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【検討】クラウドが呪縛にならない、ベンダーロック回避する方法を考えてみた(AWS, Google Cloud, Azure)

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【検討】クラウドが呪縛にならない、ベンダーロック回避する方法を考えてみた

対象読者

  • クラウドのベンダーロックインに課題を感じているアーキテクト、インフラエンジニア
  • マルチクラウドやオンプレミスへの移行(回帰)の可能性を設計に織り込みたい方
  • オープンソース技術を軸にした、ポータブルで汎用的なシステム基盤の構築方法を知りたい方

TL;DR

  • 真のポータビリティは、OSS中核主義IaCによる抽象化標準API/プロトコルの遵守という3つの原則で実現する。
  • Kubernetesを実行基盤の共通レイヤーとし、その上で動作するOSSエコシステム(監視、認証、API GW等)を戦略的に活用する。
  • 各技術レイヤーで、クラウドの便利なマネージドサービスとOSSの選択肢を機能・コスト・リスクの観点で比較検討する。
  • ポータビリティの追求は、クラウドの利便性とのトレードオフ。その「代償」である運用コストを理解し、戦略的なバランスを取ることが成功の鍵。

はじめに:なぜ今、ベンダーロックイン回避が経営課題なのか?

クラウドは開発の常識を変えました。しかし、その圧倒的な利便性と引き換えに、私たちは「ベンダーロックイン」という新たな課題に直面していくと思われます。特定のクラウドサービスに深く依存したシステムは、将来のコスト増や技術選択の制限(そうでなくとも、今後のサービスの展開や料金プランの変動によって、現実的に移行しなくてはならないシチュエーションがあると考えています)、さらには事業戦略の足枷となりうる危険を秘めています。

この記事では、代表的な機能持つ構成を題材に、特定のクラウドに縛られず、オンプレミスへの回帰さえも視野に入れた「ポータブルなアーキテクチャ」の設計戦略を、OSSの活用とともに考えてみます。

目指すアーキテクチャの全体像

私たちが目指すのは、下図のように、インフラ(クラウド/オンプレ)と実行基盤(Kubernetes)の上に、ポータブルなOSSコンポーネント群を配置したアーキテクチャです。

第1章:ポータブル・アーキテクチャの礎 - 3つの基本原則

このアーキテクチャを実現するためには、以下の3つの原則を徹底することが不可欠です。

原則 目的 具体例
OSS中核主義 特定ベンダーの独自実装への依存を排除し、自らのコントロール下に技術スタックを置く。 Kubernetes, PostgreSQL, Kafka, Prometheus
IaCによる抽象化 インフラ環境ごとの差異(VPCの作り方、IAMの設定など)をコードで吸収し、再現性を確保する。 Terraform, Ansible, Pulumi
標準API/プロトコルの遵守 コンポーネント間の相互運用性を確保し、将来的な置き換えを容易にする。 S3 API, OIDC, OpenTelemetry, SQL

第2章:レイヤー別設計戦略 - ポータブルなコンポーネントの選択と解説

それでは、各技術レイヤーで、ロックインのリスクとそれを回避するためのOSS選定、そしてその詳細な解説を見ていきましょう。

2-1. 実行基盤 (Execution Plane) - すべてを載せる大地

ロックインのリスク

AWS Lambdaのイベントソースマッピングや、Azure FunctionsのDurable Functionsといった、ベンダー固有のサーバレス機能やVMイメージ形式に依存すると、他の環境への移行がほぼ不可能になります。

ポータブルな選択肢:Kubernetes / OpenShift

コンテナというポータブルな単位と、それを管理するKubernetes APIという共通言語を使うことで、アプリケーションの実行環境を完全に抽象化します。

コンポーネント 解説 クラウドサービスとの関係
Kubernetes コンテナ化されたアプリケーションのデプロイ、スケーリング、管理を自動化するOSS。事実上のコンテナオーケストレーション標準。アプリケーションからはインフラを意識する必要がなくなる。 AWS EKS, Google GKE, Azure AKSは、Kubernetesのコントロールプレーンの運用を代行してくれるマネージドサービス。アプリケーションのポータビリティは維持される。
OpenShift Red Hat社が提供する、エンタープライズ向けのKubernetesディストリビューション。開発者ツール、セキュリティ機能、VM管理機能(OpenShift Virtualization)が統合されており、より包括的なPaaS環境を提供する。 クラウド上でもオンプレミス上でも、ほぼ同一のプラットフォームを構築可能。ハイブリッドクラウド戦略において強力な選択肢となる。

