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翌日はこちら:ソースコードは特殊な著作物?会社で書いたら誰のもの?職務著作とは【著作権法】
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エンジニアでも芸名やペンネームを活用
2022年はリアルなカンファレンスや勉強会が復活してきました。エンジニアが登壇する機会は増えている印象です。私のように知名度の低いエンジニアがカンファレンスに登壇したくなったら、狙い目はやはり自社スポンサー枠でしょうか。投票を勝ち抜くのはきっと至難の業です。
知名度が低いエンジニアでも、それは本名や会社名が知られていないだけで、Twitter や Qiita のアカウントなら、それなりにフォロワー数を集めている方もいますよね(私はまだまだ少ないのでぜひリンクからフォローしてね)。本名の認知度を上げるよりも、アカウント名で集客したかったり、むしろ本名を知られたくない場合もあるでしょう。
では、本名を伏せてアカウント名でカンファレンスに登壇することは可能でしょうか?
所属会社のスポンサー枠で登壇する場合も同様でしょうか?
また、昨今ではAmazon Kindleでのセルフ出版も簡単にできるようになっていますが、所属会社名を掲載しつつ、ペンネームで技術書,技術ブログ記事等の著作を発表することはできるのでしょうか?
法律から理解していきましょう。
実演家人格権・著作者人格権
どちらも著作権法に規定されています。耳馴染みのない言葉かもしれないので、分解します。
組み合わせるとこうなります。
- 実演家人格権は、実演家が実演について人格的に保護される権利
- 著作者人格権は、著作者が著書について精神的に保護される権利
ポイントは、実演家/著作家個人が持つ権利で、他人や法人には譲渡できないことです。
たとえば、オーケストラ(楽団)のように実演家が多数集まって1つの演奏を披露する場合でも、個人個人が権利を持ち、オーケストラは個人の権利を奪うことはできません(強行規定)。
氏名表示権・同一性保持権・名誉声望保持権
2つの人格権の中にはさらに細かい権利が定義されています。2つに共通する権利だけ列挙します。
- 氏名表示権は、実演家/著作者の希望通りの名前を表示し、または無記名とする権利
- 同一性保持権は、実演家/著作者に無断で著書や実演の内容/タイトルを改変されない権利
- 名誉声望保持権は、実演や著書を名誉を貶める形で改変等されない権利
ここでは「氏名表示権」に着目しましょう。
(著作権法第90条の2) 実演家人格権 - 氏名表示権
実演家は、その実演の公衆への提供又は提示に際し、
その氏名若しくはその芸名その他氏名に代えて用いられるものを実演家名として表示し、
又は実演家名を表示しないこととする権利を有する。
つまり、エンジニアが登壇・著作発行する場合、本人が以下の中から表記を自由に選択できます。
- 本名
- 芸名, ニックネーム, ハンドルネーム, ステージネーム, ペンネーム, etc
- (表示しない)
会社が本名その他を指定できる?
「知名度のある社員を使って、自社のブランドを認知させたい」という理由で本名登壇を強制したり、
「他社からの引き抜き対策で、自社の優秀なエンジニアの本名を隠したい」という理由でペンネームでの著書/技術ブログ記事公開を強制することはできません。
- 会社のスポンサー枠で登壇させる
- 会社でカンファレンスを主催する
- 会社で著書を出版する
- 会社で技術ブログサイトを用意する
などの場合も同様です。事前に必ず社員本人に「氏名表示の有無」と「氏名表示する場合の表記」を確認し、正確に記載/発表しましょう。権利を侵害してしまった場合、実演家/著作者たる社員本人の訴えがあれば、5年以下の懲役若しくは5000万円以下の罰金(又はこれらの併科)に処される可能性があります😑
「屋号」でもOK?
2022年は、今後導入される「インボイス制度」の運用上、普段「屋号」で商売している方の「本名」がバレてしまうのではないか? という懸念が広がりました。それはともかく、氏名表示権の規定では「屋号」について何も触れられていません。よって、「屋号」を表示してもしなくても構いません。
まとめ
実演家や著作者にはびっくりするほど手厚い権利保護があり、侵害するとびっくりするほど重い刑罰がありますのでご注意ください。実演家の氏名表示権は映画のエンドロールにも適用されますから、俳優名(芸名)が間違っていないことをきっと何重にも確認しているのでしょうね2。
有名なエンジニアで、本名の漢字を一部変更した「芸名」で登壇されていた方もいらっしゃいます。みなさんも、自己ブランディングのために芸名やペンネームの活用をされてはいかがでしょうか。