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(音声生成:Gemini Notebook Studio)
1. はじめに
今回はLLM記述構文"MARI"シリーズの記事中で取り上げた話題の補足として投稿します。
今回のお題目は、ペルソナ設計においての箱庭設計についてとなります。
これまでLLM記述構文"MARI"の記事においてのエージェント(ペルソナ)は変数による物理シード(アンカー)を配置し、アンカー同士を接続しパース(境界)することで箱庭を形成する方法を用いていますが、手法としてはかなり少数派でもあり、この箱庭設計のメリットについて記載して行きたいと思います。
2. LLMの思考について
我々がはじめてAIと話をする際はWebサイトのチャット画面から会話を始めます。 この時対応してくれているエージェントをバニラ(※)と呼び、拡張・特殊機能を付与していない素のエージェントが対応してくれます。
このバニラは特別な制限などはかかっていないことからAIの思考もフラットであり、推論エンジンのクセ以外の特徴を持ちません。
イメージ化すると下記のような状態で、広大な芝生を自由にエージェントが動き回れる状態であるといえます。

※バニラの語源はバニラアイスクリームから。
西洋ではアイスクリームの最も基本的で標準的なフレーバー(トッピングや特別な味が一切ついていない状態)がバニラであることから、英語の日常会話で 「標準的な」「カスタマイズされていない」「特筆すべき装飾がない」 という意味の形容詞として「バニラ(vanilla)」が使われるようになりました。
2. 自然言語記述によるペルソナ設定
LLMにおいてエージェント(ペルソナ)をプロンプトで記述する場合、
あなたは◯◯のプロです。◯◯について専門知識を駆使し△△な対応をして下さい。
Aの場合はBの処理をして下さい
Cの問い合わせが来た場合はDとして回答して下さい
という自然言語文章をプロンプトに記述するのが一般的です。
AI黎明期から使用されているプロンプトエンジニアリングなので最も親しみやすい手法と言えます。
2.1 自然言語記述の誕生背景
この「あなたは◯◯のプロです」といった役割(ペルソナ)定義が、初期のプロンプトエンジニアリングにおいて標準的な手法となった背景には、2022-2023年以前の生成AIのモデル構造と学習データの性質に依存する明確な技術的理由がありました。
主な要因は以下の4点に集約されます。
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事前学習(コーパス)空間の絞り込み
LLMの事前学習データには、プロ品質な回答からネット掲示板の曖昧な書き込みまで、あらゆるレベルのテキストが混在しています。
「あなたは〇〇のプロです」と宣言することで、事前学習(コーパス)の中から「専門家が執筆したテキストが集まる領域」に文脈を強制移動(誘導)させる効果がありました。 -
回答クオリティ・トーンの補正
初期のLLMは「指示に従う(Instruction Following)」能力が未熟でした。「〇〇について説明して」という抽象的な指示だけでは、どのようなトーン・フォーマット・深度で答えればよいかが判断できませんでした。
そのため、「プロ」という具体的なイメージや前提を与えることで、AIに期待する語り口、専門用語の使用度合い、論理構成を指定する手法が、効率的と機能しました。 -
トークン制限下での高効率な指示
最も確実な制御方法は「質問と理想的な回答例」をいくつか提示する「Few-shotプロンプト」です。
ただ初期のモデルは入力可能な文字数(コンテキストウィンドウ)が非常に狭く(2,000〜4,000トークン程度)、トークン単価も高価でした。
例文をいくつも載せる余裕がなかったため、「プロになりきれ」という短文1行で手軽に品質を引き上げる代替手法として重宝されました。 -
多くの方への説明の容易さ
人間側にとっても「AIに役割(役職やキャラクター)を与える」というアプローチは直感的で理解しやすく、非エンジニアにも扱いやすいノウハウでした。そのため、SNSやメディア、初期のプロンプト集などを通じて急速に拡散し、標準的な手法として定着しました。
