この記事の前提
- C-2の「Raspberry Piを選びやすくする条件」を、ほかのSBCにも当てはめます
- CPU性能のランキングではなく、用途、I/O、ソフトウェア供給から選ぶ方法を扱います
- 個別モデルの仕様とサポート状態は変わるため、購入時に公式情報を再確認します
はじめに
前回(C-2)はRaspberry Piの強みを、SBC選定の物差しとして言語化しました。今回はその物差しを持って、NanoPi・Banana Pi・Orange Piなど、Raspberry Pi以外のArm系SBCを見ていきます。
これは「どのブランドがお得か」というカタログ比較ではありません。伝えたいのは、「何を作るか」からI/O構成を逆算してボードを読む方法です。ブランドやモデルが入れ替わっても、この読み方は使えます。
「安いRaspberry Pi」ではなく「構成の違うボード」
これらのSBCは「安価なRaspberry Pi代替」と紹介されることがありますが、同じ形や40ピンヘッダを備えていても、ハードウェアやソフトウェアの互換性が保証されるわけではありません。
採用するSoCはAllwinner、Rockchip、Amlogicなどさまざまです。さらに、DRAM、電源回路、Ethernet PHY、USBハブ、コネクタ、BSPの組み合わせによって、ボードの性格が決まります。SoCだけでなく、ボード全体の接続とソフトウェア供給を見る必要があります。
たとえばOrange Pi R1は、100MbpsのEthernetを2ポート備えています。ただし2ポートは同じ接続ではなく、公開されているOpenWrtのOrange Pi R1機器データでは、一方はSoC側Ethernet、もう一方はRTL8152Bを介したUSB接続です。
この構成は「小型ルーターやネットワークゲートウェイを作る」という用途には素直です。一方で、2ポートともSoC直結だと思い込むと、帯域やCPU負荷の見積もりを誤ります。コネクタの数だけでなく、その先の内部接続まで読むことが重要です。
実際、WLANトラブル再現環境では、手元のR1を透過ブリッジとnetemによる回線エミュレーターとして使いました。Raspberry PiへUSB-LANを追加する方法もありますが、最初から2ポートを持つボードは配線と部品点数を減らせます。
WLANトラブルを再現する回線エミュレーターでは、その構成を紹介しています。
Orange Pi R1にはリビジョンや近い名称の派生モデルがあります。SoC、RAM、Ethernet速度を型番名だけで決めつけず、基板リビジョン、回路図、対応OSのDevice Treeまで照合してください。
I/O構成からボードの用途を読む
スペック表を見るときは、CPUクロックやRAM容量だけでなく、用途を決めるI/Oを先に確認します。
| スペック表の特徴 | 想定しやすい用途 | 追加で確認すること |
|---|---|---|
| LAN×2以上 | ルーター、ブリッジ、ネットワーク装置 | 速度、内部接続、PHY、PoE対応 |
| SoC直結のGigabit Ethernet | 高スループット通信 | 実効帯域、CPU負荷、ドライバ |
| SATA/M.2 | NAS、ロガー、ストレージ装置 | SATAかPCIeか、レーン数、給電能力 |
| CSI/DSI/MIPI | カメラ、表示器 | コネクタ、レーン数、対応センサー |
| eMMC実装/ソケット | 常時稼働、組み込み用途 | 容量、交換可否、書き込み方法 |
| PoE | 天井、屋外、配線を減らしたい設置 | 規格、受電回路の搭載有無、電力上限 |
| 小型・GPIOが少ない | 用途を絞った装置 | デバッグUART、拡張余地、放熱 |
用途が決まれば、スペック表で優先して見る欄も決まります。反対に、必要なI/Oが明確でないままCPUだけで選ぶと、USB変換器や拡張基板が増え、せっかくのSBCが複雑になります。
手持ち品のごく一部紹介(ラズパイ3,4ボード/COMボード、Orange Pi、NanoPi、ラズパイ互換ドーターボード)
公開仕様からブランドの傾向を読む
手元にない機種については、個別製品の優劣ではなく、公開仕様から読み取れる傾向として整理します。
- NanoPi(FriendlyElec)R系:複数Ethernetやケースを組み合わせた、ルーター/ゲートウェイ向けの構成が見つかる
- Banana Pi:SATAやM.2を持つモデル、複数Ethernetを持つBPI-R系など、ストレージ/ネットワーク用途の選択肢がある
