「生きた」ビッグデータを扱うことで感じられるデータ分析業務の魅力をJSOLのデータサイエンティストに聞いた

株式会社JSOL(以下、JSOL)は、三井住友銀行のシステム開発部門を源流の一つに持ち、金融業や製造業に強みがあるSIerとして知られています。2017年ごろからデータ分析やAIの領域にも進出し、金融機関向けデータ分析ソリューションや製造業での異常検知などで大きな実績を上げてきました。

そこで今回はJSOLのソーシャルトランスフォーメーション事業本部 プロジェクトマネジャーの木村 尚登氏と、データサイエンティストの新田 猛氏に、同社のデータ分析業務の特徴や今後の取り組みなどをお伺いしました。JSOLのデータサイエンティストは、社会で動いている「生きたデータ」を活用し、様々なデータ分析業務を進めており、面白さや仕事の魅力を感じているとのことです。

プロフィール

木村 尚登(きむら なおと)
ソーシャルトランスフォーメーション事業本部 プロジェクトマネジャー
2007年、新卒で株式会社JSOLに入社。システムエンジニアとしてキャリアをスタートし、2017年ごろからAI、データ分析業務に携わる。これまで金融機関向けのデータ分析案件や製造業における異常検知に取り組んできた。現在ではプロジェクトマネジャーとして、様々な案件をリードしている。

 

新田 猛(にった たける)
ソーシャルトランスフォーメーション事業本部 データサイエンティスト
2018年、株式会社JSOLに新卒入社。入社以来、データサイエンティストとして様々なデータ分析案件に携わってきた。中心となるのは金融機関向けデータ分析案件、製造業での異常検知・分析。ChatGPTなど生成AIの研究を進めたり、新たな学びを深めたりするなど、新規領域の開拓にも余念がない。

社会で動いている「生きたデータ」を活用してDXを推進


――はじめに、おふたりの自己紹介をお願いします。

木村 尚登氏(以下、木村):JSOLに新卒で入社してから、早10数年が経ちます。当初はシステムエンジニアだったのですが、6~7年ほど前からAIやデータ分析の業務に従事するようになりました。現在は主にプロジェクトマネジャーとして、金融機関向けのデータ分析や製造業の異常検知などの案件に参画しています。

新田 猛氏(以下、新田):私は、2018年に新卒で入社して、今年で6年目になります。入社以来、データサイエンティストとして様々な分析案件に携わってきました。木村とは同じチームに所属しており、現在は製造業向けの異常検知分析を中心に担当しています。

――JSOLが、どのような案件を手掛けているか教えてください。

木村:JSOLの源流の一つが三井住友銀行のシステム開発部門です。そこから株式会社日本総合研究所を経て我々の会社の元となる組織ができ、2006年に現在の形となりました。もともと銀行以外の業界の仕事をしていたこともあり、金融業をはじめ、公共系、製造業、流通業、製薬業など、様々な業界や業種のお客さまへソリューションを提供しています。特徴としては大手のプライム案件が中心で、コンサルティングによるデジタル化・DX推進の支援からシステム構築、アウトソーシングまで幅広くお客さまをご支援しています

私たちが行っているデータ分析の業務領域は、ここ5~6年で本格化していますが、私たちは金融業をはじめ、多くの業界・業種に対してデータ分析に関わるソリューションを提供しています。

――JSOLはパッケージやソリューションを豊富に揃えていますが、実際の開発はクライアントの要望に応じてそれらをカスタマイズする進め方が多いのでしょうか?

木村:部署にもよりますが、データ分析の領域にはパッケージなどがありませんので、お客さまの要件をしっかり確認させていただいた上でデータ分析を行うのが基本です。会社全体としても、お客さまごとにカスタマイズして開発するケースが多いと感じています。

――JSOLでは、どのようなデータ分析案件に取り組むことが多いのでしょうか?

新田:金融機関や製造業の案件が多いですね。この2業種はデータを蓄積して活用する動きが比較的速かったこともあり、事例が多いです。金融業では入出金データを使った分析、製造業の場合は機械や工場のセンサーデータを使った分析が中心です。

――金融機関では、入出金データを用いて企業の業績予測などをすることが多いのですか?

