機械学習で自動車の新色開発を短期化!トヨタシステムズが取り組む技術開発と、そこで求められる人材とは。


トヨタグループの企業として、グループ内のさまざまなIT業務を担う株式会社トヨタシステムズ。クルマづくりに直結したエンジニアリング分野では、機械学習を使った業務プロセスの改革などに取り組んでいます。

今回は、トヨタシステムズの中で「自動車の新色開発プロセスのDX」プロジェクトに携わり、自動車の新色開発リードタイムの大幅短縮を実現した川村 亮平氏と谷口 よしの氏にお話を伺いました。

Contents

  1. トヨタシステムズとは?
    • トヨタグループを、ITで支える
    • 現場に入り込み、トヨタと一体によるプロセス改革
  2. トヨタシステムズが取り組む先端プロジェクト
    • 塗装品質を機械学習で予測し、自動車の新色開発のリードタイムを大幅短縮
    • 防錆、樹脂といった他分野の品質予測での横展開
  3. トヨタシステムズで描くキャリアとは
    • 少数精鋭、若い世代がリーダーとして活躍する環境
    • 技術力だけではなく、人間力が求められる
    • 大きな業界の中で、自分の仕事の成果が目に見えてわかる

プロフィール

川村 亮平(かわむら りょうへい)
株式会社トヨタシステムズ
所属:エンジニアリング分野 メカづくりIT本部 技術プロセス改革部 塗装・防錆G
役職:GM
ITのベンチャー企業を経て、2016年にトヨタシステムズの前身となる会社へキャリア入社。塗装・防錆に関する技術を扱うグループのマネージャーを務める

 

谷口 よしの(たにぐち よしの)
株式会社トヨタシステムズ
所属:エンジニアリング分野 メカづくりIT本部 技術プロセス改革部 塗装・防錆G
2020年に電気電子情報工学科を卒業し、トヨタシステムズへ新卒入社。塗装品質予測のプロジェクトに携わったのち、現在は車の床裏の防錆材料を検討するためのシステム開発の開発リーダーを務める。

 

トヨタシステムズとは?

トヨタグループを、ITで支える

――まずはトヨタシステムズの事業内容について教えていただければと思います

川村 亮平氏(以下、川村):トヨタグループのITに関連した業務全般を扱っています。
事業部署は、先端技術の研究開発を手がける「新規事業開発本部」、モノづくりの中心となる「エンジニアリング分野」、生産・物流から経理・人事システムなどのコーポレートシステムを扱う「コーポレート・ファイナンス分野」、インフラ系のネットワークを扱う「インフラ事業本部」に分かれています。このうち、私たちはエンジニアリング分野のメカづくりIT本部という部署に所属しています。

――エンジニアリング分野では、モノづくりのどういった課題を解決するための技術開発を行っているのでしょうか?

川村:エンジニアリング分野では、クルマづくりの企画やデザインといった上流の工程から、実際に車を生産する工場に至るまで、さまざまな業務プロセスの課題を解決するソリューションの開発や運用をしています。
私たちは塗装と防錆という業務の軸において、工程の最初から最後までをカバーしている部署になるので、各工程に合わせた技術開発を行っています。

例えば、クルマの実物モデルを作る前に、塗装した板をデジタルデータ化してクルマに塗装した状態をシミュレーションしたり、後工程の工場では製造ラインで日々起こる変化点や品質の情報を、いつでも誰でも視える状態にするBIツールを開発したりと、それぞれの工程の課題にあわせてソリューションを選んでいます。

現場に入り込み、トヨタと一体によるプロセス改革

――トヨタグループだからこその特徴・強みはどんなところにありますか?

谷口 よしの氏(以下、谷口):やはり、トヨタグループの中で現場の方と密に連携しながら業務を進められることは大きな特徴だと感じています。私たちはトヨタ自動車に常駐し作業をしているので、コミュニケーションは取りやすいなと思います。現場の方から改善の要望が挙がったり、こちらから改善についてご提案したりといったこともよくあります。

川村:時に工場に通ったり、市場技術調査に同行したり、業務の分かるITのプロとして、一緒に「業務改革」に取り組んでいます。システムを作る事が出来る会社は世の中にたくさんありますが、トヨタのモノづくりの事を深く理解し、同じ言語で会話してシステム開発が出来る事が当社の強みです。

