出てこない
ブレストのダメなところで説明した、
「せっかくいいアイデアが出そうになっても他人の意見を聞いていると消えてしまう」
これです。この現象のことを「プロダクションブロッキング」と言うそうです。
自論ですが良いアイデアは「きっと消えやすいものでしょうね」。
なのでこのメリットは大きいと思います。
1人で、
自由にアイデアを発想し
自由に他人のアイデアを参照し
自由に他人のアイデアに乗っかること
が出来ます。
エレクトリックブレインストーミングやってみた
自分の会社でやってみました。
前述の効果は確かに感じられました。
以下、参加者の声
- 「従来のブレストより楽しかった」
- 「いいアイデア(良い意味で突拍子もない)が多く出た気がする」
- 「このアイデアを揉んでいきたいね!」
やってみた私が感じたこと
私が感じたことは、
- システムの準備や運用をどうするか問題に直面する(今回はFreeのチャットツール)
- あくまでも発散ツールであること(収束ツールではない)
- 発散しまくったアイデアを収束させる方が実は大変
- 収束させるのにも時間がかかる
- 収束させて具体的アクション事項に落とし込んでいかないと結局意味ないよね
結局のところ、
- 2時間とか「ブレスト」してなんかアイデア沢山出たし!
- 普段言えないこともたくさん言えたし!
- 気分いいぜ!満足!!
- その後の収束?なにそれ?知らない教わってないし!
このように、アイデアの発散と言うより、
ストレスを発散して満足するチームって多いのではないでしょうか?
アイデアを発散してアウトプットしたは良いけど、
具現化して世にアウトプットしないと、
世界は変わらないぜ!?
今後の課題
エレクトリックブレストを手軽に開催する環境の構築
そもそも電子機器を使いましょう。って時点で、システム(ソフトウェア)との親和性が高い。
解決方法はシステム(ソフトウェア)で何とかする方向で考えていきます。
収束そして具現化するまでをどうするのか
新商品や新企画を具現化していく力だと思います。
これは、ブレストとは違う話だとは思いますが、
収束に向かうための工夫をシステムに施しても良い気がします。
例えば、
- アイデアを自動的に要約するツール
- 収束や具体的アクション事項やアクション事項の見積もりもこのシステムで?
- これらをガイドするインターフェース
誰が発言したか分からない時点で、
作業時間の見積もりやアクション事項の選定なども、
正直ベースで議論されるのでは?という私の仮説があります。
今後の展開
なにかシステムを構築できたら楽しそう。
参考文献
Brian Mullen, Craig Johnson, Eduardo Salas(2010)
Productivity Loss in Brainstorming Groups: A Meta-Analytic Integration
ブライアン・ミューレン、クレイグ・ジョンソン、エドゥアルド・サラス
「ブレーンストーミンググループにおける生産性損失:メタ分析統合」
Furnham, Adrian(2010)
The Brainstorming Myth
ファナム、エイドリアン(2010)
「ブレーンストーミングの神話」
Paul B. Paulus(2012)
Making Group Brainstorming More Effective: Recommendations From an Associative Memory Perspective
ポール・B・パウルス(2012)
「グループブレーンストーミングをより効果的にする:連想記憶の観点からの推奨」
Paul B. Paulus(2015)
Asynchronous Brainstorming in an Industrial Setting Exploratory Studies
ポール・B・パウルス(2015)
「産業現場における非同期ブレインストーミング探索的研究」
「エレクトリックブレインストーミング」