VPoE経験者2名が語る!目の前の事をやり切る大切さ

ここ10年で、技術や開発手法の多様化に伴い、IC(Individual Contributor)やテックリード、SREなど、エンジニアにとっての新しいキャリアが広がってきています。

キャリアパスの選択肢が増えるのは非常に喜ばしいことですが、一方で、何を大事にキャリア形成をしていくか悩むエンジニアが増えてきていると耳にすることも増えてきました。

多様化するエンジニアキャリアの中で、私たちはどう生きていけば納得度の高いキャリアを歩むことができるのか。今回は、ファインディ株式会社の中でもVPoE経験のあるおふたりに、今の時代にエンジニアキャリアで大事にするべきポイントについて聞いてきました。

プロフィール

神谷 健(かみや たけし)
ファインディ株式会社
VPoE
約10年間、フィンテック企業の業務基幹システムの開発に従事した後、株式会社ドリコムに入社し、『ダービースタリオン マスターズ』など数々のヒットタイトルの開発に携わる。その後、新しい領域への挑戦のため株式会社ZOZOへ転職し、ファッションコーディネートアプリ「WEAR」の開発部長を務める。2021年11月にはファインディ株式会社へとジョインし、2023年1月にVPoEに就任し、現在にいたる。

 

下司 宜治(げし よしはる)
ファインディ株式会社
SRE チームリーダー
新卒でヤフーに入社。2、3度の転職を経ながらサーバーサイドやSRE領域を担当。アンドパッドでは、VPoEとして採用・組織作り・技術的負債の改善からSRE、CRE、QA領域などプラットフォーム部分を担当。2024年4月にファインディへジョイン。ファインディでは入社後よりSREなどのプラットフォーム領域を担当しています。

 

清野 隼史(きよの としふみ)
Qiita株式会社
プロダクト開発部 Qiita開発G マネージャー
アルバイトを経て、2019年4月にIncrements株式会社(現 Qiita株式会社)へ新卒入社。入社後はQiita、Qiita Jobsのプロダクト開発や機能改善などを担当。2020年1月から「Qiita」のプロダクトマネジメントとメンバーのマネジメントを行う。

 

渡邊 暖(わたなべ だん)
Qiita株式会社
事業開発部 プランニングG マネージャー
兼 マーケティング部 マーケティングG マネージャー
アルバイトを経て、2019年4月にIncrements株式会社(現 Qiita株式会社)へ入社。法人向けの広告、SaaS製品の企画・営業を経験。その後Qiita Jobsの営業、カスタマーサクセスに従事し、マーケティング部門を立ち上げ、複数製品のセールスマーケティングやプロダクトマーケティングを担当。現在は企業とのアライアンスやイベントの企画・運営などを担当しつつ、事業開発部とマーケティング部でマネジメントを行う。

目の前のことに常に全力で取り組みつづけたキャリア


清野:おふたりともVPoE経験者ということで様々な会社で活躍されてきた印象です。そもそもどのようにして現在のキャリアになったのでしょうか?何か大きな判断軸はあったのでしょうか?

神谷:すごく将来を考えていたかというと、そうでもないんです。まずは目の前のことに注力して、技術を高めようとしたりしていたら、結果こうなっていたという感じです。
例えば、最初に入ったフィンテックの会社ではRuby on Railsを使ってシステム開発したり、マネジメントを並行したりしていました。ですが、当時は自分の市場価値や技術力に全く自信がありませんでした。もっと強いRubyistがいる会社で働いてみたいと思い、当時から勉強会などで積極的に発信していたメンバーを多く擁していた株式会社ドリコムに入社しました。完全に技術目線でゲーム会社へと転職したわけです。

清野:下司さんはいかがですか?

下司:よく「川下りのキャリア」と「山登りのキャリア」と表現することがありますが、何か目標を決めて山を登ったかと聞かれると、そうでもないですね。基本的には常に「激流の川下り」 をやってきた気がします。激流の状況下で仕事をするとなると、何かしら求められることが多いわけですが、自分としてはそこがやりがいに感じるところなので積極的に飛び込んでいった次第です。激流を乗り切るために必要なスキルや知識などを取得するよう常に努力していたので、結果として、自分でも予想だにしないような成長の仕方をしていったのかもしれないなと感じています。

渡邊:エンジニアのキャリアを考える上で、「マネジメント」か「技術を突き詰めるか」といった議論はよく起こると思います。おふたりはなぜ、VPoEというマネジメントの方向性を選択されたのでしょうか?

