トヨタグループの繋がりを最大限活かして技術と事業を磨く。トヨタシステムズの「新規事業開発本部」が進めるチャレンジとは

あらゆる業界でAIなどの技術を活用したDXソリューションへのニーズがますます高まる昨今、製造業においても様々なケースでの社会実装が増えています。

今回は、これまで専門要員による目視に頼っていた自動車の「外観検査」を、人の目では確認しづらい細かな凹凸を把握する技術を開発した事例を通じて、トヨタ自動車のグループ企業・株式会社トヨタシステムズ(以下、トヨタシステムズ)の取り組みを見ていきます。

トヨタグループ内の様々なIT業務を担う同社の中でも、先端技術の研究開発を軸に事業開発を進める「新規事業開発本部」のエンジニア2名に、新たに取り組んでいる事業内容についてお話いただきました。

※同社での取り組みについては以下の記事もぜひご覧ください
▶︎機械学習で自動車の新色開発を短期化!トヨタシステムズが取り組む技術開発と、そこで求められる人材とは。

プロフィール

石川 浩二(いしかわ こうじ)
株式会社トヨタシステムズ
新規事業開発本部
大学にて電気情報工学を専攻し、電機メーカーにて10年近く勤務した後に、株式会社トヨタコミュニケーションシステム(現トヨタシステムズ)に入社。一貫してCAE関連のエンジニア/プロジェクトリーダーに従事した後、2012年に新規部署の立ち上げに伴う社内公募があり、現在の新規事業開発本部へと異動。以降はずっと、ディープラーニングやVRなどの先端技術の調査や試行、それらに伴う事業開発に従事している。

 

川村 誠(かわむら まこと)
株式会社トヨタシステムズ
新規事業開発本部
大学で物理系の学部を卒業した後、1998年に株式会社トヨタソフトエンジニアリング(現トヨタシステムズ)に入社し、曲線や曲面・点群などの幾何計算や最適化計算などを駆使したCADシステム、医療画像等の研究開発などに従事。新規事業開発本部への異動後も、それまでの画像関連に関わる経験を活かした技術開発を担当している。

 

トヨタのテストコースに侵入する動物を自動で検知するシステムを開発

――はじめに、おふたりが所属する「新規事業開発本部」について教えてください。

石川:組織名の通りですが、会社の中でも新規事業開発に特化した部門として活動しており、事業を進める人と技術専門の人、総勢15名ほどが所属しています。各テーマへの取り組みに対して、開発の途中段階であってもトヨタシステムズ社内で試行したり、論文を出して外部での発表など行ったりして、会社の実力確認やノウハウの蓄積をしています。

――基本的にはトヨタグループ内の案件に携わっているのでしょうか?

石川:元々はトヨタグループの開発をメインで行っていましたが、現在はトヨタグループに加えて一般市場にもターゲットを広げ、新規顧客発見に注力しています。新しい技術を使えるものにするには相応の工数がかかるので、専門部隊である私たちが担当するのですが、せっかく技術を実用的なものにするのであれば、グループ外も含めて対応できる製品開発を進めて顧客基盤を作ろう、という背景があります。

―― その中でおふたりは、どのようなことに取り組んでこられたのでしょうか?

石川:技術検討が多いですね。10年ちょっと前にスタートしたころは、当時としては最先端だったVRや仮想化技術、初期のディープラーニング、光通信といったテーマを扱っていました。最近ではニオイセンサーやOCRなどに取り組んでいます。中でも近年で特に大きな取り組みになったのは「動物検知」ですね。

――「動物検知」とは、どのようなものですか?

