国内クラウド運用の最適化に向けて、「Hitachi Application Reliability Centers(HARC)」の日本展開に奮闘する日立エンジニアたち

多くの企業がDX施策の1つとしてオンプレミスからパブリッククラウドへの切り替えを推進しており、社内における情報共有から顧客へのサービスデリバリーの高速化まで、様々な恩恵を享受する過程にあると言えます。

一方で、部門や業務ごとにクラウドを利用するが故に、クラウド活用のサイロ化が進み、運用の負荷が着々と増えている企業も多いのではないでしょうか。従来のオンプレミスで培った運用体制をそのままクラウドに適用しようとしても、対応には限界があり、結局のところシステムの信頼性やセキュリティの低下につながってしまうケースも後を絶ちません。

そんな中、株式会社 日立製作所では2023年6月より「Hitachi Application Reliability Centers(HARC)」と呼ばれるサービスを国内向けに展開を開始しました。HARCは、日立の米国子会社・日立ヴァンタラ社(Hitachi Vantara LLC)*¹が北米を中心に展開しているサービスで、システム運用の自動化を推進する「SRE(Site Reliability Engineering)」の手法に基づき、俊敏性と信頼性の両立やセキュリティの強化、クラウドコストの最適化等を図るためのサービスです。

*¹ 2023年11月1日付で日立ヴァンタラ社のデジタルソリューション事業が分社化し、「Hitachi Digital Services」が設立された(https://www.hitachi.co.jp/New/cnews/month/2023/10/f_1027c.pdf

今回は、HARCの国内への展開を進めている日立エンジニア3名にお話を伺いました。

プロフィール

三井 小吾(みつい しょうご)
株式会社 日立製作所
クラウドサービスプラットフォームビジネスユニット
デジタルプラットフォーム事業部 ソフトウェア・サービス開発本部
ソリューションサービス推進部 第2G 主任技師
(兼務)クラウドサービスプラットフォームビジネスユニット
マネージドサービス事業部 クラウドマネージドサービス本部
クラウド&デジタルマネージドサービス部 第4G 主任技師
2001年、日立製作所に入社。長らくストレージの設計開発及びプロダクトマネジメントを担当。日立ヴァンタラ社との付き合いが長く、ストレージ分析SaaSのプロジェクト管理や、ストレージ従量課金サービスの企画 / 検討など、複数回にわたり同社へと出向。北米を中心に展開されているHARCの国内展開を推進する。現在は、HARCのエバンジェリスト的な存在として、メッセージ発信の思想・アイデア出しからプレゼンテーション資料の作成、フロント・顧客とのミーティングでの交渉・折衝まで幅広く担当している。

 

松沢 敏志(まつざわ さとし)
株式会社 日立製作所
クラウドサービスプラットフォームビジネスユニット
マネージドサービス事業部 クラウドマネージドサービス本部
クラウド&デジタルマネージドサービス部 第2G シニアクラウドアーキテクト
2007年、日立製作所に入社。Linuxカーネルなどのソフトウェア開発や、Red Hat製品(Linux/OpenStack/OpenShiftなど)のテクニカルサポート、VMware/Microsoftなどの技術を活用した国内ハイパーコンバージドインフラビジネスの企画/立ち上げなどを経験した後に、2020年4月の日立クラウドCoEチーム設立とともにクラウドエンジニアとしてのキャリアを開始。クラウド(AWS/Azure/Google Cloudなど)の活用コンサルから設計/構築、コード開発、稼働後の改善/問題解決支援など幅広い経験から得た技術専門性を活かし、現在はHARCチームの技術面における牽引役としてサービス品質やチームの生産性を高める役割を担当。クラウド系資格を30ほど保有し、2021年から3年連続でJapan AWS Top Engineersに選出されている。

 

白井 達也(しらい たつや)
株式会社 日立製作所
クラウドサービスプラットフォームビジネスユニット
マネージドサービス事業部 クラウドマネージドサービス本部
クラウド&デジタルマネージドサービス部 第2G 技師
2015年、日立製作所に入社。学生時代からコンピューターが好きで、大学では情報系を専攻しつつ、スタートアップ企業にてシステム開発にも従事。入社後はエンタープライズ向けシステムの設計開発に従事した後に、2020年からクラウドエンジニアとしてのキャリアを開始。 2021年よりCloud and Application Managed Service(CAMS)の立ち上げに参画。クラウド環境構築のベストプラクティスを盛り込んだIaC(Infrastructure as Code)テンプレートの開発を牽引。現在はHARCの国内展開に向けたソリューションアーキテクトとして、HARCのサービス開発、およびプレ活動としての各種トライアル案件取りまとめを担当している。AWSの認定資格を9つ保有。

