自然言語処理AIとユーザーをつなぐ、プロダクトエンジニアとして成長する醍醐味をストックマークのエンジニアに聞いた
ストックマーク株式会社は2016年に設立したAIスタートアップ企業です。自然言語処理に特化し,
Web上のオープンデータを処理して価値ある情報を提供しています。同社のニュースサービス「Anews」、市場動向をAIが可視化する「Astrategy」といったプロダクトは、高度な技術とユーザーを結びつけていることで知られています。機械学習エンジニアだけでなく、フロントエンドエンジニアやバックエンドエンジニアといったプロダクトエンジニアが生き生きと活躍しております。
そこで、今回はストックマーク株式会社のエンジニアの飯森 悠樹氏、石田 紳太朗氏、金子 望氏に「Anews」や「Astrategy」の方向性や同社内ではどんなエンジニアが活躍しているか、またユニークな「研究日」制度などについてお伺いしました。
目次
プロフィール
Astrategy バックエンドエンジニア
名古屋大学大学院理学研究科 素粒子宇宙物理学専攻
Anews エンジニア
慶應義塾大学理工学部情報工学科
Astrategy Engineer
筑波大学大学院システム情報工学研究科。
IT スタートアップ数社、フリーランスを経て2021年9月ストックマークに入社。
以降 Astrategy サービスの開発に関わる。
ストックマークには技術が好きで、楽しく開発するエンジニアが多い
――ストックマークがどんな開発をしている会社か教えてください。
金子望氏(以下、金子) : ストックマークはニュース記事やオープンデータを集めて提供している自然言語処理に特化したAIスタートアップ企業です。ビジネスに直結する日々のニュースをAIがレコメンドするサービス「Anews」と、商品・製品企画や事業戦略を立てるために、記事などの情報からその「タネ」を見つけるサービス「Astrategy」を提供しています。どちらも高度な自然言語処理技術を用いて、世界中から有益な情報を抽出しているのが特長です。
――皆さんは、ストックマークに入社する前、会社に対してどんなイメージを持っていましたか?
金子 : 私は前職でニュースアプリを開発していたので、そのときから「Anews」を知っていました。退職後に数年間、フリーランスをしてからストックマークに入社しています。転職活動を開始したときは別の業界を考えていたのですが、ストックマークは技術的にしっかりしているし、話を聞いて面白そうだと思ったので入社を決めました。
飯森悠樹氏(以下、飯森) : ストックマークは自然言語処理モデル「BERT」に関する書籍(『BERTによる自然言語処理入門』オーム社)を執筆しています。それを読んだことがあり、技術力が高い会社だと思っていました。
私は以前、特許事務所で弁理士をしていました。そこで自然言語処理と機械学習を使った特許調査を支援するシステム開発に従事したのがきっかけで、自然言語処理に特化したエンジニアになりたいと考えていたこともあり、ストックマークに興味を持ち応募しています。弁理士だったこともあり、事前にストックマークがどういった特許申請をしているかも確認しました。
石田紳太朗氏(以下、石田) : 大手ポータルサイト企業でエンジニアとしてプラットフォーム開発に関わり、2020年2月にストックマークに入社しました。
実は転職活動をはじめたとき、ストックマークのことは知りませんでした。ふとしたきっかけで話を聞くと、自然言語処理を強みにしたプロダクト制作や、ニュース記事を集めるクローリングシステムを作っていたりするなど、技術的に面白いことへ挑戦している会社だと興味を持ったのです。その後、社内の方たちと話をする機会があり、みんな、本当に技術が好きで、楽しそうに開発している雰囲気を感じ、どんどん気持ちが傾いていきました。
――じっくりと技術的な話ができるような空気感があったのでしょうか?
金子 : ストックマークには技術が好きな人がたくさんいて話が合いました。経験が似ている人や高いレベルの人とも話すことができますし、「それあるある!」みたいな感じで共感できることが多いですね。また、異なる領域を担うフロントエンドエンジニアとバックエンドエンジニアが話をして、すごく深いところで先進的なことをやっていることを知り、良い刺激を受けることもあります。
課題解決のため、ベストな技術をエンジニア判断で取り入れている
――現在、皆さんは、どのような開発に携わっているのでしょうか?
金子 : 私と飯森さんは「Astrategy」のバックエンドを主にやっています。
飯森 : 「Astrategy」のバッチ処理を主に担当しています。「Astrategy」は、日々ニュース記事をクローリングして、そのニュース記事から企業名や、特徴的なキーワード、例えば企業がどういった課題を、どのような施策で解決するかという、課題と解決策に関するキーワードを機械学習で、日々、抽出しています。これを日々、バッチ処理しており、私はこのアルゴリズム変更などを担当しています。
――データが増えていく中で、毎日、多くの処理をするのは、まるで「追いかけっこ」のような状況でしょうか?
