dodaと紐解く未来のキャリアとエンジニア転職市場のリアル 〜Qiita × doda Meetupレポート

2022年3月1日(火)、「dodaと紐解く未来のキャリアとエンジニア転職市場のリアル」をメインテーマに「Qiita × doda Meetup」が開催されました。

イベントの前半では株式会社園窓 代表取締役の澤円氏による基調講演が、後半には澤円氏とdoda編集長の喜多恭子氏、そしてQiita PMの清野隼史氏を交えてのパネルディスカッションがそれぞれ行われ、昨今のエンジニアを取り巻く転職市場や、今後のITエンジニアの可能性について様々なディスカッションがなされました。本記事では、当日の様子をレポートしていきます。

イベントアーカイブ動画(doda転職応援チャンネル)

プロフィール

澤 円(さわ まどか)
株式会社圓窓
代表取締役
元・日本マイクロソフト株式会社業務執行役員。マイクロソフトテクノロジーセンターのセンター長を2020年8月まで務めた。 DXやビジネスパーソンの生産性向上、サイバーセキュリティや組織マネジメントなど幅広い領域のアドバイザーやコンサルティングなどを行っている。 複数の会社の顧問や大学教員の肩書を持ち、「複業」のロールモデルとしても情報発信している。

 

喜多 恭子(きだ きょうこ)
パーソルキャリア株式会社
doda編集長
1999年、株式会社インテリジェンス(現社名:パーソルキャリア株式会社)入社。派遣・アウトソーシング事業で法人営業として企業の採用支援、人事コンサルティング等を経験した後、人材紹介事業へ。法人営業・キャリアアドバイザーのマネジャーとして組織を牽引。その後、派遣事業の事業部長として、機械電子系の派遣サービス立ち上げやフリーランス雇用のマッチング事業立ち上げなどを行う。中途採用領域、派遣領域、アルバイト・パート領域の全事業に携わり、アルバイト求人情報サービス「an」の事業部長を経て、2019年10月、執行役員・転職メディア事業部事業部長に就任。2020年6月、doda編集長就任。

 

清野 隼史(きよの としふみ)
Qiita株式会社
プロダクト開発グループ マネージャー
アルバイトを経て、2019年4月にIncrements株式会社(現 Qiita株式会社)へ入社。Qiita Jobs開発チーム、Qiita開発チームでプロダクト開発や機能改善等を担当。2020年1月からQiitaのプロダクトマネージャーに就任。現在はプロダクトマネジメントとメンバーのマネジメントを行う。

 

デジタルの世界を楽しく生きる処方箋

澤氏による基調講演のテーマは「デジタルの世界を楽しく生きる処方箋」。あらゆる社会的変数の予測が困難になっている現代社会における、マインドセットを含む立ち居振る舞い方について、様々なアドバイスがなされました。

1995年はインターネット元年、2020年はリモートワーク元年

「はじめに、こちらをご存知の方はどれくらいいますか?(多くの視聴者がZoomで挙手して) さすがに知らないって人はいないですね。こちらは1995年に発売されたものですが、この年はインターネット元年ということで、ここから人々のコミュニケーションが大きく変わることになります」

このように始めた澤氏。1995年はインターネットが広く人々の生活に浸透するきっかけとなった年であり、生活における情報の位置付けやビジネスのあり方が大きくリセットされることになりました。今思い返すと非常に大きな変化の年だったわけですが、それ以来の衝撃として新たなるリセットのトリガーとなったのが「COVID-19」だと、澤氏は続けます。

「リセットがかかると、既存のものとの比較が意味を失います。例えばFAX。今更メールと比較なんてしないですよね?あともう1つCOVID-19が与えたインパクトとして挙げられるのが、移動が自由にできない世界になったということです。しかし、人類にはデータ通信技術があるので、そこへの対応として、外出自粛に伴う在宅勤務ができるようになりました。つまり、2020年はリモートワーク元年になったのではないかと考えています」

クラウドの登場によってITリソースを必要な分だけ使うという考え方が広まり、またあらゆるものがサービス化された「XaaS」のモデルが広がってきたことで、デジタルは人類の「インフラ」になってきました。そんな中で登場してきた概念が「DX(デジタル・トランスフォーメーション)」となります。