米国発プロフェッショナル・マネージドサービスを国内でローカライズ展開

――まずは「HARC」が立ち上がった経緯と、サービス概要について教えてください。

三井 : 背景からお話しさせていただきますと、Hitachi Application Reliability Centers(HARC)およびその前身となるサービスは、1年半前から日立ヴァンタラ社が提供しているサービスです。同社はもともと日立製作所製ストレージの販売会社で、10年ほど前から徐々に業態を広げていき、ソフトウェアサービスも手がけるようになってきました。

その過程で組織構造改革が何度かあり、2020年にはCognizant Technology Solutions Corporation出身のCEOに変わり、そのタイミングで何人かのシニアコンサルタントが日立ヴァンタラ社にジョインしたことが、HARCの始まりでした。当時、ストレージに関連したインフラストラクチャのマネージドサービス部署はあるにはあったのですが、基本的には運用を請け負う部署でした。
新たにジョインしたコンサルタントがコアメンバーとなって、HARCの原型となる体系を作り上げ、2022年2月にHARCという形でリリースをしたという経緯があります。

そこで得た知見やノウハウを日立製作所のメンバーに移植しつつ、日本市場向けに調整したものが、2023年6月にリリースした国内版HARCということです。

クラウド運用のめざすべき姿を、REACTIVE(反応的)、MANAGED(管理的)、PREDICTIVE(予測的)、PREVENTIVE(予防的)、CULTURAL(文化的)という5つの成熟度レベルで捉えている。その上でHARCでは「アドバイザリ」「デザイン」「運用管理」「クラウドコスト管理」という4つのサービスカテゴリーを用意し、顧客の運用レベルの向上をめざしている

三井 : サービスとしては大きく2つあり、1つはアセスメントサービス(上図のアドバイザリサービス)で、現状分析して目標とするところを定め、ギャップ分析をして打ち手を提案するというものです。そしてもう1つはマネジメントサービス(上図の運用管理サービス)、アセスメントの結果を踏まえて運用改善のためのデザイン(実装)とラン(実行)を行っています。

――北米と日本では、ターゲットとなる企業やその課題に違いはあるのでしょうか?

三井 : 大きく違います。米国の方が相対的にクラウド活用は進んでいるので、開発チームがスピーディーに開発していくのですが、運用がそのスピードに追い付いておらず、サーバーが落ちてしまうといったご相談が多くあったわけです。
HARCが立ち上がったときは、そのような課題を持つお客さまをターゲットとしていました。

松沢 : Hitachi Application Reliability Centersという名前も、クラウド上に展開したお客さまのアプリケーション/サービスが頻繁に止まってしまう、オンプレミスと同じやり方では通用しないといった課題を解決したい、という思いからつけられていますしね。

オンプレミスだとハードウェアも故障しにくくなってきていますし、サーバー同士も物理的に非常に近い位置にあるためサーバー間の通信性能も高いレベルで安定的なのがあたりまえですが、クラウドだと気づいたらサーバーが再起動していた、再起動しただけでサーバー間通信のレイテンシが変わってしまったがあたりまえだったりします。
前提が全然違うため、従来のまま、オンプレミスのやり方のまま、暗黙の了解で省略していた部分を抜きにしたままで運用してしまったがためにトラブルを起こしてしまうことが北米では少なからずありました。

三井 : 一方で国内市場は、海外と比べてまだまだクラウド活用が進んでいませんし、石橋を叩くような進め方なので、現状はサーバーが落ちて困っている、というケースはあまり見受けられません。
しかし、このままではオンプレミスの延長線上で運用してしまい、それに起因した障害や炎上が起こる危険性を抱えている企業は散見されます。
ですから、アセスメントで現状分析をするというのが、特に国内では重要になってきています。

――なんとなくですが、北米だと「まずはやってみて、課題が生じたらそのときに対応しよう」みたいなところがある印象です。

三井 : そうですね。あと、切迫感のレベル感も違うなと。いわゆるハイパースケーラーと呼ばれるAmazonやGoogleといった企業のお膝元が米国であって、それ以外の企業は常にディスラプトのリスクに晒されています。「次は自分たちかもしれない」という切迫感が日本と全然違うのも、スピーディーにリリースしていく文化の所以の1つなのかなとも感じます。

「クラウドリフトは手段であってその先が大事だ」と認識されているお客さまがターゲット

――国内向けのHARCは、具体的にはどのようなお客さまに適していると考えていますか?

