📘 この記事はシリーズ第3回です
Vol.1: Claude Code Skills で株スクリーニングを自動化した話
Vol.2: (本記事)Claude Code Skills で「使うほど賢くなる」投資分析AIを作った話
Vol.3: Claude Code Skills × 投資分析 Vol.3 — 処方箋エンジン・逆張り検出・銘柄クラスタリング
前回の記事(Claude Code Skills で株スクリーニングを自動化した話【Python × yfinance × バイブコーディング】)で、Claude Code Skills による投資分析の自動化を紹介した。あれから数ヶ月、システムは「使うほど賢くなる」仕組みへと進化した。本記事ではその仕組みと、個人開発で得た設計判断を共有する。
前回の記事で解決したこと、しなかったこと
前回、Web 版 AI の4つの課題(レスポンス・コンテキスト消失・再現性・処理量)を Claude Code Skills で解決した。分析ロジックをスクリプトに固定し、Yahoo Finance のデータで統一的にスクリーニングする。これで「毎回同じ基準で銘柄を探せる」状態は作れた。
しかし、分析結果の蓄積と活用は解決できていなかった。
先週スクリーニングで見つけた銘柄も、先月のヘルスチェック結果も、次のセッションでは忘れている。「トヨタってどう?」と聞くたびにゼロからレポートを生成する。保有銘柄であることも、過去に懸念メモを書いたことも、システムは知らない。
使えば使うほどデータは貯まるのに、それが次の判断に活かされない。 この問題をどう解決したかが、本記事の焦点だ。
システムの全体像
まず全体像を掴んでほしい。ユーザーは日本語で話しかけるだけ。裏側では3つの層が連携している。
ポイントは最下段の矢印だ。Neo4j に蓄積された知識が、次回のスキル実行時に自動でフィードバックされる。これが「使うほど賢くなる」の正体であり、本記事で詳しく解説する部分だ。
知識が自動で貯まって、次の分析に活きる仕組み
解決策のコアは、使うだけで知識が自動循環するループだ。
このループには手動操作が一切ない。ユーザーは普通にシステムを使うだけで、裏側で知識が蓄積され、次回の分析に自動的に反映される。
二重保存:片方が止まっても大丈夫
スキルが実行されるたびに、結果が2箇所に保存される。
- ファイル保存(メイン): 分析結果を JSON ファイルとして保存。ローカルに残るので消えない
- Neo4j(グラフDB): 同じデータをグラフデータベースにも同期。銘柄同士の関連や、過去の経緯を検索するために使う
ポイントは、ファイル保存がメインなので Neo4j が止まっていてもデータは必ず残ること。Neo4j はあくまで検索用。この「片方が壊れても動く」設計は後述する。
スクリーニング・レポート・売買・ヘルスチェック・リサーチ・市況・ストレステスト・将来予測――8種類の保存処理が、全スキル実行後に自動で走る。
「任天堂ってどう?」を3回聞いたら何が変わるか
このループが体験をどう変えるか。同じ質問を3回した時の変化を見てほしい。
1回目:初見
🆕 データなし。スキルを実行。
システムは 7974.T(任天堂)について何も知らない。ゼロからレポートを生成する。
PER 24.5 / PBR 4.8 / バリュースコア 58 / 「適正水準、成長性を加味して検討」
ここで裏側では、分析結果がファイルに保存され、Neo4j にもレポートと銘柄の情報が記録されている。ユーザーは何もしていない。
2回目:1週間後
⚡ 最近のデータあり — 差分モードで軽量更新。
## 過去の経緯: 7974.T
- [最近] 3/1 レポート: スコア58, 「適正水準、成長性を加味して検討」
- メモ(投資テーゼ): 「Switchの次世代機でゲーム事業拡大」
同じ「任天堂ってどう?」なのに、出力が違う。前回のレポート結果が自動で表示され、Claude は差分を意識した回答をする。
「前回PER 24.5 → 今回 19.8、低下。次世代機発表後の期待織り込み → 発売前の調整局面か。
前回のテーゼ『Switchの次世代機でゲーム事業拡大』は引き続き有効。押し目買い検討の余地あり。」
数値を並べるだけでなく、前回との比較コメントが自動で入る。「前回データがあれば必ず差分を示す」というルールをシステムに組み込んでいるからだ。
3回目:3ヶ月後(保有中)
🔄 データが古い — フル再取得。スキルを実行。
## 過去の経緯: 7974.T (保有)
- 保有: 100株 @ 9200円 (2/15購入)
- テーゼ: 「Switchの次世代機でゲーム事業拡大」 (92日前 → レビュー推奨)
- スクリーニング出現: 3回 (alpha, growth-value)
- 懸念メモ: 「次世代機の発売延期リスク」
推奨: ヘルスチェック(テーゼ3ヶ月経過 → レビュー時期)
## 投資の学び
- [7974.T] 新製品発表前に期待買いして高値掴み → 次回はRSI70超で買わない
3ヶ月の間にユーザーが行ったこと――株を買い、投資テーゼを記録し、懸念をメモし、過去の失敗から学んだこと――がすべて自動で文脈に入っている。
