ITの力で日本の医療を未来に進めるファストドクターで、エンジニアがイキイキと活躍しているのは何故ですか?
ファストドクター株式会社(以下、ファストドクター)は、医療提供に必要な体制・機能をITの力で効率運用させている日本最大級のプラットフォームを運営しているヘルステック企業です。2016年の設立からテクノロジー技術を活用して、医療DXを推進するトップランナーとして業界を牽引し続けています。その活動は常に注目を集めており、コロナ禍の影響もあって広く報道される機会が多かったことから、テレビなどで社名を目にしたことがある方も多いはずです。
そこで、今回はファストドクターのCTOである宮田 芳郎氏とテックリードの左近 竜司氏に日本の医療DXの現在、過去、未来と医療分野にエンジニアが挑む意義について伺いました。
目次
プロフィール
日本の医療をITで支え、『1億人のかかりつけ機能を担う』存在をめざす
――ファストドクターの事業内容を教えてください。
宮田 芳郎氏(以下、宮田):ファストドクターは、全国の医療機関で構成されている時間外救急のプラットフォーム(総合窓口)を運営しています。
緊急性や通院困難性に応じて救急病院の案内や必要時の夜間・休日の救急往診、オンライン診療などの適切な医療を選択できるよう支援するなど、人と医療を結びつけるサービスのため、利用者をコンシューマー(患者様)、行政機関、クリニックと幅広く想定しています。
――とても社会的意義の高い仕事で、最近はコロナ禍等の影響で社会からの関心が高まっていると思いますが、それを肌で感じることはありますか?
左近 竜司氏(以下、左近):やはり、ニュース媒体で取り上げられているのを見ると実感が湧いてきますね。
宮田:私の入社前の話ですが、当時の内閣総理大臣が当社を訪問してくださったことがあったと聞き、社会的に必要とされているサービスであると感じました。
――2016年にファストドクターが創業されてからオンリーワンの存在として注目を集めてきましたが、今後、どのようなビジョンをお持ちですか?
宮田:ファストドクターでは、これまで症状が急に現れる「急性期」の医療を中心に対応してきました。夜間救急は、文字通り夜、急に具合が悪くなったときに利用いただくものです。また、コロナ禍においては、これまでに40近くの自治体と公的に連携して自宅療養者の診療支援にあたり、時には肺炎を患い入院が必要にも関わらず、病床の逼迫により自宅療養を余儀なくされる方の治療を行うなどもしてきました。これからは対応範囲を「救急」から医療「全域」に広げていこうとしています。
方向性としては、厚生労働省が適切な医療提供体制の確保を図るために策定する「医療計画」の核である「5疾病6事業および在宅医療」に対応してそれぞれファストドクターのソリューションを組み込んでいこうと思っています。「5疾病」というのは、精神疾患、糖尿病、癌、心臓病そして脳卒中のことです。「6事業」とは、救急医療、感染症、へき地医療、小児救急医療を含む小児医療、災害時医療、周産期医療のことをいいます。このように医療を支えるプラットフォーマーになりたいと考えています。
このビジョンを我々は『1億人のかかりつけ機能を担う』と表現しており、日夜、これに取り組み、前進しているところです。
スタートアップのスピード感で“24時間365日稼働するシステム”を開発
――IT技術を活用した「時間外救急」「往診代行サービス」等のシステムは、どのような経緯で開発したのでしょうか?
左近:2018年1,2月ごろ、ファストドクター取締役の小石から私に「今やっている事業をシステム化してほしい」と話がありました。当時はGoogleスプレッドシートでほとんどの業務が管理されている状態でした。
オペレーターが電話で状況を把握して、患者様、医師、ドライバーそれぞれの情報を記入していたのですが、件数が増えてくるとかなり工数がかかります。その状態では、対応する人員も増やしにくく、業務が煩雑になって手に負えない状態になっていたのでシステム化したいという要望でした。
しかし、当時は業務プロセスが試行錯誤の段階だったこともあり、フローの整理が必要でした。例えば、医師のカルテはフリーテキストで全てバラバラに入力されていたり、進捗のステータス管理もメモ書きのような状態だったりしたので、これらの要素を分解してデータベースに収められる形にしていくのが最初の大きな取り組みになりました。
――その時点で気づいたことはありましたか?
左近:実際にデータベース化できるデータやフローを洗い出し、システム化していくと、利用するプレイヤーが多いサービスだと認識しました。往診では①診察する医師、②医師をアテンドするドライバー、③電話で患者様の対応をする複数のオペレーターが各々ステータスを更新をするため、リアルタイムにデータ処理する必要があることも分かりました。
さらに、医師やドライバー、コールセンターのオペレーター向けに、それぞれが使いやすい専用画面を用意する必要もありました。この専用画面を用意するのが大変でしたね。
――大変な部分というのは、リアルタイムで更新が必要だからでしょうか?
