複数のコミュニケーションチャネルを一元管理、国産のCPaaSで開発現場の変革を狙うネクスウェイの想い
SMSやメール、メッセージングアプリ、音声/ビデオ通話、郵送、FAXなど、企業にとっての顧客接点チャネルは実に多岐にわたります。
できることならば取りうる全てのチャネルを採用して顧客接点の最大化を図りたいところですが、チャネルの増加は管理コストの増大をもたらします。異なるチャネルごとに独自のシステムやツールなどが必要になることが多く、またそれに付随する様々な書類や契約のやり取りなどが発生するがゆえに、情報とオペレーションの統合難度が高く、結果として管理が煩雑になって運用コストも増えるというわけです。
そこで近年注目されているのが、異なる種類のチャネル群をAPI連携などによって一つのプラットフォーム上で管理する、「CPaaS」(Communications Platform as a Service、読み方:シーパース)という考え方です。
各チャネルを集約管理することで顧客コミュニケーションのDXを促進し、管理/運用コストを削減して本業へのリソース配分を増やせる戦略的施策として、米国を中心に日本でも急速にニーズが高まっています。
今回はCPaaSへの社会的ニーズを先取りし、「CPaaS NOW」として早い段階から国内でソリューションを提供している株式会社ネクスウェイの担当メンバー3名にお話を伺いました。
目次
プロフィール
コミュニケーションプラットフォーム事業部 事業部長
コミュニケーションプラットフォーム事業部 領域営業グループ グループマネージャー
コミュニケーションプラットフォーム事業部 企画・運用グループ
エンドユーザーの受け取り方の多様化によって必要とされるようになった「CPaaS」の考え方
―― 「CPaaS」という言葉について、聞き慣れない方も多いのではないかと思います。まずは、CPaaSとは何かについて教えてください。
加藤:CPaaSはここ最近でアメリカを起点に広まり始めた概念です。メールや郵送、SMSなど、複数チャネルを一元管理できるプラットフォームサービスの総称で、グローバルで先頭を走る企業としてはTwilio社とVonage社の2社が挙げられるかと思います。
―― どちらも電話やSMSのイメージが強い気がします。
加藤:おっしゃる通り、もともとは両社とも電話やSMSを主力製品として世界的な成長を遂げてきた会社です。その過程で様々な会社を買収して、例えばメールやメッセージングアプリが入るなどして、徐々に「総合コミュニケーション企業」へと変容していきました。
竹野:CPaaSが求められるようになった背景について少し補足をしますと、「エンドユーザーにとっての情報の受け取り方の多様化」が、一番の大きな要因だと言えます。以前は単一のコミュニケーションチャネルを持っていれば大半のエンドユーザーとのやり取りが可能でしたが、受け手のニーズが多様化したことで発信側もそれに対応しなければならなくなった。一方でチャネルを増やすと、主に企業サイドの管理/運用コストが増えてしまうということで、各チャネルを束ねるような動きが必然的に生まれていったということです。
―― そう考えるとSMSはきっかけの一つではあるものの、SMSありきの概念というわけではないということですね。
竹野:最近では2段階認証の手段としてSMSが多く利用されているなど、市場としてはまだまだ伸びる分野だと捉えています。しかし今後の技術革新の方向性によっては、もしかしたら3〜5年後にはSMSが主流ではなくなってくる可能性はありますね。
―― 複数チャネルが必要なことは理解できたのですが、具体的にどのように顧客コミュニケーションを設計していくのでしょうか?
石井:あくまで一般的な考え方になりますが、情報伝達のコストが低い方法から対応していくことが多いです。例えば、まず全員へeメールを送ることからスタートし、届かない方に対してはSMSで、それでも届かない方に対しては郵送で対応し、さらにダメならば電話して、最後は訪問するというイメージです。「CPaaS NOW」の活用案として、行政の納税通知のようなケースがあります。メールのような電子的な手段で受け取れる方と、郵送でないと受け取りが難しい方がいらっしゃることから、それぞれの手段について「CPaaS NOW」で一元管理しながら対応するといった運用を可能にしています。
PdMやエンジニアの工数削減が、「CPaaS NOW」開発のきっかけ
―― CPaaSの概念が理解できたところで、貴社の「CPaaS NOW」製品についても教えてください。
加藤:基本的には先ほどお伝えしたCPaaSの考え方を踏襲し、複数のコミュニケーション手段をAPIで繋げるプラットフォームサービスとしてご提供しています。メールや郵送、SMSなど複数チャネルを別々のベンダーで契約することなく、「CPaaS NOW」を通じて一元管理することで運用の効率化が図れます。また開発や運用工数の削減にもつながることから、PdMやエンジニアの皆さまがよりコア業務に集中できるような環境を整備できるとも考えています。「PdM/エンジニアの工数削減」が、「CPaaS NOW」開発の直接のきっかけでした。
―― 具体的にはどのようなことでしょうか?