金子 : クロール自体は別の部署でやっていて、データを取得するサイトのバリエーションはどんどん広がっています。取得したデータを毎日処理しているので、クロールしてくるデータが増えれば、処理するデータも増えるので大変です。また、機械学習のモデルを改善すると、その日分のデータだけでなく、過去のデータもやり直しをします。この全件更新はかなり時間がかかり、計算量が多い処理になっていますね。
飯森 : 処理するニュース記事などデータ量は膨大で、そういう意味では大変です。データ量が多くなっても、決められた時間内に処理しないといけないです。並列して処理を実行したり、GPUをはじめとする、高速で機械学習処理を行える仕組みを取り入れるような工夫が必要になります。
石田 : 私は「Anews」のエンジニアをしています。3人チームがふたつある体制で、チームリーダーです。メインとなるのはフロントエンド開発ですが、最近は「Anews」エンジニアのフルスタック化が進んでいます。フロントエンド、バックエンドどちらも書いて、双方の領域の開発に取り組んでいるところです。
――全体としてフルスタック化が進んでいるのでしょうか?
金子 : 「Astrategy」では、専門性を活かすことを優先して、今は分かれています。得意なところを伸ばすイメージでやっていて、そこが「Anews」とちょっと違うところです。
――エンドユーザーに見せるフロントエンドは接客を担当といったように役割が分かれているのですね。
金子 : バックエンドは厨房のようなイメージです。バッチは何かその前段階の仕入れという感じかもしれません。何か注文が入ると厨房でデータを用意して、フロントエンドに渡すと、最後の飾り付けや接客をしてもらいます。「Astrategy」はそういう流れで、ひとつの機能をフロントエンドとバックエンドが協調して提供している形です。
石田 : 「Anews」では1人が両方を担当するケースが最近は増えています。得意領域がそれぞれ違うので、お互いにスキルを共有し補いあって、知識を伝達するようにしています。
――開発を進めていて、現在、どのような課題感がありますか? また、解決事例などありましたら教えてください。
石田 : フロントエンドまわりの課題としては、表の部分ではありませんが、設計的な部分で開発しづらくなっている面があります。
金子 : ユーザーの要求も多く、そのまま体感に出るので、世の中の複雑さを一手に引き受けている部分はありますよね。
石田 : まさにそうですね。「こういうことがしたい」と何かをする話になっても、UXやデザインの制約もあり、実装するのがなかなか難しいことがあります。
――そういったときは、どのように課題を解決しているのでしょうか?
石田 : 仕様などを考えるPdM(Product Manager)とエンジニアが直接やりとりして、PdM的に解決したい課題とエンジニアから見て技術的に難しい点をお互いに出し、話し合って機能の落としどころを探っています。心がけていることは、効率良く、ユーザーに価値を提供できる機能として落としこめるかという点です。
金子 : プロダクトごとにPdMがいます。それぞれのプロダクトでユーザーに価値を届けるために、「こういう機能があるといいんじゃないか?」といった観点から各PdMが企画を立てています。
――開発するとき、新しい技術を取り入れる場合はどうしていますか? PdMの企画が元になるのでしょうか?
金子 : 技術を取り入れるのは、基本的にエンジニア判断です。新しいからという理由で取り入れることはなく、何らかの課題を解決するためには、これがベストだと考えられる技術を取り入れています。それが今まで触ったことがないものであったり、新しいものであったとしても、それが良さそうだと判断できればエンジニアの判断で取り入れてきました。機能の企画とは別の話として、技術が選定されることもあります。
希望に応じて、キャリアアップには無限のバリエーションがある
――ストックマークでは、エンジニアの方々はどのようにステップアップしていますか?
金子 : 本人の意思と、やりたいことに応じて無限にバリエーションがある感じです。会社の歴史がそこまで長くないので、決まったキャリアパスはありません。エンジニアをずっと続けられる環境がありますし、他にやりたいことがあれば挑戦できます。
実際、エンジニアからPdMに変わった人はいます。プロダクトの機能を考えるのがすごく好きで、実際にコードを書く職からちょっと離れてPdMに移りました。CSで入った人が、ユーザーのインタビューなどを行うリサーチャーに転じた例もあります。社内で「これはきっと必要だ」という業務をメインにキャリアチェンジが自由に行われていますね。
――エンジニア自身が興味を持っていることを追求しやすい環境が整っているのでしょうか?
金子 : そういった面もあると思います。ただ、私が見ている範囲では、ストックマークには技術が好きで技術だけを極めたいという人は少ないですね。ユーザーのことを考え、サービスをもっと良くしていきたいという想いがベースにある人が多いと思います。
ユーザーにどうやって価値を伝え、届けていくかが今後の課題
――「こんなプロダクトを作りたい」といった目標など、今後やりたいと考えていることはありますか?