トヨタシステムズが取り組む先端プロジェクト

塗装品質を機械学習で予測し、自動車の新色開発のリードタイムを大幅短縮

――その中で、お二人は先端プロジェクトに取り組まれてきたとのことですが、具体的な内容を教えていただけますでしょうか。
谷口:機械学習を使って、クルマの塗装品質を推定するプロジェクトになります。従来、塗装品質は実際に車体へ塗装してみないとわからない部分が大きく、塗料の制作・調達から塗装・評価まで含めると開発のリードタイムが長くなってしまうことが課題でした。限られた車両開発期間の中で旬の色を早くお客さまに届けるためには新たな開発プロセスを実現する必要があることから、技術開発に着手しました。

――実際に塗装してみないと塗装品質を評価できないのはなぜでしょうか?
谷口:塗装は生ものに似た部分があるんです。例えば、塗料の配合を少し変えただけでも、塗ったときの仕上がりはまったく違うものになります。また、同じ塗料でも、ドアなどの垂直面とルーフなどの水平面に塗る場合では仕上がりは異なりますし、塗装の工法によっても違いが生じます。

様々な要素が絡みあい、塗装の仕上がりに影響するというイメージです。そのため塗ってみると思っていたような色が出ないということも多く、何度もやり直しをした結果、評価期間が非常に長くなることも珍しくありませんでした。

――そこで、機械学習を使って塗装をせずに品質予測ができる技術を開発したということですね。これまで現場の知見として共有されてきたものをデータに落とし込むにあたっては苦労も多かったのではと思います。

谷口:そうですね。例えばクルマの色でパールカラーのような色がありますが、塗料にどの材料がどの程度含まれているとどのような光沢感になるのかは、現場の知見として共有されているものでした。その特徴量などを機械学習で出していき、現場の方にも確認いただきながら進めていったという感じです。

――開発にあたって一番大変だったことを教えてください。

谷口:機械学習モデルの構築部分ですね、予測精度を実用化レベルまで引き上げるのにかなり時間がかかりました。最初は思ったような精度が出ず、様々な課題が出てくるのを一つ一つ潰していく必要がありました。

――具体的な要因はどこにあったのですか?

谷口:データの問題ですね。学習データには過去10年間の実験データを使用しており、データ量としては十分にありました。しかし、外れ値のような取捨選択が難しいデータが入っていたり、品質評価がOKデータに偏っていてNGデータが少ないという問題がありました。そこで、現場の方と意見交換を重ねながら、外れ値データを一つ一つ確認して除外しつつ、NGデータを新たに作成するなど、品質予測用のデータセットの作り込みを行いました。

――実際にどれぐらいの期間で実用レベルにすることができたのでしょうか?

谷口:当初は4割程度の精度だったものが、1年弱で6〜7割まで向上し、現在は8~9割程度になっています。データのクレンジングを行ったり、当初は実験データの項目に含めていなかった項目を追加したりしながら、精度を確認していく作業を繰り返した結果です。今後も改善を実施して、より精度を上げていきたいと考えています。

――この技術を提供するなかで得られた成果や、お客様の反応について教えていただけますでしょうか?

谷口:塗装の評価期間を約60%削減できたことが一番の成果です。評価期間が短くなることで、旬な色をキャッチアップしてすぐに開発してお客様へお届けすることができるようになりました。
※画像はイメージです

――技術開発の中で、特に力を入れたポイントはありますか?

谷口:機械学習の予測結果はブラックボックスになってしまうのが一般的です。今回のシステムでは、現場の方がこれまでに培ったノウハウや知見を反映させながら特徴量を作りこんでいくなど、予測結果に対する要因を解釈しやすい作り方をした点がポイントかと思っています。

川村:私たちの部署は、塗装分野を15年以上手がけています。長年お客様の近くで培った知見をITで繋げられたことで、塗装プロセスの改革にもつながったと感じていますね。

――今回の技術は特許出願済ということですが、技術開発の背景にある御社の強みはどこにあったとお考えですか?