- Orange Pi:小型・低リソースのモデルから、RK3588系の高性能モデルまで選択幅が広い
ブランド名だけで決めず、候補モデルごとに「必要I/O」「内部接続」「OSサポート」「供給情報」を確認します。価格や販売状況も変わりやすいため、記事に書かれた過去の価格は選定根拠にしません。
いちばん大きな落差:ソフトウェア供給体制
用途特化SBCで最も注意したいのは、ハードウェアの数字よりもソフトウェアの供給体制です。
- メーカー提供イメージのカーネルが古く、更新が止まることがある
- フォーラムや周辺機器の情報が少ない
- 似た名前でもモデルごとにOSイメージやDevice Treeが異なる
- メインラインLinuxで未対応のI/Oが残ることがある
候補確認にはArmbianが役立ちます。ただし、イメージが存在することと、同じ品質で保守されていることは別です。Armbianのサポート区分にはStandard support、Community maintained、Stagingなどがあり、Community maintainedはArmbianチームによる能動的な監督・開発の対象ではありません。選定時点のBoard Support Rulesと各ボードの状態を確認します。
ルーター用途なら、OpenWrt Table of Hardwareも有効です。ここで確認できるのは、対象リリースでの対応状況やハードウェア情報です。将来のサポート継続まで保証するものではないため、対象バージョン、フラッシュ/RAM容量、既知の制約も確認します。
選定時のハマりどころ
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「GbE」だけでは内部帯域が分からない:USB 2.0の理論上限は480Mbpsで、プロトコルのオーバーヘッドもあるため、USB 2.0接続のGbEは1Gbpsの線速を出せません。ブロック図、回路図、
lsusb -t、実測で確認します - 電源コネクタが同じでも仕様は同じとは限らない:microUSB、USB-C、DCジャックの電圧・電流、USB PD対応、DCジャックの極性と径を確認します
- 40ピンでもRaspberry Pi互換とは限らない:物理配置、信号電圧、代替機能を確認せずHATを挿すと、故障につながります
- 無線機能は国内で使える条件を確認する:Wi-Fi/Bluetooth搭載品は技術基準適合証明等の表示と、認証対象のモジュール、アンテナ、使用条件を確認します。海外で販売されていることだけでは判断できません
- ボードリビジョンとOSイメージをそろえる:同名モデルでもDRAMやPHYなどが変更される場合があります。起動しないときは、イメージ、Device Tree、基板リビジョンの対応を確認します
現場コラム:「必要十分」を測って選ぶ
高性能なボードほど適切とは限りません。R1クラスのボードでも、対象帯域と設定内容によっては、ブリッジとnetemによる遅延付加をこなせます。ただし「低性能だから必ず低消費電力・低発熱」とは限りません。電源回路、プロセス、負荷、筐体、冷却方式を含めて測る必要があります。
選定では、次の順番が実務的です。
- 必要な帯域、レイテンシ、ストレージ容量、接続機器を書き出す
- I/Oの内部接続と同時使用時の制約を確認する
- CPU負荷、メモリ、消費電力、温度を実機で測る
- OS更新、復旧方法、供給期間まで含めて採否を決める
「このボードで足りるか」を数値で判断する力は、製品でSoCを選定するときにもつながります。用途特化SBCは、その練習にちょうどよい教材です。
選定前に接続図を描いておく
気になるSBCを1枚選び、製品ページのスペック表から簡単な接続図を描いてみてください。Ethernet、USB、M.2がSoCへどうつながるか分からない部分には「未確認」と書きます。その空欄が、購入前に調べるべき項目です。
まとめと次回
- Raspberry Pi以外のSBCは、安価な代替品ではなく、SoC、I/O、BSPの構成が異なるボードとして読む
- CPUやRAMだけでなく、I/Oの内部接続から用途との相性を判断する
- ArmbianやOpenWrtの対応状況は有力な選定材料だが、保守や将来継続の保証とは分けて考える
- 最終判断は、帯域、CPU負荷、消費電力、温度、復旧性を実機で測って行う
次回C-4では製品の世界へ踏み込み、SoM・COM・キャリアボードという考え方を、Raspberry Pi Compute Moduleを入口に整理します。

