第三者検証ポジションだからこその強みを発揮。SHIFTが「DevOps推進部」立ち上げに込めた想いを探る
開発(Development)と運用(Operations)が密に連携し、スピーディーな製品開発と機能等の向上を進める仕組みとして、近年特に注目されているDevOps(デブオプス)。
IDC Japan(インターナショナルデーターコーポレイションジャパン株式会社)が2019年に発表した調査結果によると、国内企業のDevOps実践率は35.7%でしたが、コロナ禍を経た現時点においては、この数字は飛躍的に高まったのではないかと想像できます。
今回は、そんな企業のDevOpsを推進する新組織を立ち上げた株式会社SHIFT(以下、SHIFT)について。同社が創業時からもっているエンジニアリング文化が「たまたま」DevOpsという言葉となって組織化されたとのことです。
同部門ではどのようなミッションが掲げられ、どんな思想とアクションでDevOpsへと向き合っているのか。3名のマネジメントメンバーにお話を伺いました。
目次
プロフィール
サービス&テクノロジー本部 技術統括部 統括部長 兼 サービス&テクノロジー本部 技術統括部 DevOps推進部 部⻑
サービス&テクノロジー本部 技術統括部 DevOps推進部 副部⻑
上流での技術サポートなどに従事している。
サービス&テクノロジー本部 技術統括部 DevOps推進部 副部⻑
これまで取り組んでいたことがDevOpsと呼ばれるものだった
――まずは「DevOps推進部」がどのようなことをやっているのか、概要を教えてください。
池ノ上:こちらの図にあるとおり、無駄のないスマートな開発から運用のご支援に向けて、自動化された開発・テストの運用と、それに向けたアジャイルな組織の推進を行っています。
部署としては現時点で5つのグループに分かれていまして、それぞれ自動化やRPA/ローコード、製造工程支援といったプロジェクトにおける技術的なリードと、アジャイル・テスト技術の支援を進めています。もちろん、この他に新規ソリューション開発を目的とした技術開発なども含まれます。
――「SHIFTといえばテスト」という印象を持っている方も多いと思いますが、その中でこのDevOps推進部ができた背景についても教えてください。
池ノ上:背景にはトップダウンとボトムアップの両方がありました。まず事業としてやるというトップダウンの観点では、今トレンドにもなっている「DX」を弊社でも推進していくという流れの中で、DevOpsは方法論として外せないという話があります。
ボトムアップの観点では、弊社の事業は非IT人材でテストを実行するところから始まっているのですが、その中には技術に覚えのある人間もいて、将来の技術トレンドを想像しながら動いていました。そんな彼らが最初に着手したのが「テストの自動化」です。
――つまりは、画面上でクリックなどをすることを自動化したと。
池ノ上:そうですね。これを推進した人たちはヒューマン・インターフェイスの技術があるわけなので、そのまま技術を磨き続けていったわけですが、それでもなかなか評価がされづらかったという側面があります。
そんな中、変わったなと思ったのは、「継続的インテグレーション(CI)」のムーブメントがやってきたときですね。
――ここ最近のトレンドですね。
池ノ上:お客さまから「自動テストをやるなら、継続的インテグレーションもやってほしい」というご要望をいただくようになってきました。
テストコードを書くだけのところからスタートして、CIサーバーを立てるようになり、開発環境を自分たちで用意するようになりました。そして、ビルドやデプロイの環境を自分たちで作り、そのためにブランチの考えをマネジメントするようになりました。
このように、できることを増やしていったらその周辺で技術も増えていったという流れでして、気付いたら、それがDevOpsと呼ばれるものだったということになります。
イグジット・クライテリアを知っていることの強み
――DevOps推進部という組織になったのは、いつからなのでしょうか?
池ノ上:つい最近のことです。DevOps推進部というという名称になった2021年9月以前は、技術推進部オートメーショングループとアジャイルグループに分かれていました。さらにその前はサービスプロモーション部と技術支援グループでして、私が入社した時は、技術開発室 自動化チームというチームでした。
組織の名前は「外から見てわかりやすいもの」にするので、そのとき誰にどう見せたいかによって変わっているわけです。これまでは組織的に分かれていたのですが、組織が分かれていてもいざプロジェクトをやるとなるとみんな集まってくるということで、今は事業部としてやっているということです。
私は今、DevOps推進部の部長であるとともに技術統括部の統括部長として他の部隊も見ていまして、中長期的にはそこも混ぜたいなと思っています。
――SHIFTの技術部隊は技術統括部、ということですね。
池ノ上:一部、DAAE(※)も技術のことをやっていますが、概ね技術統括部が担っています。
※DAAE(読み方:ダーエ):動くサービスの試作モデルを素早くリリースし、ユーザーの反応を確かめながら改良したり、ときにはピボットしたりしながら、クライアントのサービス成功を実現することにコミットする組織。デザイン(Design)、迅速性(Agility)、組み合わせ(Assembly)、経済品質(Economic quality)の頭文字をとった造語で、以下の記事にて詳しくお話を伺っています。
コード自体がドキュメンテーション。試作モデルで顧客のサービス開発を高速実現する「DAAE」とは何か
――DevOps推進部が対応する案件について、お客さまはどのようなお悩みを抱えているのですか?