三井 : クラウドリフトをする目的は、大きく2タイプに分かれると思います。つまり、コスト削減を主目的としてご相談いただくケースと、クラウドリフトは手段であってその先が大事だと認識されているケースです。前者のお客さまは本質的に運用改善を必要とされていないので、HARCを採用するのは適していないと言えます。

もう1つ別の観点でお伝えすると、すでに日立が運用に携わっているお客さまと、そうでないお客さまでも、ずいぶんと話が変わってきます。前者は、何らかの提案をこれまで行ってきているので、経緯を踏まえずにいきなり「アセスメントです」と言っても、お門違いの提案になってしまいます。ですから、今までの取り組みとの整合性を踏まえる必要がありますし、その際は、お客さまの課題が明確に分かっていることが前提になります。一方で後者は、第三者的な観点からクラウドプロフェッショナルとしてアドバイスをするというアプローチで入っていきます。

――コスト削減のお話がありましたが、運用=コストとして見る企業経営者は多い印象です。

三井 : おっしゃる通り、国内のエンタープライズ企業では、運用をコスト部門と見ているケースは多いです。よくある話として一律で全体のコストを圧縮するというものがありますが、本当に圧縮すべきところと、伸ばしていくところがあると考えています。
我々の提供するHARCは、後者の伸ばしていくところを最適化していくものなので、前者の圧縮を期待されているのであれば、コストパフォーマンスは悪いですと正直に申し上げていますね。

松沢 : とはいえ、「運用=コスト」の辺りは、少しずつ認識が変わってきているのかなと思います。GoogleがSRE(Site Reliability Engineering)を提唱するなど、システムの信頼性とビジネスの俊敏性の両立をさせる手法の重要さが世の中に少しずつ知られてきていると感じますし、信頼性と俊敏性の両立の重要性に対して共感をしていただける経営層も多くなってきていると感じています。
また、運用に携わるエンジニアの方々の中には、従来の手順書ベースの定常作業をやるだけの運用のままだと技術的な成長が難しく、キャリアに対して漠然とした不安を抱えているといったことも耳にします。

一方、SREの考え方では運用をするエンジニアには高いスキルが求められるので日々の業務を通じてエンジニアとしての成長も望めますし、エンジニアの将来への不安の解消、ひいては離職率の低減などにもつながってきたりするのではと思っています。

三井 : そういう意味では、お客さまの中でもレイヤーや世代によって反応は違います。例えば部門長や営業に話を持っていくとものすごく盛り上がるのですが、その流れで経営陣に持っていくと「コストも大事なのでは」という反応に終始することが多々ありました。この辺りの認識は2、3年ではなかなか変わらないと思います。

――なるほど。国内でHARCを展開するにあたって、皆さまは具体的にどのような役割分担をされているのでしょうか?

三井 : ソリューションセールス(GTM)として、HARCのセールスメッセージやコンテンツ開発を担当しています。また、社内外での各種イベントの実施を通じた認知度向上や案件獲得の推進、さらにはコンテンツ(提案資料等)の継続改善も担当しています。平たくお伝えすると、ひたすらお客さまとお話をして案件化していくというところをやっています。

松沢 : 私はクラウドアーキテクトとして幅広いジャンルの数多くの案件対応を通じて得たナレッジやスキルなどを活かし、HARCチームの技術面での牽引役としてHARCで提供するサービスや案件ごとの成果物の品質、チームの生産性、技術力を高めていくといった役割を担っています。
また、HARCブランドでグローバルに展開する各種クラウドネイティブ向けサービスと似たことも国内のお客さまへ提供してきた経験があるため、日本でサービスを提供するにあたってHARCの実力値の見極めなども含めてインドのHARC拠点にて現地トレーニング(OJT)を受けてくるといった活動もしてきました。

白井 : ソリューションアーキテクトとして、マチュリティ・アセスメントサービスの設計含めて、HARCの開発や各種トライアル案件取りまとめなどを担当しています。また、日立ヴァンタラ社のエンジニアとのカウンターにおけるキーメンバーとしても活動しています。松沢さんと同様に、私もインドでトレーニングを受けてきました。

――インドでのトレーニングは、どのような目的でどのようなことをされたのでしょうか?

