「Qiita Jobs」について広木大地さんが切り込む!透明性のある採用サービスって何だ!?
「会社選びからチーム選び」へ。
2019年4月24日にIncrementsは、エンジニア向け求人サービス「Qiita Jobs」のリリースを発表した。
インターネットの普及と共に紙媒体からWebへとシフトした転職媒体。2000年代前半から人材系の各社がサービスを開始し、2019年現在では数多くの求人サービスが展開されている。
また、人材エージェントやリファラル採用など、多岐にわたるサービスがユーザーの転職活動をサポートする光景がWeb業界を中心に一般化しつつあるとも言える。
ただし、転職において重要な点が大きく変わることはない。
企業の理念やプロダクトに共感することは何よりも大切。また、半径5メートル以内で一緒に働く人々の性質も重要な要素だと言えるだろう。エンジニアに限っていえば、アジャイル開発が一般的になり、更にチームでのコミュニケーションが大切になってきた。
そこにフォーカスし、リリースしたのが「Qiita Jobs」である。
会社単位ではなく、チーム単位で次の職場を探す。入社というよりもチームにジョインすることを主眼においていることが特徴だ。
例えば、CTOのカリスマ性に心惹かれて入社したものの、実際に顔を合わすことも少ない。面接時に言っていたポジションからすぐに配置換えがあった。「Qiita Jobs」は転職にまつわる、こうしたギャップを無くしたいと考えている。
今回、広木大地さんに登場いただき、「Qiita Jobs」に対する率直な感想を聞いてみた。
『エンジニアリング組織論への招待~不確実性に向き合う思考と組織のリファクタリング』を2018年2月に上梓するなど、採用を含めた組織論に見識のある広木さんの目には「Qiita Jobs」がどう映ったのだろうか。
対談の相手は「Qiita Jobs」のプロジェクトマネージャーである菅野久樹。
2人の対談は、「Qiita Jobs」のプレスリリースを見た広木さんの違和感からはじまった。
目次
・エンジニア側が「Qiita」での活動を武器にする世界観
・掲載に対するこだわり
・「Qiita Team」と「Qiita Jobs」を連動すべし
・リアリティのあるサービスへ
プロフィール
エンジニア側が「Qiita」での活動を武器にする世界観
菅野久樹(以下、菅野):本日はよろしくお願いします。まず、「Qiita Jobs」を初めて知った時にどう思いましたか?
広木大地さん(以下、広木):「Qiita」が求人系のサービスを発表するのって2度目ですよね?確か、「Qiita:Career」でしたっけ?
菅野:そうですね。実はIncrementsが人材領域のサービスに着手したのは3度目です。社内で検討した結果、未発表だったものが1つ。次に2016年の「Qiita:Career」。そして、今回の「Qiita Jobs」です。
「Qiita:Career」は人材エージェントが軸になっているものでした。ただ、社内で検討した結果、「エンジニアを最高に幸せにする」というIncrementsのミッションから離れてしまう可能性が高いということと、よりミッションをうまく達成できる他の方法があるのではないかということから、「Qiita:Career」は中止する結果となりました。
広木:なるほど。そうだったんですね。「Qiita」はQAサービスからはじまり、エンジニアのノウハウを共有するサービスになりましたよね。こうしたメディアと共に、社内でも情報共有をしていくような「Qiita Team」も生まれましたね。
私はそうした発展を続けていく中で、人材サービスがずっと社内でチラついていたんじゃないかなと思っていて。
人材領域はビジネスとしての立ち上がりも早く、マネタイズの方向も見えやすいですし。
Incrementsさんの中でやろうときっと何度も思っていたけれど着手していなかった。そこにどんな葛藤があり、何がクリアになったから「Qiita Jobs」はリリースされたのか。ここは気になるところです。
菅野:いい質問ですね(笑)。うーん…。赤裸々に言ってしまうと、社内でもいろいろな意見があったのは事実です。”「Qiita Jobs」は「Qiita」の資産を使うものでもある。これはQiitaユーザーを売り物にするのではないか”と。
ただ、転職はエンジニアにとって大事なライフイベントの一つですよね。ここが今、「世の中にあるサービスだけでエンジニアの転職事情が完全にハッピーな状態なのか」と言われれば、そうではないと思うんです。
広木:そうですね。
菅野:我々にできる転職市場への取り組みは何か。どんなことをすれば、エンジニアをハッピーにすることができるのか。まず、ここがキッカケです。