池ノ上:大きくは2つ、DevOpsを求めているケースと、そうでないケースで分かれます。
前者のお客さまは、DevOpsやアジャイルというキーワードをすでに認識していて、それを取り入れて活用していきたいという思いがあり、それに付随するお悩みについてご相談を受けます。やったことがないからやり方を知りたいですとか、途中まではできたのでここから先は人がいないからお願いしたいなどのご相談が多いです。
一方、後者のお客さまは全く違うことを考えていらっしゃいます。お客さまの数としてはこちらの方が多く、よくよくお話を聞くと、ベンダー選びで迷っていたり、品質の上げ方を知りたかったりなど、我々のソリューションを当てれば解決できるというケースが多いです。
――なるほど。SHIFTがDevOpsの支援を行う強みとしては、どのような要因があるのでしょう?
池ノ上:製品という観点ですと、独立系のベンダーとして様々な製品に触れてきたため、結果としてオープンソースに強い集団になりました。つまり、できないことを自分たちで調べてやってみるという風土が醸成されておりまして、そこが特にストロングポイントだと思います。
また違う軸だと、第三者検証というポジションでやってきたので、我々はイグジット・クライテリアを知っています。つまり、「何を作りたいのか」という入り口ではなく、「システムユーザーは最終的に何を達成したいのか」というゴールを知っているので、そこに対してコミットできるという点も強みだと思います。
文化を「強制」するのではなく「一緒に作っていく」
――具体的な業務内容についても伺いたいのですが、まずはDevOps推進部の中でも「アジャイル推進グループ」が日々取り組んでいることについて教えてください。
佐藤:売れるサービスを作るためのフィードバックサイクルの構築をご支援しています。開発の進め方や品質の守り方など、新しい考え方であるが故に始めようとするとどうすればよいかわからずにフワフワする部分があります。そこを明確にしたり、並走してコーチングしたりしています。我々の組織ではSHIFT全社のアジャイル案件を担っているので、業種業態問わない多様なお客さまとご一緒しています。
――先ほど池ノ上さんが「第三者検証というポジションだからこその強み」についてお話しされましたが、アジャイル領域ではどのようにお考えでしょうか?
佐藤:豊富な経験をもったスクラム経験者が多数在籍しており、お客さまの課題に対して、多様な軸でお応えできることだと考えています。
事業会社で、アジャイル開発組織の立ち上げを内製で行うためにスクラムマスターをアサインしようとしても、候補者を多くても数名しか挙げられないのではないでしょうか。
一方で弊社の場合は、これまでの経験からどの業種にも入っていけますし、アジャイルそのものの知見を溜めていけるというメリットもあるので、そういう観点で有効なご支援ができると考えています。
――アジャイルというと、文化の醸成が大切だと感じるのですが、どのように作っていかれるのですか?
佐藤:文化を「強制」するのではなく、「一緒に作っていく」という考え方がいいなと思っています。お互いに自分の知識や考え方に意地を張るわけではなく、かといって一方に従属するわけでもなく、お互いを受け入れながらすんなりと入っていく。入り込んで一緒にサービスを盛り上げていくというアプローチでやっています。
――なるほど。プロジェクトを進める上で大変だったことと、それをどうやって乗り越えたかも教えてください。
佐藤:事業会社の方でウォーターフォールを含めて開発手法をご存知でない方と組んだときは目からウロコの連続でしたね。そもそものシステムの作り方からご案内していくわけですが、「開発手法も知らないのか」と、開発サイドからのフィードバックがあったりもしました。これに対して、意見をぶつける場を「あえて」作り2時間くらい缶詰で議論をして、お互いの理想を模索していくということをやりました。要件定義を1から作るような状態から、グルグルとサイクルが回っていく仕組みを醸成していったわけです。
あとは、アジャイルはフワフワしていると思われている概念を実際にワークさせるために、教育を含めたガイド作りからやることもありました。これも骨の折れる仕事ですが、私自身、アジャイルを知っている立場だからこその言葉を用いてガイドを作っていると、「わからないからもう少し詳しく教えてほしい」と言われて自分が省略している前提に気付かされることも多く、相手に理解してもらう言葉で伝えることの難しさを日々痛感しています。これについては、当然ではありますが、じっくりと相手と向き合うことが大切ですね。
仕組みとしてどうやって動作させていくか
――次に、(DevOps推進部の中の)「DevOps推進グループ」についても教えてください。日々どんなことに取り組んでいるのでしょうか?