谷口:やはり、トヨタグループの一員として、車両開発の現場にしっかり入り込むことができることは大きいと思います。従来ではなかなか取得できないようなデータも取ることができますし、それによって予測モデルをしっかりと作り込むこともできました。

――実際に工場へ足を運びつつ、現場と会話がしやすいのは御社ならではの強みですね。

谷口:そうですね。実際に工場へ行き、どのように測定を行っているのか、現場を見ることで、自身の業務知識を形成してきました。データがものづくりの現場にあり、触ることができること、現場に行ってデータがどう取られているかをきちんと見て、現場の方としっかりコミュニケーションをとったうえで、モデルを作り込む体験ができることは、トヨタグループならではの強みですし、仕事の面白さにもつながっていると感じています。

防錆、樹脂といった他分野の品質予測での横展開

――今回の塗装品質予測の技術開発で得た知見を、今後他の分野にも横展開していく予定はありますか?

谷口:防錆や樹脂といった、他の材料分野に展開していくことを考えています。今、私は防錆分野の技術開発に携わっているのですが、防錆試験についても塗装と同様で、評価期間がかなり長くかかることが課題です。このように評価期間が長くなりがちな分野において、機械学習を活用することでリードタイムを短縮するための検討を現在行っています。

川村:樹脂の分野については、クルマのパーツで樹脂が使われている部分、具体的にはバンパーや車内のインストルメントパネルなどの品質管理に適用するイメージですね。材料や工法のデータから最終品質を事前に予測する取り組みを進めています。

――塗装分野で培った知見の中で、他分野で活かせるものはありますか?

谷口:先ほどお話したデータのチューニングに関する部分では、予測精度を上げるための対策が可能と思っています。

今回の塗装品質の予測プロジェクトでは、学習データの中に特殊なデータがかなり紛れ込んでいて、そちらが精度向上を疎外していましたが、今後は最初から除外することが可能だと考えています。そのためには、現場と密に会話をするのが近道だと感じているので、最初から積極的に現場の方と話をしていきたいですね。それが短期間で精度を上げる近道になると思っています。
トヨタのモノづくりの現場に飛び込み、業務知識を鍛えながらITソリューションを生み出す力を、他分野でも活かしていきたいです。

トヨタシステムズで描くキャリアとは

少数精鋭、若い世代がリーダーとして活躍する環境

――トヨタシステムズでは、何名程度のメンバーでプロジェクトに取り組むのでしょうか?チーム内の役割分担などについても教えてください。

谷口:塗装品質の予測プロジェクトについては、一度に関わっているのは5〜6名、全体では10名弱ですね。プロジェクトマネージャーがいて、次に開発リーダー、その下に実際のプログラミングやシステム構築を行う開発メンバーという構成です。

私は塗装品質のプロジェクトでは開発メンバーの立場で、今は防錆の分野のプロジェクトで開発リーダーをしています。

――開発リーダーというのは、どのような立ち位置なのでしょうか?

谷口:ユーザーと開発メンバーの間に立ち、メンバーの作業内容、進捗、困っていることや不足している情報などを確認します。それらの情報をユーザーへ伝えたり、ニーズや改善点について開発メンバーと考えたりといったことをしています。

――谷口さんのような若い方がリーダーを務めることも、トヨタシステムズではよくあることなのでしょうか?

谷口:周囲に同じくらいの世代でリーダー的な立ち位置で動いている人は多く、特別珍しいことではないですね。

――実際にリーダーになられて、今までとの違いやリーダーならではの大変さを感じるのはどのような点ですか?

谷口:開発メンバーだった頃は、システム開発のことでしか悩むことはありませんでした。リーダーになると、ユーザーのニーズをどう考えていくか、そのために何をするのがベストなのか、メンバーに何をしてもらう必要があるのかといったことも考えなくてはなりません。大変な部分もありますが、今は面白さも感じながら前向きに取り組んでいます。

技術力だけではなく、人間力が求められる

――トヨタシステムズで活躍しているのは、どのようなタイプの方が多いですか?

