目まぐるしく変わる「生成AI」に対してチームでどう協働する? ファインディ× Qiita マネージャー対談!
生成AIの進化は日進月歩どころか、数週間前に試したツールが古くなってしまうほどのスピード感で進んでいます。生成AIはエンジニアにとって革新的な武器である一方、その変化の速さにどう対応するかに苦慮している組織も多いのではないでしょうか。
また生成AIの導入を進めようとしても、チームの中で積極的に生成AIに触れる人・触れない人がいたり、ジュニアとシニア間の差があったりして、導入の仕方に悩む場面もあるでしょう。さらに導入に時間をかけすぎれば競合に遅れをとってしまい、性急に進めてしまえばセキュリティや法務リスクを抱え込んでしまうため、スピード感とガバナンスの両立をどう実現するかも問われています。
そのような状況の中、「目まぐるしく変わる生成AIに対してチームでどう協働していくか」というテーマのもと、エンジニア向けサービスを展開するファインディ株式会社で「Findy Team+」の開発部の部室長を務める浜田氏と、Qiita株式会社のプロダクト開発部 部長の清野氏が対談しました。
両社とも生成AIを「業務効率化の道具」にとどめず、プロダクト開発や新規価値創出の中心に据えようと取り組んでいるとのことです。生成AIの導入が数ヶ月遅れるだけで、生産性や現場開発力に大きな差が開く可能性があるからこそ、いかにスムーズに組織での活用を推進しているのか。じっくりと語っていただきました。
目次
プロフィール

Team+開発部 部室長

プロダクト開発部 部長
入社後はQiita、Qiita Jobsのプロダクト開発や機能改善等を担当。
2020年1月から「Qiita」のプロダクトマネジメントとメンバーのマネジメントを行う。
2025年4月よりプロダクト開発部 部長として開発組織の統括を行う。
スピード感のある体制づくりが何よりも大事
清野:今回の対談テーマは「目まぐるしく変わる生成AIに対してどうチームで協働していくか」です。まずは、ファインディ株式会社(以下、ファインディ)さんでの生成AIの活用状況について教えてください。
浜田:かなり積極的に活用しようとしています。ファインディはエンジニア向けのサービスを提供しているので、生成AIはまさに私たちのビジネスのど真ん中に来たと感じています。エンジニアだけでなく事業メンバーも含めて、経営レベルで「とにかく触れ」という判断が下されており、新しいものを積極的に業務で試せるような環境が、会社として整っていると感じています。
当然、触ってみないとどこでどのように活用できるか見えてこないのも事実なので、今は「まずはみんなで触ってみよう」という状態です。実際に生成AIを業務で使って効率化を図ったり、プロダクトの機能に生成AIを組み込んで、新しい価値提供ができないかを検討したりしています。
また最近では、既存の枠組みにとらわれない新しいAIプロダクトのトライアルも始めています。既存プロダクトの枠組みで考えてしまうと、生成AIを活かせる範囲がどうしても限定的になってしまったり、既存仕様に引っ張られたりしがちですからね。
清野:エンジニア向けサービスという点では「Qiita」も同じなので、すごくうなずいたと同時に、まだまだできることがあるなと感じました。生成AIは革新的なツールなので使っていきたいモチベーションが非常に高い一方で、ツール自体の進化がものすごく速いので、キャッチアップ中に新しいものが出てきてしまうことも多々あります。規約の改訂もありますし。ファインディさんは、生成AIの進化のスピードとの兼ね合いをどうされていますか?
浜田:弊社では法務やセキュリティ部門も巻き込んで、新しいツールが出てきたら、すぐに取引先チェックやリーガルチェックを依頼できる体制を整備しています。早いものだと1日、長くても数日で使えるようになる状況が実現できています。
清野:そうなんですね! Qiitaも頑張らなければいけないと思いました。僕らの場合は、親会社がプライム上場しているので、守りが比較的固めなんです。できるだけスピーディーに行おうと日々努力はしていますが、どうしても追いつかないのが現状です。スピード感のある体制づくりが何よりも大事だと改めて感じました。
浜田: 他社のエンジニアの方々と話す機会も多いのですが、例えば「GitHub Copilotが使えるようになるのに半年・1年かかった」と聞くと、新しいツールを導入するスタートが遅れると、結果として生産性の面で大きな差がついてしまうなと感じますね。
生成AIによるプルリク率が20%から40%に!目指せ、50%!
