IT人材が変われば日本も変わる!これからのエンジニアが身につけたい「社会課題の解決力」
労働力人口が減少している今日の日本においては、激しくなっていく企業競争にデジタル技術を用いて対応していくことが求められています。そこで切り札とされているのが、産業に先端技術を適用した「スマートインダストリー」の実現です。
Modis(モディス)は、人材サービスのグローバルリーダーであるAdecco Groupの一員として、デジタル技術を幅広くカバーするエンジニアリングサービスを提供することで、社会のDXをさらに加速するために活動しています。
日本社会が抱えている課題を改めて見つめ直すとともに、それをITエンジニアの力でどのように解決していくのか、Modis株式会社 人事本部 副本部長 リクルーティング担当の小川剛 氏に話を伺いました。
プロフィール
2013年、斎藤 顕一氏(元マッキンゼー・アンド・カンパニー パートナー)に師事し、社内改革プロジェクトを複数担当。2018年、アデコ株式会社へ転籍し、新規事業の企画立案~立ち上げ推進を担い、収益事業へと成長させ、現在のModis株式会社が手掛ける事業へ統合し、現在に至る。
日本社会の持続的成長に不可欠な先端ITエンジニアを取り巻く課題
――まずは、昨今のITエンジニアやテクノロジーに対するニーズをお聞かせください。
小川:日本は人口減少に歯止めがきかない状況になっており、労働力人口も減少しています。それでも国が成長していくためには、1人当たりの労働生産性を上げるほかありません。テクノロジーで置き換えられるところは置き換えて、置き換えられないところを人が担う。あらゆる産業においてテクノロジーの活用は不可欠です。
ところが、産業にテクノロジーを取り入れる「スマートインダストリー」の実現を担うITエンジニアは大幅に不足しています。経済産業省の事業で取りまとめられた『IT人材需給に関する調査』によると、現在のITエンジニアは約100万人います。しかし、2030年には約45万人が不足するものと予測されています。このギャップを解消するための対策を考える必要があります。
問題はITエンジニアの「人数」だけではありません。将来的には、ITエンジニアに求められるスキルも現在と大きく変わっていきます。今はAIをはじめとする最新技術を扱える「先端IT人材」よりも、データベース、サーバー、ネットワークなどの専門分野に特化した「従来型IT人材」が必要とされていますが、2030年には需要が逆転すると予想されています。従来型IT人材が不要になるわけではありませんが、今後の見通しを踏まえるとスキルの見直しも、ITエンジニアにとっては重要なのです。
——「先端ITエンジニア」への転換を目指す人材は増えているのでしょうか。
小川:残念ながら、先端IT領域のリスキル、アップスキルは進んでいません。情報処理推進機構(IPA)の『DX推進に向けた企業とIT人材の実態調査』によると、従来型IT技術者(先端IT非従事者)の約4分の1が「勉強の必要性をあまり感じない(現在のスキルで十分だと思うから)」というデータがあります。また、データサイエンスやAI、IoT、ブロックチェーンなどの技術別にリスキルやアップスキルを聞いたところ、全ての技術において「習得する予定はない」という回答が9割近くに上りました。
そもそも勉強と仕事の両立は大変です。現在の仕事と直結していればタスクとしてこなせるかもしれませんが、そうではない場合、明確な目的がなければ勉強を続けることは難しいと思います。だからこそ、将来のキャリアビジョンやライフビジョンを持っている必要があります。
ところが、日本でそうしたビジョンを持ってイキイキと働いている人は、だいたい3割ぐらいだそうです。会社がいくら研修を用意しても、本人のやる気がなければ意味はありません。
——会社が何も用意しなくても自分で目標を持って勉強できる人と、将来的に需要で差がついてしまうことは明らかですよね。
小川:そうですね。「ビジネスを考えるのは経営者で、経営者に言われた仕事をこなせる技術さえ身についていれば良い」ではなく、「社会にどんな困りごとがあるのか、それを解決するためにはどういった枠組みのサービスを提供すれば良いのか、そしてマネタイズする手段にはどのようなものがあるのか」ということを考え、その時々に合わせて必要な技術を会得しているエンジニアの報酬は高い傾向にあります。
とはいえ、日本では前者のような消極的なマインドになってしまうことも理解できます。なぜなら、報酬面での待遇に課題があるためです。
——報酬面での課題について教えてください。
