小さなことから一つひとつ。アジャイル開発の精神を軸にアウトプットに取り組むKDDIアジャイル開発センターの発信術
社内コミュニケーションが活発な企業は、働きやすいものです。特に部署を超えた「横のつながり」が強い企業は、社内の情報共有がスムーズで業務が効率化されるだけでなく、組織全体が活性化して生産性の向上にも繋がります。社員同士のコミュニケーションの中から、独創的なアイデアも生まれやすいでしょう。
このような「横のつながり」をQiita Organization(キータ オーガナイゼーション)での発信を通して構築しているのが、KDDIグループのアジャイル開発を牽引するKDDIアジャイル開発センター株式会社です。楽しみながら発信し、知識を共有する同社の文化は、どのように醸成されていったのでしょうか。エンジニア組織のマネジメントをする岡澤 克暢氏と、いちエンジニアとして社内のコミュニティ作りをリードする小板橋 由誉氏に聞きました。
KDDI株式会社 ソフトウェア技術部 リーダー
SNSで飛び交う「いいね!」。イベントが近づくと自然にチームが盛り上がる
――今年のQiita Advent Calendar(以下、アドベントカレンダー)に参加されていますが、参加のきっかけは何でしたか。
小板橋 由誉氏(以下、小板橋):アドベントカレンダーには毎年参加しているので、今年も「やるしかない!」っていう感じです。Qiitaのイベントは面白いから、エンジニアの仲間うちでいつも話題になるんです。SNSで「こんなイベントやってるよ」と連絡が来たら、やっぱり「いいね、出よう」となる。おかげでイベント期間中は、平日も休日もなく夢中で記事を投稿しつづけてしまうくらいです(笑)。
――そもそもなぜQiita Organizationを導入されたのでしょうか。
岡澤 克暢氏(以下、岡澤):Qiita Organizationって、気軽に投稿できるのがいいですよね。KDDIには会社の公式ブログもあるのですが、自社のメディアで発信するのって結構ハードル高いじゃないですか。だからそれとは別に、ライトに発信できる場を作りたかったんです。Qiita Organizationなら、記事はあくまでも個人の発信だから、自由に投稿できる。発信を通してエンジニアの成長を促しつつ、そこから面白いコミュニティができていくことを期待していました。
その期待は大当たりで、複数の要素はありますが導入後は明らかに新しいコミュニティを作る動きが活発になりました。社内の各コミュニティが定期的にイベントを開催するようになったり、medibaやSupership、アイレットといった複数のグループ会社のエンジニアとのつながりも強くなっています。当初はメンバー数名と立ち上げたグループのOrganizationも、いまや70名くらいの規模に。メンバーは部署も職種も様々で、エンジニアやエンジニアマネージャーはもちろん、デザイナーも参加しています。
――アドベントカレンダーに向けて、どのような準備をしていますか。
小板橋:アドベントカレンダーでは、記事を書いたらまずQiitaの記事を共有するグループチャットで共有しています。すると「いいですね!」「この技術、私も気になってました」などと反応が続々。仕事ではあまり関わりのない他部署のメンバーからのコメントも多く、Qiita Organizationならではのつながりを実感する瞬間です。その流れで「次はこんな記事を書いてみようかな」という話になり、また新しい記事が生まれることもあります。だから企画会議もなければ、僕が何かを強制することもない。いつの間にか盛り上がって、日を追うごとにカレンダーが埋まっていっています。
アジャイル開発はTipsの宝庫。日々の小さな気づきを発信
――Qiita Organizationでの発信が普段の開発に活きている例はありますか。
小板橋:アジャイル開発では、新しい機能を週単位でどんどんリリースしていきます。僕はその中で出てきた気づきを他のエンジニアに共有したり、備忘録代わりに残したりしたいという気持ちで記事を書いています。他のメンバーから教えてもらった便利なTipsに感動して記事にすることもよくあります。
自分のスキルを自分のものだけにせず、エンジニアコミュニティ全体のために役立てたい。そんな思いが1番にあって、2番目に「自分のエンジニアとしての市場価値を向上させたい」、3番目に「会社のプロモーションにつなげたい」という思いがあります。この3つがグルグル回って、発信を続けるエンジンになっています。
――発信は、エンジニア個人のブランディングにもなるのでしょうか。
小板橋:はい、大いになると思います。たくさんのエンジニアがいる中で、どうせなら「尖った人」になりたいじゃないですか。そのために欠かせないのが、発信だと思うんです。発信を続けることで、「このジャンルならこの人」という得意分野ができてくる。そうして初めて、ビジネスのチャンスが広がってくるのではないでしょうか。
たとえば、記事はカンファレンスやイベント登壇のきっかけにもなります。得意分野が周知されることで登壇依頼が来ることは多いですし、書き溜めた記事がそのまま登壇時の資料になるというメリットもあります。記事をきっかけに羽ばたいていけるエンジニアが増えると思います。