景山 : 一番分かりやすく、かつボリュームが大きいのがテストの自動化ですね。その他にも、自動テストも含んだDevOpsの基盤、いわゆるCI/CDパイプラインの仕組み作りや、業務運用を自動化するRPAのロボット開発や導入なども行っています。
――佐藤さんのアジャイル推進グループとのすみ分けとしてはいかがでしょう?
景山 : 私は仕組みとしてどうやって動作させていくかという部分を管掌していて、佐藤さんは、それをどうやってチームとして機能させるかという部分を管掌しています。もちろん縦割りでバラバラに対応しているわけではなく必要な場合は両方をお客さまに適用していきますし、常に情報連携しています。
――やはりアジャイル関連の案件が多いのですか?
景山 : ウォーターフォール開発に関するものも多いですよ。開発中から参画するものもあれば、リリース後の運用保守フェーズから参画するものもあって、これらとアジャイルでおよそ半分半分くらいの感覚です。
品質維持を大前提として、ウォーターフォールの場合はコスト削減、アジャイルの場合はデリバリースピードの維持に関するご相談が、それぞれ多いですね。
――なるほど。プロジェクトを進めるにあたって、難易度が高いと感じられるポイントを教えてください。
景山 : 成果につなげるのに時間がかかるので、そこに持っていくまでのストーリーですかね。
アジャイル開発の場合は、デリバリースピードは維持しつつ、品質もキチンと担保できているのか。そしてそれが自動化のおかげなのか、それともたまたまなのか。この辺りはなかなか証明がしにくい部分です。
そこはメトリクス計測などで成果が正しく見えるように工夫をしています。
一方でウォーターフォール開発の場合は、自動化し続けて本当にコスト削減につながってくるのか。そこがどうしても机上の計算が中心になるわけでして、実態としてのコスト削減となると、人の頭数という我々だけの話でもなくなるわけです。体制も含めた部分については、当然ながら我々だけの成果としてお伝えできる類のものでもないので、このあたりの進め方は難しいところだと感じています。
私の役割は「プロモーター」。社員数の割に有名人が多い理由
――2021年9月に立ち上がったばかりの組織体制ですが、DevOps事業の成長性としてはどのような状況でしょうか?
池ノ上:事業としては順調ですよ。売上や単価といった組織・メンバーは継続的に成⻑していますし、技術力も間違いなく向上しています。日本一のアジャイル開発支援サービス組織を目ざして、一歩ずつ成長しているという段階です。
――素晴らしいですね。逆に、DevOps推進部として現時点で感じられている悩みや課題についても教えてください。
池ノ上:大きくは2つありまして、1つはエンジニアのキャリアですね。つまり、腕のいいエンジニアほど先細りしていくという問題です。世の中はどんどんオープン化されているので、ジェネラリスト(フルスタックエンジニア)が求められがちです。
そんな中で、スペシャリストのサラリーをどんどんと上げていくにはどうしたら良いのか、いわゆる技術戦略に鑑みたキャリア開発の仕組みを考えることが、課題といいますか1つの重要なミッションとなります。
もう1つは、チームのマネジメントです。急成長している組織なので、ソリューションを成長させるマネジメントのあり方をどうすれば良いか。これについても喫緊の課題ですね。いずれも、面白くて難しい話ですよ。
――それに対して、現在トライされていることも教えてください。
池ノ上:これは求職者の方に特にお伝えしたいことなのですが、弊社の代表は非常にエンジニアの技術力をリスペクトしています。
私がSHIFTに入社したとき、自動化チームでスクリプトを書くよりも、オフショアの安い人件費で対応したほうが良いような状況でした。しかし、経営陣は自動化チームの人たちを外へPRしようとしていました。それは、彼らが高い技術力を持っていると信頼していたからなんです。そのために、外部のコミュニティへの参画やイベントへの登壇、書籍の執筆など、発信活動をすごくやらせてくれていて、その結果として社員数の割に、有名人の多い組織にもなりました。
――サラリーをもらいながらそういう活動ができるのは、これからオープン化されていく世の中においては最高の職場ですね。
池ノ上:先ほどの悩みを丹下に相談したこともあるのですが、その時に言われたのは「あなたはプロモーターだ」と。そういうフィールドを用意してあげることが、あなたの役割だよということです。
クライアントワークでものづくりをするのは、営業がいるからできる。我々がやるべきことは、発信したくなったらできる環境を整えてあげることなんです。これは恐らく、社外を見てもまだどこもできていないんですよ。SHIFTは様々な場で発信することと評価・サラリーを紐付けて制度として整えているので、文化として根付いているわけです。
――会社の文化というお話がありましたが、景山さんと佐藤さんが感じられている、DevOps推進部ひいてはSHIFTで働くことの楽しさややりがいなどを教えてください。