谷口:私が個人的に感じる特徴は3つあります。まず、「ユーザーの困りごとを粘り強く聞き出して、ユーザーに寄り添った業務を行える人」。これは私自身が、入社1年目に塗装品質のプロジェクトに関わっているときに実感したことです。イメージしていたIT企業とは違い、トヨタシステムズでは、ユーザーと密に会話をしないとイメージ通りのシステム作りができません。ITスキルを持っているだけでなく、ユーザーの業務についてもしっかり理解することが必要です。その姿勢を持てる人がいてくれると、チームとしても心強いと感じています。

2つ目が、「周りを巻き込んで業務をどんどん進めていく人」です。これはコミュニケーションの話やこの後の「手を挙げる」ということにもつながりますが、一人で仕事を進めようとするのではなく、周囲をうまく巻き込める人が、トヨタシステムズの環境にはマッチすると思います。

最後に3つ目が、「困ったときもチャレンジするときも、手を挙げる人」です。チャレンジしたいときに手を挙げるのはイメージしやすいと思います。困ったときも、トヨタシステムズの中にはサポートしてくれる人がたくさんいます。その環境をうまく活用することが大切だと考えています。

――川村さんから見た、トヨタシステムズで活躍できる人物像はどのようなタイプでしょう?

川村:実際に社内で活躍されている方は大きく2つに分かれると感じています。一つは、尖った技術を持ったスペシャリストです。たとえば機械学習を非常に得意としていて、機械学習で行き詰まったときには、その方に聞けばヒントが得られるといったタイプですね。

もう一つが、ジェネラリストタイプの方です。人と協力して大きな成果を出すことを得意としている方も、トヨタシステムズでは欠かせない人材です。チームの仲間から協力を取り付けられるし、協力会社ともうまく関係が築ける。社内の上位層から見たときにも、求められた情報をピンポイントで報告できる。そんな全方位のマネジメントができる方に来ていただけたら嬉しいですね。

――社内でキャリア形成していくための制度にはどのようなものがありますか?

川村:トヨタシステムズには「職層」という考え方があり、職層に応じてどういった専門性・経験が求められるのかが定義されています。

それに沿って足りない部分を補うことのできる研修が充実しているので、たとえばITスキルやヒューマンスキルなど、個人の課題に合わせて自発的に研修へ参加することができます。

大きな業界の中で、自分の仕事の成果が目に見えてわかる

――トヨタシステムズで仕事をしていてよかったことがあればお聞かせください。

谷口:私が塗装品質予測のプロジェクトに参画し始めたときは、本当に実現できるのだろうかと半信半疑だったのですが、ここまでにお話してきたとおり、実現可能なレベルまで精度を上げ、お客さまにも喜んでいただくことができました。自分が業務で取り組んでいることが、社会につながっているのだと実感でき、自身のスキルアップも感じられました。

今、この評価をしていた色の車が市場に出回ってきたところです。自分の携わったものがこうして世に出ていくのだなと強く実感しています。車を見て嬉しくなったのは初めてですね。

川村:私は前職がソフトウェアの会社だったので、形のあるものではなく、どうしても出口が見えづらいのを感じていました。トヨタシステムズでは、自身が携わった技術で物が作られて、実際に消費者の方が買っている姿を目にできるのが喜びですね。

――今後お二人がトヨタシステムズでどのようなことを目標としているかお聞かせください。

谷口:グローバルな仕事がしたいと思っています。昨年度、社内制度を使って2か月間業務から離れて新潟で短期集中の英語講座を受ける機会がありました。そのおかげで語学への壁がなくなり、海外への興味も湧いてきました。自分のスキルを生かしつつ、語学力を更に磨きながら、海外に広がる仕事ができたらいいですね。

川村:私はキャリア入社の星になりたいと思っています。今は10数名程度のマネジメントをさせていただいていますが、今後さらにこのビジネスを育て、トヨタグループ外にも貢献の範囲を広げていき、私たちのチームをワンランク上の組織レベルにまで成長させたいと考えています。畑違いのところからの入社ですが、トヨタのクルマづくりを真剣に考え、ITでプロセス改革を担えるという楽しさを、分かち合える仲間をもっと増やしたいと思います。

編集後記

クルマづくりという大きな流れのなかで、業務プロセスの課題にフォーカスし、それをIT技術によって改善していく。実際に話をうかがうと、取り組んでいることは地道で根気が必要なものですが、だからこそ、それが実現して形になったときの喜びも大きいのだろうと感じました。トヨタグループの中にいるからこそ触れることのできるデータも多いという話もとても興味深く感じました。
トヨタという大きな枠組みの中で、自身のスキルを向上させていきたいという人には最適な職場ではないでしょうか。挑戦してみたいという方は、ぜひ採用サイトをご覧ください。


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