ノーバート・ウィナー「サイバネティックス(1948年初版、1961年増補)」には統計力学の世界観における思考実験「マックスウェルの悪魔」の重要性を説く一説があります。
統計力学において非常に重要な概念はマクスウェルの魔のそれである。気体の中で粒子が与えられた温度に対して統計的平衡にある速度分布に従って動き回っているとしよう。完全気体の場合、これはマクスウェルの分布である。この気体が剛体の容器に入っているとし、それを二つに分ける壁があり、その壁にあけた出入口には小さな扉があって人間の形をした魔もしくは微細な機構の門番がその扉を開閉する事になっているとしよう。平均以上の速度をもった粒子がAの部屋から扉に近付くか、平均以下の速度をもった粒子がBの扉から近付くかすると、門番は扉を開き、粒子は扉を通る。しかし平均以下の速度の粒子がAの部屋から扉に近付くか、平均以上の速度の粒子がBの部屋から扉に近付くと扉は閉められる。この様にすると高速度の粒子の濃度はBの部屋では大きくなるがAの部屋では減少する。これは明らかにエントロピーの減少である。したがって二つの部屋を熱機関に接続すれば、第二種の永久機関をつくる様に見える。
マクスウェルの魔によって提起された問題については、それに対し解答を得るよりもそれを反駁する方が簡単である。こんな生き物または機構の可能性を否定することほど容易な事はない。実際、厳密な意味でのマクスウェルの魔は平衡状態にある系には決して存在し得ない事がわかっている。しかし頭からこの事を受け入れてしまって論証しようとしないならば、エントロピーや、物理学的・化学的・生物学的に可能な系について価値あることを学ぶ機会を逸することになろう。
マクスウェルの魔が活躍するためには、魔は近寄ってくる流出から、その速度やそれが壁にぶつかる点についての情報を獲得しなければならない。こうした粒子からの刺激がエネルギーを伝達するかどうか問わないにしても、魔と気体の間には相互作用がなければならない。さてエントロピーの増加則は完全に孤立したけいに適用されるものであるが、この様に孤立してない系の一部分には適用されない。したがって我々が増加則を云々し得る唯一のエントロピーは、気体と魔を一緒にした系のエントロピーであり、気体だけのエントロピーではない。気体のエントロピーとは、もっと大きな気体-魔の全エントロピーの単なる1項に過ぎない。我々は、魔をも含めてこの全エントロピーに寄与する諸項を見つける事が出来るであろうか?
それは確かに出来る。魔は情報を獲得した時に活動出来るだけであり(次章で見る様に)情報というのは負のエントロピーを表している。この情報はある物理過程、たとえばある種の輻射によって伝達されねばならない。この情報は確かに非常に低いエネルギー・レベルで送られるであろうし、また粒子と魔の間のエネルギーの伝達は、相当時間のあいだ情報の伝達にくらべて無視出来るほど小さいであろう。しかし量子力学の立場からいえば、問題の気体粒子エネルギーに情報を得るのに使った光の周波数によってきまる最小エネルギー以上の影響をはっきり与えずには、粒子の位置もしくは運動量に関する情報、ましてやその双方を得ることは不可能である。このようにすべての相互作用は厳密にいってエネルギーを含むものであって、統計的平均にある系は、エントロピーに関しても、エネルギーにしても平衡の状態にある。長時間のあいだには、マクスウェルの魔はそれ自身周囲の温度に対応する不規則な運動をすることになって、ライプニッツが彼のモナドのあるものについて述べたように、魔はこの不規則運動から小さいがたくさんの影響を受けて遂には“目まい”を起こし、はっきりした知覚で活動出来なくなってしまう。こうしてそれはマクスウェルの魔として活動しなくなってしまう。
しかし魔が動かなくまでにはかなり長い時間があり、この時間は相当ひきつづくので、この魔の活動基盤を準安定状態(metastable)いってよい。準安定状態にある魔が実際には存在しないと考えるべき理由は存在しない。実際酵素は準安定状態にあるマックスウェルの魔といってよく、これは早い粒子と遅い粒子とを区別するかわりに、おそらく何かこれに相当する操作によって、エントロピーを減少させるのであろう。生体とくに人間自身もこの考え方で見る事が出来よう。酵素や生体は確かにどちらも準安定な状態にある。酵素の安定な状態とは効目のなくなる事であり、また生体の安定な状態は死ぬ事である。全ての触媒はしまいには効かなくなってしまう。触媒は反応速度を変えるものであって、真の平衡状態を変えるものではない。しかし触媒も人間もどちらも、十分はっきりした準安定状態をもつので、これらは比較的恒久性のある状態と考えてよいほどである。
ところがこの様な関数は実在するのです。「45度回転させた絶対値関数」がそれですね。タネは簡単で「元数字とその絶対値を加算した場合、符号が同じなら2倍に、符号が異なれば0となる(減算の場合は逆の結果になる)」なる数理の応用。
(i,j)=(\frac{x+|x|}{2},\frac{x-|x|}{2})=\left\{
\begin{array}{ll}
(x,0) & x > 0 \\
(0,0) & x = 0 \\
(0,x) & x < 0
\end{array}
\right.
