AIはユーザーインサイトをどこまで読み解ける?NTTドコモ担当者が「Findy Insights」で得た気づきを深掘りしてみた

生成AIの進化によって、ソフトウェアの開発スピードは急速に上がりました。一方でプロダクト開発の現場では、何を作るべきか、どの声を優先すべきか、現場のフィードバックをどう整理して意思決定につなげるかが、ますます難しいテーマになっています。
特に少人数でプロダクトを前進させるチームほど、多様な関係者から寄せられる要望や不具合報告、改善提案をチェックし、優先順位をつけてプロダクトに反映する負荷が重くなりがちです。このような課題に対して、AIはどこまで実務を支えられるのでしょうか。
今回は、プロダクト開発者の悩みに寄り添う「Findy Insights」の立ち上げ責任者と、同プロダクトをファーストユーザーとして活用する株式会社NTTドコモの担当者にインタビューしました。
通信ネットワーク × ブロックチェーンという先端的な実証開発において、AIを使って、いかにユーザーの声を扱うのか。AI時代にSaaSやプロダクトマネジメントはどう変わっていくのか。じっくりとお話を伺いました。
目次
プロフィール

R&Dイノベーション本部 R&D戦略部 社会実装推進担当

執行役員 CPO
まだ社会に出ていない技術の種を、実際のサービスやプロダクトへつなげる役割

―― まずは、おふたりのこれまでのご経歴と、現在の業務内容・ロールをお願いします。
加藤:1年目はドコモショップの故障受付サポート、2〜3年目にかけてはネットワーク保守で、壊れた基地局を直しに行くようなサービスエンジニアとしての業務を担当していました。4〜5年目には東海エリアで法人向けのSE業務に携わるようになり、その後は横須賀の研究所で通信機の開発に参加しています。主に検証領域を担当し、リリース前のソフトウェアが正しく動くかを確認する仕事をしていました。5Gサービスのリリースにも関わっています。
その後、NTTドコモ・グローバル(旧NTT Digital)に在籍し、そこからブロックチェーンに関わるユースケース開発に携わるようになりました。今回「Findy Insights」を導入したのは、目下進めているネットワーク × ブロックチェーンのプロダクト開発において、東海エリアのチームやネットワークチームと一緒に検証をしていた際、現場の声を集約する負荷が大きく、1人で全てに目を通してさばくのは厳しかったことが背景にあります。そこでAIの力を借りようと考えました。
稲葉:入社後、最初はエンジニア組織の開発パフォーマンスや生産性を可視化する「Findy Team+」のプロダクト担当として、アーリーフェーズの立ち上げに関わりました。同時に、プロダクトマネージャーやリサーチャー、データサイエンティストなどが所属する部門の立ち上げも進め、その後、2025年後半から新しいプロダクトとして「Findy Insights」の立ち上げを担当しています。
プロダクト責任者として開発を進めつつ、事業開発メンバーとも連携しながら市場開拓も進めています。加藤さんにはまさに第1号のお客さまとして導入いただきました。現場での使い勝手や課題感など、いちユーザーとしてのリアルなフィードバックを直接いただきながら、初期フェーズの改善も一緒に進めていただいています。
―― 加藤さんが所属されているR&D戦略部 社会実装推進担当とは、どんなミッションを持つ組織なのでしょうか?
加藤:名前の通り、まだ社会に出ていない技術の種を、実際のサービスやプロダクトへつなげる役割を担っています。メタバース、AI、私が担当しているWeb3の大きく3つの領域を扱っています。チーム自体はかなり小規模です。技術の卵を作り、それをネットワーク本部や他部署に提案しています。
少人数開発で膨らむ「情報整理」の負荷が大きな課題だった