「DXと聞くと、業務効率化のことをイメージする方も多いのですが、そうではありません。既存業務のデジタル化は『デジタライゼーション』と呼ばれ、これはこれで必要条件でベースラインの話なのですが、DXとはそうではなく、『事業そのもののデジタル化』を示す言葉になります」

澤氏は、DXを理解するためには、まずは経営における3層構造を理解する必要があると続けます。

「経営者には『全体像』が見えています。また、マネージャーとは、会社の『内部構造』が見えている存在です。つまり、自分たちがどこの部分を司っているのかを認識し、他の部署と連動して会社のミッションを達成するために動けることが重要となる存在です。そして一般社員は『解像度が最も高い世界』が見えていることになります。このような、それぞれの人が見ている世界に興味を持つことが、DX成功のポイントになるでしょう」

デジタルを使った「仮説」を「妄想」するところからスタートする

会社の中で働くことを考える際に、社会人の基本として一度は耳にしたことがあるであろう「ホウレンソウ(報告・連絡・相談)」。報告は過去について、連絡は現在について、そして相談は未来について、それぞれ時系列的にまとめることができるものです。澤氏は、この中でも「相談」について、もっと時間を増やした方がいいと言います。

「報告と連絡のために時間を使いすぎていませんか?ということです。報告で大事なことは不変性で、連絡は即時性、相談は人間性が、それぞれ大事になります」

人間性をもって未来についての相談に時間を費やす。このような姿勢の重要性は、一般社員だけではなく、当然ながらマネージャーや経営者にも通じます。ITは現代の読み書きそろばんであって、ITを否定することは経営を否定すること」だと、澤氏は語気を強めます。当然、プログラミングまで理解できなくても大丈夫ですが、ビジネスのアルゴリズムを理解することが、経営者の責任範囲になるというわけです。

「ビジネスは、計算できるかわからないところにチャンスがあります。それを実現するためには、デジタルを使った『仮説』を『妄想』するところからスタートします。ミッションクリティカル系の思考をもっている人は、仮説を実証しないと気が済まないでしょうが、そこへあまりにも時間をかけすぎると、逆にチャンスが逃げていくことになります」

WHYではなくWHATを使おう

ここまでの話から、経営者の仕事の1つは、デジタルがアルゴリズムの「どこ」に効くのかを判断するところにあると言えます。そしてもう1つは「想定外に対する判断」だと、澤氏は指摘します。

もしも想定外のことに対して「怒り」でコントロールする経営者やマネージャーがいたとしたら、それはプラスに働くことは少ないでしょう。また澤氏は、「怒りでコントロールした成功体験は習慣化してしまう」ことも問題だと言い、「そういうところに籍をおくと心身共にやられてしまうので、もっと心理的安全性のあるところに転職するなどが必要だ」と参加者にアラートしました。

では、具体的にどうやって心理的安全性を作るのでしょうか?澤氏は「WHYで聞くのではなく、WHATを聞くようにせよ」と続けます。

「WHYというのは対象の人に直接ベクトルがいくので、相手にとってはすごく重たいんです。それに対してWHATは、独立して存在していて複数人を巻き込むことができます。もちろん、WHATに対してWHYと問うても大丈夫です。ぜひ、『何があった?』と問いかけてください。WHATは職場環境を非常に良くしてくれますよ」

このことを前提にマネージャーの仕事を考えてみると、あらゆることに先回りして道を掃除すること、そしてその結果、みんなが安心して仕事をする環境を整えることだと言えるでしょう。その際に、「できない理由は探さないで、できる理由を探す。私はこう思うということをどんどん発信し、また発信させることが重要だ」と澤氏は言います。