実際にリリースしたのは、少なくともIncrementsが人材サービスをはじめることで、悪い方向に進むことはないと判断したためですね。
会社ではなく、チームというコンセプトは他の転職サービスではやっていないことでもありますし。チャレンジしてみる価値はあると考え、リリースに踏み切りました。
広木:エンジニアが転職サービスを経由して売り物にされている感覚。あるいはモノとして扱われている感覚は僕自身も感じていることでした。
おそらく、この記事を読んでいる職業エンジニアの方も感じていることだとは思うのですが、こうした感覚が生じてしまう要因ってどこにあるんでしょうね。
菅野:そうですね。他のサービスについては当事者ではないので、なんともコメントしづらいところではありますが、自分たちにアプローチするために多くのお金が動いていたり、経歴を誇張してでも転職を成立させるという強引さを感じる点ではないでしょうか。
なので、「Qiita」ユーザーに手当たり次第にスカウトを出せるようにするとか、強引にでも転職数が多くなることを狙っていくような方向には、「Qiita Jobs」を展開するつもりはありません。
できるだけ「Qiita Jobs」が「Qiita」に大きく影響を与えないようにしていくつもりです。「Qiita」は今まで通りのコミュニティを維持したいと思っています。転職を検討している方だけ「Qiita Jobs」を利用していただいて、そうでない方は引き続き今まで通り「Qiita」での活動を続けていただければ、と。
一方でQiita Jobsが目指したいのは、”求職者側も開発チーム側も「Qiita」での活動を武器にすること”なんです。
少し綺麗事なのは自覚しています。逆説的に「Qiita Jobs」でいい転職がしたいと思って「Qiita」でのコミュニティ活動に精を出す方も当然いらっしゃるでしょうし。実際、「Twitter」でもそういった声を拝見しましたので。
ただ、僕が思っているのは「Qiita Jobs」を通じて、エンジニアがハッピーになる機会を増やしたい。この一点ですね。
掲載に対するこだわり
広木:ありがとうございます。「Qiita Jobs」の会社という単位ではなく、チームという単位で求職するコンセプトは面白いですよね。現場に近い情報が掲載される求人媒体なのかなと。
菅野:会社ではなく、開発チームに特化させた理由は「マッチしたと思っていたけれど、やっぱり違った」というミスマッチを無くすためなんです。
例えば、エンジニアの人数が多い会社であれば、CTOに共感して入社を決めたとしても、実際にCTOと一緒に働くケースって稀ですよね。これは、入社するポジションにもよると思いますけど。
チームのリーダーとはお会いすると思うのですが、普段一緒に居るメンバーとの接点が少ないまま入社が決まってしまうのって、リスクだと思うんです。
「あれ?意外と話が噛み合わない」とか、「目指している方向性が自分とは違う」とか。
広木:なるほど。確かにそういったケースはゼロではないと思いますね。では、掲載する会社側はどうでしょう?
菅野:会社側には、チームの内情を全て正直にオープンにするような使い方をしてもらいたいと思っています。なので、現在は使っている技術や開発しているプロダクトなどの一般的な求人情報に加えて、チームメンバーとその「Qiita」アカウント、開発の進め方や技術的負債へどう対処しているかなどの情報を掲載できるようにしています。
例えば、ユーザーが求人情報を見た時に、気になるのは、掲載されているチームメンバーが「どんな記事を書いているんだろう、この人は誰をフォローしているんだろう、どんなことに興味があるんだろう」とか、「今何に困っているんだろう」みたいなところだと思うんです。
こうしたプロセスを通じて、このチームに自分はマッチするのか?という新しい判断基準を持っていただきたいなと。
広木:現場で働いている人は、どんなスキルを持っているのか。また、どんな考え方を持って活動しているのか。将来的に直に触れ合う人の発信情報を伝えるために「Qiita」のコミュニティを活用すると。
菅野:はい。まだ弱い部分も多いので、今後はこの点を強化していきたいと思っていますね。例えば、自分がストックした記事を書いた人がチームにいることがわかるなどの「Qiita」での活動が可視化されるようなものを考えています。
広木:一方でチーム転職にフォーカスしたことで、実際に入社した後の契約はどうなるんですか?
多くの会社さんの場合、チームに対してのJD(ジョブ・ディスクリプション)型雇用ではないですよね。メンバーシップ型の契約形態の中で、チームを移るだったり、やっぱり違ったという齟齬が出てしまうケースもあると思うんです。この点はどうお考えですか?