白井 : 日本でHARCを立ち上げるにあたり、HARCのサービス仕様やデリバリーの仕方を具体的に把握する必要がありました。インドのハイデラバードにある日立ヴァンタラ社のオフィスに伺い、彼らがサービスをデリバリーしている様子を横で見せてもらいました。特にデリバリーの仕方に関しては、現地のエンジニアからヒアリングすることで効率的に把握できました。

松沢 : 私はインドチームのエンジニアと一緒に社内のトライアル案件を通じてクラウドコスト・アセスメントサービス提供の流れを一通り体験することで、それぞれの作業のやり方やその作業でなにを考え、なにに注意しなければいけないか。また、日本にサービスを持ってくるときに、日本のお客さまに向けて追加や修正すべきポイントはないかといったことの検討や、インドチームが提供する現在のサービスの改善ポイントをまとめて技術的なフィードバックするといった活動も行ってきましたね。インドには3週間ほど行っていました。

4〜6週間かけてお客さまの運用課題をあぶり出す

――お客さまからはどのような形での引き合いが多いですか?

松沢 : 現在クラウドを活用していて、このままの運用だと将来的に破綻するのではないかといった課題を実際に抱えているお客さまだけではなく、HARCが解決したい課題やコンセプトに強く共感をいただき、ビジネスアジリティとシステムの信頼性を両立していくやり方を自社にも組み込んでいきたいと考えるお客さまからの引き合いが多い印象です。

そして、その第一歩目として、さきほど白井さんが申し上げたマチュリティ・アセスメントサービスと呼ばれる、クラウド運用のあるべき姿とお客さまの現状とのギャップ分析を行い、お客さまの定めたゴールに向かってどんな優先順位で何をやっていけばよいのかをご提示するアセスメントから実際にはじめてみるといった形で進めさせていただいてます。

白井 : マチュリティ・アセスメントとしては、「インシデント管理」「可観測性(オブザーバビリティ)」「リリース管理」「継続性/回復性(レジリエンス)」「拡張性(スケーラビリティ)」の5つの評価観点を基本として診断を進めていくのですが、4〜6週間ほどかけてシステムの信頼性を評価していきます。

――4〜6週間。想像していた以上に長い期間をかけて評価を進めるんですね。具体的にどのようなことをされているのでしょうか?

白井 : 流れとしては、まずは事前準備としてお客さまのシステムの設計書等の情報を共有していただき、それをチェックします。それが完了したら、次は各ご担当者へのインタビューを実施します。1セッション2時間くらいで、例えばある時はスケーラビリティに関して説明をしてもらいました。それをスコアリングシート等を活用してスコアをつけていきます。並行して具体的なデータもいただき、分析を進め、インタビューの結果(スコア結果)と併せて最後に課題等を抽出し、30〜50項目程度の「推奨改善項目」としてご提案します。

――インタビューも実施されるんですね。

松沢 : やはり実際の設計書やシステムを見ただけでは、どのような運用をしているのかが見えにくいので、実際にお話を伺うことが大切ですね。

白井 : あと、お客さまも社内でチームが分かれていますよね。例えば技術的なことは開発チームが詳しいけれども、運用については運用チームに聞かないとわからないことも多いものです。ですから、インタビューでは様々なチームの方に来ていただきます。その際に、システムの全体マネジメントを担当している方にはずっと同席いただくので、インタビューを進める中でその方の理解もより深まる、という効果もあります。

――このアセスメントを経ない形でのご支援もあるものでしょうか?