「解像度をあげる習慣をつけると、仕事がどんどんと楽しくなってきます。例えば主語を考えても、『弊社は』ではなく、『私は』『あなたは』で会話をするようにしましょう」

「やめることを決める」のが重要

また経営者の仕事を考えてみると、DXを進めるにあたっては「勇気」が不可欠だとも、澤氏は強調します。

「今後、全ての会社はテックカンパニーにならなければいけません。業種業態関係なくです。もし人材がいないのであれば、『抜擢人事』をする勇気があるか、ということです。
例えば台湾のオードリー・タン氏が非常に注目されていますが、タン氏が大臣のポジションにいるという事実が非常に大きな意味を持っています。つまり、政府と国民の後押しがあって初めて実現しているわけですよね。大いなる抜擢人事だと言えるでしょう。過去の事例ばかりを求める経営者は、イノベーションの妨げになります」

よくある勘違いとして、「デジタルネイティブ世代」は、デジタルで何かを作れる人達ということではなく、デジタルでないと耐えられない人達のことを示すと澤氏は強調します

これが正解だ、というものを持っている人はいません。正解とは、自分なりに作っていく必要があるものです。そのためには時間が必要になるわけですが、その時間の確保がうまくいっていない人は多いでしょう。中には、仕事のための仕事に時間を取られてしまい、本来やらなくてはならない仕事が減ってしまっている人もいるのではないでしょうか。これについて、澤氏は「やめることを決める」のが重要だと言います。

「日本には『とりあえず』という悪魔の言葉があるわけですが、日本は『とりあえず』で人を巻き込むことがとても多いです。例えば日本は、メールのTOとCCに入っている人数が世界で一番多い国だと言われています。とりあえず送らないと失礼になるかも、という考えで相手の時間を奪っているわけです。僕はこのことを『礼儀正しく時間を奪う』行為だと言っています」

意味の薄いミーティングをやめる、意味の薄い移動をやめる。意味のあることに最大限のことを使うという「意思」こそが、キャリア上でとても大事なことだと澤氏は強く指摘します。

マインドセットのアップデートがDX成功の解になる

先ほど、「過去の事例ばかりを求める経営者はイノベーションの妨げになる」との話がありましたが、そもそもイノベーションとは「新結合」だと言えます。つまり、今あるもので組み合わせを変えるだけで、イノベーションは十分に可能だということです。

例えばUber Eatsを見てみると、以下のように既存のものをうまく組み合わせたサービスであることが分かり、新しく作ったものはアプリだけだと言えます。さらにそのアプリも、よく分解して中身を見てみると、マッチングの仕組みやGoogleの地図など、こちらも既存のものの組み合わせで成立していることもお分かりいただけるでしょう。

既存の組み合わせがイノベーションの源泉になるからこそ、大事なことは「なるべく早く始めることだ」と澤氏は言います。

「あのNetflixも、最初はDXDのレンタル事業から始めているわけです。本人たちも“Don’t give up on your dreams. we started with DVDs.”と言っています。もちろん、単なるDVDレンタルではなく、定額で借り放題のオンデマンドという業態を、非常に早い段階でやっていたわけです。そこにテクノロジーがやってきて、色んなことが進んでいき、今や大企業になって多くのメディアを飲み込んでいっています。
現場のアイデアと組織の仕組みが組み合わさって、面白いことが生まれてくる。その組み合わせるための『接着剤』がITなんです」

かつて重宝されていたフロッピーディスクの容量は「1.44メガバイト」だったのに対して、2020年には人間が毎秒1.7メガバイトのデータを生み出していたという調査データがあります。このように、膨大な情報の洪水時代にいる私たちですが、一方で、人間の脳の基本性能は20万年前からほぼ変わっていないことも明らかになっています。だからこそ澤氏は、「マインドセットのアップデートがDX成功の鍵になる」と強調します。

最後に、ここ数年で圧倒的に増えている以下のような質問群を俯瞰しながら、澤氏より講演ラストのメッセージが送られました。

「ピーター・ドラッカー氏は、『未来を予測する最良の方法は、未来を創ることだ』と言っています。つまり、未来を予測するよりも、どうやったらできるかな、自分に何ができるかな、を考えることの方がよほど大事だということです。そしてそれは、テクノロジーによってテコ入れができることになるでしょう。ぜひ、素敵な未来を、テクノロジーの力で一緒に創りましょう!」