新田:はい。金融機関には、取引先企業の入出金の動きをもとに将来の業績や成長の可能性を分析して営業活動に結びつけたいとの意向があり、そのようなニーズに応えています。

金融機関との取り組みとして、2017年ごろから三井住友銀行さまと一緒になってデータの分析と開発を始めており、他社に先駆けてスピード感を持ちながらサービス化を推進してきました。単純にデータ分析をするだけではなく、データを可視化して、ユーザーにどう開示すれば使いやすいかも意識して開発を進めています。このような経験を実践で積み重ねているのが我々JSOLの強みです。

――JSOLの場合、クライアントは誰もが知っている会社が多く、日本経済に影響を与えるような案件も多いと思いますが、その点をどう捉えていますか?

新田:確かに日本を代表するような企業とやり取りさせていただくことが多いですね。そのような企業だからこそ取り扱えるデータ、例えば先ほどの金融機関の入出金データなど、普通に生活していたら見られないデータを活用して分析できることにJSOLでの仕事のやりがいを感じています。

今まさに社会で動いている「生きたデータ」を扱えるのは、データサイエンティストからすると魅力的なポイントだと思います。

業況変化予測サービス「FinCast®」で金融業界をリードする

――他に先んじて2017年からデータ分析に取り組んできても、予測をするのは難しいと感じられますか?

木村:そうですね。100%近い確率で当てられるかと言えば、正直、そんなことはありません。あくまで今まで人間が業務知見の確率で予測していたのに比べると良い結果になることが多いですが、90%や100%という確率にはならないですね。お客さまが過度に期待してしまうケースもありますので、しっかり説明した上で使っていただく必要があると感じています。

――特に最近はAIブームとも言われますから、期待値のコントロールは難しそうですね。天気予報のように当たると思っている人も多そうです。

新田:天気予報も100%ではありませんが、物理法則が決まっていて数式でモデル化されているので、比較的当てやすいのだと思います。しかし、例えば金融業の場合ですと、どのような現象に対しても必ず当てはまる法則やモデルがないという面があります。また金融機関が顧客の入出金データを全て漏れなく持っていることもないので、一つの金融機関のデータだけを見ても全てを予測できないという難しい側面もあり、天気予報よりもさらに予測が難しいと考えています。

――これまでのデータ分析プロジェクトの中で代表的な事例を教えてください。

木村:これまで話してきた金融系の事例は、当社の業況変化予測サービス「FinCast®(フィンキャスト)」です。金融機関の入出金データを学習して、その現状傾向をもとに1年後の状況などを予測するサービスです。三井住友銀行や七十七銀行に提供させていただいています。予測結果を銀行の審査部が見て、ヒアリングが必要だと判断した顧客企業に対してコンタクトするのが基本的な使い方です。

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製造業におけるデータ分析業務の面白さ

――製造業での異常検知について伺いましたが、これはどのようなことをしているのですか?

新田:製造業での事例の一つは自動車の開発です。自動車開発では通常、テスト走行時に車両に取り付けたセンサーの値を用いて、センサー類が正しく機能しているか、部品に異常がないかなどの異常検知を行っています。我々は、AIを活用してデータ分析を行い、データサイエンスの力でより高い精度で異常を検知できるよう取り組んでいます。

――他にご紹介いただける事例はありますか?

木村:金融業の他のお客さまの事例としては、入出金データから取引先の資金需要を予測するモデルを構築した取り組みなどがあります。製造業の他のお客さまの事例としては、外観検査として、画像から部品や製品の不良品検知をする取り組みなどがあります。他の業種でも、顧客要件などの条件から見積を自動生成するモデルの構築(建設業のお客さま)や、青果物の出荷量を予測する統計モデルの構築(農業団体様)などを行ってきた実績があります。

――製造業におけるデータ分析業務の面白さ、やりがいをどのように感じていますか?