左近:そうです。リアルタイムに医師がそれぞれステータスを反映させ、コールセンターのオペレーターが医師に連絡して連絡事項を入力する、これらのやり取りがリアルタイムで相手に通知される必要がありました。
最初は、この部分でのトラブルが多くDBではよくある「ABA問題」といった不整合が起きていました。データベース側で対処ができてもブラウザ側では意図踊り動いておらずバグ取りにとても苦労させられました。
――24時間365日ずっと止めることができず、ミスも許されないリアルタイムの医療システムの開発は緊張感があったと思います。当時、何名ぐらいの規模で、どのぐらいの期間でファーストバージョンにたどり着いたのですか?
左近:最初、3ヵ月かけて私1人で作ったんですよ。
――えっ! それはかなり大変だったのではないでしょうか?
左近:そこは皆さんに驚かれます(笑) ですから、さすがにファーストバージョンといいつつも、最初はコールセンター側が使うシステム構築に注力し、医師サイドは診療ステータスをシステムにリアルタイム連携する開発にとどめて、例えば移動中にカルテをハンズフリーで入力できるといった業務効率化は後回しにしました。
余談ですが2018 年当時はキャッシュレスにも対応しておらず、現金での支払いでした。現在ではコンビニ後払いやクレジット決済も可能になり、保険証の提出から会計まで全て自動化できています。当時とは雲泥の差があると感じますね。
――まず、「伝える」「伝わる」ことを優先して開発していったのですね。
左近:そうですね。とくに医師とオペレーター、患者様が電話で話した記録をそれぞれリアルタイムで連携させることが重要だったので、そのステータスと情報のやり取りに最初は注力しました。
――技術的な面や開発手法から見て、ファストドクターならではの使い方をするようなケースはありましたか?
左近:サーバー側はRailsで開発しました。特色は、WebSocketをバリバリ使ってサーバーからリアルタイム通知でブラウザに通知しています。スケジュール管理をするにあたってはカレンダー機能を実装しました。やはり、往診にまつわる情報が多く、カレンダーから多種多様な情報を読み取りたいというニーズが高かったため、よくある汎用的なカレンダーのライブラリは使えなかったのです。
そこで独自にカレンダー機能を1から作りました。リアルタイムでカレンダーの状態が配置され、ステータスによって色が変わったり、必要なステータスの状況に応じた情報を表示できることがファーストフェーズでは大きなポイントになりました。
――リアルタイム性に大きな特徴がありますね。
宮田:後から入社してきた私としては、その部分はすごくよく作り込まれていると感心しています。
――Railsが主に使われていると伺いましたが、他にどのような技術を採用していますか?
左近:画面側はVue.js、データ管理用にVuexなども使っていますね。サーバー側のデータベースはPostgreSQLを使っています。Herokuで動いていて、現在、AWSに移行しようかどうかという瀬戸際のような状況になっています。
――システムを利用するプレイヤーも多く、データの大容量化が進むと、さらに負荷が大きくなっていくと思いますが、今後はどのように発展させていく予定でしょうか?
宮田:これまではモノリシック的システムとして作ってきましたが、今後は、少しずつマイクロサービスに切り出していこうとしています。システムを作り始めた当初はコロナ禍もなく、自治体のコロナ対応を支援するシーンを想定していませんでしたが、今後は、自治体の支援業務が増えると考えているからです。
例えば、大きな自治体では数十人の看護師が患者様へフォローアップの電話をする業務があります。このような使い方をすると負荷が高くなりますので、こういった部分は新しくNest.jsのフレームワークで開発しなおそうとしています。
――スタートアップの開発チーム体制で、まるでWEBのアプリやゲームを開発しているように業務を推進しているのですね。
二人(同時に):そうですね。
――現在の開発チームの雰囲気はいかがですか?
宮田:とても良いと思います。開発メンバーはファストドクターの社会的意義に引かれて入社してくれた方が多いです。仕事をしていると、ダイレクトにフィードバックがもらえます。
例えば患者様から「高熱がありながら発熱外来に断られてしまったので助かった」といったレビューコメントをいただきます。看護師の方からも「延々と続く業務量だったが、このシステムを開発してもらったおかげで終わりが見えた」といった喜びの声をダイレクトにもらえるのでメンバー全員がやりがいを感じて仕事ができています。また現場の医師からも、改善案や指摘が入るものの「こんなすぐに対応してもらえるのですね」と言ってもらえてこちらとしても貢献できていることを感じますね。
2022年12月、新たにテック組織を設立し、さらに開発力を高めていく
――2022年12月1日からファストドクターテクノロジーズという組織を立ち上げられましたが、こちらの組織はどのようなミッションを持っているのでしょうか?