川村:トヨタのテストコースに侵入する動物を自動で検知するものです。監視カメラの画像から画像処理技術によって動いているモノを捉えて、AI技術を使ってクルマか動物かを判別し、動物の侵入をリアルタイムで検知します。

――テストコースに動物が入ることなんてあるんですね…。

川村:トヨタのテストコースは非常に広大なので珍しいことではないですよ。開発した動物検知システムは北海道士別市にあるコースに導入したのですが、コース内には広大な森があって動物も普通に生息しているので、テストドライブ中に侵入してくる可能性は十分あります。

動物検知システムの仕組みとしては、動物が侵入すると走行しているクルマにアラートが出され、走行を一時的に中断。そして監視員が該当箇所にいる動物を追い払ってくれるという流れになります。草木の揺れなどの誤検知は抑え、遠方の小さな変化を的確に捉えられるようにしています。おかげさまで、2018年度のトヨタ自動車の仕入先表彰にて「技術開発賞」を受賞しました

石川:現在注力しているのが、同じく画像処理の応用先として取り組んでいる「外観検査ソリューション」です。技術面は主に川村さんが担当し、私はお客さまに満足いただけるようなプロダクトになるよう管理進行を担い、ときに技術検証に必要なプログラムを作るような役割分担をしています。

人の目では確認しづらい凹凸を、光の当て具合で検知

――外観検査とは、具体的にどのような作業なのでしょうか?

川村:製品の品質を維持するために、製品の外観を確認する作業です。キズや塗装の剥がれ、凹みがないかとか、塗装にムラがないかなど、生産する製品の品質を外観からチェックしていきます。私たちが提供するソリューションでは、測定したいものに「縞模様」パターンの照明を当て、その反射をカメラで撮影することで、表面がどのようになっているかが計測できるようになっています。

――照明の反射状況をAIで解析するということですか?

川村:車体のキズや凹みの状態を画像処理で数値化し、AIで判断します。特に「ゆず肌」と言われる、表面の細かな凹凸を計測することができるようになっています

――「ゆず肌」って言うんですね。

川村:塗装に関する専門用語だと思いますが、言葉の通り、果物の「ゆず」の表面ように凸凹がある状態のことを指します。

――なるほど。この取り組みを始めたきっかけは何だったのでしょうか?

川村:もともと画像処理についての研究を実施していた中で、AIでのキズ検知の取り組みもあり、中古自動車の外観検査でも使えるのではという仮説から入りました。そんな中、トヨタグループ内に中古車のオークション管理をしている会社があり、その会社に向けてシステム開発を進めることになったのです。

そこでは中古車のすべての検査を人の作業で実施しており、外観検査を含め1台10分も掛からずに行われているとのことでした。よって、検査時間の短縮や見落としの防止、検査員の作業負荷低減、さらには検査員ごとのクオリティのばらつきの低減などを目的に、まずはキズ・凹みの検知からスタートさせました。

――最初はゆず肌ではなく、キズや凹みから取り組まれたのですね。なぜ検査の対象を変えることになったのでしょうか?

石川:キズや凹みについては問題なく検知できるようにはなったものの、クルマ全体の検査のための撮影に時間がかかってしまい、お客さまの要件に合いませんでした。では次に何ができるかということで、今度は塗面状況のチェックにチャレンジしました。塗面の微小な凹凸、つまり先ほどお伝えした「ゆず肌」を検査し、補修されていない通常の塗装と、補修後などの再塗装された塗装で違いが見られるのではないか、と予想したわけです。

川村:どのような照明を用いて、どのような撮影をすれば検査可能な画像を撮影できるかをテストするところからスタートさせ、補修されたクルマかどうかを「ゆず肌」の状態からAIで判定することに成功しました。ただ凹凸の状態の計測だけでは精度不足だったことに加え、検査にかかる時間がお客さまの要件に合わなかったため、最終的には中断することになりました。

中古車での実用化はなかなか難しかったので、今度は新車塗装のゆず肌をチェックするというアプローチに切り替えました。というのも、トヨタではゆず肌のレベルが決まっているため、ゆず肌を機械的に数値化することでレベル判断を人の目から置き換えることができるのではないかと考えたのです。

結果として、新車塗装に対するゆず肌チェックも成功しました。現状トヨタ側でのニーズの優先度が高いわけではないため、他の用途含めたソリューションの提供形態を模索している状況です

撮影方法にこだわりつつ、様々な分野への応用を目指す

――これまでの経緯を伺っていると、お客さまの要件に合わないケースがしばしば発生しているとお見受けしますが、具体的にどのような要因があるのでしょうか?