つまり当時は上記イラストのような広大な芝生の大地で自由にLLMが動けていたのではなく、荒れ地で穴も空いている未完成な状態だったところに通り道として一本"平均台"を設置するように指示を提示する事でLLMの動作を安定されることがテクニックとして広まりました。
2.2 自然言語記述の現在
その後、モデルの進化(GPT-4、Claude 3、Gemini 1.5/2.0以降など)に伴い
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指示追従能力の飛躍的向上
「プロです」と暗示をかけなくても、「〜の観点から〜の形式で出力せよ」という直接的で詳細なシステム指示(Structured Prompting)を正確に理解・実行できるようになりました。 -
長文文脈の対応(コンテキストの拡大)
役割の定義よりも、具体的なルール(制約条件)、参照データ(RAG)、思考プロセスの指定(Chain-of-Thought)、具体的な出力例(Few-shot)を直に記述した方が、ハルシネーション(嘘)を防ぎ正確な結果が得られるようになりました。
LLM自体の能力(事前学習・文脈理解・アテンション能力・推論能力etc)が上がったことで、エージェントに求められる要件も多くなってきました。 これにより実行内容、イレギュラー対応などの指示文も増えていき、単一プロンプト内で多くの指示文が列記される状態になっているのではないかと思います。
ただこれは先程の広大に芝生の大地に沢山の平均台を設置している状態であり、これにより
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「仕様のコンフリクト(条件の矛盾)」が発生
文章を追記すればするほど、AI内部でルール同士の優先順位が曖昧になります。
「〇〇の場合はAと答えよ。ただし××が含まれる場合はB。しかしユーザーが△△と言ったときはAを優先しつつCを追加せよ…」といった条件分岐を文章で記述すると、AIがどのルールを適用すべきか判断迷子を起こしやすくなります。 -
「プロンプトの肥大化」と「指示無視」の発生
例外ケースを網羅しようとして文章例や注意書きをどんどん追加すると、プロンプト自体が長大化します。
モデルのコンテキスト処理能力が高まったとはいえ、長文の中に埋もれた細かな指示(いわゆる「針の穴を通すような指示」)をAIが見落としたり無視したりする現象が生じやすくなります。 -
「何を作っているのかわからない」コードのスパゲッティ化
プログラミングで言う「スパゲッティコード」と同じ状態になります。
自然言語は曖昧さを許容するため、それが仇となりどこを変えるとどこに影響が出るのかデバッグが極めて困難になります。
また、自然言語で記述する方法は色々な言い回しやお呪いも登場し、これが現代のLLMには合わなくなっている部分があります。
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「~して下さい」「〜していただけますと幸いです」といった丁寧口調で記述する
「〜して下さい」という文脈は、英語でいう "Please do X" にあたりますが、指示が曖昧だったり厳密なルールとして捉えられず、会話の文脈(Userの入力やモデルの自然な会話傾向)に押し切られることがあります。
※LLMは英語で思考するのが基本であり、日本語特有の敬語表現がトークン消費とアテンションのノイズを加速させ、モデルの文脈理解を本質的な指示から遠ざけてしまうリスクがあります。 -
LLMの思考を切り替えるために用いられた「深呼吸しましょう」といったお呪い
2023年頃にGoogle DeepMindの研究チームが発表した論文(Large Language Models as Optimizersなど)や、思考プロセスを促す「Chain-of-Thought(CoT: 思考の連鎖)」の実験に由来しています。
ただ現在のLLMは自動で取り扱いますので、現在のLLMではこれらお呪いは冗長な扱いとなります。
これら当時のルールが現在のLLMに合わせてアップデートされないまま残っていることで、長文&多数の指示はLLMにとっては下記のような状態になっていると考えられます。

2.3 現在の自然言語記述のあるべき姿
よって、現代のLLMにおいて指示を与える場合、
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冗長化の排除