菅野:掲載する会社には、入社から3ヵ月経過するまでは配属変更はないようにお願いしています。
ですので、チームがすごく流動的で3ヵ月の配属確約が出来ない場合は、掲載を見送らせていただいています。「Qiita Jobs」は開発チーム単位での求人を掲載し、そのチームに参加できることが価値だと思っていますので。
今後も掲載するチームは増えると思いますが、ここは譲れない部分です。「Qiita Jobs」の存在価値は、ユーザーの方が入社した時にマッチしていてよかったと思っていただくことですから。
広木:ある程度チームの形は定まっていて、このチームで仕事をしていく。この点は安心できると。
菅野:はい。合致する会社が案外少なかったりするので、懸念点の一つではありますが。ただ、ここをブラしてしまうと「Qiita Jobs」の意味が無くなってしまいますので。
ちなみに会社ではなく、チームへの転職というコンセプト自体はどう感じましたか?
広木:組織図が見たいなって思いました。開発チームの中でも防波堤があっていいチームになっているパターンと会社全体のムードとしていいチームになっているケースもありますよね。
せっかくチームで募集するのですから、会社のどの位置にチームがあるのかも分かったほうが深みが出るのかなって。
「Qiita Team」と「Qiita Jobs」を連動すべし
広木:お話を聞いていて思ったことなのですが、「Qiita Team」と「Qiita Jobs」が連動する未来についてお考えはあったりしますか?
菅野:全然考えていませんでしたが面白そうですね。
広木:僕がいろいろな会社の採用支援をしている中で、3つのポイントがあると思っていて。まずは透明性。次にキャリア開発への取り組み。最後に開発環境への投資です。
この3つに対して、会社がどう向き合っているのかが大切。中の人の技術情報がどんどん公開されていくと、この会社で働くというイメージが付きやすいと思うんですよね。
現場に近い人の声の方が、経営者の方が出てきて崇高な話をするよりもリアリティがある。実際働いている姿も想像できますし。
「Qiita Jobs」が目指したいチームへの転職やチームの中での状況が見えるのは、エンジニアの文化や思想にマッチしている発想だと思うので、中の情報が出てくるような仕掛けがあるといいですよね。
菅野:確かに。
広木:これはポジションに関係ないと思うのですが、採用が売り手市場になってくると、いろいろな経営者の方からお誘いを受けるようになると思うのですが、一方で、経営者の語る言葉論って働くイメージのわかない空理空論に聞こえてしまうんですよ。
シンプルに言えば、話を聞いていても面白くない方が多い。より具体的な現場感が感じられないんです。
たとえば、「この世に一つしかないものなんです」と熱心に語られても「そりゃそうでしょ」と思ってしまいます。あなたもサービスも一つしか無いんだからって。
「テクノロジーやエンジニアが大事なんです!」って情熱的にお話をされても、ワクワクしづらくて、それよりもその言葉の説得力が大切なんです。あたとえば、現場で働いているエンジニアが楽しそうだったり、充実感がありそうと思える情報が欲しいんですよ。
実際、拙い言葉でもそういった現場の方が事業構想や働く環境の話をしたほうがリアリティがあるんですよね。
菅野:現場の方の話は説得力ありますよね。
広木:人事の方が「この人はお喋りが上手くない」という理由で外していたエンジニアを面談や面接の現場に出してみたら、一気に採用活動が好転するケースも珍しくありません。
その人の言葉には真実がある。これが採用において重要なんです。人は思っている以上に嘘が分かりますから。
なので、「Qiita Jobs」が透明性を重視し、現場の状況が伝わるサービスになるといいなって思ったんです。そこで、もっと真実の情報があるのは「Qiita Team」だと思うんですよね。
「Qiita Team」で1クリックしたら「Qiita Jobs」に記事が掲載される。こうした連動があれば、面白いんじゃないかな。
菅野:なるほど…。検討します。
広木:他にも「Slack」のパブリックチャンネルの数やデプロイ回数、コードビルドの時間など、ワークフローの中身に関わるような隠しきれない生の情報が掲載されていると、いいチームなんだなって定量的に伝えられると思うんです。
チームで求人をすると言った時に出てくる情報が、「皆でBBQやってます」って暑苦しくワキャワキャやっている絵だったりしたらどうでしょう。
いいエンジニアが応募するイメージが全く湧きませんよね。
ちゃんと真実に向き合う力がある。問題解決能力がある。理知的にコミュニケーションが取れる。技術的なスタンダードを抑えている。
その環境には自分が共感できる人がいる。こうした情報がドンドン掲載されることで、従来の求人サービスと全く違った見え方になっていく気がしますね。
仮に「Qiita Jobs」の優れた使い方として、そういった魅せ方をしている会社がサンプルとして存在すれば、いい取説になると思いますよ。
リアリティのあるサービスへ
菅野:とても参考になるお話をありがとうございます。「Qiita Jobs」の画面を実際に見てみて、広木さんが気になった点があれば、お聞かせ下さい。
広木:細かい話ですけど、利用技術のヴァージョンが書いてあると嬉しいですよね。実際知りたいのは、「言語としてのRubyよりもRubyいくつなのか」だったりするので。
後は、チェック項目は面白いです。僕たちが採用を支援している時もいろいろとチェック項目を作って、会社に記載をお願いしているので。レビューや技術的負債への取り組みが書いてあるのはいいですね。
ただ、リアリティへのつながりはまだ改善の余地があるかな。
菅野:どんな機能があればリアリティへのつながりが生まれるとお考えですか?