三井 : 基本的には、全てのお客さまでアセスメントを実施してほしいとお願いしています。と言いますのも、運用改善と銘打ってご支援をするわけですから、当然ながらお客さまと我々との間でも認識を合わせる必要があります。現状と目標の認識/目線を合わせるためにも、アセスメントは極力実施するようにしてます。

日本のお客さまでは、まずはレベル3(主要な機能はすべて実装されている状態)まで段階的に持っていきましょうという提案が現実的

――リリースされて間もないのですが、可能な範囲で具体的な事例を伺いたいです。

三井 : 社内の事例になりますが、例えば自社のIT部門では、運用を他のベンダーさんがやっています。そこに対して本部署の方から第三者的な目線からの評価をしてほしいという話があり、HARCアセスメントを実施しました。

あともう1つ、産業分野のお客さまの運用を行っている日立製作所のSE部門での事例です。自分たちの中で運用改善するための道具として使いたいというご要望をいただいており、実は来週からアセスメントを白井さんが実施するという流れになっています。国内だと他にも十数件近くの案件が、社内外含めて並行して進んでいるので、早くもチーム内の工数感は忙しくなってきています。

白井 : アセスメントは先程ご説明した5つの評価観点に沿って行いますが、成熟度が低い評価観点がある場合にはそこがボトルネックとなります。例えば、オブザーバビリティの成熟度が低い場合は、システムの障害をユーザより先に検知できなかったり、効率的なトラブルシューティングが行えない場合があります。アセスメントでは、SREの成熟度レベルについてシステム全体を横串しで確認し、如何に全体的にレベルを引き上げるかを探り、改善策をご提案します。

――プロジェクトを進めていくにあたって、難しいポイントは何でしょうか?

三井 : どういう順番で何を改善していくかというのは結構悩ましい問題です。と言いますのも、総論賛成各論反対という人はたくさんいらっしゃって、コスト削減に対して自分の部署だと具合が悪い人は必ずいるものです。
つまり、ガバナンスが効いていない中でやるとかえってハレーションが起きるので、例えば海外だとハレーションが起きないところから始めるようにしています。そこから、変えたほうがいいところを徐々に提案しながら周囲を巻き込んでいき、意識変化を少しずつ醸成していくという流れで進めたりしています。

松沢 : 先ほど白井さんが、アセスメントでは様々なチームのメンバーにインタビューするというお話があったと思いますが、お客さまの中には部門間で壁があるようなケースもあります。また、運用チームへ引継ぎが終わったら開発チームは解散させてしまうといったケースも多かったりします。そのようなケースでは、例えば適切なメンバーをアサインしてもらえない、有効な情報を誰も持っていないなどの問題が生じるので、そういう部分は結構大変だと感じます。

白井 : あとはインタビューそのものも難しいです。
まず、お客さまの業種は金融、産業、公共など様々ですので、多岐にわたる業務知識が求められますし、アセスメント対象とするシステムの形態(構成)も多種多様です。例えば、モノシリックなシステムや分散型のシステムなど。クラウドやアーキテクチャに関する幅広い知識や経験も必要になります。

また、アセスメント時点でのお客さまのシステムのマチュリティレベルが5段階のうちのどの段階かに合わせて、インタビューで深堀りすべき内容や進め方が大きく変わってきます。それらの準備を進めるところは、やはり相当難しいなと日々感じています。

松沢 : システムも情報系だけではなく、特殊なセンサーやデバイス、機器などとつなぐシステムなどもあるので、そうなると業界固有の情報や用語をキャッチアップするところから始めないといけないため、そういう観点でも事前準備は大切だし大変ですね。

クラウドで困ったらHARCに相談しておけば安心、と言われるような存在をめざしている

――今回のお話は日立の協創拠点「Lumada Innovation Hub Tokyo(以下、LIHT)」で伺っているわけですが、この場所を活用できることのメリットとしてはいかがでしょうか?

三井 : LIHTのメンバーと連携して、LIHTとHARCのそれぞれの得意分野を組み合わせることができるのがいいなと感じています。つい先日、あるお客さまがLIHTを訪問された際にHARCに興味を持っていただきまして、そこからマチュリティ・アセスメントサービスの適用に向けた議論を進めています。
HARC自体はとがったサービスではあるものの、お客さまが期待しているのはとがったピンポイントだけではなく、日立の総合力、ビジネス的なところも含めてになります。

松沢 : LIHTが得意なお客さまの「こんなことをやりたい」を引き出して課題解決までのロードマップを描く能力に加えて、HARCの「こんなことをやりたい」に対する具体的な実装の提案ができる技術力、といったところで支援の幅が広げられるのではと考えてます。あとは、アクセスも良いですし、お客さま向けのセミナーなどで利用できる場としても魅力的かなとも思います。