小川:ITエンジニアはリスキルやアップスキルによって、進歩する技術についていかなければなりませんが、頑張ってスキルを身につけても処遇が伴わないことが多いのです。
経済産業省『IT人材に関する各国比較調査』によると、ITエンジニアの平均年収は日本が598万円なのに対し、アメリカは1157万円程度と2倍近くの差が開いています。日本企業の大半は年功序列の定期昇給型モデルの人事制度ですので、ITエンジニアとしてのスキルが2倍になっても処遇が2倍にはなりません。
自らの価値が高まるにつれて、報酬も高まる仕組みが必要不可欠ですが、残念ながら日本における多くの場合は、それが転職という選択肢になっています。
もちろん、報酬だけがすべてと言うつもりはありませんが、報酬が上がれば私生活においても多くの選択肢を選ぶことができるので、やはりとても大切な要素だと思っています。
企業とエンジニアのマッチングは「技術」の観点だけではない
日本社会をより良くするためのModisの「ビジョンマッチング」
——このような課題がある中で、Modisではどのような取り組みを行っているのでしょうか。
小川:Modisを含むAdecco Group全体として、「社会をより良くしていきたい」という想いが根幹にあります。
私たちが社会に提供する価値を分かりやすく表しているのが、「『人財躍動化』を通じて、社会を変える。」というビジョンです。躍動している人を想像してみてください。その人の表情はきっと笑顔ではないでしょうか。決して暗い顔でうつむいている感じではないはずです。
人生を楽しんでいる、挑戦してみたかったことにチャレンジできている、やりたいことが見つかっている、という人を1人でも増やす。私たちは、こうした取り組みによって社会を変えていこうとしています。
具体的には、「ビジョンマッチング」を推進しています。Modisでは、「多種多様な”VALUE”が尊重され、自身の掲げる”MISSION”と”VISION”の実現と人財躍動化および組織活性化に繋がるマッチング」をビジョンマッチングと定義しています。
MISSION:【存在意義】自身が果たすべき役割
VISION:【ありたい・なりたい姿】成すべき事や中長期的に目指す姿・目標
MISSION:VALUE:【価値観、行動指針】大切にする姿勢や価値観、行動指針
例えば、ネットワークの設計者が必要な会社とネットワークエンジニアを結びつける場合、条件面だけでマッチングさせてしまうと、ITエンジニア個人のビジョンやキャリア観などが含まれない状態になりかねません。そうではなく、ITエンジニアのキャリアビジョンと会社の方針、あるいは顧客に対して提供したい価値などがかみ合っていたら、楽しく仕事ができますよね。「もっと勉強しよう」と自然に考えるでしょう。これを体系化してサービスとして提供することが、先ほどお話したような課題に対する当社の方策です。
「自分はどんなITエンジニアになっていきたいのか」自身で考える
このサービスを実現するためには、「一人ひとりのITエンジニア」と「人手を必要としている会社」を深く知っておく必要があります。どんなライフビジョンやキャリアビジョンを描いているのか、ITエンジニア自身も考える必要があります。コーチングスキルを持った担当者と対話しながら、自分はどうなっていきたいのか問いかけて言葉にするのです。
コーチングを通して、私たちもITエンジニアのことを深く知っていき、マッチングする案件について考えています。例えば、単にネットワークエンジニアとして技術を追求するだけではなく、ありとあらゆる技術に精通したスペシャリストになりたいと望んでいるのであれば、マッチさせる案件も、単にネットワークの設計者を求めている求人ではダメなはずです。
エンジニア一人ひとりの価値を高めていく
スマートインダストリー実現に向けたModisのサービス
——Modisにもビジョンがあるかと思います。Modisはどのような想いで活動されているのでしょうか。
小川:「Modis Vision 2025」では、「テクノロジーと課題解決力を通じて、スマートインダストリーのマーケットリーダーとなり、個人、組織が躍動する社会を実現する」ことを目指しています。
そのための施策の1つとして、グローバルでは、ベルギーに本社を置くAKKA Technologies(以下、AKKA)を買収しました。Modisの得意領域はITテクノロジーであり、AKKAは自動車産業と航空宇宙産業に関するR&Dサービスが強みです。
様々な技術は複合的に絡み合っており、IT領域だけではなくR&Dも組み合わせて考えていく必要があります。ModisとAKKAを統合することで、バランスの良い技術ポートフォリオを持つことができます。つまり産業別に先端技術をどう導入していこうか、というスマートインダストリーにおいて非常にフィットしています。