新田:製造業の場合は金融業とは違い、業界や部署によって業務内容が全く異なるため、そもそも得られるデータが違います。加えて分析の内容や、どのようなAIを取り入れたいかというニーズも違います。そのため様々なテーマに触れられるところが分析をする身としては非常に面白いですし、やりがいを感じます。

――非常に幅広いテーマに取り組んでいるのですね。

木村:そうですね。特に最近1年ぐらいは様々な業界・業種の方々とやり取りをする機会が増え、複数の取り組みが始まっています。私はもともと金融系を担当していたので、製造業や建設業については完全に分からない状態でした。業務知識を習得するところからスタートしているので大変ではありますが、面白さも感じています。

――案件はJSOLが主導で進めることが多いのでしょうか?

木村:お客さまと協力して進めていくイメージです。先ほどの製造業のお客さまの例では、お客さまから業務内容や扱うデータ項目の意味などについて教えていただきながら、お客さまが分析で困っていることをサポートするイメージです。

――建設業ではどのように機械学習を活用しているのですか?

木村:今、実際に取り組んだり提案したりしている案件では、データがない、あるいは活用できる状態になっていないステータスのお客さまが多いのが実情です。そのためコンサルティングのメンバーと一緒にデータサイエンティストも入って、「こういうことをしたいのであればこのようにデータを蓄積しないといけない」ということをデータサイエンスの視点からサポートしています。そして最終的に「このようなアウトプットができたら業務に使える」というロードマップを作ることが多いです。

クライアントの「期待値」を超えることがやりがいになる

――多様なプロジェクトを進めてきて、どのようなときに面白さややりがいを感じていますか?

木村:データ分析の案件では、お客さま自身が「きっとこうすれば良いものができる気がするが、どうしたら良いか分からない」という状態であることがあります。一方で、我々はデータ分析の専門家ですが、業務の専門家ではありません。そのため、お客さまの漠然としたイメージを実現するためには、お客さまの業務知識と我々のデータ分析の知識を掛け合わせて「協力してチャレンジする」ことが必要だと感じることが多いです。

以前、ある金融機関様の営業担当者向けに、資金需要が有りそうな取引先をリストアップする予測モデルを構築したことがあります。そのときはモデル構築だけでなく、営業担当者に配布する結果レポートも作成する必要がありました。我々は、加工したデータや予測結果をどのように可視化すれば業務で活用してもらえるかアイデアを出し、お客さまの担当者にも業務視点でアドバイスをいただきながら、結果レポートを作り上げていきました。最終的に作り上げた結果レポートに対し、お客さまの上席より「これなら使えると思う」と仰っていただいたときは、心地よい達成感を得ることができました。

――業務の効率化にも貢献できたということでしょうか?

木村:そうですね。基本的には営業担当者が、担当顧客の入出金の推移を追いかけるのが当たり前でした。しかし最近では銀行員の業務も多角化し、かつ取引企業も増加している状態のため、一つひとつ確認するのは難しい状況です。そこで一定の精度で分析データを分かりやすく可視化した状態で提供したことが、銀行員の業務を効率化すると評価していただけたことになります。

お客さまからは「入出金の推移を確認することが重要であることを若手銀行員に植えつける意味でも、良い取り組みである」と言っていただけました。

――データサイエンティストとして、面白さややりがいを感じるのはどのようなときですか?

新田:データサイエンティストとして様々なお客さまとお付き合いをして分析ができるので、常に新鮮な気持ちで仕事ができています。有意義な課題や問題に数多く触れられることにも、やりがいや楽しさを感じています。

――同時に取り組む案件数は多いのでしょうか?

新田:同時に2~3案件を並行して分析することはたまにありますが、多すぎることはないと思います。データ分析以外の領域でも、例えば最近では「ChatGPT」をはじめとする生成系AIが話題になっていますが、これら生成系AIがどのようなものなのかをデータサイエンティストとして理解し、どのようにお客さまに提供するか、または自社でどう活用するかといった観点から評価する取り組みも進めています。

このようにデータサイエンスに関わる取り組みを幅広く進めたり、テーマを広げたり深めたりしていくために、新しいお客さまとの対話も増やすようにしています。

――ChatGPTといった生成系AIについて、クライアントから質問されることはありますか?