――今後のHARCがめざす姿・目標について教えてください。皆さま一人ひとりの描く内容で結構です。

松沢 : ハイパースケーラーの技術を扱うプロフェッショナル集団として社内外から頼られる存在、クラウドで何か困ったらとりあえずHARCに相談しておけば安心、と言われるような存在をめざしていきたいと思っています。あとHARCを利用する側はもちろんなんですが、HARCを提供する側のみんなも胸を張って、HARC大好き、楽しい、やっててよかったってなれたら最高ですね。

三井 : クラウド界隈で見ると、残念ながら日立の存在感は無きに等しく、レガシーな企業という印象が拭い切れていないと感じています。しかし、社内を眺めてみると松沢さんのようなエキスパートがたくさんいます。つまり、世間の認識と実態でギャップがあるなと感じていて、いわゆるクラウドの世界でイケているベンダーとしっかり渡り合ってやっていける実力はあるはずだと考えています。
一方でそのためには一種のアイコンが必要だと思うので、GlobalLogic*2は開発、HARCは運用というところで、日立の潜在能力を引き出して、クラウドの世界できちんと認知してもらいたいと思っています。

*2 日立が2021年7月に買収した、米国シリコンバレーに本社を置くデジタルエンジニアリングの先進企業。

白井 : HARCの国内チームはまだ立ち上げたばかりということで20名ほどですが、中期的には100名以上の規模の組織に拡大したいです。国内で大きな役割を持てるような組織になった上で、その成果を、今度はHARCグローバルに還元していけるようなスキームにしたいと考えています。

――日立で働いていて良かったな、と思うことがあれば教えてください。

白井 : 大規模で責任感のある仕事に関われることは大きいですね。クラウドという切り口だと、シンプルな構成で環境を構築する案件もあれば、リージョンを跨ぐような世界規模のインフラ構築に携わることもできます。日立は特に後者の案件も多く、学べることが多いのでスキルアップの機会が豊富だと感じます。

三井 : 日立という会社にいると、いい意味でとんでもない人財が出てきたりします。そういう人と一緒に仕事ができるのが、面白いなと思います。よく「保守的な会社」だとイメージされますが、これだけ母数がいると本当に面白い人がいて、普通に過ごしていると絶対に会えないような人と出会えるというのが、ユニークなところだと思います。

松沢 : 国内でもトップ企業、だれもが知っているような有名どころの企業を相手にすることが多いので、日本のためにもしっかり良い仕事をしなくては、と気持ちが引き締まります。また日立は、鉄道やエレベーター、自動車関連などのさまざまな分野の事業も扱っているので、一般的なSIer企業よりも幅広い、少し異色な経験ができるのも面白いと感じています。

――最後に、どんな人にHARCチームにジョインしてもらいたいかについてコメントをお願いします。

白井 : お客さま目線で働ける方ですね。どうやったらお客さまがより満足してくださるかとか、お客さまがどんなことに困っているのか、どんなニーズをお持ちなのかなどを常に念頭において仕事をされる方と一緒に働きたいです。

三井 : 先ほどもお伝えしたとおり、日立はクラウドに関してはトップランナーではありませんが、そうなるポテンシャルはあると思っています。二番手・三番手からトップに登っていく、ということを一緒にやっていきたいという野心がある方に、ぜひ入ってもらいたいです。

松沢 : クラウド自身やそれを扱うテクニックは日々進化をしていますので不変的なものを極めるというよりかは、新しいものや変わりゆくものを追っかけるのが好きな人だったり、新しい知識を取り込むために勉強し続けるのが好きな人だったり、とかですかね。あとは、ちょっと自信家で生意気なくらいの方が個人的には好きですね。

編集後記

もともとインフラ領域のエンジニアリングをされていた方々ということで、クラウドのお話をされる中でも様々な引き出しがあり、非常に面白い話を伺うことができました。インタビューでは具体的な顧客数も伺ったのですが、数ヵ月前にリリースしたとは思えないほどいい感じで加速しているので、日立が国内クラウドのトップランナーになるというのも現実的な話なのではないかと感じた次第です。
なお、今回のお話に関連して、2年前にもクラウドエンジニアの皆さまにお話を伺っています。当時の「クラウドビジネス推進センタ」は部署として解散となりましたが、今回のお話の前段になるような内容も含まれるため、こちらもぜひご覧ください(今回のインタビュイーのおひとりである松沢さんも登場されています)。
▶️OT×ITで社会イノベーションに切り込む!今、日立製作所のクラウドエンジニアが面白い

取材/文:長岡 武司
撮影:平舘 平


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