医療の未来を変えるプロダクトが生まれる瞬間「Qiita × Fast DOCTOR Health Tech Hackathon」イベントレポート
Qiita株式会社は、国内最大級のプライマリケア・プラットフォーム「ファストドクター」を運営するファストドクター株式会社との共催ハッカソン「Qiita × Fast DOCTOR Health Tech Hackathon」を、2023年7月1日・2日に、東京都千代田区で開催しました。テーマは「ChatGPTを活かした新しいウェブサービス、モバイルアプリの開発」。
個性あふれるプロダクトが続々発表されたほか、医療業界の現状が学べるインプットセミナーをはじめ、開発者が気になるコンテンツが満載。この記事ではイベント2日間の様子をお届けします。
ファストドクター株式会社について
ファストドクター株式会社は「生活者の不安と、医療者の負担をなくす」をミッションに掲げ、国内最大級のプライマリ・ケアプラットフォーム「ファストドクター」を運営するヘルステック企業です。医療アクセス困難者の救済や不要不急な救急搬送の削減、僻地医療、医師偏在問題を解消し、DXによる業務効率向上、かかりつけ医との分業・連携などを行っており、総勢3500名の提携医療機関の医師(常勤医・非常勤医)が24時間365日体制で活動しています。
ChatGPTで医療の未来を切り拓こう
イベントは、ファストドクター株式会社 代表取締役で医師でもある菊池亮氏による動画での開会挨拶と、イベント趣旨及び出場チーム(全11チーム)、審査員の紹介で幕を開けました。審査基準としての6つの観点「実課題性」「技術的創造性」「社会的インパクト」「医療現場/患者のペインにアプローチしているか」「技術的にイノベーティブ・クリエイティブな解き方か」「効果の大きさ」も発表されました。
出場チームの紹介では、各チームの代表者1人ずつがコメント。話を聞くところ、同じ大学や会社の仲間、日々医療の課題に向き合う医師やエンジニアなど、海外や日本各地から集まった様々なメンバーが参加しているそう。2日間でどのようなアイデアやサービスが生まれるのか、期待が高まります。
続いてファストドクター株式会社 執行役員CTOの宮田芳郎氏よりインプットセミナーが行われ、審査観点の確認と、会社概要や事業内容の紹介、2024年4月から適用される医師の時間外労働の上限規制※など昨今の医療業界における課題などが共有されました。セミナーのあとには、具体的に医療現場の「低い労働生産性」とはどのようなものなのかを知るための6枚のヒントカードが配布され、各チームのプロダクト開発を後押ししました。
※医師の働き方改革について-厚生労働省
アイディアソンタイム
開会式が終わると、早速アイディアソンへ。サポート医師として会場にお越しいただいた複数名の現役医師の方々が1人ずつチームに加わりました。
チームで議論やサポート医師への質問・相談をしながら、付箋やホワイトボードを活用してアイディアをまとめます。お昼休憩含めて約4時間という限られた時間の中で、まずは午後に控えているアイディア発表に向けて準備を進めました。
アイディア発表
1チーム2分程度でのアイディア発表では、事前問診や事務作業効率化による医療従事者の負担軽減を狙うプロダクト案や、認知症の早期発見を目指すプロダクト案など、11チームそれぞれが考え抜いたアイディアが飛び交いました。各アイディアについては、見出し「成果発表をダイジェストでお届け」でご紹介します。
ハッカソンタイムでプロダクト開発
アイディアソンが終わると、いよいよハッカソンの時間です。ハッカソンタイムの序盤では、アイディアソンのときのように議論をしたり案をまとめたりする様子もありましたが、次第にパソコンに向かって黙々と開発に取り組む姿や、腕を組んで考え込む姿が見られました。皆さん、真剣な表情で取り組んでいます。
ハッカソン成果発表
2日間のアイディアソン・ハッカソンを終えて成果発表の時間です。各チーム5分ずつでの発表を、ダイジェストでお届けします。
「もいせん」は、医療者向けプロトタイピングスクール「ものづくり医療センター」に勤務する医師や看護師、医学療法士、エンジニアからなるチームで、「Q&A LINE_Bot」を発表しました。いつでもどこでも医師に質問できるプロダクトで、入院費や診察日時といった病院案内のほか、「今日の診察内容を知りたい」というニーズにも応えます。
同じく医療文書作成の効率化に挑んだのは、兄はスタートアップ所属、弟はエンジニアという兄弟による「小野チーム」。在宅医療に必須であるケアの記録ノートの作成・確認作業を効率化する「Care Note GPT」を発表しました。同プロダクトでは、日時や項目を選択して入出力できる機能やChatGPTによる要約機能によって、ノートの作成を簡単かつ正確に。今後はマイナンバーの登録義務づけを視野に入れ、日本のヘルスケアアプリのスタンダードを目指します。
「IC(アイシー)」は、患者と病院とのマッチングにスポットをあてました。ノーコードツールの開発者が在籍するICは、ChatGPTを活用した病院検索体験の改善を目指す「Fast HOSPITAL」を発表。条件に合った病院のいい口コミ・悪い口コミの双方をニュートラルな表現でチェックでき、適した病院が見つかればそのまま予約までできるプロダクトです。
同じ大学サークルに所属するメンバーが集まった「pyてょん3.0(ぱいてょん3.0)」は、カルテや診療情報提供書(紹介状)のドラフトを自動生成するプロダクトを発表。医師が作成した紹介状を学習させ、精度の高い出力を可能にしました。
「ANDEVER(アンデバー)」は、普段は機械学習の開発会社に所属するメンバーの集まり。ChatGPTを使って認知症の早期発見を目指すプロダクト「Fast DEMENTIA(ファストディメンシア)」を発表。毎日決まった時間にスマートスピーカーが認知症を測定する質問を話し、回答をマイクが収集。回答の内容をChatGPTが採点し、認知症の疑いがあればご家族にアラートを送ります。Qiitaの記事を参考にして過去に実装したしくみをベースにしたという今回のプロダクト。