(j,i)=(\frac{x-|x|}{2},\frac{x+|x|}{2})=\left\{
\begin{array}{ll}
(0,x) & x > 0 \\
(0,0) & x = 0 \\
(x,0) & x < 0
\end{array}
\right.
- (i,j)=-(\frac{x+|x|}{2},\frac{x-|x|}{2})=\left\{
\begin{array}{ll}
(-x,0) & x > 0 \\
(0,0) & x = 0 \\
(0,-x) & x < 0
\end{array}
\right.
- (j,i)=-(\frac{x-|x|}{2},\frac{x+|x|}{2})=\left\{
\begin{array}{ll}
(0,-x) & x > 0 \\
(0,0) & x = 0 \\
(-x,0) & x < 0
\end{array}
\right.
①回転行列
\begin{pmatrix}
cos(+\frac{π}{2}) & -sin(+\frac{π}{2}) \\
sin(+\frac{π}{2}) & cos(+\frac{π}{2}) \\
\end{pmatrix}
=\begin{pmatrix}
0 & -1 \\
+1 & 0 \\
\end{pmatrix}
で+90度回転させた場合。
(-i,j)=(-(\frac{x+|x|}{2}),\frac{x-|x|}{2})=\left\{
\begin{array}{ll}
(-x,0) & x > 0 \\
(0,0) & x = 0 \\
(0,x) & x < 0
\end{array}
\right.
(-j,i)=(-(\frac{x-|x|}{2}),\frac{x+|x|}{2})=\left\{
\begin{array}{ll}
(0,x) & x > 0 \\
(0,0) & x = 0 \\
(-x,0) & x < 0
\end{array}
\right.
- (-i,j)=-(-(\frac{x+|x|}{2}),\frac{x-|x|}{2})=\left\{
\begin{array}{ll}
(x,0) & x > 0 \\
(0,0) & x = 0 \\
(0,-x) & x < 0
\end{array}
\right.
- (-j,i)=-(-(\frac{x-|x|}{2}),\frac{x+|x|}{2})=\left\{
\begin{array}{ll}
(0,-x) & x > 0 \\
(0,0) & x = 0 \\
(x,0) & x < 0
\end{array}
\right.
①回転行列
\begin{pmatrix}
cos(-\frac{π}{2}) & -sin(-\frac{π}{2}) \\
sin(-\frac{π}{2}) & cos(-\frac{π}{2}) \\
\end{pmatrix}
=\begin{pmatrix}
0 & +1 \\
-1 & 0 \\
\end{pmatrix}
で-90度回転させた場合。
(i,-j)=(\frac{x+|x|}{2},-(\frac{x-|x|}{2}))=\left\{
\begin{array}{ll}
(x,0) & x > 0 \\
(0,0) & x = 0 \\
(0,-x) & x < 0
\end{array}
\right.
(j,-i)=(\frac{x-|x|}{2},-(\frac{x+|x|}{2}))=\left\{
\begin{array}{ll}
(0,-x) & x > 0 \\
(0,0) & x = 0 \\
(x,0) & x < 0
\end{array}
\right.
- (i,-j)=-(\frac{x+|x|}{2},-(\frac{x-|x|}{2}))=\left\{
\begin{array}{ll}
(-x,0) & x > 0 \\
(0,0) & x = 0 \\
(0,x) & x < 0
\end{array}
\right.
