書くのが楽しいから、また書きたくなる。新規事業開発のエンジニア集団・Relicが体現する、企業発信の理想形


企業発信は「一方向」から「双方向」の時代へ。企業の発信といえば、かつては広告やメディア掲載といった一方向的なものがほとんどでした。しかし、近年では、SNSや情報発信サービスの普及を背景に、企業の広報活動においても単に情報を発信するだけでなく、情報を受け手のニーズを鑑みた発信が求められるようになっています。

そんな中でQiita Organization(キータ オーガナイゼーション)を導入し、会社をあげてエンジニアの発信力向上に取り組んでいるのが、IT技術を使って新規事業開発やイノベーションの創出を支援する株式会社Relicです。それまでなかった発信の文化を、どのようにつくっていったのか。社員に発信を続けてもらうために、どんな工夫をしてきたのか。同社においてエンジニアの発信を推進する熊田 寛氏、山口 裕也氏に聞きました。

熊田 寛 (くまだ かん)
プロダクトイノベーション事業本部 システムディベロップメント事業部
テクノロジープラットフォームグループ SRE
インフラエンジニア・SRE。2017年にインフラエンジニアとしてのキャリアをスタートさせ、2021年にRelicへ入社。複数プロジェクトを横断したサービスの信頼性向上や、セキュリティの均質化・最適化に取り組む一方で、Qiita Organizationを利用した発信の取り組みを推進する

 

山口 裕也 (やまぐち ゆうや)
プロダクトイノベーション事業本部 サービスデザイン事業部
デザインエンジニアリンググループ マネージャー
Webアプリケーションエンジニア。製造業向けソリューションを提供するIT企業を経て、2022年にRelicへ入社。新規事業立ち上げ時の要件定義や設計・開発など、事業検証における幅広い分野を担当するとともに、業務の中で得た知見をQiita Organization上で積極的に発信する。

お祭りのように「楽しんで書く」空気が根づいた瞬間

――まず、Qiita Organizationを導入しようと考えた目的は、何だったのでしょうか。

熊田 寛氏(以下、熊田): 一番の狙いは、エンジニア向けに発信の機会をつくり、自分の考えを言語化する力をつけてもらうことでした。言語化能力はエンジニアの業務に必要不可欠なスキルです。自分の中でやりたいことを整理し、より明確にする。それを周囲に伝え、理解してもらう。エンジニアの業務で日常的に繰り返されるこれらの工程は、言語化能力なくしてはできないことだからです。

山口 裕也氏 (以下、山口):お客様やスタッフとコミュニケーションを取りながら行う要件定義やヒアリング、プレゼンといった業務はもちろん、コードを書くときにも論理的思考力や思考の整理が必要です。Qiita Organizationを利用することで、こうした言語化能力を底上げできると感じています。

熊田:Qiita Organizationなら投稿された記事が会社のためになるだけでなく、個人のブランディングにも役立つことに大きなメリットを感じました。

個人が勉強会に登壇し、他社からの新たなコラボレーション依頼を引っ張ってくる。人気記事を書けるようになった個人が、「Qiitaの記事を見て応募しました」という応募者を連れてくる。そんなふうに会社やエンジニアという枠組みを超えた効果が、次々と表れるようになったのです。強固なテック系コミュニティの地盤をもつQiitaを発信の場に選んだからこそ、こうした恩恵を受けられたと思っています。

――組織も個人も発信の恩恵を受け、両者がそれを広げているという、理想的な形ですね。発信を継続させるコツはどんなところにありますか。

熊田:なんといっても「楽しんで書くこと」ではないでしょうか。記事が継続的に書かれるのは、内発的な動機に基づいているときだと思うんです。何事も強いられていると思うと続きませんから。そういう意味では、Qiita Engineer Festa 2022(以下、エンジニアフェスタ)への参加は大きな契機でした。お祭りを楽しむような空気の中で発信の文化を醸成できたのは、非常にありがたかったですね。