川村:そもそもクルマ一台全体を検査するとなると、どうしても装置が大掛かりになり、検査に時間がかかります。導入に見合うだけのメリットがあるかどうかが要因だと感じています。また検査員は車体の裏など見えにくい部分もチェックしているので、それらをトータルでカバーする形で自動化するのも非常に難度が高いと感じています。照明を当てたときの条件も変わるし、そもそも照明を当てられない部分もあるので。

石川:中古車に対する検査のケースでお伝えすると、外観検査は数多くある検査の一部に過ぎません。検査員は内装なども含めてトータルでチェックするので、たとえ外観だけ自動化してもソリューションとしては弱いですし、業務効率化の観点でも限界があります。

一方で新車の場合は、その道のプロである目利きの人員がだんだんと減っていくことが想定されるので、「代わりの目」として今後ニーズが増えてくるのではないかと考えています。現状では目視で行ったほうが広範囲を一度にチェックでき、スピードも早いため実用化はしていませんが、中長期的には外観検査以外にも、ニオイや他の部分もやっていきたいという気持ちがありますね。

――開発を進める上で、特に難しかったところはどのような点ですか?

川村:どのような照明を当てて、どういう撮影ができれば良いか、とにかくテストを重ねる必要があったことでしょうか。LEDなどで小さい照明のプロトタイプを作って、とにかく何度も試しました。照明は照明メーカーに依頼して作ってもらったのですが、先方としても作ったことのない仕様だったため、ディレクションも大変でした。

――ソリューションとして精度や装置が整ってきている中で、ほかのプロジェクトや事業への転用として今考えられていることはあるのでしょうか?

石川:そこは今まさに応用先を調査しているところです。トヨタやクルマ業界以外もスコープに入れて、外観検査にこだわらず、他のテーマでも進めようとしています。

工業製品のほかにも、個人的には農業分野での害虫や植物の病気などを検知するような仕組みにも使えるのではないかと考えています。すでにアグリテック領域には先行企業がたくさんいるので、当社が提供する場合は、これまで培ってきた「撮影方法」にこだわりたいなと考えています

例えば赤外線カメラなどを駆使してきちんと写すことで差別化できないかなと。しっかり写ってさえすれば、ディープラーニングやAIなど方法は何でも良いですが、識別するのがより簡単になるので挑戦していきたいなと思っています。いずれにしても、これまでの反省を踏まえて、課題やニーズの大きさを確認してから取り組むようにしたいと考えています。

――トヨタグループならではの強みとしては、何を訴求できそうでしょうか?

石川:グループの大きさを活かして、クルマを扱う工場や販売店、検査部門など、クルマに関する多種多様な現場で確認できることだと思います。また市販のシステムや装置では対応できない部分に対して技術的に尖らせられるのも、トヨタシステムズとしての強みかなと思います。「痒いところに手が届く」に挑戦できる、ということですね。そのためにも、特に新規事業開発本部では社内外での積極的なコミュニケーションが重要だと捉えています。

社内・お客さま・パートナー会社、大勢の優秀な方たちの中で自己研鑽できる

――「働き方」についても伺わせてください。長年技術者として活躍されてきているおふたりが思う、技術者として大切な姿勢や考え方は何ですか?