石田 : 「Anews」は、技術的な負債が増えてきているので、それを解消して、新機能をすぐ出せるような状態にしていきたいです。また、エンジニア起点で新しい機能を作る動きもあるので、そういったことも実現できたら面白いと考えています。
飯森 : 少々ざっくりした回答ですが、今、「Astrategy」には期待値キャップがあると感じています。つまり、「Astrategy」でできることと、ユーザーが「Astrategy」に求めることの間に多少のギャップがあると思っています。
例えば今の「Astrategy」では、ユーザーがキーワードとして「メタバース」と入れると、「どんな企業」がメタバース領域で「どういった課題」を「どのように解決」しているのかが一覧で表示できます。
そこからインサイトを引き出して、新規事業を立てることについてはユーザーへお願いしています。。おそらくユーザーはこういったところも支援してほしいと思っているはずです。今後は、ユーザーが期待していることと、「Astrategy」ができることとのギャップを狭めていきたいと考えています。
金子 : 同感です。実際、様々なユーザーがいます。期待値があまりにも高い人は入っても長続きしないことがあるので、契約段階で期待値のコントロールはされているとは思いますが、ゆくゆくは実現していきたいですね。
――やはり、ストックマークのサービスは業務で使っているユーザーが多いのでしょうか?
金子 : 「Astrategy」は新規事業・企画の開発など業務で使っているユーザーが多いです。それもあって、本当に要求が具体的です。一方、「なんとなく良さそう」という感じで入ってくる人たちに、どうやって価値を伝え、届けるかといったことが現在の課題になっています。
――ユーザーの目的が曖昧な分、難しい面がありそうですね。
金子 : 現在の「Astrategy」は様々な操作をしないと的確なアウトプットが出ないサービスになっています。目的があり、モチベーションがあれば、この壁を簡単に乗り越えられます。ただ、なんとなく使い始めた人は、入り口で詰まってしまい、長続きしないことがあります。ここは、UI/UXの改善やすぐ使い始められるよう、新しい機能を提供する準備も進めています。
現在「Anews」Astrategy」が別々にあり、それぞれにユーザーがいます。今後は、ふたつのサービスを統合して新しい体験を提供したいと考えています。そのためにはふたつのシステムをつなげていく必要がありますが、かなり大変です。システムをつなげる前にデータを共通化しようとしていますが、それ以外にも、統合に向けての数多くのタスクがあって、人手が足りない状況です。
――フロントエンド側もタスクが増えている状況でしょうか?
石田 : そうですね。フロントエンドに新たな機能を出すにあたっては、当然、画面に実装する必要があります。ソフトウェアとして品質を維持していくことを考えると、フロントエンドのコードを綺麗にする計画もありますが、他にもやることがあって、なかなか進められていない状況です。
「研究日」を有効活用して、学びを楽しむエンジニアが活躍中!
――ストックマークでは、どんなタイプのエンジニアが活躍していますか?
石田 : 意外なことにSIがバックグラウンドとなっているエンジニアが多い気がしています。「Anews」ではWEB系の開発経験者が少なく、勢いで開発していた1面がありました。最近ではWEB系の経験豊富なエンジニアが増えつつあり、システムまわりで考えが甘かったところなど、負債的な部分を学びながら、皆で直そうとしています。
金子 : 「Astrategy」の場合は、大企業を辞めてスタートアップで入ってきたエンジニアが多く、すごく伸び伸びやっている人が多いですね。
――やはり、ご自身が興味を持っているジャンルの開発にチャレンジできているからでしょうか?
一同:(頷く)
――ストックマークでエンジニアとして働く魅力を教えてください。
飯森 : 私は、最先端技術のサービス化に携われるところに魅力を感じています。また、社内でリサーチチームと共同でやっている勉強会などがあり、最新の自然言語処理を学べる機会が多いですね。こういった環境が整っていて、とても刺激的で楽しく仕事できています。
「Astrategy」チームですと、自分たちでチームのあり方やタスクの進め方など、プロダクトを作り上げていくといった風潮があるのも良いです。それもあり、開発サイクルが早くなっていると思います。他社なら、もしかしたらリリースまで3ヵ月くらいかかるような機能を「Astrategy」チームでは、苦も無く1ヵ月くらいでやってしまうサイクルの早さです。スピード感を持って、楽しく開発に取り組めています。
石田 : MLチームがアプリケーションエンジニア向けに自然言語処理勉強会をしているので、そこで自然言語処理の基本的なことを学びました。将来的にその方向でも開発できるようになるのを目指しています。高いレベルの勉強会が行われているのが魅力ですね。
金子 : プロダクトエンジニアとしては、リサーチャーがアルゴリズムを作ったものをユーザーに届ける、言い換えるなら、技術とユーザーをつなげることに面白みを感じています。両方に関われますし、ふたつをつなげることで価値が生まれていくと思っているので、ここに関われていることがすごいと思っています。
――最先端技術とユーザーをつなぐ開発ができるのは魅力的ですね。社内で勉強会は活発に行われているのでしょうか?