肯定的なフィードバックを得られることで、記事を書くのが楽しくなる。「よし、つぎはもっといいものを書いてやろう」という意欲が出てくる。そういう人を見て「自分も書いてみようかな」という人が現れる。こうした「巻き込まれ、巻き込んで」という好循環が起き、発信が続いたのではないかと思っています。

――エンジニアフェスタでは内容の濃い記事をたくさん投稿されていましたね。

山口:みんなで記事を投稿して盛り上がる中で、社員同士の理解も自然と深まりました。Relicは中途や新卒含め多種多様なバックグラウンドを持ったメンバーが在籍している会社です。同じ職種であっても、入社前に培ってきたナレッジはそれぞれ違います。同僚が書いた記事を読んで、ふだん同じ領域にいる仲間に自分とは違う経験やスキルがあると知れるのは、楽しいですね。お互いに刺激し合えますし、そこから“化学反応”が起こって、業務にもこれまでにない広がりが出てきたように感じています。

熊田:エンジニアフェスタでは、3位入賞という目に見える実績を残せたことで、社員のモチベーションがさらに高まりました。表彰を通して対外的な認知度も高まり、他社のエンジニアと横のつながりを築くための土台ができたと思います。

Qiita Organizationで発信を始めてから、月ごとの発信者数と発信参加率を記録しているのですが、どちらもエンジニアフェスタに参加した月に一番伸びていたんです。当時はRelicのOrganizationに参加するメンバーの数が着実に増えてきて、今まで発信したことがなくても安心して記事を投稿できる雰囲気ができはじめてきた頃でした。そこにイベントがあり、新しい取り組みを始めたいと思っている人の背中を押すことができた。本当によいタイミングだったと思います。

決まった型を押しつけない。「発信したい」気持ちをくすぐるサポートが奏功

――イベント参加後も記事は増えていったのでしょうか。

熊田:Qiita Organizationを利用することで「発信する文化」や「発信を楽しむ空気感」をつくることには成功しましたが、何もせずにどんどん記事が増えていったわけではありませんでした。自分の名前で記事を書いて発信するとなると、心理的な障壁を完全に消し去ることはできません。その障壁を乗り越えてもらうサポートをすることが、次の課題になりました。

心理的障壁の原因を考えたときに、思いあたったのはレビューでした。組織としての発信をするとき、社員が書いた記事を公開前に社内でレビューするというケースもあるでしょう。でも、そのレビューが記事を書こうとする人に重責を感じさせてしまうこともあると思うんです。そのためRelicでは、レビューの目的を機密情報漏えいのリスク回避や誤った内容の発信を防ぐことに留め、記事を書くメンバーの発信したい内容を可能な限り制限しないことにしました。

山口:レビューを意識してプレッシャーを感じてしまうというのは、たしかにありますが、私はそれ以上に、自分が書いた記事に反応をもらえる嬉しさを感じています。以前から様々なサービスを使ってIT関連のテーマでブログを書いていたのですが、反応が少なくてがっかりすることがほとんどでした。Qiitaを使うようになってからは、以前からは考えられないほどたくさんのリアクションをもらえるようになったんです。プラットフォームによってフィードバックの量がこんなに変わるものかと驚きました。

――とはいえまだ、記事を書くのに尻込みしてしまう人もいると思います。そういった方にはどのようなサポートをされていますか。

熊田:発信の成功体験がまだ少ない人の中には、投稿するのを不安に感じる人もいるはずです。そのような社員のために、具体的には、週1回PRチームが「発信の相談会」を開催し、記事について気軽に相談できる場ができました。公開前の記事に対して感想をもらえるのはもちろん、それ以前の「ちょっとネタに困ってるんですけど」「こういうテーマってアリですか」という相談もできる場にしています。PRチームからのフィードバックによって自信がつき、自分でも驚くほど筆が進むようになったという声もあがっています。