清野:ファインディさんのように会社が生成AIの利用に積極的だとしても、メンバー全員がフルスロットルでキャッチアップしてくれるかというと違うなと感じています。僕の感覚ですが、ジュニアレイヤーは自分ができないことを生成AIがやってくれるので喜んで使うし、ベテランレイヤーも使いこなしているイメージがあります。一方で、いわゆるミドルレイヤーは自分で手を動かす方が早いと感じてしまい、生成AIのキャッチアップにコストをかけない人もいる気がします。このあたりの感覚について、浜田さんはどうお考えですか?
浜田:ファインディでも同じような感覚ですね。生成AIを積極的に活用しているメンバーが主体的に道を整えてくれているので、早く使えるようにはなりますが、やはり活用度合いに濃淡があります。
使う人はどんどん使いますし、新しいことに挑戦しています。一方で、担当業務を進捗させる必要がある中で、生成AIの活用には一定の試行錯誤が必要になることもあり、生成AIの活用を後回しにしてしまう人もいます。ですので活用を広げていくためには、リードしている人たちのノウハウや実際の活用事例などを共有する場を、繰り返し作っていくことが必要だと思います。
清野:使っていない人に対して「使ってね、使ってね」と、根気強く言いつづける、ということですね。
浜田:私が担当している「Findy Team+」らしい話をすると、「プルリクエスト全体のうち、何割が生成AIで作られたものか」を、ラベルをつけて可視化しています。始めた当初は20%でしたが、「50%は目指したいね」という声かけとともに割合の状況を地道にアナウンスしつづけた結果、先週は40%まで上がりました。このように定量的に見せることで、目標にも組み込みやすくなり、自分ごと化しやすくなるのかなと思います。
清野:可視化は意識を変える上でとても重要ですね。
浜田: 目標に組み込めば継続的な取り組みになりますね。会社として評価できる状態にすることも有効だと思います。
清野:「使ってね」という呼びかけと、どう使えばいいかのレールを敷いてあげる。この両方が大事なんだと改めて感じました。
生成AI時代も、開発におけるエンジニアの役割や提供価値は、そんなに変わらない
清野: 生成AIの活用率が上がってきたというお話がありましたが、100%になることが手放しで良いことなのかどうか、僕は少し疑問に思っています。というのも、生成AIの登場や活用によって、良くも悪くもアウトプットの量が爆発的に増えました。良いアウトプットを出せる人はさらに良いアウトプットを出せる一方で、筋の悪いアウトプットも簡単に出せるようになったと感じます。
その結果、レビューの工数が増えたり、質の低いコードにストレスを感じたりする問題も生まれている印象です。「ジュニアレイヤーのメンバーが無邪気に生成AIで生成してきたコードをレビューするのは、なんか腹立つ」みたいに言う方もいらっしゃいますよね。この状況で生成AIの価値をどう捉え、組織やいちエンジニアとして、どのように協働していくべきか。浜田さんのご意見を伺いたいです。
浜田:たしかに使う側のスキルや経験値によって、強度を変える必要はあると感じます。お話しされたとおり、経験の浅いメンバーが生成AIの出した内容を理解せず、そのままレビューに出してしまうと、レビューする側はストレスを感じてしまいますよね。それは指示を出して生成されたものを横流ししているだけで、エンジニアとしての存在意義が問われてしまう使い方だと思います。そうではなく「生成AIを使っても良いから、ちゃんと理解しようね」と促していく必要があります。
清野:以前、他の方と話した時に「生成AI時代における人間の唯一のバリューは責任を取ることだ」という話になったことがあります。生成AIが生成したものであろうと、それが間違っていたら、生成させた人が悪い。その責任をどう取るかが大事だと。
その上で、「生成AIがコードを生成する時代においてエンジニアの責任とは何だろう」と改めて言語化したいのですが、浜田さんのお考えはいかがですか?