宮田:立ち上げの経緯としては、先に述べた通りファストドクターは今後、より広域で医療に関与する事を目指しています。テクノロジーやデータの力でそれを推進し、社会に新たな価値を提供できるようになりたいとの思いがあり、テクノロジーに特化した組織を作ることになりました。
ファストドクターではマーケティング、経営企画、技術開発などの部署にエンジニアが分散して所属していました。これをファストドクターテクノロジーズにまとめて再編し、一体感のあるテック組織となって開発力を高め、新しい施策を打ち出していくことを考えています。
――今後、技術面でどのような面を強化していこうとしていますか?
宮田:再編と同時にR&Dの部署を新設し、新しくAIを活用したソリューションを作っていきます。例えば医師が診察しているときに音声を自動認識してカルテを書き起こす機能や、オンライン診療の間に患者様の画像から感情を読み取り、診察に役立つプラスアルファの情報を出す機能などです。
さらに需要予測や、往診を効率よく行うための「巡回セールスマン問題」のように、どういう経路で往診すると効率が良いのかを数理的に最適化して解く、といったアプローチをしていきます。
――メンタルヘルス診療など、新しいサービスもリリースするそうですが、これは冒頭に伺った対応する領域を広げていく一環でしょうか?
宮田:そうですね。メンタルヘルスは人がずっと付き合っていくものです。定期受診が必要になるという点で、ファストドクターの従来の事業とは異なり、新たな事業になります。このような「慢性期」の疾患患者様を対象にしたサービスの第1弾としてリリースしたところです。
育成に自信あり!社会的意義がある開発で成長したいエンジニアを募集中
――ファストドクターでは、多くの人々から「ありがとう」といってもらえる、やりがいの感じられる開発ができると伺いましたが、どんなエンジニアが向いていると思いますか?
宮田:社会的意義のあるサービスを開発をしたいと思っているエンジニアや成長したいという気持ちが強い方だと思います。
左近:我々はNest.jsなど、比較的新しいフレームワークを活用しています。現時点で日本語のドキュメントは多くないので、公式ドキュメントやGitHubで調べることは多いです。ですから、疑問点をできるだけ自分で調べて解決し、チームに共有できる下地ができていると、同僚としては助かりますね。
――エンジニアの育成環境が整っていることや先行事例がないモノを開発していることもあり、“これからの人”を求めていそうですね。
宮田:単純に、どんどん成長していきたいと思っている人と一緒に仕事ができると楽しいからという一面もあります。また、私が前職で教育業界の仕事をしていた為、育成環境を整えることには自信を持っています。
――ファストドクターに応募しようと思うエンジニアが身につけてほしい技術はありますか?
宮田:今後、TypeScriptに力を入れていきたいので、キーワードとしてTypeScriptはひとつあります。当社のR&D以外の開発のベースラインは、Railsがまだ数年は使われると思うので、Railsのコードを読み解きながらTypeScriptで作っていくと考えています。
左近:基幹のところとは別で、今までGAS(Google Apps Script)等でやりくりしていた仕組みの部分はNest.jsやTypeScriptで品質管理しやすい形で維持していきたいという思惑があります。
外注によってGASで作ってもらったモノはコードが結構バラバラです。コード管理がちゃんとできていないので、メンテナンスするとき読み取るのが大変でした。このような部分をNest.jsに移していきたいという話もあるので、TypeScriptやNode.jsのノウハウがあると重宝されると思います。
宮田:画像解析など、AI開発に興味を持って取り組んでいるエンジニアの方々にも、ぜひ、ファストドクターに関心を持っていただきたいと思っています。
世の中には解かないといけない課題が数多くあります。R&Dで成果を世の中に結びつけることはなかなか難しいと思いますが、手で書き起こしているカルテなど数千件のデータの取り込みを自動化できれば、業界的にも大きなインパクトがあります。効果の高い解決方法を見出せると、多くの人々に喜んでいただける、解いて楽しい課題がたくさんあると思っています。
――現在、エンジニアの育成面で力を入れていることはありますか?
