開発・営業・意思決定までAI前提に再定義。Qiita社「AIリードグループ」が推進するAIネイティブ化とは?

Qiita株式会社では2026年8月から、「Qiita社のAIネイティブ化」をミッションに持つ新組織「AIリードグループ」が発足しました。従来の個人最適・タスク単位でのAI導入を超えて、「開発・デザイン業務」「ビジネス業務」「意思決定」の3領域において、AIネイティブ化を推進することを掲げています。

今回は、同グループでセールス基盤の構築やAI前提のワークフロー設計を担当する梅川さんにインタビューをしました! 新しい組織として発足した背景から、過去の試行錯誤、商談準備や朝会資料の自動化といった具体例、人とAIの役割分担、そして「作って終わり」にさせない工夫まで、AIネイティブ組織への変革に向けたリアルな経験と知見を余すところなく聞きました。組織での生成AI活用を推進したい方も、個人でツールをもっと使いこなしたい方も、ぜひ参考にしてみてください。

プロフィール

梅川 尚孝(うめかわ なおたか)
Qiita株式会社 AIリードグループ
2018年にIT企業へ新卒で入社し、Web広告の配信管理システムの開発を担当。2019年11月にIncrements株式会社(現・Qiita株式会社)へ中途入社後、約2年半にわたって「Qiita Team」の機能開発を中心としたWebエンジニアとして業務を行う。その後、部署異動により共通基盤開発部で約4年間、Qiitaおよび関連サービスの性能改善・運用効率化・コスト削減などを担当。2026年8月、新設された「AIリードグループ」へ異動。

ボトムアップの限界を打破する「AIリードグループ」発足の舞台裏

―― まずはじめに、今回お話しいただく「AIリードグループ」のミッションを教えてください。

梅川:AIリードグループは、「Qiita社のAIネイティブ化」を掲げて設立された専門組織です。具体的には「開発・デザイン業務のAIワークフロー化」「ビジネス業務のAIワークフロー化」「意思決定のワークフロー化」という3つの柱を中心に、進めていきます。

この中でも最も根幹となるのが、3つ目の意思決定のワークフロー化です。社内のデータを集めた基盤をもとに、「AIが判断してタスクの実行まで担う」「人間はAIができないタスクや判断に集中する」という状態を目指しています。開発やデザインといったクリエイティブ領域から営業・事業開発といったビジネス領域まで、全社の仕事をAI前提に再設計していくための組織です。

―― AIリードグループが発足するまでの経緯を教えてください。

梅川:社内に向けて組織化を発表したのは2026年の6月上旬頃ですが、実際には5月頃から1on1などで上司から連絡をもらっていました。私自身、グループの発足前からビジネスサイドのメンバーへの生成AIツールの導入や活用支援に関わっていたこともあり、上司やビジネスサイドのメンバーと「AIを前提とした組織変革を本格的に進めていこう」と議論を交わしていました。

―― これまでもエンジニアには、メンバーが使う生成AIツールの導入検討やサポートをしていただいていましたが、なぜ独立したグループとして発足させたのでしょうか?

梅川:独立した組織として切り離した理由は大きく2つあります。1つ目は「全体最適化」を推進するためです。個人のボトムアップやタスクベースでAI導入を進めると、局所的な効率化はできますが、組織全体の業務フロー全体を俯瞰して再構築するのは困難でした。

2つ目は「業務の優先順位とスピード」の問題です。従来の部署と兼務しながらAI改善をやろうとすると、例えばインフラ障害が発生した際には当然インフラ対応が最優先となり、AI化の改善業務はどうしても後回しになってしまい、スピード感に課題がありました。そのため、AIネイティブ化をスピード感を持って推進していくためには、独立組織として切り離す必要がありました。

―― AIリードグループには現在5名所属していますが、それぞれの役割を教えてください。

梅川:マネージャーが全体の調整やマネジメントを行い、私は主にセールス組織を対象に、AIを前提とした仕事の設計や実際のワークフロー構築を現場と協議しながら進めています。あとの2名は、それぞれデザイン組織と開発組織のAI化を担当しつつ、段階的にビジネス組織側の支援へも領域を広げています。もう1名は技術統括的な立ち位置として、メンバー全員が共通で使う技術基盤の整備や、難易度の高い技術相談への対応、優先的に取り組むべき領域の開拓を担っています。

Qiitaにおける生成AI活用の変遷

―― 一般的に、企業での生成AI活用は2023年から普及しはじめましたが、Qiitaではどのように生成AIの活用が始まりましたか?