加藤:私が「CPaaS NOW」に関わる前は、「SMSLINK」というSMS配信サービスの立ち上げに携わっていまして、そこでの経験から、いかに人を介在させない形で自動連携させるかが大事だと感じていました。となるとサービスとしてはAPIでの提供となり、必然的にご利用いただく方はシステムエンジニアになります。一方で現在の採用市場に目を向けてみると、どの会社でもシステムエンジニアの採用に苦労されています。だからこそ、人がいない中でも工数をかけず、安心・安定した形で複数チャネルの管理/運用をできるようにする。そのようなコンセプトで設計を進めたのが「CPaaS NOW」です。
竹野:機能の例として、「CPaaS NOW」では送信だけでなく、その前後までカバーしています。例えば送信失敗になったリクエストを別の送信チャネルで自動再送信する「Fallback機能」をご用意しているので、不達理由や再送処理をハンドリングする仕組みの構築や運用が不要になります。
―― 国内では貴社がCPaaSソリューションで先陣を切っていると思いますが、グローバルで考えると先ほど挙げられた2社をはじめ、海外発のCPaaS製品が多いかと思います。それらと比べた際の特徴や強みを教えてください。
加藤:まず弊社がFAX一斉同報サービスの提供を開始してから35年以上にわたり、通信サービスを提供しているのは大きな強みです。FAX・郵送・eメール、また今回お話ししているSMSなど、多岐にわたって通信に関するサービスを提供してきました。SMSサービスを提供されている会社さまは日本国内でも相当数いらっしゃいますが、事業としては長くても10年ほどで、SMSを専門にされている場合も多いと思います。弊社の場合は「通信サービス」という括りで様々なチャネルを提供してきていますので、そのあたりのノウハウを持っている点は大きいですね。
中でもSMSの「到達率の高さ」は一番の強みです。そもそもSMS配信事業者は大きく2つに分られます。国内4大キャリアと直接接続をしている我々のような「直収」と呼ばれる事業者、国際回線網を経由して日本に配信している海外配信事業者です。後者の場合、往々にしてSMSが届かないという事象が発生してしまい、とあるサービスでは到達率が60%近いといったデータも上がっています。一方で「CPaaS NOW」は、携帯キャリア直接接続のSMSや国内市場にも準拠したメール機能によって、海外製品群と比べて常に高い到達率でメッセージが届きます。
―― 先日海外にいた際に、銀行のマイページログイン認証でSMS記載のコードが必要だったのですが、肝心のSMSが届かずに大変困りました。そういった事象の発生確率が低いのは、エンドユーザー的にものすごく大事ですね。
加藤:ネクスウェイでは24時間365日対応しているサービスを複数運用しており、中には止まってはいけないミッションクリティカルな領域をカバーしているものもあるので、そういったトラフィックを遅滞なく動かし続けるノウハウを活かせている点も大きいと思います。
竹野:専任担当が24時間365日体制で監視していますからね。また、日本国内のスタッフでサポートしている点も、海外製品群と比べた際の特長かと思います。
―― たしかに海外製品だと日本語未対応のものも多いですし、問い合わせ窓口があってもタイムゾーンの違いによって対応や解決までに時間がかかることも多そうですね。
竹野:加えて、CPaaSの管理チャネルに「紙メディア」を持っている点も、ネクスウェイならではの強みの一つかなと思います。もともとネクスウェイでは請求書発行サービスも提供しており、そこでメール/郵送というオンライン/オフラインでの伝達の仕組みを持っているので、その強みを活かす形で「CPaaS NOW」にも実装させています。
まず1つのチャネルを登録し、必要に応じて簡単にシステムを拡張
―― プロダクト開発を進めるにあたり、どのような点に苦労されましたか?
加藤:技術的な観点で大きく苦労する部分はなかった一方で、ソリューションとして各機能をまとめるのに苦労しました。というのも、ネクスウェイは単一サービスを立ち上げるのは得意ですが、組み合わせて商品にするというアプローチはほとんどしてきませんでした。またターゲットについても、これまでのサービスは主に企業の企画部門やマーケティング部門を対象にしていましたが、今回は完全にシステム部門に特化したプロダクトということで、しっかりとしたヒアリングの実施が必要でした。
―― 具体的にどんな企業が「CPaaS NOW」を導入されているのしょうか?
石井:SaaSベンダーさまや、コンタクトセンターの構築が得意なSIer・受託開発企業さま、それからシステム開発部門を保有し、自社用にシステム開発ができる企業さまなどですね。エンドユーザー向けの認証利用を目的に、EC事業者をはじめコンシューマー向け事業を展開している会社さまからのご相談も多くなっています。2024年4月からなのですが、有難いことに、2024年8月現在まで70ID以上のご契約を頂いております。
―― 各社どのようなポイントを特に評価して選定されているのでしょうか?