神谷:技術のシニアスペシャリストのような、技術に特化した経験もあった中でVPoEを選択したのは、自分が頑張って実現できる範囲内ってある程度予想できたからです。社会にどう貢献するか考えた時に、スペシャリストとしての影響範囲が自分の想像の範囲内であり、もっと面白い経験ができないかなと思っていました。VPoEになれば組織を成長させて会社を大きくしていくことに貢献できるので、それこそ自分の力だけではない、それ以上のことができるようになります。ここの醍醐味に圧倒的に魅力を感じて、シニアスペシャリストの道からVPoEへの道を選択しました。

下司:私の場合、VPoEだからマネジメントを選んだという感覚はあまりないですね。開発の組織をみていく時に、そもそもエンジニアのことを分かっていないと意志決定ができないと考えていまして、VPoEになってからはより一層エンジニアの勉強をしないといけないと思って取り組んでいます。その前提で、テックリードだと担当プロジェクトが影響範囲だったのに対して、VPoEはそれが会社組織全体になるので面白そうだなという感情が大きかったですね。

自分の想像を超える転職がしたかった

清野:何かチャレンジをする時、社内で挑戦する方法と転職して挑戦する方法があるかと思います。なぜ、社内ではなく転職という選択をされてきたのでしょうか?

神谷:おっしゃる通り、社内でも役割を変えたり部署が変わったりとかで可能性は広がると思います。現に僕も最初の会社に10年、ゲーム会社に8年ほどいて様々なことをやらせてもらいましたが、その結果、自分の想像の範囲がだんだんと分かってきて、そこを超えたくなるんですよね。自分の想像を超える転職がしたかったんです。

清野:自分の想像を超える転職、ですか。

神谷:このままゲームでやっていくと考えていた時にZOZOを提案されて、その考え方は全くなかったなと。まさに想像を超えたチャレンジだと感じて、転職をしました。ですから、社内か社外かはタイミング次第かなと思います。

下司:私も神谷さんの考え方に似ています。先ほど「激流が好き」とお伝えしましたが、長く勤めていると、川の流れが緩やかになってくる時があります。片手でも泳げるくらいに感じる中で、もうちょっと急な状態でないと自分自身の成長はもちろん、事業への貢献も薄くなってしまうなと。より自分自身を追い込んで挑戦していくのが、私にとっての転職のモチベーションかなと思います。

渡邊:かなりストイックですね。VPoEという職種を意識されたのは、どんなきっかけだったのでしょう?

神谷:前職のZOZOの時ですね。当時入社した時に、現在BuySell TechnologiesのCTOをやっていらっしゃる今村さんのVPoEの動き方を拝見して、組織そのものを強くして会社に貢献するというキャリアがあるんだと当時初めて知ったんです。それまで延々とゲームを作ってきた人生だったので、このままキャリアの最終地点を考えると、自分の中では考えてもみなかった働き方だったので面白いなと。ただ、振り返ってみると、マネジメントを通じて組織を改善し結果事業を大きくするという経験自体はそれ以前もやっていまして、その経験はVPoEというキャリアを選んだ一つの経験だったかと思います。

渡邊:具体的に、どういった経験だったのでしょうか?

神谷:「プロダクト作りをやりたい人」と「技術を突き詰めたい人」の2タイプがいまして、全エンジニアの話を聞いていった上で、開発部署を2つに分けるという意思決定をしたことがありました。プロダクトチームはKPIの改善などを目標にし、一方で技術チームは技術力の向上を目標にするという感じで、目標設定そのものも完全に分けたんですね。そうすることでマネジメントがしやすくなったし、メンバーとしてもより気持ちよく働けるようになり、成功したことがありました。そんな体験も相まってVPoEって楽しそうだなと思い、弊社代表の山田に「将来私がVPoEとしてマッチする企業はどこだと思います?」と気軽に相談したら、結果こうなったという感じです。

エンジニアがキャリアについて考えるときに大事なことは?

清野:VPoEとしてマネジメントや採用面接でいろんなエンジニアを見てこられたかと思います。悩む人に対しては、どのようなアドバイスをされていますか?

神谷:目の前の技術に向き合って、その技術を好きになって、そこで伸ばしたスキルを使ってモノを作って稼ぐ。これってものすごく楽しいことだと思うんです。そこが将来にも繋がってくると思うので、悩んだら、まずは目の前の技術に向き合って頑張るのが一番だと伝えるようにしています。

下司:完全に同意です。少し補足するとしたら、今やっている技術の周辺でも新しい技術は次々に出てくると思うので、そういった新しい技術や変化が起きそうな技術などを敏感にキャッチして、貪欲にキャッチアップして取り組むというのも大事かなと思います。

渡邊:技術スペシャリストとマネジメントで、求められるスキルなどの違いはあったりしますか?