Claude は「レポートを出す」のではなく、「ヘルスチェックを先にやりませんか?テーゼから92日経っています」と提案する。RSI(テクニカル指標)が過熱圏なら、過去の学びが自動で警告する。
ユーザーは毎回同じ「任天堂ってどう?」と聞いているだけ。 裏側で蓄積された知識が、回答の質を根本的に変えている。
AIが過去の経緯を自動で思い出す仕組み
この「賢くなる」体験の核心が、自動コンテキスト注入だ。
すべての Claude Code Skills スクリプトの冒頭に、過去の経緯を自動取得する処理が埋め込まれている。スキルが実行されるたびに、Neo4j から過去のレポート・売買・ウォッチリスト・投資メモを検索し、Claude に渡す。
この自動取得は以下の4ステップで行われる:
- 銘柄の特定: 「トヨタ」→ 7203.T のようにティッカーシンボルに変換
- 過去の経緯を検索: レポート・売買・ウォッチリスト・メモをまとめて取得
- データの新しさを判定: 4段階で分類し、再取得が必要か判断
- 最適なアクションを提案: 銘柄との関係性に応じた次の行動を推奨
データの新しさで行動を変える
| ラベル | 条件 | AIの行動 |
|---|---|---|
| 新しい | 24時間以内 | 手元のデータだけで回答。再取得しない |
| 最近 | 7日以内 | 変わった部分だけ軽く更新 |
| 古い | 7日超 | 全データを取り直す |
| なし | データなし | ゼロから分析を実行 |
昨日レポートを出したばかりの銘柄に「どう?」と聞いたら、データを取り直さずに昨日の結果で回答する。これだけで無駄な処理が大幅に減る。
銘柄との関係性でアクションが変わる
| あなたとの関係 | AIが推奨するアクション | 理由 |
|---|---|---|
| 保有している | ヘルスチェック | 持っている株は診断が優先 |
| 投資テーゼが3ヶ月経過 | ヘルスチェック + 振り返り | 定期的な見直しタイミング |
| ウォッチリストに入れている | レポート + 前回との差分 | 買い時かの判断材料 |
| スクリーニングに3回以上登場 | レポート + 注目フラグ | 繰り返し上位 = 構造的に割安の可能性 |
| 初めて聞く銘柄 | 通常のレポート | ゼロから調査 |
同じ「調べて」でも、その銘柄とあなたの関係によって最適なアクションが変わる。
あいまいな質問にも対応
「前に調べた半導体関連の銘柄」のように、銘柄名が含まれないあいまいな質問でも、過去の分析結果からの類似検索で関連する銘柄を見つけ出せる。すべての分析結果に要約文が付いているため、自然な言葉での知識検索が成立する。
失敗を「学び」に変える:Netflixに学んだアプローチ
Netflix は障害やプロジェクトの失敗を「罰する」のではなく、ポストモーテム(振り返り)として記録し、組織全体の学びに変える文化で知られている。「何が起きたか」「なぜ起きたか」「次にどうするか」を構造化して残すことで、同じ失敗を繰り返さない。
投資でも同じことが言える。最も価値のある知識は「過去の失敗から得た教訓」だ。しかし人間の記憶は薄れる。3ヶ月前の反省を、いま目の前のチャンスに活かせるだろうか。
このシステムでは、投資の「学び」をトリガー条件と次回アクションのセットで記録できる。
たとえば実際に私が記録した Netflix (NFLX) の学び:
- 銘柄: NFLX(Netflix)
- トリガー: 分析過多で機会損失
- 次回アクション: カタリスト発生 = エントリーシグナル。解消後に新しいバリュエーション条件を追加しない
- 詳細: ATH(最高値)から-40%で質の高さ(ROE 42.8%、成長 17.6%)を見抜き、Warner撤退というカタリストもポジティブと正しく読んだ。しかし同日に懸念メモ(PER 33x は割高、PER 25-28x まで待つ)を書いて自らブレーキ。結果、株価は上昇し機会損失
この学びは、次回 NFLX を分析するときに自動でコンテキストに表示される。
## 投資lesson
- [NFLX] 分析過多で機会損失 → カタリスト発生=エントリー、追加条件を作らない (2026-02-28)
次に似た状況(質の高い企業が大幅下落 + カタリスト発生)があれば、Claude は「過去の学び: 分析過多で機会損失パターン。カタリスト発生時は追加条件を作らずエントリーを推奨」と警告する。
人間の記憶は薄れるが、システムの記憶は薄れない。 Netflix が障害から学ぶように、投資の失敗パターンをシステムに記録すれば、同じ状況で自動的に想起される。これが「使うほど賢くなる」の具体的な一つの形だ。
外部リサーチにも過去の文脈が効く
知識蓄積の効果は、内部の分析だけでなく 外部のAIリサーチにも波及する。
Grok API(xAI の AI)で銘柄のニュースや市場動向を調べる際、Neo4j から投資家としてのあなたの文脈を抽出して、リサーチの指示に自動で組み込む。
[あなたの投資文脈]
- 現在保有中(20株 @ $97.3、3/3購入)
- 前回レポート: スコア23.8、「割高傾向」
- 購入予定メモ: 50株購入計画あり(3/2時点)
- lesson: 「分析過多で機会損失」「リカバリー株エントリー判断ルール」
→ 上記の文脈以降の変化に焦点を当ててリサーチ...