発信といっても、大げさに考える必要はないんです。ほんの1行や2行のつぶやきでもいいし、既存の情報を自分なりに整理して発信しなおすのもいい。そういう小さな発信を続けていくと、どこかで「そろそろしっかりと記事を書いてみたいな」という気持ちがわいてくるはずです。小さなことから一つひとつ。これはアジャイル開発にも通じる精神ですし、Qiita Organizationだからできることだと思っています。
――記事を書くときに意識していることや、執筆の中で気づいたことを教えてください。
小板橋:記事を書くときは「わかりやすさ」を意識しています。たとえば少しコアなテーマなら、導入で基礎の説明をしっかりしたほうが、より多くの人に読んでもらえると思うんです。あらためて調べてみると、テーマに対する自分の理解が間違っていたことに気づくこともある。そういう「学びなおし」の意味でも、記事を書くことはいい機会になっていると思います。
テーマも書き方も、十人十色。個性あふれる記事が「つながり」を生む
――どんなところに一番、Qiita Organizationのよさを感じますか。
小板橋:Qiita Organizationは、複数のOrganizationに所属できるのがアツいですよね。グループ外のコミュニティにも気軽に参加できるのがいいと思います。所属感はあるけれど、部署や部門のような制約はない。そういうちょうどいい温度感だからこそ、コミュニティの盛り上がりが長く続いているんだと思います。会社やグループの枠を超えた横のつながりも、自然にできていきました。
――発信も運用も自由度が非常に高いのは、何か狙いがあるのでしょうか。
岡澤:Qiita Organizationでの発信は、会社が縛るものではないと思っています。会社が関わっているのは、社名のバッジがついているということくらい。Qiitaのガイドラインに沿ったものであれば、各自の判断で自由に書いてOKとしています。転職してもバッジが変わるだけで、それまで書いてきた記事がムダにならないのもいいですよね。組織としても少ない人数から運用をスタートでき、管理コストも減る。人材の流動化が進む現在に即したサービスだと思います。
とはいえ、メンバーが書いた記事はいつも読んでいますよ。記事が配信されると、業務で使っているチャットのフィードや社内ポータルサイトに上がってくるようにしているので、社内でもずいぶん周知されています。飲み会などで「あの記事、面白かったね」と盛り上がることも、よくありますね。書いた記事に反応がもらえる喜びが、発信を続けるモチベーションになってくれればと考えています。
――面白い記事がたくさん集まっていますが、その秘訣は何ですか。
岡澤:多様な人材がいるのが、KDDIアジャイル開発センターの強みです。新しいことにどんどん取り組むアグレッシブな人もいれば、保守など安定的な開発を得意とする人もいる。同質化されていない組織だからこそ、記事も十人十色で面白いのではないでしょうか。そういう個性を伸ばしつつ「アジャイルへのこだわり」という共通点も大切にして、強いエンジニア組織を作っていきたい。職場としても、自由だけどつながっているという、この上なく働きやすい環境だと思います。
――発信を会社に縛られないことで、書く側としてはやはりモチベーションが高まりますか。
小板橋:そうですね。発信ってやっぱり、自分の中から湧き上がってきた「好き」「面白い」という気持ちを基準にするのが大事だと思うんです。それを会社の事情や上司の意見、世間の風潮を受けて修正してしまうと、いい内容にはならない。Qiitaなら世の中ではあまり注目されていないコアなテーマを書いてみるということも、全然できますよね。そういうところから、開発のユニークなアイデアが生まれてきたりもするんじゃないかと感じています。
――エンジニアが社外に向けて発信するメリットは、どんなところにありますか。
岡澤:KDDIって、エンジニアのイメージが薄いと思うんです。でも実際には、各グループ会社が優秀なエンジニア組織を持っている。エンジニア個人の発信によって、それを外部にもっとアピールしていきたいと思っています。有益な発信はエンジニア個人の価値を上げてくれますし、そんな人材が所属しているということで会社のプロモーションにも繋がります。社内だけで完結せず、社会に向けてオープンに発信するメリットは大きいと感じています。
――エンジニアの発信が、会社に貢献しているのを感じることはありますか。
小板橋:発信を続けると、自然と人が集まってくる。Qiita Organizationを使ってみて、実感していることです。それも社内だけではなく、グループ会社や他社とのつながりもできるんです。今はDX化が進み、1社だけでビジネスを作るのが難しい時代。会社の枠を超えたつながりは、すべての企業に必要不可欠だと思います。最初は小さくてもいいんです。自分の中にある気づきや疑問、興味を、ぜひ発信してみてください。
編集後記
自由な発信に人が集まり、濃いコミュニティになっていく。KDDIアジャイル開発センターでは、そんなサイクルがうまく回っているのを感じました。取材時のおふたりはとにかく楽しそうで、どんな話題にも前向き。「これ、面白そう」「いいね!」というライトなコミニュケーションからアイデアが生まれ続ける、活発な社風が垣間見えました。これから同社が起こすイノベーションに期待が高まります。
取材/文:株式会社Tokyo Edit
撮影:高木 成和