宮田:個人的にはテックリード(左近氏)のコードプレビューが助かっています。メンバーからも「しっかりコードレビューしてもらえる」という感謝の声がありました。こういった基本的なフィードバックはエンジニアを育成する上で重要なことだと思っています。
左近:視点的にトラブルが起きそうなところは「ここは直してください」といわざるを得ませんが、それ以外はレビューをして判断を委ねるようにしています。全ての状況を把握できているわけではないので、「ここはこういう風にした方がいいよ」とか「スケジュールと相談だけれども……」といった感じで、助言するだけではなく、エンジニア自身の考えを大切にするように心がけています。
宮田:私が取り組んでいるのは、開発スキルよりも、世の中にインパクトを与える出来事を起こすために、どういう考え方をするべきなのか等、開発現場の人と一緒にプロダクトを作っていくためにどのようにコミュニケーションをデザインして、どういう風に本音を教えてもらうのか、みたいなノウハウを伝えることです。
左近:私は今、Nest.jsで動くサービスを増やしているところです。Nest.jsで作ったモノをオープンAPIのaxiosというhttpリクエストを投げるツール向けのコードを自動生成して、それとVue.jsをつなげて開発するっていうスキームを作っています。そういったNest.jsやTypeScript回りでよくあるトラブルや分かりづらいところをマークダウンで書いて共有しています。
これは私だけではなく、新しい分野を担当したエンジニアはマークダウンで記述して皆で積極的に共有していますね。
――マネジメントする上で心がけていることはありますか?
左近:当たり前のことですが、チームで開発するので、Linterのルールが分かりやすくきっちり整っていることが重要だと考えています。自分が理解したこと、こうしてほしいと思ったことは、チーム内で相談し変更が必要な場合は適宜変更します。マークダウンなどでどんどん共有して、フィードバックを得る機会をできるだけ増やしたいと考えています。
医療の生産性を上げ、教育の向上など未来につなぐ社会づくりへ
――今後、どのようにファストドクターを発展させていこうと考えていますか?
宮田:日本が国として支払う医療費は40兆円近くなっています。一方で文部科学省の国家予算はそれよりも少ないです。今、未来を作るための投資よりも医療関係の予算が増えており、誰かが医療の生産性の改革を起こさないと、日本の未来が描きにくい状態になってしまうと思っています。
我々は医療全体に対しては規模が小さい会社ですが、医療費を1%下げることができたら、何千億円もの効果が期待できる世界です。我々のサービスを広く、便利に使っていただいて、医療の生産性を上げて、未来に使えるお金と時間を増やしていきたいことが個人的な野望として思っています。
左近:これまでは生活者向けの救急往診事業がサービスの中心でしたが、24時間の稼働が求められる在宅医療を担う医療機関の負担軽減を目的とした「在宅医療支援事業」、地域の医療課題解決を目的とした「自治体支援事業」と、様々な事業が立ち上がりつつあります。また、救急だけではなく、慢性疾患や診療内科的なフォローもするようになります。このようにサービスが多様化しても、決済情報や診療内容を地域の医療機関や厚生労働省へ連携する仕組みが必要です。
現時点では、その辺りがまだまだ急ピッチに個別で開発されている状況です。規格化、正規化して、共通可能な基盤をマイクロサービス的に作って効率化したいと考えています。個人的にもシンプルで綺麗にできるとテンションが上がりますね(笑)
――最後に読者にメッセージをお願いします。
宮田:社会的意義のあるサービスを開発をしたいと考えているエンジニアへ 、胸を張って本当にお勧めできるのがファストドクターだと考えています。エンジニアの枠内にとどまらず社会にインパクトを出したいと思っている方は大きなことができる会社だとも思っています。そういう思いがある方はぜひ、当社の門を叩いていただきたいです。
左近:ファストドクターは、開発者と利用者の距離が近いイメージがあります。例えばバーチャルコールセンターで働くオペレーター・医師・ドライバー・社員を含めあらゆるオペレーションに係るスタッフとはLINE WORKSなどで常につながってリアルな反応を見ながら開発しています。
なのでリリース後、「すごく使いやすくなりました」「こうしてほしい」といったフィードバックをもらいやすい環境なんですよね。課題感をリアルに感じられるとともに、解決したときのフィードバックから達成感も得やすく、やる気も出ると考えられますね 。私がフリーランスだった時代、大規模のシステム開発では、直接、フィードバックが得られないこともあったので特にそう思います。
また、先ほど話題となったようにAIを使った画像認識、音声認識など最新技術の研究やトライもできるので、そういった挑戦を通じてやりがいが得られるのも当社の魅力のひとつだと思います。興味を持った方はぜひ一度、声をかけてみてください。
編集後記
2016年の設立から日本の医療が抱える問題に正面から取り組み、わずか数年で内閣総理大臣の訪問を受けたり、テレビなどで大きく報道されたりするなど、高い評価を得ているファストドクター。報道ではその活動の社会的意義が紹介されることが多いのですが、実はバリバリのテック企業です。その取り組みを聞けば、エンジニアならすぐにピンとくることですが、私にはとても新鮮でした。
そして、自らが持つ技術を駆使して社会に貢献すると同時に自分も成長できるエンジニアにとって夢のような環境であるとも感じました。ファストドクターの描く未来に関心を持たれた方は、ぜひ同社の発信するメッセージに注目してください。
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