Vertex AIで思わぬ高額請求?初心者がハマりがちなコストの罠
対象読者
- これからVertex AIを使い始める、または使い始めたばかりの方
- AutoMLや生成AIを試して「料金が高いな!?」と感じたことがある方
- 想定外のクラウド費用を発生させないための、ナレッジが欲しい方
TL;DR
- Vertex AIのコストの罠は主に3つのパターンに分類できる。
- ① 実行単価の誤解: AutoMLの「1ノード時間」はただのVM代ではなく、高価なマネージドサービス料。
- ② リソースの起動しっぱなし: エンドポイントやFeature Storeは、使っていなくても起動しているだけで課金され続ける。
- ③ 最新生成AIの高コスト: Veoのような最新AIは「1回試すだけ」でも、課金単位(例: 動画の秒数)によっては数千円に達する可能性がある。
- 対策の基本は「①予算アラート設定」「②料金計算ツールの活用」「③こまめなリソース削除」 です。
はじめに:私の身に起きた「数千円のヒヤリ」
先日、Vertex AIのAutoMLを「ちょっと試してみよう」という軽い気持ちで使ってみました。データは有名なTitanicコンペの1,000件程度のCSVファイル。トレーニング時間も最短の1ノード時間に設定しました。
私の頭の中では「まあ、数百円くらいだろう」と高を括っていました。しかし、後日コストを確認すると、2,000円近い料金が発生していたのです。幸い会社のサンドボックス環境だったので実害はありませんでしたが、もし個人アカウントだったら…と思うと、まさに「ヒヤリハット」でした。
この経験を元に、Vertex AIで特に初心者が陥りがちなコストの罠をいくつかのパターンで今回はご紹介できたらと思います。
罠パターン1:実行単価の誤解 - 「AutoMLの1時間は安くない」の罠
最初のヒヤリハットは、まさに私が体験したAutoMLのトレーニング料金です。
| ヒヤリハットの状況 | 「1,000件程度のデータで、1ノード時間だけトレーニングしたのに2,000円もかかった!」 |
|---|---|
| 原因 | AutoMLの「ノード時間」あたりの単価が、単純な仮想マシン(VM)の時間単価とは全く異なることへの認識不足。 |
| 対策 | ①利用前に料金計算ツールで必ず見積もる。 ②軽いテストには、より安価な代替手段(Workbench, BigQuery ML)を検討する。 |
なぜAutoMLのトレーニングは高価なのか?
「1ノード時間」という言葉から、Compute EngineのVMを1時間借りるような料金を想像しがちですが、それは大きな間違いです。
Vertex AI AutoMLのトレーニング料金には、単なる計算リソース代だけでなく、以下のような高度なMLOpsプロセス全体がパッケージ化されたフルマネージドサービス料が含まれています。
AutoML モデルのトレーニング
料金は、モデルのトレーニングに使用されたノード時間単位で発生します。ノード時間は、Google Cloud がお客様の代わりにリソースをプロビジョニングしてモデルをトレーニングし、トレーニングが完了するか、ユーザーがトレーニングを停止するまでにかかった時間を表します。
具体的には、このサービス料金の中に、データサイエンティストが手動で行うような以下の処理が含まれています。
- 特徴量エンジニアリングの自動化
- モデルアーキテクチャの探索
- ハイパーパラメータの自動チューニング
これらを人手でやる手間と時間を考えれば妥当な価格設定ですが、「ちょっと試す」際には想定外の高コストに繋がりやすいのです。
具体的な対策
- 料金計算ツールを叩く習慣を: 何かを実行する前に、必ずGoogle Cloud 料金計算ツールで「Vertex AI」「AutoML Training」と入力し、ノード時間あたりの概算費用を確認しましょう。
-
目的に応じてツールを使い分ける:
- 軽い動作確認や学習: Vertex AI Workbenchのノートブック上でScikit-learnやPyTorchを動かす。インスタンスを起動した時間だけの課金で済みます。
- SQLで完結させたい: データがBigQueryにあるならBigQuery MLを使う。クエリで処理したデータ量に応じた課金なので、少量データなら非常に安価です。
罠パターン2:リソースの起動しっぱなし - 「ゾンビ」が費用を食い尽くす罠
Vertex AIで最も危険なのが、この「起動しっぱなし」による継続課金です。特に以下の2つのサービスは要注意です。
ケースA:Vertex AI Endpoint (オンライン予測)
学習済みモデルをリアルタイムで使えるようにAPI化するのがエンドポイントです。しかし、一度デプロイすると、あなたが明示的に停止するまでマシンが起動し続け、課金が発生します。