梅川:社内で生成AIを強く意識する最初のきっかけとなったのは「GitHub Copilot」でした。コード記述時にサジェストを出してくれる機能を、いち早くエンジニアとデザイナーに導入したのが最初です。

その後、生成AIが大きく発展して「ChatGPT」などが普及した2023年ごろに、社内で使っていたSlackチャットボット「Qiitan(Qiitaの公式キャラクター)」の内部にOpenAIのAPIを組み込みました。これにより社員がQiitanに質問すると、AIが生成した回答を返してくれるようになり、社内における本格的な生成AI活用・ワークフロー化の第一歩となりました。

Slackチャットボット「Qiitan」とのやりとり例

―― AIワークフロー化を進めるにあたって、難しかった点があれば教えてください。

梅川:ビジネスサイドからの課題をヒアリングしたことを元に自動化ワークフローを作成したものの、実際にはあまり使われなかったことはあります。なぜ使われなかったのか、ヒアリングなども行い分析したところ、理由は2点ありました。1つは「現場が求める品質基準(精度)を満たせていなかったこと」、もう1つは「そもそも作ってみた機能が現場の真のニーズとズレていたこと」です。

品質面については、フィードバックをもとに改善を入れていけば、必要水準に達して使われるようになります。しかし、ニーズのズレに関してはヒアリングだけでは不十分で、実際の業務を観察することで初めてわかる部分も多く、未だに難しいなと思います。

―― AIリードグループ発足前も、ビジネスサイドでの生成AI活用をサポートしていただいていましたが、具体的にどのような依頼がありましたか?

梅川:発足前の事業開発支援で特に効果が高かったのは、「商談前の事前準備の自動化」と「Google Meet(Gemini)を活用した自動議事録作成」の2点です。

商談前の準備では、対象企業が今どのような取り組みをしているかというリサーチや、過去の商談履歴・取引データをAIが一元的に収集して整理してくれる仕組みを作りました。また商談後は、Google MeetのGemini でメモを生成する機能を活用して自動で要約と議事録を生成し、「何を話して、残された課題は何か」を可視化しました。これにより、従来セールス担当者が多大な時間を費やしていた事前調査や会議後の議事録作成の負担が大きく軽減されました。

朝会自動化から営業基盤まで、現場を動かすAIネイティブ化の実践

―― AIリードグループは2026年8月に発足したばかりではありますが、これまでどのような取り組みをしたか、教えてください。

梅川:チーム全体としての取り組みでは、開発組織において「Claude Code」などのAIツール利用時に、個人ごとのプロンプト記述や自作スキルにバラつきがあった課題に対して、設計から実装・コードレビューまでの一連の流れを統一してこなせる共通の補助ツールを作成して配布しました。これにより全員が一定のフローで開発を行えるようになり、改善の知見が全社に蓄積される状態を整えました。

他には、「定期ミーティングのAIネイティブ化」です。SlackやQiita Team、GitHubなどに散乱している情報をAIに自動集約させ、「現在の数値」「やるべきタスク」「朝会で議論すべき論点」を整理した朝会資料を自動生成する仕組み作りです。最初にAIリードグループ内で検証し、有用性が確認できたため、現在はセールスやQiita開発チームなど他組織への展開を進めています。

私が現在進めているのは「セールスの営業基盤の整備」です。単に「受注して終わり」ではなく、クライアント企業の目標達成に向けて継続的に提案や施策を行えるよう、営業フロー自体を見直しています。各種タスクの補助をAIが行うことで、営業担当者が自然と最適な行動をとれる仕組みの構築を目指しています。

―― AI導入によって議論や意思決定にどのような変化がありましたか?