――記事を書きなれていない人向けに、テンプレートのようなものがあったりもするのでしょうか。

熊田:Qiita Organizationを始めた当初、テンプレートがあれば書くハードルが下がるのではないかという意見もありました。しかし、テンプレートを作って「これを真似してください」と示せば、書く人を型にはめてしまうことになります。それでは記事を書く意欲が薄れ、継続的な発信は望めないと考え、記事作成のガイドラインを作成することにしました。

会社としてなぜ発信に力を入れているのか。発信することでどんな効果が期待でき、どんなメリットがあるのか。こうしたことをまとめた、いわば“発信の心得”のような内容をアナウンスしたことで、社員の内発的な動機づけが促され、発信のサイクルがうまく回っていったと思っています。

良質で熱のこもった発信は、企業の経営課題まで解決してくれる

――これからの時代、企業は「発信」というものに対して、どのように取り組んでいくべきでしょうか。

熊田:今「発信すること」の効果があらためて評価されています。会社の認知拡大や個人のブランディング、求職者へのアピール……多くの会社がこうした経営課題を解決するためのひとつの策として、取り組みを始めています。数々の会社がしのぎを削る中で抜きん出た発信をするには、小さなチームでなんとなく取り組むのでは間に合いません。会社全体としてきちんと制度設計を行い、信頼に足るプラットフォームを使って運用する。それがこれからの企業に求められる「発信のカタチ」だと感じています。

山口:これから発信の制度設計をする段階の会社は、Qiita Organizationを利用するメリットが特に大きいと思います。過去にほかの人が書いた記事を参考にできるし、すでにエンジニアのコミュニティができているから反応ももらいやすい。Qiita Organizationには、発信経験がない人の背中を自然に押すしくみが盛りだくさんなんです。発信の文化をつくるスタートダッシュにもってこいのサービスではないでしょうか。

熊田:Qiita Organizationがエンジニアに特化したサービスであり、かつ10年という長い歴史の中でユーザビリティを高めてきているという点は、決め手のひとつになりました。自社でオウンドメディアを運用するのは、運用コストがかかりすぎる。かといって、一般的なブログサービスを使えば、テック関連の記事に注目が集まりにくい。総合的に考えた結果、発信の舞台としてQiita Organizationを使うのがベストな選択だと思えました。

――今後はどのような発信を目指していきたいですか。また、Qiitaを利用するエンジニアのみなさんにメッセージをお願いします。

熊田:社内に発信の文化を醸成することを目標に始めた取り組みも、Relicには新規事業開発に強いエンジニアやデザイナーがいる組織であるという認知を拡大させていくことを目指していくフェーズに入りました。単に自分が興味のあることを書くだけでなく、時代の流れに沿った記事のテーマを選ぶ。自分の信念や会社の方針を、多くの人が注目している社会課題などに絡めて発信してみる。こうしたワンランク上の発信に取り組み、言語化とフィードバックをくり返しながら、会社と個人の発信力がどんどん上がる成長サイクルを回していきたいと考えています。

山口:エンジニアは常に勉強を絶やさず、アウトプットを続けなければいけない職種です。そんな中で、記事を書くことは一番気軽なアプトプットの形だと思うんです。サービスやアプリを切れ目なくリリースするのは難しくても、構想を記事にまとめて投稿するのならできるという人も多いはずです。その積み重ねが自分の身になると信じて、ぜひ続けてほしいですね。

編集後記

個人の発信力は、時として組織の枠を超えた影響力をもつ。Relicの取り組みは、そのことを教えてくれました。多様化が進む現在、企業のレギュレーションに合わせて個人が発信するスタイルはそぐわなくなってきています。スキルも個性も多様な個人の発信が、企業のカラーを作っていく。それが企業発信の主流になっていくのではないでしょうか。こうしたスタイルがすでに根付いているRelicは、発信力をもって次世代をリードする存在になっていくのではないかと感じました。

取材/文:株式会社Tokyo Edit
撮影:高木 成和

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