神谷:僕の感覚では、大きな違いはないと思います。すごく優秀なシニアスペシャリストは、 同じく非常に優秀なVPoEにもなれると思います。いずれにしても、目の前の技術に向き合った先にあるポジションかなと思っています。

下司:技術に特化している方々は、自分が頑張ってどうにかする人が多い気がします。一方で、できないと思ったら他の人を入れてチーム全体でなんとかしようとする人もいて、そういう人がVPoEに向いているのかなと。そこの志向性の違いがあるんじゃないかなと思っています。

清野:このスペシャリスト or マネジメントに関してはキャリアの分岐点の一つとして相談したい人も多いと思うのですが、おふたりはいつもどのようにアドバイスされていますか?

下司:「なんで悩んでいるの?」とストレートに聞きますね。というのも、本当にやりたいのがどっちか分からないケースもあれば、給料が上がりやすいのはどっちかで悩んでいるケースもあると思います。

神谷:たしかに「将来年収1,000万円を超えるにはどっちがいい?」みたいな相談は前にもらったことがありますね。結論としては、どっちも超えると伝えました。最短としてはどっちかで悩む人が多いと思うのですが、私としては「悩んでいる時間がもったいないので、まず目の前の技術に向き合って成果を出すことに集中しましょう」と言っちゃう気がします。技術にしっかりと向き合えて成果が出ていれば、おのずと年収も上がっていくはずですから。

清野:ちなみにテックリードやICのキャリアを目指している人なら技術力の向上は大事だと思いますが、例えばPdM(Product Manager)などのキャリアだと必ずしもエンジニアリングが必須ではない部分があるかと思います。そうは言っても、基本的にはすべてのエンジニアにとって、技術力向上が大切なのでしょうか?

神谷:僕としては、PdMなどのコードをゴリゴリ書かない職種は別のベクトルで考えても良いかなと思っています。というのも、逆に全てのエンジニアがPdMをできないといけないかというと、そうじゃないと思っています。プロはプロに任せたいという気持ちがあるんですよ。そもそも技術を磨いて価値提供している人がプロダクト志向じゃないのかと言っても、普通にプロダクトに貢献しているはずですよね。企画のところは企画のプロに任せ、その人たちと一緒にエンジニアのプロとして協働すると、最高のプロダクトを作ることができると思っています。

清野:僕もPdMの立場なので、その気持ちがすごくよくわかります。

下司:事業に関わる方って、何かしらの課題を解決したいと考えていますよね。例えばエンジニアであれば技術を使って課題解決をしたいと考えていますし、PdMであれば顧客理解を深めて課題解決をしたいと考えていることが多いと思います。そのお互いの領域が一部染み出していくことは素晴らしいことだと個人的には思っていて、あくまで重心の違いかなと感じています。

成長する環境に身を置くことの大切さ

清野:技術力についてですが、具体的にはどのように伸ばせば良いとお考えですか?

神谷:キャッチアップの仕方は人それぞれだと思っていて、自分だけで頑張ってスキルが伸びる人もいれば、人に聞くことで伸びる人もいますよね。個人的には多様性をもって、例えば勉強会に参加して他の人とコミュニケーションするなどして、自分の現在の立ち位置を把握することが一番大事かなと思います。

下司:先ほど冒頭で激流に揉まれる話をしましたが、とはいえ3ヵ月〜1年などの短期的な目標はある程度決めています。その際に、自分がいけるかいけないかの微妙なラインを目標に設定することが多いです。方向性としては激流に任せつつも、ある程度やることは決めておいた方がいいかなと思っています。

神谷:あと向上心がものすごくある人がいる環境、成長する環境に身を置くのも大事ですよね。カンファレンスなどのイベントでそういう繋がりを作ることもできると思います。

下司:強い人と一緒に仕事をする環境、すごく大事ですね。いわゆる強い人って山の登り方や川の下り方などで圧倒的な突破力があるもので、それを一緒に体験するのが良いんだろうなと。必ずしも特定の言語に強いエンジニアが強い人、とも限らないかなとは思います。

渡邊:たしかに、優秀な人と働いたり、良い環境で働いたりするのはすごく大事だと思います。ただどうやって探すのか問題があるかと思います。具体的にどうすれば良いでしょうか?

神谷:自分だけで悩んでも限界があると思うので、壁打ち相手や相談相手を見つけるのは大事かなと思います。今だとXで探したりコミュニティに所属するのが早いですが、Findyでも行っているようなカジュアル面談に行ってみて、他社のエンジニアの方とお話するのも効果的ですね。ちょっと宣伝になっちゃいますが、以前別のインタビューで紹介したFindyのユーザーサクセス面談にきていただければ、良い会社も探せるし、キャリアの壁打ちもできます。
※Findyのユーザーサクセスサポートについては以下の記事もご覧ください。

