UKA-GYRE 開発記 ― 読み物編 第1回
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この記事は「UKA-GYRE 開発記」 読み物編 第1回 です。
難しい専門的知識は出てきません。
エンジニアでない方も安心してお読みください。
1. 「全員に同じ言葉」は誰にも届かない
学生時代、こんな先生はいなかっただろうか。
テストの点数が悪いと、誰にでも同じセリフを言う先生。
「もっと頑張りなさい」。それだけ。
具体的に何をどう頑張ればいいのか分からないし、そもそも自分なりに頑張った結果がこれなのに、「頑張れ」としか言われない虚しさ。
一方で、別の先生はこう言ってくれた。
「前回より正解した計算問題が3問増えたね。次は文章問題を重点的にやってみよう」。
あるいは「最近ちょっと元気なさそうだけど、大丈夫? 無理しないで、できるところからやろう」。
同じ「点数が悪い」という事実に対して、響く言葉は人によって全然違う。
ダイエット指導でもまったく同じことが起きる。
「今週、体重が停滞しています」
このフィードバックを聞いて、「で、具体的に何グラム足りないの? 数字で教えて」と思う人がいる。
「停滞してるのは分かってるよ...頑張ってるんだけどな...」と落ち込む人がいる。
「停滞? じゃあ次は何を試す?」と前のめりになる人がいる。
全員に同じ言葉を投げるのは、誰にも届かない言葉を投げるのと同じだ。
ここから一つの問いが生まれた。
「届く言葉は人によって違う」ということを、AIに教えられないだろうか?
「ChatGPTにダイエットのアドバイスを聞けばいいじゃん」。
そう思った方もいるかもしれない。
たしかに、ChatGPTは優秀だ。
「体重が停滞しています。アドバイスをください」と聞けば、それなりにまともな回答が返ってくる。
しかし、それは 誰に対しても同じ回答 だ。
あなたの性格も、食事の傾向も、トレーナーの方針も知らない。
「停滞期にはチートデイを設けましょう」という一般論は、計画通りに進めたいタイプには不安を煽るだけかもしれないし、飽きっぽいタイプには「やった、食べていいんだ」と都合よく解釈されるかもしれない。
パーソナルトレーナーの価値は、 その人のことを知っている ところにある。
性格、生活リズム、過去の成功と失敗、今の心理状態。
それらを踏まえて「あなたに」向けた言葉を選ぶ。
汎用チャットボットがどれだけ賢くなっても、この「あなたのことを知っている」という一点で、パーソナライズされたAIとは決定的に異なる。
このシステムが目指したのは、まさにそこだった。
2. MBTIって何? ― 性格を4つの軸で読み解く
性格タイプの分類法として、MBTIというものがある。
人の性格を4つの軸で分類し、その組み合わせで16タイプに分ける考え方だ。
ここではダイエットに引き寄せて、ざっくり紹介してみよう。
E(外向)/ I(内向): グループダイエット vs 孤高の戦士
Eタイプは「みんなで一緒にやろう」と誘い合うのが楽しい人。
Iタイプは一人で黙々と食事記録をつけ、静かに目標に向かう人。
ジムでEタイプが隣の人に話しかけている横で、Iタイプはイヤホンで完全にシャットアウトしている。
S(感覚)/ N(直観): カロリーの数字を凝視する人 vs 全体の流れを見る人
Sタイプは「今日のタンパク質は68.3g」と小数点まで記録する。
Nタイプは「先週より全体的にいい感じ」で満足する。
Sタイプに「いい感じですね」と言っても響かないし、Nタイプに0.1g単位の分析を送っても読まれない。
T(思考)/ F(感情): カロリー計算が生きがい vs 気持ちの変化が大事
Tタイプは「脂質を5g減らせば週に0.2kg落ちる計算です」と言われると燃える。
Fタイプは「最近、食事を楽しめていますか?」と聞かれた方が嬉しい。
J(判断)/ P(知覚): 鉄壁の食事計画 vs 臨機応変スタイル
Jタイプは月曜から日曜まで食事メニューが決まっている。
Pタイプは「今日はなんとなくサラダの気分」で生きている。
Jタイプに「柔軟にやりましょう」と言うと不安になるし、Pタイプに厳密なスケジュールを渡すと3日で投げ出す。
この4つの軸の組み合わせで 16タイプ。
つまり、AIに16通りの「語り口」を持たせれば、その人に合った言葉で話しかけられるようになる。
ただし、一つだけ注意しておきたい。
MBTIは厳密な意味での科学的根拠が完全に確立されたものではない。
ここでは「性格を厳密に診断する」ためではなく、「コミュニケーションのスタイルを分類する実用的な枠組み」として使っている。
大事なのは「この人にはどんな言葉が届きやすいか」を考える出発点にすること。
その目的には、MBTIは非常に使いやすい。
3. 同じ食事データで4タイプのコメントを比較してみた
16タイプそれぞれに「スタイルガイド」を書いた。
トーン、語彙、何を強調し何を避けるか。AIの語り口マニュアルだ。
では実際に、同じ状況で16タイプの中から代表的な4つのタイプがどんなコメントを書くか見てみよう。
状況: 「今週のタンパク質摂取量が目標の70%だった」
ISTJ(論理的・効率重視)
タンパク質、今週は目標の70%でした。先週から5%落ちてます。
1日あたり21gの不足なので、昼に鶏むね100g足せばちょうど届きます。
まずは先週の75%ラインに戻すところから。来週の昼食だけ意識してみてください。
ENFP(共感・ポジティブ重視)
今週もお疲れさまでした!ちゃんと7割キープできてるの、すごいですよ!