パネルディスカッション

次に、ここまで基調講演をされた澤円氏に加えて、doda編集長の喜多恭子氏とQiita PMの清野を交えての3つのテーマでパネルディスカッションが行われました。

ITエンジニア転職市場のリアルについて

まずはITエンジニアを取り巻く転職市場のリアルについて。冒頭で、喜多氏による職種別の求人数推移データについての紹介がなされました。

喜多:こちらのグラフは、2019年1月時点の求人を「100」とした際のSE・インフラエンジニア・Webエンジニア職の求人数の伸びを示したものです。ご覧のとおり、2021年12月現在、データサイエンティストをトップとして100を割っている職種はありません。
実は、コロナ禍で全職種の求人数が一度ガクンと落ちたのですが、その後最も早く回復した職種でもあります。その中でも上位にあるデータサイエンティストやセキュリティエンジニアは、特にニーズが伸びている職種です。

次が、またこちらはクリエイター・クリエイティブ職の求人数推移です。特にゲームやWeb・モバイルの求人が伸びていることが分かります。これは、まさにコロナ禍によってビジネス環境や生活者の時間の費やし方が大きく変わり、以前よりクリエイター・クリエイティブの方々の仕事の幅が広がったことがわかる結果となっています。例えば、YouTubeやWEB広告だったりと、企業が従来とってきた手段が変わり、クリエイター・クリエイティブの方々の活躍が伸長していることを表しています。

清野 : このデータを見て、エンジニアの市場をどのように解釈すれば良いでしょうか?

澤:エンジニア市場は常に取り合いです。ただし、ただの作業員としてのエンジニアではなく、もう1つプラスの要素を持っているエンジニアというのが条件です。基礎体力をつけるにはいいのでしょうが、キャリアアップという観点では、もう1つタグが必要になると思います。

清野 : 具体的には、どういう活動をしていけばいいのでしょうか?

澤:最初は「自分の棚卸し」ですね。それもテンプレ通りのやり方ではなく、「自分はどうありたいんだっけ?」ということに、馬鹿正直に向き合う作業が大事だと思います。世の中を変えている人たちは、だいたいそういうことをやっているんじゃないでしょうか。例えばエンジニア界隈で今後メジャーになるであろうアプローチが「SFプロトタイピングアプローチ」です。ご存知ですか?

清野 : いえ、初めて聞きました。

澤:これは端的にいうと、SFに憧れてモノを作ろうとすること。SFで描かれていることをよく観察し、実現可能なことを実現できるようにデザインしていくこと、だと言えます。要するに、妄想癖がある人が世の中を変えるということです。
コンスタンチン・ツィオルコフスキー氏という、「ロケットの父」とも呼ばれている方がいるのですが、この人は小説家のジュール・ヴェルヌの熱狂的なファンで、『月世界旅行』という話に熱狂してロケットを創ることを実現した人物です。だから、馬鹿正直に自分と向き合うことがすごく大事だと思いますよ。

清野 : なるほど。別の観点でdodaさんにも伺いたいのですが、転職サービスをどういう人やきっかけで使ってほしいと考えていますか?

喜多:先ほどの澤さんのお話にもあったとおり、テクノロジーやIT技術はもはや読み書きそろばんです。一方で、自身のWILLをきちんと理解している人がどれだけいるかというと、そんなに多くないのではないかなと感じます。あとタグという話についても、せっかくたくさんのタグ候補があるのに、自分で書き出せていない人も多いと思います。だからこそ、相対比較でアドバイスできる会社に相談して、そこから実際のWILLを結実させていくという使い方をしてもらえればいいのかなと思います。

清野 : 転職というライフイベントはどう捉えるべきですか?

澤:すごく大きいライフイベントかもしれませんが、ゴールにはなり得ないですよね。その中で「実現したいことはなんだっけ?」「なんのために仕事をするんだっけ?」をちゃんと考えるのに適したタイミングにできるでしょう。その際に、多くの人が「食い扶持を稼ぐため」と表現しますが、そういう人は、本当に世の中を変えたいと考えている人と比べると結果として食い扶持が大きく変わることになります。そう考えると、仕事をどう考えるかが問われるタイミングだと言えるのではないでしょうか。

清野 : ここで質問がきています。「コロナ禍で世の中に大きな変化がありますが、エンジニアの市場価値はこれからも変わっていくのでしょうか?」ということです。いかがでしょうか?