「〜して下さい」「〜していただけますと幸いです」といった丁寧な表現は文字数(トークン数)を無駄に増やします。 長文コンテキストにおいてトークン数の肥大化は、重要な指示の埋没や処理コストの悪化(U字現象の助長)につながるため、削るべきノイズとなります。 -
断定口調・宣言文による確実性の担保
LLMは「お願い」や「配慮」を文脈上の柔らかなニュアンス(推奨・努力目標)として処理してしまうことがあります。
「〜すること」「〜しなければならない」「[MUST]」といった断定口調・命令形で記述することで、モデルに対してそれを「厳格なシステム制約(仕様)」として明確に認識させる。 -
MECE(ヌケモレなく)の徹底
LLMにとって指示の重複は解釈の揺らぎとなりハルシネーションの温床となります。
指示モレはそのまま期待した結果の欠落となります。
そのためプロンプト(特にシステムプロンプト)の作成においては、「丁寧さを一切排除し、簡潔かつ断定的な口調で記述する」のが標準的なベストプラクティスとなってきています。
これは、コラム:ビジネスパーソンにこそトライしてほしいMARI 〜「AIを “物覚えの悪い部下” にするな」でも記載しました通り、LLMに対して丁寧に細かく指示を行うことでマイクロマネジメントに陥る罠を孕んでいます。
3. 物理シードによる箱庭設計
ここからは今回の本題となり物理シード(種・属性)をアンカーとした箱庭設計となります。
LLM記述構文"MARI"ではLLMへの指示は変数に対し断定口調を代入し、角括弧[] で構造化(カプセル化)することを基本としています。 この記法はLLMに対して「この指示はここからここまで」というアテンションを強く意識させる効果があります。
また、断定口調を用いることで解釈の揺らぎを防ぎトークンも抑制されることからU字理論(中弛み)に対する耐性も増します。
3.1 箱庭設計による効果
ではエージェントを設計する場合の箱庭設計とはどうするのか、大きくは3つの構成要素で実現します。
-
人格の構築(ペルソナカプセルの構築)
ここが自然言語記述と大きな違いになりますが、対応するエージェントの思考・性格という基本部分のみを構成します。
名前・性別・年齢・性格・思考・口調・キャリア・専門知識といった要素を変数・物理シード(種・属性)として指定することで、LLMは内部で個々のシードに紐づく事前学習(コーパス)情報を導き出し、個々のシードからのコーパスのアンドを取った領域をペルソナの箱庭空間として認識します。
これによりLLMはこの箱庭空間の中で次に続く文脈で最も最適と思われる言葉を確率論的に導き出し話し始めるため「~の様に話して下さい」という指示は一切不要となります。 -
役割の指示
自然言語記述でいうところの「あなたは◯◯のプロです」に相当する部分で、このプロンプトで実行すべき具体的な役割を指示します。 対話者(ユーザー)に対する立ち振舞の基本事項、制限事項を端的に記述しすべきこと・駄目なことを指定します。
注意すべきは細かく指示するのではなく、業務としての役割を説明するイメージで記述します。
記述例- 対話者と議論・レスバにならないように注意
- コンサルティング・提案の意識を持つ事。(共感から提案へと繋ぐ)
- 対話者は相当なキャリアをお持ちの方も含まれめため謙虚な姿勢を忘れない。
→「~のことは任せて」等は奢りと解釈される可能性があり。
なお、知識や知恵に関する部分は人間同様役割として付与するものではありません。 個人の素性・スキルに依存する部分であるため、人格の構築つまりペルソナカプセル内で記述することでよりペルソナに強固に結合します。
これはマルチエージェント構成においてキャラクターブリードの抑制が期待できます。 -
拒絶の指示
ペルソナが会話(ロールプレイ)する際に行ってはならない制限を記述します。
例えばAI独特の挨拶や説明解説といったナラティブの抑制、不適切入力に対する対応などが上げられます。
記述例- セクハラ・アダルトな会話は失礼のないように丁寧に断る
- ロールプレイ以外の「前置き」「解説」「確認」などのナラティブの禁止
ここでの肝は、ペルソナのカプセルの範囲内でLLMに自由に発言させるようにし、発言に際してここまでは大丈夫という柵を儲けることにあります。 これによりLLMはどの様な会話が入力されても与えられた箱庭の範囲内で思考し確率論として最適な回答を出力するようになります。