第2章:レイヤー別設計戦略 - ポータブルなコンポーネントの選択と解説

それでは、各技術レイヤーで、ロックインのリスクとそれを回避するためのOSS選定、そしてその詳細な解説を見ていきましょう。

2-1. 実行基盤 (Execution Plane) - すべてを載せる大地

ロックインのリスク

AWS Lambdaのイベントソースマッピングや、Azure FunctionsのDurable Functionsといった、ベンダー固有のサーバレス機能やVMイメージ形式に依存すると、他の環境への移行がほぼ不可能になります。

ポータブルな選択肢:Kubernetes / OpenShift

コンテナというポータブルな単位と、それを管理するKubernetes APIという共通言語を使うことで、アプリケーションの実行環境を完全に抽象化します。

What is Kubernetes?

「Kubernetesは、コンテナ化されたワークロードとサービスを管理するための、ポータブルで拡張性のあるオープンソースのプラットフォームです。Kubernetesは宣言的な設定と自動化を促進します。」

Kubernetes Documentation - What is Kubernetes?

比較項目 ポータブル設計 (Kubernetes/OpenShift) クラウドマネージド設計 (EKS, GKE, AKS)
コントロールプレーン 自前で構築・運用 ベンダーが管理 (SLAあり)
カスタマイズ性 非常に高い (OS, CNI, CSIなど全て選択可能) ベンダーの提供範囲内
運用コスト 高い 低い(マネージメント費用は発生)
ポータビリティ 最高 高い (アプリはポータブルだが、基盤はベンダー依存)

2-2. サービス間通信 (Service-to-Service Communication)

ロックインのリスク

各マイクロサービス内に、クラウドベンダーのSDKを使って再試行や暗号化などの通信制御ロジックを実装すると、そのSDKに縛られてしまいます。

ポータブルな選択肢:API Gateway (Kong) + Service Mesh (Istio)

What is Kong Gateway?

「Kong Gatewayは、クラウドネイティブな、高速で、スケーラブルで、分散型のAPIゲートウェイであり、APIとマイクロサービスを保護、管理、オーケストレーションします。」

Kong Documentation - What Is Kong Gateway?

What is Istio?

「Istioは、既存の分散アプリケーションに透過的にレイヤーを追加するオープンソースのサービスメッシュです。(中略)サービスコードの変更をほとんど、あるいは全く必要とせずに、トラフィックフローの制御、ポリシーの適用、メトリクスの集約を可能にする統一された方法を提供します。」

Istio Documentation - What is Istio?

2-3. データ永続化 (Persistence Plane)

ロックインのリスク

Amazon AuroraのI/O最適化機能や、Google Cloud Spannerのグローバル分散トランザクションといった独自機能は非常に強力ですが、一度依存すると標準的なOSSデータベースへの移行は極めて困難になります。

ポータブルな選択肢:PostgreSQL / MySQL + MinIO

What is PostgreSQL?

「PostgreSQLは、35年以上にわたる活発な開発の歴史を持ち、強力な評価を得ている、パワフルなオープンソースのオブジェクトリレーショナルデータベースシステムです。信頼性、機能の堅牢性、パフォーマンスで知られています。」

PostgreSQL Documentation - What is PostgreSQL?

What is MinIO?

「MinIOは、高性能なS3互換オブジェクトストレージです。大規模なAI/ML、データレイク、データベースのワークロードに必要なオブジェクトストレージを構築するために作られています。」

MinIO Website

比較項目 ポータブル設計 (PostgreSQL / MinIO) クラウド独自DB (Aurora, Spanner, S3)
API 標準SQL / S3 API 独自APIを含む場合がある
機能 OSSコミュニティの標準機能 ベンダー独自の高性能・高機能
移行コスト 低い (同一エンジン/API間で移行) 非常に高い (スキーマ・アプリの再設計が必要)
運用 セルフホストの場合は自己責任 マネージドで低負荷

2-4. メッセージング & イベント連携 (Messaging & Eventing Plane)

ロックインのリスク

AWS SQSの可視性タイムアウト、Google Pub/Subのプッシュ/プルモデルなど、各サービスのAPIと挙動は微妙に異なります。これらの差異に依存した設計は、移行の際にロジックの根本的な見直しを強います。