竹野:提供価値で高評価をいただくのが、システムとしての「拡張性」ですね。「CPaaS NOW」を導入いただく際、多くの場合は「まずは一つのチャネル」から登録いただいています。例えば最初はSMSだけなのですが、運用をする中で郵送も必要になるし、eメールや電話も必要になる。そのような場合でも後からコードを追加するだけですぐに新たなチャネルを追加できるという拡張性へのニーズが高いですね。
―― お客さまからのフィードバックや、今後の展開に向けての現時点での課題などについても教えてください。
加藤:よく頂くご要望として日本特有のチャネルであるLINEやFacebookがあり、検討が必要だと捉えています。LINEの中でも「通知メッセージ」という電話番号ベースの通知方法があるので、そういったものは実装していきたいなと。あとは、SMSのすぐ隣にあるのが「+メッセージ(プラスメッセージ)」という、携帯キャリア3社主導で進めている「RCS」です。
―― RCSって何ですか?
加藤:Rich Communication Service(リッチコミュニケーションサービス)の略で、Googleが普及を進めている規格です。SMSの代わりとなるサービス規格で、SMSではできないファイルの送受信やコンテンツの共有などができます。こういったものにも今後対応していこうと考えています。
石井:製品そのものはもちろんなのですが、それ以前に「CPaaS」という概念をもっと広く知っていただきたいと考えています。冒頭でお伝えした通りCPaaSは生まれて間もない考え方なので、まだまだ世の中から認知されていません。CPaaSの認知向上に向けた施策を打っていき、CPaaSがないことによるペインを顕在化させていきたいと考えています。
エンジニアの皆さまのお手伝いをしたい
―― サービスとしての今後の展望をお聞かせください。
加藤:各チャネルからのメッセージ配信前後をいかにフォローできるか、どう作っていくかがポイントだと考えていて、自社でのオムニチャネル実装支援という観点で、機能やサービスを拡充していきたいです。またご利用開始までのタイムラグをもう少し減らすべく、よりテックタッチな仕組みでサービスをお届けしていきたいとも考えています。
―― たしかに、お申し込みから実際のテスト開始まで複雑な手続きがあると、億劫に感じてしまいますね。
加藤:SMSサービスを探して一通り資料請求し、NDAを結ぶなどしていると、あっという間に1週間、2週間が経過します。仕様を見るまでに相当大変で時間がかかるのが一般的なこの状況が非常に勿体無いので、営業が介在せずにお試しできるようにしたいと考えています。また、何かしらのチャネルを開けていたら他のチャネルもすぐにテストができるような仕組み化も進めようとしています。
竹野:配信前後の設計という観点ですと、ネクスウェイでは例えばeKYC(electronic Know Your Customer)などの本人確認ソリューションも提供しているので、それら付帯サービスと「CPaaS NOW」を掛け合わせてのご提供も増やしていきたいと考えています。そのためにも、より積極的にセールスパートナー/ソリューションパートナーを開拓していき、皆さまと協働していく予定です。
石井:SMS市場は2030年まで25%以上の成長率で拡大していくと試算されているので、CPaaSもそれ以上のペースでの成長を牽引していく存在になりたいです。そのためにも、繰り返しになりますがCPaaSそのものの認知拡大が必須と捉えています。
―― ありがとうございます。それでは最後に、読者の皆さまにメッセージをお願いします。
石井:少し大袈裟かもしれませんが、コミュニケーションチャネルを取り巻く開発現場を変えていきたいと考えています。そういう意味でも、エンジニアの皆さまとフラットな関係性で座談会や意見交換などを積極的に行っていきたいと考えています。
竹野:石井と同様、シンプルにエンジニアの皆さまのお手伝いをしたいと考えています。事業ですら方向性が頻繁に変わる時代において、開発も常に変わると思うからこそ、拡張性や柔軟性に円滑に対応できる仕組みとして「CPaaS NOW」を設計しています。ご導入いただくことで、業務の面倒さや不確実性への対応の一助になれば幸いです。
加藤:ネクスウェイでは様々なサービスで多様なチャネルの送信運用をしていますので、裏側の大変なオペレーションを十分に理解しています。今、世の中は多チャネル化の傾向にあると思うので、一から自社でコミュニケーションチャネルの開発/管理をしようとすると、想像以上に大変な思いをされるのではないでしょうか。私たちのノウハウが詰まった「CPaaS NOW」を通じてその部分の負荷を大幅に軽減し、より多くの素晴らしいサービスの誕生に間接的ながらも寄与したいなと思います。
編集後記
ニーズの少なくなったチャネルは使用頻度こそ減少するものの、その数がゼロになることはないでしょうから、チャネルそのものを存続させる必要があるケースが多いでしょう。その際に、自社で開発を進めるとなると、例え利用人数が1名でも相応の管理/運用コストがかかることが考えられます。今回お話を伺った「CPaaS NOW」のようなプラットフォームを活用することで、そのような「例外」を含む運用も低コスト・低工数で対応できるのではないでしょうか。気になる方は、ぜひ一度お話を聞いてみてはいかがでしょう。
取材/文:長岡 武司
撮影:伊東 祐輔