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翌日はこちら:"OSSライセンスに潜む落とし穴"とは失敬な!コピーレフト【著作権法】
前日はこちら:エンジニア読書会で電子書籍の"回し読み" "画面投影" は可能?【著作権法】
画像の社内利用
エンジニアの皆さんはSlackを使っていますか? とても便利ですよね。
絵文字に :party_parrot: は登録されてますか? 定番ですね。
では、ピカチュウは登録されていますか? ドラえもんは?
ユーザアイコンは自分を表現する方法の一つなので、好きなゲーム,アニメ,映画のキャラクターを設定して気分を上げたいですよね。それから、笑えるミーム画像を投稿して職場を明るくしたいですよね。そうだ、みんなが知っているジブリのキャラクターにセリフをつけるのはいかがでしょう? きっと盛り上がりますよ。
しかし、日本の著作権法はなかなかどうして、利用者に厳しいものです。
Slackの絵文字やユーザアイコン画像は「複製」して登録し、インターネットに「公衆送信」されるものなので、本来、著作権者の権利を侵害しないように注意が必要ですが、多くの誤解により権利侵害が発生しているおそれがあります。
誤解: 有名・定番キャラクターだからOK
ドラえもんやSNOOPYの原作キャラクター画像は2022年現在、まだ著作権の期限切れを迎えていません。著作者(亡くなっている場合は管理団体等)の許諾が必要です。
誤解: 逆に無名キャラクターだからOK
無名なキャラクターや、誰かが殴り書きしてTwitterにアップロードした画像であっても、許諾が必要です。
誤解: 自分で描いた有名・無名キャラクターの模写だからOK
模写なら複製権の侵害にはあたりませんが(トレースを除く)、二次創作として翻案権の侵害になる可能性があり、著作権者に確認・許諾が必要です。
誤解: 「私的利用」だからOK
「私的利用」と認められれば侵害にあたりませんが、会社内での利用が「私的利用」と認められることはほぼありません。
誤解: 「引用」だからOK
引用の要件(以下のすべて)を満たしているか確認が必要です。
- 他人の著作物を引用する必然性があること。
- かぎ括弧をつけるなど,自分の著作物と引用部分とが区別されていること。
- 自分の著作物と引用する著作物との主従関係が明確であること(自分の著作物が主体)。
- 出所の明示がなされていること。
たとえば、自分の言いたいことや感情をミーム画像に代弁させたい場合、引用の要件を満たすのは至難の技でしょう。
誤解: インターネットに公開されていたからOK
以下のいずれかを満たしているか確認が必要です。
- フリー素材(商用利用可)
- 再頒布可能なライセンス(掲載条件付もあり)
- アイコンや絵文字では掲載条件を満たせない可能性があり、その場合は利用不可です
- パブリックドメインだからOK
誤解: Google画像検索にでてきたからOK
なぜGoogleは画像をキャッシュとして「複製」できるんだろうと不思議に思いましたか?