——とても魅力的なポートフォリオですね。一方で、日本国内では、どのようなサービスを展開しているのでしょうか。Modisならではの強みに触れながら紹介していただけませんか。
小川:当社では、問題解決コンサルティング「Tech Consulting」、IT・エンジニア派遣サービス「Tech Talent Service」、技術研修のソリューション「Tech Academy」を連動して提供しています。
Tech Consultingは、コンサルティング力と技術力を備えたITエンジニアによる問題解決サービスです。このサービスの強みは、市場や自社分析などのコンサルティングと、現場での問題収集や業務・文化理解、解決までを全て行えることで、一般的なコンサルティングサービスやITエンジニア派遣サービスとは異なります。経営視点と現場力を組み合わせた提案とアクションによって、生産性向上や事業拡大、新たな価値創造のお手伝いをしています。
Tech Talent Serviceは、Modisが持つ「IT・情報システム」「メカトロニクス」「エレクトロニクス」「ファームウェア」「ケミストリー」などの分野における専門技術を、お客様のニーズや予算に合わせてご提供するものです。若手やグローバル人材、エキスパートといった幅広い人材を、有期雇用派遣、無期雇用派遣、紹介予定派遣やアウトソーシング、フリーランスまで、様々な雇用形態でご紹介します。
Tech Academyでは、IT分野、研究開発分野における技術研修とビジネス研修をご提供しています。当社のITエンジニアを育成する講師のもと、実践的なスキルを身につけられるプログラムです。目的や技術力に応じてプログラムをカスタマイズすることも可能です。
他社との違いは、企業理念などのModisが大切にしているものに共感しているエンジニアが集まっているところです。
Modisの企業理念は、「人財の創造と輩出を通じて、人と社会の幸せと可能性の最大化を追求する。」です。この文言の中には、社員を人的資源として考え、能力を開発することで1人ひとりの創造的価値を高め、「人財」を長きにわたって提供し続けることで、社会全体の発展に寄与したいという決意が込められています。
——人財と社会の発展にフォーカスした理念ですね。
小川:株式会社である以上、業績という結果指標は大切なのですが、その前に目的が何かをいつも大切に考えています。「人財の躍動化」を突き進めていった結果、優秀な人が多く入社すれば、お客さまが私たちのサービスを利用してくれるので、売上や利益は必然的に増えていくという考え方です。
最近では、株式投資の尺度が直接的な収益指標から、ESG(環境・社会・ガバナンス)へと変化しています。いくら企業に収益力があったとしても、社会に対して悪影響を及ぼすようであれば今後は受け入れられないでしょう。逆に言うと、社会の課題を解決する企業であれば、高く評価される時代が到来しています。Modisの考え方は前身であるVSNの時代から受け継がれてきたもので、やっと社会が追いついてきたように感じます。
Modisが与えるインパクトで日本社会の変革を実現
——スマートインダストリー領域において、Modisがマーケットリーダーになった時、エンジニア業界はどのように変わっていくと考えていますか。
小川:先ほど、従来型IT人材と先端IT人材のニーズが2030年には逆転するという予測をご紹介しました。私たちModisでは、この逆転を世の中よりも5年前倒しする計画を進めています。つまり、先端IT人材を積極的に育てようとしているのです。
先端技術を使いこなせるITエンジニアは市場価値が高いので、サービス単価に跳ね返り、結果として報酬を向上させることができます。
——1つの組織内で人事制度を変えたり給与体系を変えたりするのは容易でありませんが、Modisのサービスを通して、しがらみを気にすることなく先端技術を取り入れられる。それと同時にITエンジニアの待遇も良くなるということですね。
小川:これはModisだけに変化をもたらすものではありません。好待遇を受けられるModisにエンジニアが集まれば、競合他社も黙っていないでしょう。私たちが世の中に対してインパクトを与えれば与えるほど、待遇改善や先端技術の教育などについて、真似する企業が出てきます。こうした変化が社会全体へと波及していき、その結果として日本全体がボトムアップされていくだろうと考えています。
これから活躍できるITエンジニアとは?