―― テーマが「ネットワーク × ブロックチェーン」とのことですが、具体的にどのようなプロダクトなのでしょうか?
加藤:ユーザーのスマートフォンから電波状況を取得させてもらい、代わりにトークンでの報酬を払う「DePIN(※)」のモデルを考えています。例えば花火大会やF1のような大規模イベントでは、ドコモの社員が現地を歩き回りながら、モバイル端末などにおけるネットワークのスループットを測っています。装置が壊れていないかの確認をしながら、ひたすら自分の足でデータを取り続けるわけです。
もちろん、ネットワークのつながりにくさは、日常の様々なシーンにおいても発生します。昼休みは混む、夜は重い、深夜はつながる、みたいな変動がある中で、既存の調査だけでは24時間・全地点を追いきれません。
対して、ユーザーが会場を歩くことで自動的にデータが取れるようになれば、調査員はデータを見るだけでよくなります。もしも装置の故障が発生すれば、そこに人員を集中させることもできます。削減できるオペレーションコストはテクノロジーで減らしたいというのが、このプロダクトの根本にある発想です。
※DePIN(Decentralized Physical Infrastructure Network):通信やセンサー、電力、位置情報などの「物理インフラ」を、ブロックチェーンとトークンを活用して分散的に構築・運用する仕組み。ユーザーが自分の端末などからデータ提供や計測に参加し、その貢献に応じてトークンなどの報酬を得るモデルが特徴。従来は企業が独占的に収集・活用していたインフラデータを、参加型で共有・活用する新しいインフラの形として注目されている。
―― そのプロダクト開発において、どのような課題感から「Findy Insights」を導入されたのでしょうか?
加藤:一言で言うと、「現場から届く大量のフィードバックの整理と優先順位付け」が限界に達していたからです。現在は数名体制のPoCフェーズで、弊社のエリア品質部と密に検証を行いながら開発を進めています。
ただ、多様な現場から届くフィードバックはバグの報告や機能要望、表示の改善提案など、とにかく様々な粒度のフィードバックが混在していて、これらを毎回担当者とすり合わせて、優先度をつけて次の開発プランを作る、という作業が正直きつくてですね…。量が増えるほど「何を最優先すべきか」の判断に多大なリソースを奪われていました。この煩雑な業務をAIの力で効率化したかったのが、導入を検討した最大の背景です。
―― これまで、フィードバック管理はどのようにしていたのでしょうか?
加藤:基本はSlackやスプレッドシートでの管理でした。開発者同士ならGitのIssueでも良いのですが、モバイルネットワークの担当者は必ずしもITエンジニアではありません。全員にIssueを切ってくださいというのは現実的ではないので、とりあえず書きやすいスプレッドシートを渡して書いてもらう、という運用になりがちでした。ただ、これだと粒度がバラバラになりがちですし、後からまとめて書いてもらうと面倒で忘れてしまうこともありました。
―― 一般的なLLM、例えばChatGPTやClaudeを活用する方法もあると思います。その中で「Findy Insights」を選んだ理由は何だったのでしょうか。
加藤:まず、コンセプトが面白かった。それが率直な理由です。最初から全部の機能が揃っていたわけではありませんが、フィードバックの数が今後数百人規模に増えたとき、自分たちでは管理しきれないと感じていました。そんな中、似た意見をまとめたり、別の切り口で書かれた同じ課題を一般化したりするのが得意なAIを専用プロダクトとして設計しているとのことで、考え方がすごく合っているなと感じました。
それに、人間が「この意見は重要、これはそうでもない」と分別すると、どうしても恣意性が出てきてしまいます。ですがAIが機械的に整理した結果であれば、一つの中立的な材料として扱いやすい側面もあります。「機械がそう言うなら、一度見てみよう」となるのは、実務上かなり大きな変化でしたね。
「声を集める」だけでなく、「次の企画」に落とし込む