予測と説明の料金
Vertex AI を使用して予測を取得する場合、使用したマシンタイプと、そのノードが稼働した時間(ノード時間)に対して課金されます。
- ヒヤリハット例: 「性能テストのためにモデルをデプロイし、確認が終わったのに停止し忘れた。1ヶ月後、数万円の請求が来た…。」
-
対策:
- **「検証が終わったら即デプロイ解除」**を鉄則とする。
- 常時稼働が不要な場合は、必要な時にだけ実行する**「バッチ予測」**を検討する。こちらは実行時間のみの課金で済みます。
ケースB:Vertex AI Feature Store (オンラインサービング)
Feature Storeは特徴量を管理する便利なサービスですが、「オンラインサービング」機能を有効にすると、低レイテンシで特徴量を提供するために専用ノードが常時起動します。
- ヒヤリハット例: 「開発用にオンラインサービングノードを2つ有効にしたまま放置。リクエストはほぼ無かったのに、月末に10万円以上の請求が来て心臓が止まりかけた。」
-
対策:
- オンラインサービングは、本番環境のリアルタイム推論など、本当に必要な場面以外では有効にしない。
- 開発・検証で使った後は、必ずサービングノード数を0に設定して無効化する。
罠パターン3:最新生成AIの高コスト - 「お試し1回」が命取りになる罠
最後の罠は、近年の生成AI、特に動画生成のような高負荷なサービスに関するものです。
| ヒヤリハットの状況 | 「最新の動画生成AI『Veo』で、お試しに30秒のHD動画を1本作ったら数千円かかった!」 |
|---|---|
| 原因 | 課金単位の認識不足。動画生成は「リクエスト単位」ではなく**「生成した動画の秒数単位」**での課金であり、計算コストが非常に高い。 |
| 対策 | ①利用前に必ず料金ページで課金単位を確認する。 ②最初は最低品質・最短時間で試し、コスト感を把握する。 |
なぜ「1回」で高額になるのか?
Google の最も高性能な動画生成モデルである Veo が、Vertex AI の Video Generation で一般提供プレビュー版として利用できるようになりました。
Imagenによる画像生成が「画像1枚あたり」で課金されるのに対し、Veoのような動画生成モデルは「生成した動画1秒あたり」で課金されます。
30秒の動画を1本作ることは、内部的には「画像生成を何十回、何百回と連続して行う」のに近い、膨大な計算処理です。そのため、1リクエストあたりの単価が従来のサービスとは比較になりません。
具体的な対策
- 料金ページを熟読する: 新しい生成AIモデルを試す前は、必ず公式の料金ページで**「何に対して」「いくら」**課金されるのかを正確に把握しましょう。
- スモールスタートを徹底する: いきなり最高品質・最長尺で試すのは危険です。まずは、生成時間を数秒にしたり、品質を標準に落としたりして、「この設定なら1回いくら」という感覚を掴んでから本格的に利用しましょう。
まとめ - Vertex AIと安全に付き合うための黄金ルール
Vertex AIは非常に強力なプラットフォームですが、コスト意識なしに使うと思わぬ落とし穴にはまります。以下のルールを徹底し、安全なAI開発ライフを送りましょう。
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【最重要】予算とアラートを必ず設定する
Google Cloudプロジェクトの「予算」機能で上限額を設定し、「予算の50%, 90%に達したらメール通知」のアラートを構成しましょう。これが最後のセーフティネットになります。 -
【実行前の習慣】料金計算ツールで必ず見積もる
特に初めて使うサービスや、大規模なジョブを投入する前には、必ず料金計算ツールで概算費用を確認する癖をつけましょう。 -
【定期的な掃除】リソースの棚卸しを行う
週に一度、あるいは月に一度はVertex AIのコンソールを開き、不要なエンドポイント、Workbenchインスタンス、Feature Storeなどが残っていないか確認し、削除する習慣をつけましょう。
参考:同じようなヒヤリを経験した先人たち
コストに関するヒヤリハットは、多くの開発者が経験する道です。同様のテーマで知見を共有してくださっている記事も参考になります。
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- これも「起動しっぱなしの罠」と同じパターンです。オンラインサービングと固定ノードという罠で、お財布に致命的な攻撃を加えています。
この記事が、あなたのお財布を守る一助となれば、幸いです....!(切実)