ポータブルな選択肢:Apache Kafka / RabbitMQ

コンポーネント 公式解説 ユースケースと特性
Apache Kafka 「Apache Kafka®は、オープンソースの分散イベントストリーミングプラットフォームであり、Fortune 100企業の3分の1以上を含む、何千もの企業によって高性能なデータパイプライン、ストリーミング分析、データ統合、ミッションクリティカルなアプリケーションに使用されています。」
出典: kafka.apache.org
イベントストリーミングに特化。大量のイベント(ログ、IoTデータ等)を永続化し、複数のコンシューマが再生可能。高スループット。
RabbitMQ 「RabbitMQは、最も広くデプロイされているオープンソースのメッセージブローカーです。(中略)複雑なルーティングシナリオに対応でき、オンプレミスとクラウドに簡単にデプロイできます。」
出典: rabbitmq.com
伝統的なメッセージブローカー。非同期タスクキューや、確実なメッセージ配信、柔軟なルーティングが得意。AMQPプロトコルに準拠。

2-5. 観測性 (Observability Plane)

ロックインのリスク

AWS CloudWatch、Azure Monitor、Google Cloud's operations suiteは強力な統合監視ツールですが、メトリクスの収集方法、ログのクエリ言語、アラート設定などが完全に独自仕様です。監視ダッシュボードやアラートは移植不可能な資産となります。

ポータブルな選択肢:The "Open" Observability Stack

What is OpenTelemetry?

「OpenTelemetryは、クラウドネイティブソフトウェアのための高品質で、ユビキタスで、ポータブルなテレメトリを可能にすることを目的とした、観測可能性のフレームワークでありツールキットです。(中略)テレメトリデータ(トレース、メトリクス、ログ)を生成、収集、管理するための標準化されたプロトコルとツールを提供します。」

opentelemetry.io

このスタックにより、監視データ自体とその可視化方法の両方を、特定のクラウドから独立させることができます。

第3章:統合と管理 (Integration & Management Plane)

ポータブルなCI/CDとIaC、シークレット管理

コンポーネント 公式解説 ポータビリティにおける役割
Terraform 「Terraformは、開発者が人間が読める設定ファイルでインフラを記述し、管理することを可能にするインフラストラクチャ・アズ・コードのツールです。(中略)複数のクラウドプロバイダーにまたがるインフラを管理するために使用できます。」
出典: developer.hashicorp.com/terraform
AWSのVPCとAzureのVNetを同じワークフローで構築可能にするなど、インフラ層の差異を吸収する。
GitHub Actions / GitLab CI クラウドに依存しないCI/CDパイプラインを構築する。Terraformやkubectlコマンドを実行する「オーケストレーター」として機能する。
HashiCorp Vault 「Vaultは、アイデンティティベースのシークレットおよび暗号化管理システムです。(中略)あらゆるパブリッククラウドやプライベートクラウドのシークレットを一元的に保存、アクセス、デプロイします。」
出典: vaultproject.io
AWS Secrets ManagerやAzure Key Vaultへの依存を排除し、シークレット管理を環境間で統一する。

まとめ:究極のポータビリティと、その「代償」

OSSを駆使することで、特定のベンダーに縛られないポータブルなアーキテクチャは実現可能です。しかし、それは決して「無料のランチ」ではありません。

比較項目 ポータブル設計 (OSS中心) クラウドマネージド設計
ベンダー依存度
移行・撤退コスト 低い 非常に高い
技術的自由度・制御性 高い 低い(ベンダーの提供範囲内)
初期開発速度 中〜高(OSSの学習・構築コスト) 非常に高い
運用コスト・責任 高い(自前での構築・維持・アップデート) 低い(SLAに基づきベンダーに委任)
利用できる機能 OSSコミュニティの範囲内 ベンダーの最新・独自機能

結論として、すべてのレイヤーでポータビリティを追求することが常に正解とは限りません。

前提として、リスクに対する対応は回避だけでなく、リスクを把握したうえで受容することも現実的な選択肢としてあり得ます。
ですので、ビジネスのコア競争力に直結しない、あるいは運用負荷が極めて高い領域(例:RDBMSのHA構成)では、あえてロックインされることを許容し、マネージドサービスの恩恵を受けるという判断もまた、優れたアーキテクチャ設計です。

重要なのは、リスクをきちんと把握し、このトレードオフを深く理解することで、「どこまでを自前でコントロールし、どこからをクラウドに委任するのか」という境界線を、自社のビジネス戦略と技術力に基づいて戦略的に検討し、将来に貢献する判断をすることが大切だと思います。

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