先駆的ニーズに応えるModisのITエンジニアたち
——先駆的な取り組みを行っている企業で活躍するModisのITエンジニアには、どのような方がいますか。
Aさん
これまでインフラエンジニアとして業務を経験してきたが、今後のデータサイエンス市場に可能性を感じ、Modisの教育プログラムを使い、データサイエンティストへと転向。
現在は流通系企業の需要予測や在庫適正化PJ、金融機関向けDX化新規ビジネス支援PJを経験しており、社内サービスのDX診断ツール開発と、企業のDX診断対応にも従事。
Bさん
これまでC言語での開発を行ってきたが、AIサービスの開発に携わりたい思いでPythonや統計学を勉強。Modisに入社し、現在はコンビニ向けにAIを使用した需要予測/出店戦略システムの開発に従事。
Cさん
これまでインフラエンジニア業務を経験してきたが、より上流工程かつ先端技術に触れたい思いで異動を打診。現在はセキュリティ・クラウドの企画や要件定義に参画し、並行して様々なプロジェクトのマネジメントも経験。
ITエンジニアは「つまみ食い」でスキルアップ
——今ご紹介いただいた3名をはじめとして、特に結果を残しており、成長し続けている方に共通する要素は何だと思いますか。
小川:大きく2つあると思います。1つは、技術にこだわりがなく、いろいろな技術を「つまみ食い」していることです。そして自分を、特定のテクノロジーのスペシャリストだとあまり強調しません。例えば、AWSのエンジニアは、プログラム以外に統計の勉強もしています。一見、仕事に関係あるのかなと疑問に思うような本をたくさん買っているなど、とにかく興味の幅が広いです。
他にも、ネットワークエンジニアの場合は、ネットワークだけでなくサーバーやプログラムなど、周辺技術への知識が広く深くなるほどスキルアップできる。そういう人が結果的に、市場価値も高くなっている傾向があるかと思います。
一方で、「この技術を突き詰めたい」「この技術以外のことはしたくない」という人は、こだわりを持たない人に比べると、能力の上昇が緩やかな傾向にあります。ITエンジニア個人として何をしたいかではなくて、社会がどんな技術を求めているかを考えることが重要です。自分がしたいことにこだわりすぎることは、これからの市場が変わっていくことを考えると、あまりおすすめできません。
技術を通して社会にもたらしたいことを明確にする
——もう1つの共通点は何でしょうか。
小川:ITエンジニアやビジネスパーソン、人としても尊敬できる人は、技術などについての発信が好きな傾向があります。言い換えれば、利他のスタンスで仕事に取り組んでいます。プロジェクトにはいろんな仕事があるわけですが、その中で自分の仕事だけと向き合っていたのでは、得られる気づきや発見は限定的なものです。枠組みを超えて様々なことに興味を持ち、困っている人を助けようとしたり、成長させるために自分の持っている技術を発信できる人は、人から助けてもらえたり、成長の幅が広がったりしています。
——最後に、読者のみなさんにメッセージをお願いします。
小川:現在のような技術トレンドの移り変わりは、この先も続きます。今はAIに関する技術に注目が集まっていますが、もしかすると10年後には、古くて使われない技術になる可能性もあります。ディープラーニングの技術開発は完了し、ITエンジニアは必要とされないかもしれません。興味を持って技術を磨いていくことは大切ですが、目的にするのは違うと思います。
ITエンジニアという職業を通して社会に何をもたらしたいのか。それを見つけた上で、実現するためにどのような技術を習得していくべきなのか考え、実践できるITエンジニアであってほしいと思います。私もModisでの役割を通して、「社会をより良くしていきたい」という想いの下、色んな事に挑戦している毎日です。ともに日本社会の課題を解決していきましょう。
編集後記
今回はITエンジニアに今後求められること、理想的な在り方など、興味深いお話しを伺えました。業務内容だけではなく考え方や理念などにも目を向けたマッチングは、ITエンジニアが継続的にステップアップしていくためには重要なポイントだと痛感しました。先端IT人材への転換を目指したリスキルやスキルアップなど、求められることが非常に多いITエンジニア。自分のビジョンを明確にしたい方は、Modisのコーチングを活用してみてはいかがでしょうか?
Modisでは、テクノロジーと課題解決力を通じて社会課題を解決に導くエンジニアを募集しています。