浜田: 私の考えでは、生成AIが入ってきても開発におけるエンジニアの役割や提供できる価値は、実はそれほど変わらないと思っています。良いコードであること、仕様を満たしていること、品質が高いこと。これらは今までもエンジニアが担保すべきことでしたし、AIがコードを書いても、それを指示した人が品質を担保する必要があります。
ただ、アウトプットの量が爆発的に増えたことで、自分が理解して責任を取るべき範囲が広がっているのも事実です。責任を取るにしても、量が多いので取りきれないことが、生成AIによって発生し始めている新しい課題だと感じています。
清野:責任のあり方は変わらない一方で、アウトプットの増加によって責任を取るべきシーンが顕在化している感じはありますね。だからこそ、筋の良いコードが書けるエンジニアであれば、生成AIによって何倍もの価値を生み出せる、でもありますよね。
浜田:そうですね。ただ、増えたアウトプットを人が全部見ていては、いずれボトルネックになります。その課題は、生成AIの導入以前から同じでした。CI/CDによる自動テストやLinterの導入など、人が介さなくても品質を担保できるような仕組み化が、生成AI時代にはより一層重要になってくると思います。
清野:なるほど。ブレーキをかけすぎず、かといって暴走させないための仕組みづくりが大事になってくるのですね。
浜田:大量のアウトプットを人が全部見るのではなく、極力自動化してAIに任せることで、ミスを自動で検知できるようにする。そうすれば、トライ・アンド・エラーが気軽にできるようになり、結果的に生産性は上がると考えています。
AIによる開発者体験の向上
清野:ここまでは、いちエンジニアとしてのあり方のお話でしたが、組織全体のマネジメントの観点でもお伺いしたいです。生成AIの導入にはリスクとアウトカムの評価が必要ですが、どのように進められていますか?
浜田:生成AIの導入前から、厳格に検証と評価を定めようとすると、どうしても導入が遅れてしまいます。生成AIのような、これまでの価値観を変えてしまうようなツールは、使う前から完璧に見極めるのは難しいためです。
では素早く導入している企業はどうしているかと言うと、多くの場合はとりあえず使ってみて、効果は後から考えましょう、というスタンスだと感じています。会社として絶対に担保すべき最低限のセキュリティをスピーディーにクリアしたら、あとは使ってみてから判断する。このように、リスクを切り分けてスピードを担保する判断が、マネジメントとして必要になってくると思います。
清野:小さく始めてみて、価値は後から理解していくイメージですね。ちなみに新しいツールが出てきたら、とりあえず全部試すスタンスですか?
浜田:生成AI関連ツールは多すぎるので取捨選択していますが、主要なものは全部触るようにしています。弊社では全社導入というよりも、「これ使いたいです」という人に付与するボトムアップ的なアプローチでの利用開始が大半なので、幅広く検証できていると思います。逆に言えば、誰からも声が上がらなかったツールなどは検証されていなかったりすることもあるんですけどね。
清野:そうなんですね。ちなみに、似たような機能を持つ複数のツールを比較する際は、どのような観点で評価されていますか? コーディングエージェントなどは細かい違いこそあるものの、どれも大きな機能としては似ているなと思いまして。
浜田:当然、最終的にはどこかに集約させる必要がありますが、その際は活用度合いやアウトプット量の変化をきちんと評価するようにしています。冒頭にもお伝えした通り、新規プロダクトだと既存のコンテキストに依存しないので、AIの力をフルに活かせます。社内でも、新規プロダクト開発でのアウトプット量が明らかに違うことが定量的に見えており、そのようなデータを可視化して判断しています。
清野:なぜ、新規プロダクトの方が既存プロダクトよりも生成AI活用に適しているとお考えですか?
浜田:既存プロダクトは生成AIを前提にしていないので、生成AIが理解しにくいコードで書かれているんですよね。例えば、コードには表現されていない暗黙知などが多数あり、生成AIライクじゃないんです。その点、新規プロダクトであれば一から生成AIライクにコードを書ける点が、大きなアドバンテージだと感じています。
清野:これからマネジメントの判断基準自体も変わっていく必要がありますね。どの指標が上がるかも分からない中で、導入してみてどうだったかを可視化して振り返りや評価をしていく。まさに「Findy Team+」のようなツールが、生成AI時代だからこそ、ますます重要になってくるなと感じます。
浜田:ちなみに、先日開催した「Findy Team+ Award 2025」では、「生成AIによってどうなりましたか?」というアンケートの結果を発表しました。
浜田:これを見ると、「開発者体験の向上」と「開発スピードの向上」の回答が、AI導入の成果として最も多かったです。負の側面としては、複雑なタスクでは活用できていない、品質が向上しなかった、などの課題が見えています。これは、既存の膨大なコンテキストをAIが理解しきれなかったり、ドキュメンテーション不足でインプットが足りなかったりすることが原因だと考えられます。
清野:開発者体験が上がっているのは興味深いですね。具体的にどのようなことでしょうか?