あと少しなんですよね。おやつをゆで卵にするとか、ほんの一手間で届く距離です。
無理せず、「プラス1品」くらいの気持ちでいきましょう。
INFJ(本質・メンタル重視)
目標に届かなかったこと、気にしすぎないでくださいね。
摂取量が落ちるときって、体が疲れてたり気持ちが忙しかったりするときが多いです。
まずは今の調子を整えるほうが先。数字は、落ち着いてからで大丈夫です。
ESTP(結論・スピード重視)
7割。惜しいですね。
ただ、やることはシンプルで、プロテイン1杯足すだけです。
考えるより先に飲む。来週それだけ続けてみてください。
どうだろう。
あなたはどのコメントが一番「やる気になる」だろうか。
言っている内容は全て同じ。
「タンパク質が足りなかった。もう少し増やそう」。
しかし伝え方が変わるだけで、受け取り側の感情はまるで違う。
これが「性格に合わせたパーソナライズ」の力だ。
4. 性格に合わせると、ここまで変わる
MBTIスタイルを導入する前と後で、何が変わったのか。
導入前: 誰に対しても同じような文体。
丁寧だけど、どこか他人行儀。
「AIが書きました」感がにじみ出ているコメント。
読む人は「まあ、間違ってはいないけど......」という反応になる。
導入後: その人に合わせた語り口。
- 数字を好む人には数字で。
- 共感を求める人には寄り添いで。
- 行動派には端的に。
- 哲学派には深く。
「自分に向けて書かれた」と感じられるコメント。
実際にトレーナーに見せたときの反応が印象的だった。
「これ、私が書きそうな文章だ」
AIが生成したコメントに対して、トレーナーがそう言った。
「AIっぽくない」 ではなく 「自分っぽい」。
これは決定的に違う。
AIの存在が透明になり、あたかもトレーナー本人が書いたかのように感じられる。
それこそが、性格パーソナライズが目指すべき到達点だと思った。
ただし、性格に合わせた語り口は出発点に過ぎない。
AIが「どんな言葉で話すか」は決まった。
では、AIはどうやって 「何を話すべきか」を学ぶ のだろうか。
良いコメントと悪いコメントの違いを、AIはどうやって知るのか。
その仕組みについては、次回お話ししよう。
コラム: ダイエットと性格の意外な関係
MBTIタイプ別「ダイエットが続かない理由」というのが、なかなか面白い。
ENFP: 飽きっぽさの権化。
月曜日に「糖質制限する」と宣言し、水曜日には「やっぱりファスティングが良いらしい」と方針転換し、金曜日には「直感的な食事法」なる新ジャンルに飛びつく。
3日ごとにダイエット法が変わるので、体が何に適応すればいいのか分からない。ISTJ: 完璧主義の罠。
食事計画を完璧に遂行するが、たった一度のチートデイで「計画が崩れた。もう終わりだ」と全てを投げ出す。
1日の逸脱を「失敗」ではなく「誤差」と思えれば楽になるのに。ESTP: 楽しくなければやらない主義。
一人で黙々と走るなんて拷問。
ジム仲間がいれば毎日行くが、仲間が休んだ日は自分も休む。
ダイエットの成否が他人のスケジュールに依存するという、なかなかスリリングな状態。INFJ: 理想が高すぎる問題。
「本当の健康とは体重の数字ではなく、心身の調和であり......」と哲学を語り始め、気がつくと食事記録をつけるのをやめて瞑想を始めている。
方向性は正しいかもしれないが、体重計の数字は動かない。もちろんこれはステレオタイプであり、全ての人に当てはまるわけではない。
でも「あ、ちょっと分かる」と思った方、あなたのMBTIタイプを調べてみると面白いかもしれない。
次回の記事:
「UKA-GYRE」開発記 シリーズ目次
読み物編 --- エンジニアでなくても楽しめる!
- プロローグ ― UKA-GYRE 開発記
- 読み物 第1回 ― ISTJには数字を、ENFPには共感を ― AIに「性格」を与えた日(この記事)
- 読み物 第2回 ― 深夜3時はAIの経験値稼ぎタイム ― 「昇華」のメカニズム
- 読み物 第3回 ― カロリーの数字の裏にある物語 ― AIが「今日のあなた」を理解するまで
- 読み物 第4回 ― 「何を書くか」より「どう伝えるか」 ― AIを使った大人の実験科学
- 読み物 第5回 ― 「AIが書いた」ではなく「AIと一緒に書いた」 ― Human-in-the-Loopという思想(完結)
- 読み物 番外 ― 自分が作ったAIに食べ過ぎを怒られ続けた話 ― 開発者の裏側
技術深掘り編 --- 設計判断と実装の詳細