広木:例えば、「Slack」の#randomが全部流れてくるとか。そんな機能付いてたら面白そうじゃないですか?
菅野:なるほど。面白そうですね。ただ、弊社はあまりにもしょうもない雑談も多くて見せられないかもしれません(笑)。
広木:そうですよね(笑)。でも、雑談の多さはチームの良し悪しの基準だったりもします。雑談じゃなくても定点カメラみたいなものを使って過去24時間のチームの様子が動画で配信されているとか。
菅野:タイムラプスで実装しても面白いですね。
広木:そうすると、「残業はない」って言ってるのに、遅くまで人がいることが一目瞭然じゃないですか(笑)。
菅野:いろいろな問題をクリアしなければいけないので、簡単にできるとは思わないですが、それを公開してくれる会社ってコンテンツバリューがすごいですよね。
広木:そうなんですよ。「Qiita Jobs」を見に来たら、「Slack」の#randomが公開されていて、仕事振りも動画で配信されている。ここまでやってる会社って興味湧きませんか?
菅野:確かに、確かにそうです。
広木:強制する必要はないですが、こうしたダイナミックな機能をオプションとして用意しておくと、公開している会社が必然的に閲覧数が増えると思っていて。公開できないってことはつまらないチームだね?ってなる可能性も出てきますし。
菅野:チームの透明性が検索ロジックにも影響するのは確かに面白いですね。そんな人材サービスこれまでになかったですし。
広木:動画を流す、記録をするのは今すぐできますよね。そこにチームが笑顔だった割合がグラフで表示されてみたりとかすると、もっと面白くなると思います。そこまでされたら気持ち悪いという声も出そうですが。
ただ、チャットでのやり取りや自然なリアルな情報をユーザーが求めていることは確かです。
会社としてはトライするのはハードルが高いですが、非常にエッジが立つと思いますよ。
菅野:すごく面白いです。「Qiita Jobs」はまだまだスタートしたばかりのサービスで、主軸にはエンジニアがハッピーになって欲しいという思いがあります。
広木さんが仰ってくれた機能が欲しいというメッセージも取り入れつつ、我々も新しいチャレンジするしかないなと思いました。
広木:最後に一つだけいいですか?
菅野:何でしょう?
広木:儲かると分かっていても「Qiita Jobs」にこの機能だけは絶対に実装しないと決めているものはありますか?
菅野:先程も申しましたが、チーム側からのスカウト無差別配信です。確実に会社からニーズがあることは理解していますが、絶対にやりません。それでは「エンジニアがハッピーにならない」ですから。
広木:その方がいいと思います。コンセプトは素晴らしいので、よりリアリティのあるサービスになることを期待しています。
菅野:ありがとうございました!ご指摘いただいた点は議題に上げて、随時実装していきます!
編集後記
リアリティが必要な時代だ。
モノを買う時にもまず、レビューを見る。そんな時代の中で、求人サービスの多くがブラックボックス化してしまっていたのかもしれない。「Qiita Jobs」についてもそう。まだまだ、改善すべき点が多いことは自覚しているように思う。
ただし、そこは「エンジニアを最高に幸せにする」を企業理念とする企業である。すぐに実装するとは言わなかったが、検討の余地ついて吟味する菅野の姿が印象的だった。
透明性を打ち出せる。本当のチームの良さは飾らないことから生まれていくのかもしれない。派手な演出や飾った言葉などエンジニア採用には必要ないのだ。
そういったサービスとして「Qiita Jobs」がスケールすることで、エンジニアの転職がもっと幸せになっていくのかもしれない。
取材/文:川野優希
撮影:赤松洋太