「ドクターエンジニア」は、ヘルスケアアプリ開発会社の社長、現役の精神科医とエンジニアの3名からなるチーム。LINEでの相談内容から高精度のトリアージを実現する「どこでもドクター」は、各メンバーの知見を形にした緻密な設計で注目を集めました。
カリフォルニア州の大学に在学中の3名からなる「anti soci(アンチソーシャル)」は、トリアージ機能に加え、病院内外における情報共有の改善まで切り込んだ「メディチェック」を発表。システム上での医師とのやり取りから重症度を判断し、軽症者への対応を行うことで診療の負担軽減を目指しました。さらに患者個人が情報を保有することで病院内外における情報共有をしやすくし、医療現場における情報の不透明さを解消します。
東京・大阪・九州の3都道府県から集まった大学生と大学院生からなる「Hey Fever(ヘイフィーバー)」は、問診と病院検索をかけ合わせたマッチングサービスを発表しました。LINE上での問診結果をもとに、AIがおすすめの病院を表示。そのまま予約までたどり着けるプロダクトです。予約と同時に問診票を作成して予約先の病院に送信するので、円滑な受診が実現可能に。
同じ会社の同僚である「Team Durant(チームデュラント)」は、医療文書の作成・閲覧支援を行うプロダクトを考案。ChatGPTによる医療文書の自動生成機能だけでなく、生成元となったソースや関連記録の閲覧機能も実装。医療現場の業務効率化とともに、正しく過不足のない医療文書の作成を実現しました。
異職種間の情報共有に着目したのは、ディープラーニングの有資格者からなるAIコミュニティ「CDLE(シードル)」の医療特化グループである「CDLE CAFE-MEDICAL(シードルカフェメディカル)」。食事や排便などの定型的な情報だけではなく、今日行った特別なことや誕生日といったデータも取得・共有することで異職種間の円滑なコミュニケーションを可能にし、患者の状況把握の効率化・医療現場の業務品質向上を狙います。
クリエイターのコミュニティである「ガリレージ」は、患者から医師への追加質問に注目しました。提案したのは、フォーム入力による問診結果からChatGPTが追加質問を生成し、患者の質問事項を効率的に収集する「追加質問の推奨システム」。追加質問による業務負担軽減で診療の質の向上を目的とします。
表彰式、気になる結果は…?
成果発表を終えると、医療従事者とテクノロジー従事者からなる審査員による選考を経て、いよいよ表彰式です。6つの審査観点が改めて提示され、まずは優秀賞受賞チームが発表されました。結果は…?
「Team Durant」です! メンバーからは、「OpenAIで何かしたいとずっと思ってはいたものの、なかなか手をつけられずにいました。今回このような機会をいただけて、ありがたかったです」とコメント。また審査員からの講評では、「医療現場の課題に刺さるソリューション」「ChatGPTを使ってサマリを作るだけではなく、関連性を作るという技術的な面白さ」「汎用性の高さ」が、受賞理由として挙げられました。
そして栄えある最優秀賞受賞チームは…?
「ANDEVER」です!審査員の宮⽥氏は「圧倒的に社会的価値が大きいプロダクト」と絶賛。ファストドクタ―代表取締役の水野敬志氏も「認知症は日本だけでなくアジア全体で深刻化している問題です。その点で、社会的ニーズが非常に高いプロダクトだと感じました。今後の開発で品質を担保できるようにすれば、実用化の可能性もあるでしょう。そのポテンシャルにかけて評価しました」と講評し、メンバーの尽力をねぎらいました。
2日間のハッカソン閉幕
総評では、まず最初にサポートエンジニアとして参加したQiita株式会社のエンジニア、千葉知也からのコメント。「ChatGPTってすごい可能性を秘めているけれど、実用化するとなると難しい面がまだまだある。それを認識したうえでいろいろなアイディアを考えていくことが、これからは大切になると感じました」と、開発者にメッセージを贈りました。
医療分野におけるテクノロジー活用の未来を見据えた総評を行ったのは、医師の⽮ヶ部俊彰氏。「医療の安全責任は、最終的には医師が負うもの。テクノロジーによるミスやエラーも自分の責任になると思うと、実用化への壁は高いと言わざるをえません。ただ5年後、10年後にはテクノロジーによる医療業務が当然という世の中になるかもしれません。今日はそういう未来を目前に感じてうれしかったです」と笑顔で語りました。
最後は、水野氏からのコメントで締めくくりとなりました。「数時間の実働でこれだけ高い評価ができるプロトタイプが生まれ、ハッカソンがプロダクト開発にもたらす効果に手ごたえを感じました。医療のテクノロジー活用という領域には、まだまだポテンシャルがある。ChatGPT×医療という領域も例外ではありません。医療業界におけるテクノロジー活用という領域に挑むポテンシャルがあると思ったら、どんどんこの業界に参加してほしいです。」
イベント終了後には、立食形式の懇親会を開催。審査員・参加者ともに出席し、ドリンクや軽食をいただきながら、チームの垣根を超えた交流が行われました。「あのアイディアはどこからわいてきたんですか?」「ふだんはこんな仕事をしているんですよ」と開発談義に花が咲きました。
さいごに
「Qiita × Fast DOCTOR Health Tech Hackathon」に参加いただいた皆さま、ありがとうございました。「第2回Qiita × Fast DOCTOR Health Tech Hackathon」は12月に開催予定をしておりますので、ぜひご応募ください。