梅川:例えば、手を動かす業務を生成AIに任せられるようになったからと言って議論の時間自体が増えたわけではありません。しかし実装や考慮のスピードが上がった結果、意思決定をする回数が大幅に増えたと思います。

―― その他、どのようなポジティブな影響がありますか?

梅川:生成AIを壁打ち相手として活用することで、一人で考えるよりも圧倒的に早いスピードで自分なりの結論や提案の形を作れるようになりました。その結果、ミーティングの場でも前提条件からの曖昧な議論ではなく、「こう進めようと思うがどうか」という固まった提案を持ち込めるようになっています。

先ほどお話しした通り、意思決定をする回数が大幅に増加したことによって、事業や改善のPDCAサイクルが非常に速く回るようになりました。

人とAIの境目はどう考える? 現場での判断基準と優先順位

―― 人が担当する部分とAIに任せる部分の境は、どのように考えていますか?

梅川:境界線として最も意識しているのは「安全性を担保すべき部分」と「例外的な判断が必要な部分」です。例えば、メールを一括送信するためのターゲットリストをAIやプログラムで自動抽出・作成できたとしても、「このクライアント・ユーザーには個別に送るべきか」「今このタイミングで送信して問題ないか」といった判断は自動化しきれません。ルールに沿ったスクリーニングはAIに行わせますが、最終的な確認・検査や決断の実行は必ず人間が行う領域として残しています。

―― 将来的にはAIに任せたいけれど、「これはまだAIに任せない/任せにくい」と感じることは何かありますか?

梅川:まだAIに任せきれていない部分としては、権限の都合や他部署・社外との調整が絡む「契約申請」「稟議」「費用申請」といった手作業の申請手続き業務があります。これらは手作業での入力や確認作業が多く残っているため、まずはアシスト機能や自動化の仕組みを取り入れて、現場の負担を減らしていきたいと考えています。

―― 優先順位付けなどの意見がAIリードグループ内で分かれることはありますか?その場合、どのようにして議論を前に進めますか?

梅川:現在のところ、グループ内で意見が激しく対立したり衝突したりするようなことはありません。ただ、どの施策から優先的に取り組むべきかという判断で意見が割れたり、悩んだりすることはありますが、その際には「どちらの課題を先に解決した方が、組織全体としてより大きな価値を生み出せるか」という本質的な価値の大きさと、純粋な「締め切りやリソースの条件」を客観的に比較・評価して議論を前に進めるようにしています。

「作って終わり」にさせない、 現場定着とコミュニケーションの工夫

―― 先ほど、作ったツールが結局使われなかった例もありましたが、「作って終わり」にならないようにする工夫があれば教えてください

梅川:一番意識しているのは、ツールが現場の運用にしっかり定着するまで「伴走しつづけること」です。単に「ツールができたのでマニュアルを見て使ってください」と共有するだけでは、なかなか現場には定着しません。そのため、実際にGoogle Meetなどを繋いで一緒に画面を見ながら触ったり、導入後しばらく経ってからヒアリングを実施して「実際に使えているか」「どこに使いづらさや課題があるか」を丁寧に拾い上げて改修を重ねたりしています。使う人に「自分たちの業務が便利になる当事者」としての意識を持ってもらうアプローチを意識しています。

―― 新しいツールの導入について、導入コストとメリットのバランスはどう見ているのでしょうか?

梅川:新しいツールや技術を取り入れる際は、「小さく試して検証する」スモールスタートの原則を徹底しています。いきなり全社に展開するのではなく、まずは少人数のチームや小さな目的のアプリで試験導入し、実際に業務上の課題が解決できるか有用性を確認してから拡大していきます。

また、導入前の段階で「何ができて、何ができないのか」を下調べし、課題解決の目算を立てた上で選定しています。そうすると、導入後に完全な失敗となって短期間で乗り換えるようなケースは非常に少なくなるはずです。実際に過去Difyを導入した時は、まず少人数で有用性やリスクを検証して導入可否を決め、それから徐々に全社へ展開していくことで導入コストを抑えています。

―― 非エンジニアとのやりとりでは、持っている概念や知識に差がでて難しい場面もあると思いますが、コミュニケーションの取り方で工夫していることはありますか?