―― 「Findy Insights」を担当されている稲葉さんにもお話を伺いたいのですが、初期ユーザーに提供するにあたり、どの機能を重視して開発したのかを教えてください。
稲葉:立ち上げフェーズのプロダクトを使っていただけること自体、非常にありがたいことでした。その上で我々が絶対に届けたかったのは、お客さまの声や社内の声をLLMで分析し、課題やニーズを分類・集計して、企画側が優先度をつけやすくなるという「コアの価値」です。まずはその価値をしっかり体感いただけるよう、機能を揃えて提供しました。
大きく分けると、「Findy Insights」はデータのインプットと、LLMによる分析・アウトプットの2層でできています。インプットできるのは、テキストやCSV、音声、PDF、PowerPointなどさまざまです。最近ではSlackやSalesforceなど、フィードバックの源泉になる外部データソースとの連携も進めています。
アウトプットは大きく2つあります。一つはインサイトの抽出です。お客さまのニーズや課題、その背景にあるインサイトをLLMが自動で分析し、グルーピングや集計を行います。もう一つは、そのインサイトを企画書、要件定義、ユーザーストーリーなど、次のアクションにつながる形へ落とし込むことです。我々はこれを“ソリューション”と呼んでいます。
商談や顧客の声から得たインサイトを基に、ソリューションをアップデートする
―― 加藤さんは実際に「Findy Insights」を使ってみて、どんな発見がありましたか?
加藤:最初に驚いたのは、ユーザーが思った以上に幅広い端末を持っている点でした。エンジニアはそこそこ新しいiPhoneを使っていると思い込んでいたのですが、現在もiPhone 8を使っているユーザーがいらっしゃり、UIの改善以前に、サポート端末を広げなければならないと分かりました。
また、データの表示方法について現場とかなりのすり合わせも必要でした。私はユーザーから収集したデータをS2セルのようなメッシュで表示しようとしていたのですが、現場のネットワーク担当者は緯度経度のドットとして見たいと言います。プライバシーの観点と処理負荷を考えると、多数のドットをそのままプロットするのはGoogleマップが重くなるのと同じで現実的ではないですが、「多少重くてもドットで見せてほしい」という要望でした。
IT的な合理性と、現場が実際に使いやすいものとの間には、やはり差があります。そのような「エンジニアとしての思い込み」を外すためにも、ユーザーの声をきちんと集めてAIで整理する仕組みを挟むのは有効だと感じました。今はマップの縮尺に応じてメッシュサイズが変わる形で落ち着いていますが、フィードバックをもらわなければ、そのまま自分の想定する誤ったニーズの仕様で作り続けていたと思います。
―― 面白い発見ですね。AI活用において、どこまで任せ、どこから人が見るべきだと考えていますか? まずは作り手側の視点から教えてください。
稲葉:今のフェーズでは、最終的な意思決定はまだまだ人が担うべきだと思っています。特に何を作るか、どの方向に進むかは、会社の歴史や事業戦略、既存組織との関係など、文脈に強く依存するからです。
一方で、その文脈はしばしばバイアスにもなります。「あの人が言っていたから」「長くいる人の意見だから」「これまでこうしてきたから」というフィルターによって、本来ユーザーが抱えている課題から少しずつズレてしまうことも少なくありません。一方で、AIやLLMの分析には、そのフィルターが比較的かかりにくいと考えています。だからこそ、フラットな分析結果を出発点にして、自分たちのバイアスを相対化することが重要だと捉えています。
「AIに使われない」ために大事なことは、AIが出したものをそのまま採用するのではなく、バイアスなく受け取り、事業や市場の変化に照らして判断できるかどうかだと思います。
―― 組織課題と対峙する必要がある話だと思いますが、ツール以外でのサービス支援なども提供されているのでしょうか。
稲葉:はい。もともとはSaaSプロダクトのみを提供していましたが、直近では、より上流の戦略設計や意思決定の枠組みに課題を感じる大企業のお客さまが増えています。そのため現在は、ツール活用のサポートに加えて、各フェーズにおける判断軸の持ち方や、過去の文脈に引きずられずに意思決定できる仕組みづくりなどのコンサルテーションもセットで提供するようにしています。
単に「AIで分析できます」ではなく、「何を分析したいのか」「その先でどんな意思決定をしたいのか」まで一緒に設計することが、一般的なAIチャットツールとの違いや独自化ポイントになると考えています。
頼るが、頼りすぎない。ユーザーの生の声を失わないために

―― 続いて、使い手としてAI活用で気をつけていることを教えてください。
加藤:一言でお伝えすると、「頼るが頼りすぎない」ですね。AIが障害の原因や改善要望を整理・集約して、コンパクトに開発者へ届けてくれるのは理想的ですし、そういう場面では積極的に使いたいです。でも、やはりユーザーの生の声のチェックは必須です。というのも、AIがうまく要約しても、その過程で落ちていくものが必ずあるためです。
―― たしかに、AIによる要約って良い感じにまとまってはいるものの、のっぺりとした内容になりがちですよね。
加藤:「なぜその機能にその思いを持ったのか」「どんな背景でその言葉が出てきたのか」などの推定は、まだまだ難しい印象です。一番怖いのは、不満が出てこないから満足しているのだと勘違いすることです。実際、「不満を言うほどではないけれど満足もしていない」状態も十分あり得ます。だからこそ、AIで整理して終わりにせず、「実際どうでしたか?」と定期的に直接聞くことが大事だと思っています。
―― 今後、「Findy Insights」に期待することを教えてください。
加藤:個人的には「Slackの内容を自動的に取り込んで、時系列で『この不満が蓄積している』と可視化できるようになるとさらに良い」、とリクエストさせていただいています。ドコモは国内でもかなり大きなSlackユーザーだと思うので、その対応に期待しています。
もう一つ、ユーザーが頭の中に持っているビジュアルイメージをもっと深掘りできるようになると良いとも考えています。「UIが分かりにくい」という一言から、その人が本当に言いたいことが何なのか、どんな配置や画面表現を想像しているのかまで掘り下げられると良いなと。最近はDevinのように、方針さえあればかなりのことまで自律的に作り込める世界になりつつあります。逆に、方針がなければ、ただのきれいなゴミができることもあるわけです。
―― ただのきれいなゴミ(笑)
加藤:効率化が求められる限られた体制の中でも、AIを活用することで、まるで世界最高水準のチームと一緒に働いているような状態に近づけると良いなと考えています。
―― その中で、「Findy Insights」はどんな組織に向いていると感じますか?
加藤:開発者が少なく、一方で社内外から多くのフィードバックを受ける非対称な組織にはすごく向いていると思います。インハウスでアプリやプロダクトを作るケースでは、App Storeのレビューのように外に声が溜まるわけではないので、信頼できる基盤の上で声を聞ける価値は大きいです。
今後、ClaudeやDevinのようなツールが発達・普及することで、開発者の人数はさらに減っていくと推察されます。ですがユーザーの声を聞く必要性自体はなくならず、むしろそこが最大のボトルネックの一つになるとも考えられます。そのような未来に、どれだけ多くの意見が来ても一旦集約してくれる仕組みがあるのは、かなり有効だと思います。コスト感でお伝えしても、単純に1人の人間を雇うよりは安い感覚です。
生成AI時代におけるプロダクト企画支援AIエージェント「Findy Insights」の役割とは?