2009年の著作権法改正により、検索エンジンサービスによる「複製」が認められるようになりました(2008年以前は内緒🤫)。
検索エンジンは特別扱いですので、社内利用の根拠にはなりません。
誤解: ミームはエンジニアの文化だからOK
アメリカ・イギリス・イスラエル等では著作権法に「フェアユース」の考え方が導入されています。
国によって詳細は異なりますが、ざっくりいうと、一定の条件(非商用利用等)を満たした場合、複製権や翻案権等を侵害しないとみなして、原則自由に著作物を利用可能となっています(権利者に異議があれば、個別に裁判等で紛争解決します)。
日本法においてもたびたび「フェアユース」導入が議論されたものの、2022年現在は導入されていませんので、原則制限を受けます。なお、著作権法は「属地主義」により、利用者が画像を利用する場所(国)の法律が適用されます。
よって、シリコンバレーのエンジニアであればミームの作成・複製・投稿をほぼ自由に行えるところ、日本では制限された状況になっています。これは社内利用に限らず、Twitter等のSNSでも同じです(著作権者が自らツイートものをリツイートするのはOK)。
誤解: 利用者が「特定少数」であり「公衆送信」にはあたらないからOK
現在の社員数が50名未満で利用者を「特定」できているとしても、会社ではアイコンや絵文字として長期間掲載される間に社員の入れ替わりが発生する事情等を考慮すると、「特定少数」にはあたらないと考えられます。
まとめ
著作権で保護された画像の利用は基本的に制限があり、自由な使用は難しいです。
もちろん著作権者の許諾を取れれば問題ありません。しかし、有料販売された書籍ならいざしらず、画像1枚ごとに許諾をとるのは難しいと思われます。利用者・著作権者双方の負担が大きいからです。楽曲における「JASRAC」のような統一的な権利管理団体も存在しないようです。
よって、どうしても使いたい画像に絞って許諾をとり、それ以外はフリー素材等を工夫して使うのが現実的でしょう。
社内利用に関して、私が見聞きした範囲では、
- ほぼ合法的に社内利用している会社
- ほぼ非合法的に社内利用している会社
の2択にくっきりと分かれるようです。なぜか社内ルールがなくてもこうなるようです。文化が自然にできあがるのでしょうか。ただ、自らオウンドメディア等の著作物を発行している会社では、社員の意識が高いことが多いと推測します。自社コンテンツを他社に盗用されたとき、指摘したらブーメランが返ってきますからね😑
このような日本の厳しい利用制限と社内利用の実態について、利用者のみなさまはどう思いますか?
また、著作権者のみなさまはこの制限から恩恵を受けていると感じますか?
画像を取り扱うシステム/サービスの開発者のみなさまには、どのような"つらみ"がありますか?
ぜひコメントでお知らせください。
おまけ: ネット上に公開されている画像や動画の直リンク(URL)を投稿するのはOK?
まず、日本ではURL自体は著作物ではありませんので、著作権の適用はありません。
Slackに画像(MIME type: image/*)の直リンクを投稿すると、画像のサムネイルが表示されます。アプリ版Slackでは画像は端末にキャッシュされます。このキャッシュは「複製」に当たりますが、「電子機器利用時に必要な複製」として許諾が不要です。他の社員(Slackユーザ)に対して「(自動)公衆送信」をしていることについては、今のところ問題ないようです。
よって、画像等の直リンクは今のところ、原則自由に使用することができます。ただし、以下の点に注意が必要です。
- そもそもそのURLで公開されている画像等が著作権侵害にあたらないか、(判断は難しいものの)確認するのが望ましい
- 著作権者による正規の配信ではないことが明らかな画像(元画像から改変されたミーム画像を含む)の直リンク貼付は、法的に「みなし侵害」とされる可能性は低いものの、一般論としては著作権を侵害しているとみなされてしまう場合があります。
- 直リンクそのものが嫌われるインターネット文化がある
- 主に00年代中盤までの「ネチケット」として、また、現代においても直リンクはサーバ負荷につながるとして忌避される場合があります。
- 同URLのまま別リンクに差し替えて妨害するなど対策される場合があります(キャッシュの永続的保持は不可)
- 行為としては直リンクURLを貼るだけであっても、自動的にサムネイルが展開されるときは、引用の要件を満たすべきという解釈があります。
- 引用の要件を満たさなければならないのであれば、単独のミーム画像に主張や感情を代弁させることはほぼ不可能となります。
おまけ: WEBサイトのページURLを貼ると自動でサムネイルできるやつ(OGP)はOK?
OGP(Open Graph Protocol)が設定されたURL(MIME type: text/html等)をSlackに投稿すると、サムネイルが表示されることがあります。この場合、通常著作権者の許諾を得ていると解釈され、利用することに問題ありません。
おまけ: 著作権マーク©を付ければOK?
著作権マーク©は自らが著作権を持つ著作物について、著作権者を明確にするため付与するものです。利用する側が付与しても、著作権者から許諾を得たことの証明1にはなりません。よって、利用する側では付与する意味はないし、付与するべきではありません。
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著作権者から許可を得たことを証明できる仕組みは無いんでしょうかね。無ければ開発したいです。 ↩