新田:お客さまから「ChatGPTなど生成系AIをどのように業務に活かせるか」と聞かれる機会は増えました。データ分析とは別領域でシステム開発を提供しているお客さまからお問い合わせをいただくケースも多いですね。

観光業など多種多様な業界をサポートして未来を創造する

――JSOLの今後の展望や、力を入れていきたい部分について教えてください。

木村:データ分析については、先ほど申し上げた製造業と建設業を中心により多くの案件をこなして、我々として業界に対する知見をためていきたいと考えています。その先はまだ模索中ではありますが、蓄積した知見を元に、何か新しいサービスへと繋げたいですね。

その他の業界にも積極的に進出するつもりです。まず状況を確認して、お客さまがやりたいと思っていることや将来目指していることが、我々としても共感できるものでであれば、ご提案をさせていただきたいと考えています。仮にデータを取るフェーズからでも、一緒に伴走して知見を深めていきたいです。

――興味を持っていたり取り組みが始まっていたりする業界はありますか?

木村:観光業と農業です。農業は分析に使用するデータをためるところから対応が必要なケースが多いですが、追いかけてみたい領域と考えています。観光についてはインバウンドが増えていますし、実際に旅行会社と一緒に集客や人流、需要予測について宿泊施設のデータなどを使いながら研究をはじめています。

いずれも今後、伸びる領域だと思っています。

――他に挑戦したい業界や業種はありますか?

新田:私個人としては、製造業にもっと挑戦していきたいと思っています。やりがいや楽しさの理由として、お客さまごとにデータも課題も取り組みも違う点を挙げましたが、裏を返せば様々な領域のデータを分析するために、業務知識も含め幅広い領域を勉強しておく必要があります。まだまだ実力が足りないなという風に思っており、今後もっと力をつけていきたいと思っています。

――今後、データサイエンスの取り組みを進める中で、どんな人と働きたいですか?

木村:データ分析のバックグラウンドを持っている方に来ていただきたいです。またこれまでのキャリアにもよりますが、我々はお客さまと会話する機会が多くチームで動くので、コミュニケーションが取れる方が向いていると思っています。データ分析をされている方は分かると思いますが、次々に技術が新しくなる領域なので、新しい技術や情報に興味を持ってキャッチアップできる方と働けたら嬉しいですね。

新田:私たちはチームで働きますが、外部の技術者の方々と協業することも多いですし、グループ会社の理研数理のメンバーや理化学研究所の先生方と対話してアドバイスをいただく場面も多いため、ディスカッションの機会が豊富です。そのような議論を苦にせず、良いものを作る意欲がある方が向いていると思います。

――最後に読者へメッセージをお願いします。

新田:お客さまと会話をしながら、お客さまと共にデータ分析の取り組みができることに魅力を感じてもらえたら嬉しいです。

木村:本当に多種多様な業種や業界のお客さまがいますので、1つのテーマではなく、様々なテーマに取り組めるのがJSOLでデータ分析に取り組むメリットです。多角的なことに取り組んでみたいというチャレンジ精神のある方にぜひ来ていただけたらと思います。

編集後記

株式会社JSOLのクライアントの多くは日本経済を支えるような企業が多いこともあり、取り扱っているデータが一味違うという印象を受けました。そのデータに真摯に向き合い、デジタルトランスフォーメーション(DX)をはじめとする企業課題、社会課題を解決しようとする真面目な姿勢を伺うことができたのが強く印象に残りました。
「生きたデータ」から見えてくる社会の実像……は言い過ぎかもしれませんが、少なくとも社会の「今」が少し見えてくる醍醐味が味わえるのがJSOLでのデータ分析業務の魅力かもしれません。データサイエンティストとして上を目指している方はぜひ一度、同社の案内などをご覧ください。

取材/文:神田 富士晴
撮影:豊崎 淳

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