浜田:開発者体験の定義にもよるのでしょうが、例えばタスク実行時のコンテキストの複雑さであったり、認知負荷のようなところが改善された話であったり、だと思います。これまで当たり前に手書きで書いていたテストコードや、フォーマットの変換といった雑務をAIが自動化してくれるので、体験が上がっているという側面は大きいと思います。
清野: あとツール自体にワクワクするのもある気がします。今まで当たり前にやってきたことが自動化されるのは、エンジニアはみんな大好きですからね。そのような新しい技術によって自分の体験が変わっていることに開発者体験が上がっていると感じる方も、結構いらっしゃるんじゃないかなと思いました。やはり生成AI活用の肝は「ワクワク」ですね。
浜田:それはすごく思います。新しく出てきたツールを「面白そうだな」と思って触って、実際「こんなことも、あんなこともできる」と前のめりに試行錯誤していく人は、生成AIをすごい速さでキャッチアップしているし、活用もしていますからね。
新しいものを恐れずに試して、アウトプットし、業務に活用しよう
清野:最後に、生成AIによって、エンジニア個人の市場価値を上げていくために必要な視点や姿勢、マインドセットについて伺いたいです。浜田さんは、生成AIを使う時にどのようなことに気をつけていますか?
浜田:自分が生成AIと向き合う時に大事にしているのは、既存のプロセスに囚われすぎないことですね。これまでの開発プロセスを前提に考えてしまうと、生成AIの可能性を狭めてしまう可能性があります。プロセス全体を見直して、「生成AIがあるからこそ、今まで非現実的だったやり方が可能になるのではないか」という視点で考えるようにしています。
清野:人は変化を嫌う生き物だと思いますが、浜田さんのように積極的に使おうと現時点で思っていない人でも、慣れていくのでしょうか?
浜田:私自身、新しいやり方を思いついた時にものすごく楽しくなるタイプなので、積極的に変えていきたいと思っています。ただ、おっしゃる通り全員がそうではないので、まずは先行して取り組むメンバーが良さを伝えていくことが、現実的だと思います。実際に触って効果を体験してもらうことで、次の層も活用しはじめると考えています。
清野:ありがとうございます。最後に、Qiita読者の皆さまにお願いします。
浜田:生成AIは、特に今年に入ってから大きな盛り上がりを見せています。Qiitaの記事でも素早く記事を出すと大きく跳ねるように、やはりスピードが非常に重要だと感じています。新しいものを恐れずに試して、アウトプットしたり、業務に活用したりすることは、個人の市場価値向上にも繋がります。
企業の中でも、新しいことにトライして業務に活かそうとする思考の人は重宝されます。特に新しいものが登場した時こそ、大きく評価される可能性を秘めているので、ぜひ積極的にトライしていくと良いのではないでしょうか。
清野:ありがとうございます。お話を聞いて、生成AIの登場によって、エンジニアが発揮すべき責務や本質的なあり方は変わらないと、強く感じました。一方で、細かいアウトプットの出し方やカオスを楽しむマインドチェンジは必要になりますね。そして、その結果をしっかり可視化して、フィードバックサイクルを回していくことも重要だと。
浜田:おっしゃる通りで、小さいチームだと感覚で把握できていたことが、AIの登場で感覚では分からなくなるのではと思っています。だからこそ、これまで以上にきちんと可視化しないといけない。「生成AIでアウトプットが上がった」と思っていても、測ってみたら変わっていなかった、という話も増えています。そういう意味でも、最後に宣伝みたいになってしまい恐縮ですが、「Findy Team+」を活用して定量的に効果を見ていただくことは非常に有用だと思います。
編集後記
生成AIの活用は、単なる効率化に留まらず、「組織がどれだけ早く試し、可視化し、学習して“攻めの選択肢”へと昇華できるか」が問われるフェーズに入っていると感じました。だからこそ、既存プロダクト/新規プロダクトの話にもあった通り、生成AIオリエンテッドなアプローチが、今後の論点になっていくのだと感じます。浜田さんのお話にあった“まずは触ってみる”姿勢や、清野さんが語った“可視化による意識変化”はどの現場にも通じる示唆だと、対談を通じて感じました。
取材/文:長岡 武司
撮影:平舘 平