―― 生成AIの進化によって、多くの業務がAIで代替される可能性が語られています。そうした時代において、「Findy Insights」はどのような役割を担うと考えていますか?
稲葉:生成AIの進化によって、「情報を集める」「分析する」「文章にまとめる」といった作業そのものは、すでにかなりの部分がAIで実行できるようになってきています。
その意味で、単にデータを蓄積したり、分析結果を表示したりするだけのツールは、これから価値を出し続けるのが難しくなると思っています。汎用モデルで代替できる領域しか担っていない場合、ユーザーとしては「AIを直接使えば良いよね」という判断になりやすいからです。
一方で、AIを活用していても企業の現場では、「顧客の声や市場の情報が各所に散らばっている」「どの情報をどのように整理し、何を意思決定に使うべきかが揃わない」「分析結果が出ても、次のアクションにつながらない」といった課題が依然として多く存在しています。
「Findy Insights」が目指しているのは、単なる分析ツールではなく、「意思決定のプロセスそのもの」を支援する存在です。顧客の声や市場の情報を構造化し、AIによってインサイトを抽出するだけでなく、どの指標を基準に意思決定するのか、どのように次の開発や施策へつなげるのか、といった意思決定の基準やワークフローまで含めて設計していくことを大切にしています。
例えば加藤さんのケースでも、フィードバックを収集する仕組みを作ること自体が目的ではありません。その情報をもとに、次のプロダクト開発や改善にどう繋げていくのかというプロセス全体を整えることが重要です。
生成AIによって「分析」は誰でもできる時代になります。だからこそ、これからは分析結果をどのように意思決定につなげるか、そしてそのプロセスを組織の中で再現可能にすることが重要になります。
―― 最後に、加藤さんが大切にしているプロダクトづくりの価値観を教えてください。
加藤:言語化するとすれば、「手触り感」ですね。世の中的にこういう課題がありますよね、という大きな話だけでは、自分としてはあまり熱が入りません。「ネットワーク調査が大変だった」「5Gの検証がつらかった」など自分自身の実感や原体験があるテーマだとガッツが出ます。今回の取り組みも、開発者としてネットワーク品質にプライドを持ってきたからこそ、「どう良くするか」に本気で向き合えた部分があります。自分が当事者として感じた痛みから始めた方が、良いプロダクトに近づく気がしています。
―― ありがとうございます。加えて、今回のDePIN型プロダクトが目指していることもお願いします。
加藤:一言で言うと、ポイ活(ポイント活動)ですね。ネットワークデータはこれまでも取られてきましたが、ユーザーへの還元は十分ではありませんでした。なのでデータを提供してくれた人に対価を返しながら、そのデータを使って「あなたの生活圏で最適な利用方法・手段は何か?」という判断までできるようにしたいと考えています。
公共性の高いモバイルインフラだからこそ、客観的なデータに基づきユーザーにとって最適な選択肢を示す世界は、社会的にも意味があると思っています。その上で、最終的に「ドコモがやはり良い」と選ばれるネットワークを目指す。それが本来あるべき姿なのではないか、と考えています。
編集後記
生成AIによって「作る速さ」が上がった今、次にボトルネックになるのは「何を作るか」を決めるプロセスなのだと、改めて感じさせられる取材でした。特に印象的だったのは、AIを「判断の代行者」ではなく、「人間の思い込みを外すための補助線」として使っていた点です。最先端のDePINの話でありながら、根っこにあるのはとても地に足のついた開発の営みでした。そこをサポートする「Findy Insights」のような専門的なAIエージェントおよび関連サービス群が、今後ますます求められると感じた次第です。
取材/文:長岡 武司
撮影:大森 光太郎
提供:ファインディ株式会社