▶︎エンジニアのキャリア/人生全体の「サクセス」に徹底して向き合う!Findyの「ユーザーサクセス」のサポートに迫る

事前準備不要!Findyユーザーサクセスで今後のキャリアを相談してみる

下司:今となってはこんな話をしていますが、自分が20代だった時はマネジメントかスペシャリストかで悩んでいて、様々な人と交流する中で多様な考え方を知り、結果として壁打ちになっていましたね。

神谷:僕も転職するタイミングに関しては、非常に悩んでいましたよ。エージェントに壁打ちしてもらっていましたし、転職じゃないタイミングであっても、都度知り合いに話して壁打ち相手をしてもらっていました。

下司:ちなみにファインディでは多種多様なイベントを企画していまして、そういうところに行ってもらうのもありかなと思います。

清野:イベントってフラットな立場で参加できるので良いですよね。

下司:イベントに行って他社のメンバーの話を聞くと、意外と自社が良い環境だと分かることもありますし。

渡邊:キャリアに悩んではいるけど、なかなか人に相談できない、一歩が踏み出せないという人がいると思います。そういった方は、まず何をすれば良いと思われますか?

神谷:弊社でお伝えすると、週1で1on1を実施していて、そこでリーダー陣が悩みなどを引き出す努力をしています。その場を有効利用していただくというのが、手っ取り早い方法かなと思います。一番信頼できる身近な人に相談するのが良いのではないかなと。

下司:はじめの一歩の怖さがあるとは思いますが、それを解消するための1on1ですからね。何を恐れているんだろうというのを分析すると、意外と怖くないことが分かることもあります。

とにかくエンジニアという仕事を楽しんでほしい

清野:今までのキャリアを振り返っていただいて、自分の壁を超えることができた瞬間やエピソードについても、ぜひ伺いたいです。

下司:高トラフィックの本番運用ができたことは、やっていて良かったなと感じる事例ですね。個人が運用するものだと大したPVにならないものですが、企業で事業展開していくと、個人では想像できないようなトラフィックやデータ量を体験することもあります。「どうやってこの量をさばくんだろう?」というのを体験できたのが、後の自分の考え方にかなり大きく影響しているなと思います。

神谷:割と早い段階でマネジメントをやらせていただいた中でも、技術に対して全力で向き合えてきたことが良かったですね。一時は部長である自分が一番コードを書いていたんですよ(笑)。 『ダービースタリオン マスターズ』というゲームのバックエンドのテックリードをやったことがあり、そこでは高負荷試験を繰り返していました。バックエンドで複雑なロジックがあるので、いかにパフォーマンスよくユーザーに届けるかが課題だったんです。ゲームをプレイしていて通信に時間がかかると「Now Loading」という表示が出るのですが、表示された瞬間にプロデューサーが飛んできて「すぐに直してください」と言うような環境でした。

よく30代がエンジニア定年説みたいな話がありますが、僕の場合、技術力が非常に伸びたのは30代後半でした。圧倒的に自分のスキルが上がったと実感するタイミングがあって、その感覚が楽しかったんでしょうね。それを追求できたのは良かったです。

とにかくユーザビリティ観点で最高の体験を提供しようというチームで働いていたので、その中で自分ができることを考えた時に、バックエンドのレスポンスタイムを極限に短くしようと。それを極めた結果、ゲームをリリースした後に見える景色が変わっていたという感じです。

清野:まさに目の前の技術に向き合った結果ですね。それでは最後に、読者へのメッセージをお願いします。

神谷:エンジニアはクリエイティブな仕事なので、すごく楽しい仕事なんですよね。ですから、とにかく楽しんでほしいなと思います。自分の技術力を活かして課題解決をして、世の中に価値を提供できたことをすごく実感する瞬間があると思うので、そこで「エンジニアをやってて良かった」って感じると思うんですよね。ということで、「まずは技術で課題解決を楽しもう!」とお伝えしたいです。

下司:今こうやって喋っていますが、僕も20〜30代前半の頃は悩み多き若者でした。その中でも人と話していったことで、自分ってこうなんだと気付けたところが大いにあるので、ぜひ一人に固執せず、様々な人と話してほしいなと思います。その前提で、冒頭から神谷さんがおっしゃっている通り、まずは目の前の課題や技術に向き合ってやりきっていただき、自信をつけていっていただきたいと思います。

編集後記

具体的な事例からマインド面でのお話まで、VPoE経験者ならではの貴重なお話をたくさん伺うことができました。先のことがどんどんと見通しにくくなっているからこそ、そこに対して不安を抱くのではなく、とにかく目の前の技術/事象に向き合う。エンジニアはもちろん、あらゆる職種に通じる真理だと感じました。本記事を読んで自身のキャリアについての悩みを自覚された方は、ぜひ一度、Findyのユーザーサクセス面談を利用されてみてはいかがでしょうか。

取材/文:長岡 武司
撮影:伊東 祐輔

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