佐藤:SHIFTは私が入社した2016年から見てかなり大きな会社になりましたが、チャレンジを推奨している部分が魅力かなと思います。
アジャイルという考えは、小さなチームを作ることを是としていますが、究極的には「小さなベンチャー」なチームや組織を作っていくことだと思っています。
まさに、サービスを顧客に売るだけでなく、社内の協力を得たりアウトプットして効果につなげたりといった観点で、小さなベンチャーの立ち上げと一緒だと言えるでしょう。
大企業という安定性と、チャレンジ推奨文化による成長性を、ハイブリッドで体験できていると感じています。
景山 : 佐藤さんが言うとおり、チャレンジをするにあたって大まかな方向性や方針は提示されるのですが、それに対する具体的なアプローチについては、かなり任される文化があります。自分で考えながら、新しいことをやっていけるのは、とてもやりがいがあると思っています。
また、会社が大きくなっても社長や役員の皆さんとの距離感が近く、会社が今やっていることが分かりやすいのも素敵なところであると感じます。
要するに、好きなことをやればいい
――今後DevOps推進部が目ざす方向について、注力ポイントやサービス提供範囲などを教えてください。
池ノ上:一言でお伝えすると、社会インフラになるということです。今後5〜10年は内製化開発に向かうと思われ、これは正しい方向かなと感じています。これまではSIerに頼むしかなかったわけですが、現在は手法論を含めて情報がオープン化され、かつ難易度が下がってきたからこそ、内製化が進んでいくでしょう。
それを前提にして、その上でアウトソースをする。我々はそんな存在になりたいと考えています。DevOpsは水道とかと同じように、なくてはならない存在だと思っています。
――そんなDevOps推進部では、どのような人材を求めていますか?
池ノ上:まずは、楽しい人、楽しめる人ですね。あともう1つは、あえてお伝えするならば、会社を作りたい人でしょうか。先ほど佐藤さんからもあったとおり、どこまでやれるかを突き詰められる人が必要だなと感じています。
――景山さんと佐藤さんはいかがですか?
景山 : 技術領域において、新しいことをキャッチアップしてアウトプットしていくことを心掛けている人を求めています。自動化をバリバリやっていますという人である必要はなく、ITシステムのアーキテクチャに勘所があればよいと思います。国内の開発現場の運用要件は様々なので、オープンソースソフトウェアはもちろんベンダー提供のサービスやソフトウェアであっても、過去に事例がない使い方や仕組みを考えなければならないこともあります。そのような場合に、利用するサービスやソフトウェアのアーキテクチャを理解し、出来ることと出来ないことを切り分けて仕組み化できる人が、新しい取組みでも応用力を活かして成果を出していけると思っています。
佐藤:勉強が生活の中の一部になっている人ですね。趣味はアジャイルです!とか最高ですね。なによりも楽しく勉強できているのが重要です。得た知識をブログなどでアウトプットしている人、アウトプットできていなくても情報収集を含めたアクションを一つひとつやっている人は、魅力的だなと思います。
――ありがとうございます。それでは最後に、Qiitaユーザーに向けて一言お願いします。
景山 : 我々は開発を支える黒子のような存在です。ですが、実はそういうところにこそ面白い技術領域があるということを知っていただければと。様々なことにチャレンジする長いエンジニア人生の中で、間違いなく1つの糧になると思っています。
佐藤:SHIFTを日本一のアジャイル企業にしていこうと、そのためのチームを作っている真っ最中。もし私たちの事業に共感していただけたり、あるいはアジャイルの現場に挑戦したいけど一人だと難しいなと思ってる方がいらっしゃったら、ぜひ仲間に加わってください!
池ノ上:あまり身構えた転職はしない方がいいかなと思いまして、それよりも、どこに行っても通用する人間になった方がいいかなと思います。市場価値を高めていただき、我々としては、そういう人がいたいと思えるような会社にしなければいけないと考えています。要するに、好きなことをやればいいんじゃないかなと思いますよ。
編集後記
今回のインタビューでとても印象的だったのは、技術統括部 統括部長である池ノ上さまの「エンジニアの活躍の場を広げること」への姿勢のコミット具合でした。短いインタビュー時間でしたが、インタビュアーの私が一種「怖い」とすら感じるくらい、真剣に、そして誠実に社内のエンジニアの方々と向き合っている様子を垣間見ることができたわけです。
こういう方が率いている組織は、間違いなく成長するだろう。そう感じました。変なプレッシャーなく、純粋にエンジニアリングの領域で成長されたい方には、とても魅力的な環境なのではないかと思った次第です。
取材/文:長岡 武司
撮影:太田 善章
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