この文脈があるかないかで、リサーチの焦点が全く変わる。「NFLX について教えて」と「NFLX を保有中で、過去に分析過多で機会損失した反省あり。最新の状況は?」では、返ってくる情報の質が違う。
Grok API を使わない場合は、この文脈注入ごとスキップされ、数値ベースの分析のみで動作する。
なくても動く、あれば賢くなる
このシステムは4つの外部サービスと連携できるが、すべてオプションだ。
| サービス | あると | なくても |
|---|---|---|
| Neo4j | 知識の蓄積 + 過去の経緯を自動表示 | ファイル保存のみ。経緯なしで動作 |
| ベクトル検索 | あいまいな質問にも対応 | 銘柄名での検索のみ |
| Grok API | ニュース・SNS の定性リサーチ | 数値ベースの定量分析のみ |
| Linear | アクションアイテムの管理 | ファイル保存のみ |
最小構成は Python と Yahoo Finance のデータだけ。この構成で全スキルが動作する。
設計原則は「なくても動く、あればもっと賢くなる」。外部サービスとの連携処理にはすべてタイムアウトを設けており、サービスが停止していてもスキル本体の実行を妨げない。
Neo4j を後から追加すれば、その瞬間から知識蓄積が始まる。ベクトル検索を有効にすればあいまいな質問に対応できる。Grok API を設定すれば定性リサーチが追加される。段階的に賢くなる設計だ。
まとめ:知識が複利で効く世界
「使えば使うほど賢くなる」を実現する仕掛けは3つだ。
- 自動記録: 手動操作なしで、全スキル実行結果がファイルとグラフDBに蓄積される
- 自動注入: 次回のスキル実行時に、過去の知識が自動でAIに渡される。外部リサーチにも投資家としての文脈が注入される
- 自動学習: 失敗パターンを「学び」として記録すると、同じ状況で自動警告される
知識は複利で効く。1回目の「任天堂ってどう?」と100回目の「任天堂ってどう?」では、回答の深さが全く違う。保有履歴、売買根拠、過去の失敗、スクリーニングでの出現頻度――すべてが文脈として積み重なり、判断の精度を上げていく。
Web 版の AI ツールが「毎回リセットされる頭のいい他人」だとすれば、このシステムは「あなたの投資判断を覚えている専属アナリスト」だ。
これからは運用フェーズへ
今回の記事で紹介した知識蓄積ループの実装をもって、開発は大枠完了した。8つの Claude Code Skills、15種類のスクリーニング戦略、60地域対応、ナレッジグラフ、Grok 連携、ベクトル検索――必要な部品は揃った。
ここからは運用フェーズに移行する。実際に毎日使いながら、知識グラフを育てて、システムをどんどん賢くしていく。使い込むほどコンテキストが厚くなり、提案の精度が上がっていく。その成長過程こそが、このアーキテクチャの真価だと思っている。
個人ツールとして
正直なところ、ここまで作り込んだものを有料サービスにできないかと考えた。しかし、投資判断に関する出力を提供するサービスは投資助言業に該当する可能性があり、金融商品取引法上の登録が必要になる。個人開発の範囲を超えてしまうため、あくまで個人用のツールとして活用していく方針だ。
ソースコードはオープンにしているので、同じように Claude Code Skills で投資分析環境を作りたい方は自由に参考にしてほしい。
コミュニティへのお願い
「こんなスキルがあると便利」「この分析が欲しい」といったアイデアがあれば、ぜひコメントで教えてほしい。個人ツールとして磨き続けるなかで、汎用的に役立つ機能は積極的に取り込んでいきたい。
ソースコードの全体構成、テスト設計、前回からの機能追加は前回の記事と合わせてご覧ください。
注意: 投資は自己責任です。本システムの出力は投資助言ではありません。ソースコードは技術的な参考としてのみ公開しています。
📘 シリーズ記事
Vol.1: Claude Code Skills で株スクリーニングを自動化した話
Vol.2: (本記事)Claude Code Skills で「使うほど賢くなる」投資分析AIを作った話
Vol.3: Claude Code Skills × 投資分析 Vol.3 — 処方箋エンジン・逆張り検出・銘柄クラスタリング