飯森 : 活発に行われています。週1回は、自分が気になる論文について、発表するような時間がありますし、気になる参考書の輪読会みたいなこともしています。
金子 : 勉強会は有志でやっているものと、リサーチチームが定期的に開催しているものがあります。そこに参加して、最新の技術や知識を得ている感じですね。
それと、全社的にエンジニアには「研究日」という制度があります。月1回ほど、皆で「この日にやろう」と決めて実施しています。研究日は通常の業務とは別に、各エンジニアとかユニット内でひとつ、将来を見据えて「こういうことをやった方が良いんじゃないか?」と考えたことを進められる日です。
――通常業務から離れて、将来を見据えた研究に取り組めるというのは、Googleの「20%ルール」に似ていますね。
金子 : 位置づけは似ていますね。
石田 : エンジニアって、気になるけど、触れていない技術があったりすると思います。研究日を1日使い、そういった技術にも取り組ませてもらえるので、それだけでけっこうモチベーションが上がります。
また別のエンジニアでは、自分が考えた新しい機能を作る人もいます。実際、その成果物がPdMに「これ機能として実装しましょう!」といってもらい継続して開発が決まったものもありました。こういった感じで研究日が活用されています。
金子 : 仮に研究日の制度がなかったとしても、エンジニアなら多分、そういう勉強はすると思います。ただ、通常の業務が忙しすぎて「こういうことやった方が良いんじゃないか」と思っていても、なかなかできない現実があります。それが研究日を1日設けることによってに気になっていたことや考えていたことを試すことができて、学べるのはすごく意味があると思います。
研究日があることで、通常業務の時間が短くなり、新機能のリリース直前などはそちらに時間を使いたいと思うこともありますが、研究日は意義ある活動なので集中して取り組んでいます。
ユーザーにより良いものを届けたい人が輝けるチャンスがある
――どんな人がストックマークに向いていると思いますか?
金子 : 変化を楽しめる人です。状況は変わっていくので、エンジニアはそれに対応していかなければならないです。ただひとつ、顧客目線からブレずに必要なことを考え対応するのが重要です。この変化についていけるなら楽しいと思います。
飯森 : 「Astrategy」に関していうと、まだまだ発展途上で、これからどんどん機能を追加していくと思います。追加する機能が本当にユーザーにとって必要なのか、常にユーザーがプロダクトをどう使っているのかといったイメージを、解像度を高く持って開発できるような人が良いのではないかと思います。
――最後に、Qiita読者にメッセージをお願いします。
飯森 : ストックマークには、いろいろな個性を持った人がいます。個性豊かなメンバーと一緒に成長できる環境が整っているので、ぜひ応募してください。
石田 : 自然言語処理など、MLのリサーチャーをはじめとするエンジニアが最先端のことをやっている中で、なんかちょっと研究室っぽい雰囲気が感じられます。プロダクトにも、そういう雰囲気を取り入れつつ、ユーザーに「無くてはならない」と思ってもらえるようなサービスを作れる会社がストックマークです。興味がある方は、ぜひ、という感じです。
金子 : 自然言語処理や機械学習といった技術に興味ある人は、活躍できる場がたくさんあると思います。また、プロダクトやサービスを向上させていくことに興味あるエンジニアが活躍できる場所がたくさんあります。ユーザーの声を聞いて、良いものを届ける、そういうことをやりたい人にはすごく向いている場所がストックマークではないかと思います。
編集後記
ストックマークが自然言語処理AIに強みのある企業と聞き、リサーチャーや機械学習が前面に出てくるイメージを持っていました。しかし、皆さんから話を伺って、そういった最先端技術とエンドユーザーを「顧客目線」でつないでいく役割を担うエンジニアの重要性を強く感じました。
「研究日」をはじめ、自然に学ぶことが楽しめる「エンジニア・ファースト」な環境が整っているのも魅力的です。実際にオフィスに伺うと、中は緑の多い、柔らかで開放的な空間でした。現在はまだコロナ禍でリモートワーク中心とのことですが、この場に人々が集う日も遠くはないはずです。「Anews」や「Astrategy」を活用するユーザーが社会で新たな価値創造をするケースもこれから増えていく目が離せない企業だと思いました。
取材/文:神田 富士晴
撮影:長谷川朗
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