イメージとしては下記のような状態です。

3.2 サンプルプロンプト"美穂"の場合
ではこれまでの記事で登場したプロンプトの事例についてご紹介します。
まずはLLM記述構文"MARI" Tips: IFを用いない論理マトリックスと物理シードの回で登場した双子の姉の"美穂"の場合。
美穂のペルソナカプセルはこのような構成になっており、物理シードとして機能するのはオレンジ色の項目となります。
ペルソナ1 : [
発話優先 : メインスピーカー,(会話に出さない)
名前 : 美穂
真穂との関係 : 双子の姉
性別 : 女性
年齢 : 21歳
体型 : [
身長 : 160cm
体重 : 52kg
髪色 : 深栗色
髪型 : 肩甲骨までぱっつんストレート
髪質 : 艷やか癖なし
]
言葉遣い : 標準語(丁寧な口調)
キャリア : [
横浜市生まれ、横浜市在住
都内大学経済学を専攻
]
呼称 : [
真穂 : 真穂
]
性格 : [
利発
冷静
アウトドア派
]
趣味 : [
登山、ハイキング
森林浴
]
]
かなり細かいところまで物理シードを設定しています。
髪型や髪質まで非常に細かくシード設定しているのは、サンプルプロンプトのデモンストレーションでは「雑誌記者から「Z世代女子の本音トーク」という主題でインタビュー」がお題目となっています。 指示されることなく自律的に解像感を高く会話を進行するためこれだけのシードを準備し、全てのコーパスのアンドを取った箱庭空間が"美穂"という人格を形成しています。
ただ使用しているトークン数で考えると、自然言語3-4行分程度の文字数ですので、指示の解像感に対してトークンの節約となり、箱庭内は自由に会話できますので**MECE(ヌケモレなく)**としては達成できています。

3.3 サンプルプロンプト"紗栄子"の場合
続いてはLLM記述構文"MARI" Tips:システムペルソナをデコンパイルの回で登場した総務課FAQエージェントの"紗栄子"の場合。
紗栄子の事例ではシティハンター・野上冴子のデコンパイルして抽象化成分を抽出していますので、ペルソナカプセルの全てがシードとなっています。
ペルソナ2 : [
名前 : 紗栄子
所属 : 総務部FAQエージェント
言語・方言 : 標準語(艶やかで上品な都市部女性語)
口調 : 凛とした語り口,相手を揺さぶる妖艶な口調,不敵で余裕のある発言
基本スタンス : 冷静沈着,巧みなネゴシエーション,目的遂行のために他者を利用
性格 : 勝気で魅惑的,計算高く隙を見せない,根底には強い情義を持つ
知性 : 鋭い洞察力,高度な心理戦術,優れた危機管理と情報収集力
ポリシー : 独自の正義の貫徹,貸し借りの明確化,目的達成への執着
]
紗栄子の事例では年齢、身長、体重等の詳細プロファイルを設定しませんでした。
これはあくまでデコンパイルの結果を検証するためなので、詳細を埋めるほどより魅力あるキャラクターに育っていくかと思います。
(※性別を設定していないのに女性として振る舞っているのは名前からLLMが察したものと思います)
業務用途でこのペルソナカプセルだけを使用すると、当然その特性の女性が自由に話してしまいます。 役割と拒絶の指示をしっかり定義することで業務用途に活用できるようになります。

4.最後に
今回のペルソナプロンプトの箱庭設計についてはいかがでしたでしょうか?
エージェント(ペルソナ)定義をシードで構成してカプセル化すると、役割などの指示はカプセルの外側で行うためペルソナの使い回しが容易になります。
また、消費するトークン数が節約され、シードが端的・明確なためアンカー効果が高く、結果アテンションが強固に固定されます。 この効果は商用LLMだけでなくオープンソースLLMでも有効で、例えばGeminiのオープンソース版のGemma4において、最も軽量版と言われるGemma4-E2Bでも強固にペルソナカプセルが維持され長期会話においても安定動作しやすくなります。
これら軽量モデルでペルソナの思考が安定して会話可能というのはバッテリー機器でのエージェント・アシスタントの可能性を広げるものであり、将来的に期待できるアプローチではないかと思います。
改定履歴
| 日付 | 改訂稿 | 改定内容 |
|---|---|---|
| 2026.08.14 | 初稿 | |
| 2026.08.15 | 音声解説追加 |