喜多:本日グラフの用意はないですが、2021年に同職種で転職したITエンジニアの方の決定年収(採用決定時に提示される年収)データを見ると上昇傾向にあります。このように、ITエンジニアの市場価値は今後ますます希少人材として上がっていくと思います。ただし先ほど澤さんがおっしゃったように、何か決められたプログラミングを書くという作業自体から生まれる付加価値は、実は過去と未来でほとんど変わりません。だからこそ、そこから何を付加価値として作れるかがポイントになると感じます。

澤:よく会社で「なるはやでチャチャっと作ってよ」「とりあえずいい感じで作ってよ」「あんまり動かないよ」という要望やクレームをもらうことがあると思いますが、これに対して的確に反論できる人がどんどんと評価されていくと思います。例えば「技術的には可能です」という言葉の背景には、このような前提があるわけです。

澤:この辺の言語化ができて、必要な技術要素をエンジニアではない人たちに説明できる人は、一生食い扶持に困らないと思います。この説明能力やプッシュバックする力は、今後より一層重要になってきています。逆に、ピュアな技術力だけで勝負しようとするのは、ちょっと厳しいのではないかとも思います。
作るだけのものは自動化されることになるわけですよ。例えば、最近は機械にシャリを握らせているお寿司屋さんもありますが、悔しいことにそれなりに美味しいんですよね。一方で、季節のレシピや旬の食材を仕入れてくるのは、全然違う能力になってくるわけです。板前さんのコミュニケーション能力が寿司ネタの仕入れ先などで発揮されるかという問題になってくるわけで、そういうところだと思います。

キャリアを伸ばすための転職とは

1つ目のトークテーマでは市場感など現状の話をベースにしていましたが、次のトークテーマはその次のステップである転職についてです。ここでも冒頭で、喜多氏による転職データの紹介がなされました。

喜多:こちらは2019年〜2021年のSE・インフラエンジニア・Webエンジニアの転職傾向をまとめたグラフとなりますが、これをみるとお分かりのとおり、業種をまたぐ転職が増えています。

この背景には、産業構造の変化があります。従来のパソコンメーカーがテクノロジーベンダーになっていたり、街づくりの環境ベンダーになっていたりという産業構造の変化のなかで、ITエンジニアの需要は高まり、業種を跨いで必要とされる傾向が高まっていることが分かるグラフです。

また、同職種の異業種転職先を集計してみると、従来のIT・通信やインターネット等の他に、メーカー(機械・電気)や金融といった非IT領域への転職が増えていることが分かります。つまり、縦ラインだけでなく横にも広がっていることが、データから明らかになっています。

清野 : これはどう解釈すれば良いでしょうか?

澤:さきほどお伝えした通り、全ての会社はテックカンパニーになるということですよ。テクノロジーはビジネスのインフラになってくるので、異業種がバーにならないということです。自分でバーを勝手に設けちゃう人は損をするでしょうし、「その業種・その職種じゃないとダメだ」という思考になっている人も、チャンスが逃げていくことになるでしょう。

清野 : エンジニアのキャリアと聞くと「35歳定年説」というのが昔はありましたが、今はどうなのでしょう?

澤:ナンセンスですよね。日本人は年齢を気にしすぎで、勝手にバーを決めている典型的な例だと言えます。年齢は非常に比較しやすいパラメータの1つですが、比較しないと決めるかどうかは意思の問題です。もちろん、求人の年齢制限はあるでしょうが、応募すればいいじゃんって話です。もし面接までたどり着いたら、そこで思いっきり熱く語ればいいわけですよ。だから、年齢なんて全然関係ないですね。

清野 : 確かに、弊社(Qiita)だとスペシャリストという職種があるのですが、そこでは40代の方もいて、Qiita事業を牽引し続けてくれています。ここでまた質問がありまして、「今後ITスキルと語学力はマストになりますか?」とのことです。いかがでしょうか?