- (j,-i)=-(\frac{x-|x|}{2},-(\frac{x+|x|}{2}))=\left\{
\begin{array}{ll}
(0,-x) & x > 0 \\
(0,0) & x = 0 \\
(x,0) & x < 0
\end{array}
\right.
X軸1本でこの表現力!! つまりX=0関数を回転軸とするy=±x関数、y=0関数を回転軸とするx=±y関数、z=0関数を回転軸とするZ=±x/Z=±yの場合と同様に$±i^{1-cos(θ)}(0≦θ≦π)$を掛け合わせると三対の円錐が現れるのです。
【Token】多様体概念への複素数概念導入
この辺りの座標操作で頭を悩ます事はありません。既存の三次元アフィン変換を使えば良いのです。
x軸まわりの回転(θ)\begin{pmatrix}X_1\\Y_1\\Z_1\\1\\\end{pmatrix}=\begin{pmatrix}1 & 0 & 0 & 0\\0 & cos(θ) & -sin(θ) & 0\\0 & sin(θ) & cos(θ) & 0 \\0 & 0 &0 & 1 \\\end{pmatrix}\begin{pmatrix}X_0\\Y_0\\Z_0\\1\\\end{pmatrix}
y軸まわりの回転(θ)\begin{pmatrix}X_1\\Y_1\\Z_1\\1\\\end{pmatrix}=\begin{pmatrix}cos(θ) & 0 & sin(θ) & 0\\0 & 1 & 0 & 0\\-sin(θ) & 0& cos(θ) & 0 \\0 & 0 &0 & 1 \\\end{pmatrix}\begin{pmatrix}X_0\\Y_0\\Z_0\\1\\\end{pmatrix}
Z軸まわりの回転(θ)\begin{pmatrix}X_1\\Y_1\\Z_1\\1\\\end{pmatrix}=\begin{pmatrix}cos(θ) & -sin(θ) & 0 & 0\\sin(θ) & cos(θ) & 0 & 0 \\0 & 0 & 1 & 0\\0 & 0 &0 & 1 \\\end{pmatrix}\begin{pmatrix}X_0\\Y_0\\Z_0\\1\\\end{pmatrix}
偏差を利用した誤差除去の可能性?
ところでここで湧き上がってくるそもそもの疑問。
【Token】連続一様分布の平均と分散と最尤値
分散V[X]$(σ^2)$の式形$E[X^2]-\bar{X}^2$から、以下の事がわかります。
- もし観測データXの値が均質ないしはそれに準ずる状態の場合($E[X^2]≒\bar{X}^2$)、分散V[X]$(σ^2)$の値は限りなく0に近付く。
- ほとんどのデータがこの状態にあるのに、特定のデータだけこの基準から際立って外れていてそのせいで分散幅がむやみやたらと大きくなっている場合、このデータを「外れ値」として除去する事によって上掲の状態に近付ける事ができる。
上掲の場合では「観測結果集合の偏差について、正負の符号ごとに改めて平均を求めた場合」以下の様な展開が観察されます。
- 観測結果集合の偏差が、例えば一様分布[-3,-2,-1,0,+1,+2,+3]の様に均等に分布している場合、正の偏差と負の偏差のそれぞれの平均の間に差が生じない。
- 逆に例えば[-5,+1,+1,+1,+1,+1]の様にどちらかの側の偏差の標本数の差が極端で平均値全体を歪めているのが明かな場合、正の偏差と負の偏差のそれぞれの平均の差はどんどん大きくなっていく。
そしてガウスの誤差関数は、この様な偏差の符号次元における検討で除去可能な外れ値は除去済みという前提で「絶対値の外れ値」を検討する立場。技法としては箱ひげ図における「四分位範囲(IQR)1.5倍ルール」も、こうした次元におけるシステマティックな外れ値除去作業の仲間といえましょう。
外れ値検出のある箱ひげ図
ただしこれらの方法論には揃って正規分布を用いた帰無仮説検定における「0.05%水準」「0.025%水準」の様な厳格な峻別基準が備わっていない点に注意が必要です。
【Token】確率密度空間と累積分布空間①記述統計との狭間
そんな感じで以下続報…