川村:課題に対して様々な角度から見て、効果的な解決方法を見つける姿勢が大事だと思います。今回お伝えした外観検査では、塗面やカメラ、LEDなどを使って試して、効果的な撮影方法や計算方法を見つけることで初めて成果を上げることができたと考えています。

もちろんその過程では、一人で黙々と考えるのではなく、お客さまとやりとりして、ご要望をどのように実現していくのかを試行錯誤していく。そのような進め方をしていくことも大切だと思っています。

石川:新人の場合、よほどのクルマ好きなら別ですが、クルマに精通しているわけではない人も多いと思います。お客さまは分野に通じたエンジニアであることが多いので、技術的に対等に話ができるくらいの事前勉強が必要になりますね。

またソフト開発の領域についても、アジャイルなど様々な手法を取り入れるようになってきているので、開発技術や環境など、トレンドを含めた継続的なキャッチアップが必要かなと思います。要するに、今まで積み重ねてきたものに加えて、努力を怠らない姿勢が大事ですね。

――よく技術者のキャリアとして、マネジメントかエキスパートかという議論があるかと思いますが、トヨタシステムズではどのようなキャリア制度になっているのでしょうか?

石川:仕組みとしては管理職だけではなく、その道や分野のエキスパートとしてのキャリアパスがあります。現状としてはマネジメントコースを進むメンバーが多い印象ですが、今後はもっと、とにかく技術力を磨いていくキャリアのメンバーも増えていくだろうと思います。

――おふたりの今後のキャリアの展望としてはいかがでしょうか?

川村:私の場合は、志向としては技術力を磨き続ける方向ですね。新しい技術の登場に伴って、必要となる知識もますます増えているので、常に学び続け、分野での専門家としてリーダーシップを発揮していきたいと考えています。

石川:キャリアの途中からプロジェクトマネージャーといった、プロジェクトの企画や進行を行う道を歩んできましたが、もう一度自分の手でモノを作りたいなと考えています。作る側のスキルアップをして、会社を離れても自分の足で歩けるようになりたいなと。今までの経験から、実際に使う人とお話をして、欲しいと思われるモノを作っていきたいです。

――改めておふたりが思う、トヨタシステムズの新規事業開発本部で働く魅力を教えてください。

川村:最新技術を収集して新たな技術開発や事業にチャレンジすることができる点が、新規事業開発本部最大の魅力だと思います。もちろん会社全体でもそのような風土はあるのですが、この部署は特に技術選定を自由にできる傾向があるので、技術者として楽しさを感じています。

またチャレンジに対する自由な文化が割とあるので、自分がやりたいことを主導して進められるところも良いなと感じます。

石川:社内もお客さまもパートナー会社も、大勢の優秀な方たちの中で自己研鑽ができる点が大きな魅力だと捉えています。特にパートナー会社のメンバーは多種多様な持ち味を持っている方が多いですね。クルマに関する現場を生で見て体験できるので、特にクルマ好きの方であれば毎日が楽しいと思います。

トヨタシステムズ自体は2019年1月1日付でトヨタグループ3社が統合してできた会社なのですが、統合してからはイベントごとが多く、様々なテーマで社内勉強会や発表会などが行われています。そのようにメンバー同士の繋がりができることで、チームとしての成果も大きくなってきているのかなと感じています。

――ありがとうございます。それでは最後に、読者の皆さまに対してメッセージをお願いします。

川村:ぜひ、新しい知識やスキルを学び続ける意欲がある人に入社していただければと思います!

石川:全体的に広くなんでもできる人や、ある部分が非常に尖っている人など、様々な強みがある人がいらっしゃると思いますが、基本的に一人でできる仕事ではないので、仲間を巻き込み、協力していける人が求められていると思います。技術を持っている人や磨きたい人はもちろん、キャリアで入って来られる人であればこれまでのご経験があると思うので、ぜひ、新しい風をトヨタシステムズにもたらしていただきたく思います。

編集後記

インタビューで石川さんがおっしゃっていたように、トヨタグループ内の様々な現場をある意味で「活用」できるということで、事業開発を進めるという観点からは非常に恵まれた環境だと感じました。日本最大級の企業グループを誇るトヨタグループのリソースを活用して、最先端技術の研究開発も含めた事業開発をするチャンスということで、興味のある方はぜひ応募してみてはいかがでしょうか。

取材/文:長岡 武司

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