喜多:トレンドとしては、語学力がある方のほうが、より面白い事業フェーズを任せてもらえているのは事実です。過去だとブリッジSEなどが挙げられたのですが、昨今だと共同開発なども増えているので、組込でもITでも要必須とまでは言いませんが、需要は高まっていると感じます。

澤:もちろんチャンスは広がりますよね。働く場所を広げることもできるし、リモートだと物理的な職場を問わないので、全世界の人をマネジメントするという立場にもなれるでしょう。マストかどうかは置いておいて、大きな差別化になるのは間違いないと思います。

これからの転職活動において必要なスキルやマインドとは

清野 : 最後のテーマは「転職に必要なスキルやマインド」です。こちらはいかがでしょうか?

澤:僕はよく、「スキルというのは10万円のシャツを買うこと」だと表現しています。高いけど頑張れば買えるものですが、似合うかどうかは別だということです。
スキルよりも大事なのはセンス。センスを磨くことの方がはるかに大事です。シャツだけではお洒落にはならなくて、ちゃんと組み合わせないといけません。組み合わせはセンスであり、フィードバックを受けないと似合ってこないことになります。ぜひ、センスを磨きましょう。

喜多:こちらは、まさに人材会社というポジションからお話させていただくと、もちろん重要なフェーズではありますが、転職は最終ゴールではありません。特にIT領域に携わっている方は、最終ゴールはこの先のどこかのタイミングであって、転職は選択肢を広げてキャリアを重ねて最終的に実現したいことを実現できる状態を作ることだと捉えています。なので「もう少し気軽にいきましょう」とよく言っています。そんな心構えを持っていただけたらと思います。

清野 : センスを磨くということの一環で、様々な世界を知るということなのかなと思いました。転職だけでなく副業も活用したら、ということですね。

澤:たくさんいただいている質問の中で「今後年齢は不要になってくる?」とか「フルリモートで転職する人は増える?」とかの質問がありますが、これってコントロールができないことなので、考えてもあまり意味はありません。コントロールできないことを気にして、自分の行動を制約するのが一番くだらないと、僕は考えています。
自分がコントロールできるところに全力集中する。自分にとって有意義なことは何かを考えて、そのための情報を集めてアクションに移す方が、絶対にハッピーになれると思います。

清野 : ありがとうございます。それでは、そろそろお時間になってきたので、最後に一言ずつお願いします。

喜多:本日はありがとうございました。おそらく本日ご参加された方に関しては、少なからずここにいらっしゃる時点で自分に真摯に向き合っていて新しい一歩を踏み出していると思います。あまり周囲のノイズに振り回されずに前進されることを祈っています。

澤:厳しいことを言ってるなと思うかもしれませんが、個人で会ったらそんなにイヤな奴じゃないから安心してください(笑) 要するに、主語が大きいと僕は厳しくなります。一方で「私はどうしたらいいですか?」と聞かれたら、とても真剣に考えます。最小単位の主語で考えることが、結果として自分の思考の純度を上げていくことになるので、「私はどうしたらいいのか?」「あなたは私を助けてくれるのか?」という感じの、解像度の最も高い状態で思考して、その上で「業界は〜」とか「スキルは〜」という順番で考えていくのが良いでしょう。味方になってくれる人はたくさんいますよ。ありがとうございました!

編集後記

マインドがしっかりしていれば、どんな環境変化が起きようとも動揺することなく対処して過ごすことができる。今回のお話は、ITエンジニアのキャリアはもちろん、あらゆる事象に通ずることだと感じました。座禅の世界には、下半身がしっかりと組まれて固定されていれば、上半身はゆらゆらと揺れていても問題はないという考え方があるようです。つまり、根っこがしっかりしていれば、強い風が吹いて上の方が揺れても大丈夫だということです。まさに、これからの時代に必要なレジリエントな思考法のエッセンスが凝縮された2時間だったと言えます。
なお、今回登壇された澤氏は、Qiita Zineの他セッションレポートでも登場しているので、是非こちらもご覧ください。
VUCA時代におけるキャリアや働き方とは?日立製作所主催「Social Tech Talk #02」イベントレポート
【加治慶光 × 澤円】日立のLumadaはなぜ面白いのか? 〜HSIF2021 JAPANレポート②

取材/文:長岡 武司

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