梅川:どうしてもエンジニアとビジネスメンバーでは、それぞれが持っている知識や前提条件が異なります。そのため、まず「お互いに知っている領域と知らない領域がある」という前提に立ち、自分が分からない業務知識については素直に積極的に質問してキャッチアップするよう心掛けています。

また、ビジネスメンバーに向けたドキュメント作成や会話の中では、エンジニアしか分からないような専門用語をそのまま使わず、分かりやすい言葉に噛み砕いたり補足説明を付け加えたりといった翻訳を意識してコミュニケーションを取っています。

―― 実現できること・できないことの整理はどのようにしていますか?

梅川:技術的にできないことは、少なくとも今取り組んでいる課題の範囲ではほとんどない印象です。ただ、技術的にはできても、サービスの利用規約や社内規定のためにできないケースは一定数あります。その場合は、必要に応じてエイチームグループの法務や情シスとも連携しながら、良い落とし所を探すようにしています。

また、実現のしやすさに関しては「解決するべきボトルネックや目的が明確かどうか」が大事です。明確であれば、AIを使ってすぐに形にすることができ、成果も出やすい一方で、「課題があることはわかるが、内容がぼんやりしているもの」に関しては、何を解決すべきかの背景調査から入る必要があり、難易度が高くなります。

頭の中だけで考えていても机上の空論になってしまうため、ある程度方向性を吟味した段階でプロトタイプを作成し、試してもらうことを意識しています。特にミスが起きてもリスクの少ない業務の場合は、まず試して現場のヒアリングと改善のサイクルを回すことで、言語化されていない真のボトルネックや隠れた業務プロセスを明らかにできると思います。

今後の展望と、AI活用を始めたい人へのメッセージ

―― 向こう3〜6ヵ月くらいの展望を教えてください。

梅川:組織全体としては、掲げている「人間が必要な仕事以外はAIが担う」というAIネイティブ化をより一層推進していきます。まずはAIリードグループ内で様々な自動化やワークフロー化を試行錯誤して成果を出し、その成功パターンを社内の各組織へ順次展開していきたいと考えています。

個人としては、特にビジネスサイドの基盤構築とワークフロー整備に注力し、営業担当者が成果を上げやすくなる環境を作ると同時に、受注後もクライアントに「Qiitaに任せて本当に良かった」と継続的に感じていただけるような高い価値提供の仕組みを確立していきたいです。

―― 社内でAI活用を進めたい読者へ、最初の一歩として勧めたいことは何でしょうか?

梅川:まずは自分自身で実際にAIツールを触ってみて、その便利さを体験することをおすすめします。もし社内にエンジニアリソースが少なく、ビジネスメンバー中心の組織であったとしても諦める必要はありません。「今、職場で何が起きているのか」「誰がどんな業務を行っていて、何が本当のボトルネックなのか」という現状と課題をクリアに整理・言語化することから始めてみてください。解くべき課題さえ明確になれば、AIツールを活用した解決への第一歩を確実に踏み出すことができるはずです。

編集後記

ビジネスメンバーのひとりとして、Qiita社でのAIネイティブ化を推進してくれている梅川さんの普段の業務や、考えていることを聞くのは初めてでした。「生成AIツール導入にあたってはまず、課題を明確にすること」「課題が曖昧だと実現が難しい」という言葉には、思わず深く頷いてしまいました。ときどき、生成AIは魔法のツールのように錯覚することもありますが、そうではなく、しっかりと言語化された課題に対して導入することや、どのような指示を入れるかという「人間がどう扱うか」が大切だと、改めて感じました。組織での生成AI活用を推進したい方はもちろん、個人でツールをもっと使いこなしたいと考えている方にとっても、本記事が次の一歩の参考になれば幸いです。

文:Qiita Zine編集部

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