Open Government Licence (OGL) とは
昨今、いろいろな公共機関から、さまざまなデータが Open Dataとして公開されるようになりました。
データを利用する側として、とてもとても嬉しいことであり、歓迎する状況です。
ではそもそも、Open Dataというものに欠かせないものであるライセンスについて、現状はどのような状態でしょうか。
そもそも、
- 「OpenDataって、結局情報公開でしょ? グラスノスチでしょ? そんなもん、ずっとやってるよ?」
という質問への回答が
- 「自由な二次利用を許可するライセンスになってることが違うよ」
であるように、Open Dataにとって、ライセンスとはとても重要なものです。
自由な閲覧から、自由な利用へ。
私たちは確実に、次の段階へ進んでいます。
そして2013年12月現在、日本で利用されているのは基本的に Creative Commons BY (2.1 JP) がほとんどと思います。
ですが、CCはもともと著作権を保護するためのライセンスであり、著作性のない情報(地理情報などの事実情報の羅列、あるいは統計データ)をカバーするためにそのライセンスが使われている、つまり、本来カバーされてない事柄がまるでカバーされているように扱われている、というのは、僕をはじめ、すっきりしないかたも多いはず、と思っています。
手軽に使えて知名度があって、なおかつ日本語で利用できるライセンスの選択肢として、現状CCはベストの選択肢だと思います。
そして、それをもとに「自由に使ってくださいね!」という意思表示としてCCでライセンシングするというのはとても理解できますし、賛同します。
CCライセンスの普及はこれまで関係者のみなさんが活動されてきたことの賜物であり、「スゲェ」と思いこそすれ、disるつもりは全くありませんのであしからず。
ちなみに現在最新となる CC 4.0 ではこのへんがカバーされており、Section 4でスイ・ジェネリス権についても明示的に対象としています。
http://creativecommons.org/licenses/by/4.0/legalcode
そこで、yet anotherな選択肢として、Open Government Licence、というのを紹介します。
これは行政が情報を公開する際に利用されることを想定したライセンスであり、行政が情報をOpen Dataとして公開する際の観点に特化しています。
Open Government Licence 2.0の制定
OGLは現在、英国とカナダで施行されています。
基本的な方針としては、CC BYの内容を踏襲しています。
バージョンは2.0で、それぞれの国ごとに別の文言で制定が行われています。
ざっくりとした印象をいうと、英国版はデータベース権が制定されている国のバージョンで、カナダ版はデータベース権がない国のバージョンです。
それぞれの国内で利用されることに特化した記述が行われているため、他国で利用する場合はそれぞれの国の法律や組織との整合性をとった上で、その国で制定を行う必要があります。
中途半端ではありますが、日本語の私訳を作りかけています。
ブラッシュアップが必要なので、修正のリクエストください。
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Open Government Licence - 英国版
個人的には、カナダ版がとてもすっきりしていて、なおかつ、日本での状況にとても近い感じがあります。
(日本だとデータベース権が著作権の下位として含有されている認識です)
なので、カナダのライセンスは、わずかに文言を変えるだけで日本での感覚にとても近いものを制定することができる気がしています。
これからの議論を喚起するためにも、このライセンスについて、個人的にポイントかな、と思う部分をここで推したいと思います。
OGL Canadaのもえポイント
複製などを行う際の、他法律への言及
Copy, modify, publish, translate, adapt, distribute or otherwise use the Information in any medium, mode or format for any lawful purpose.
複製とかしてよいよー、という文言なのですが、for any lawful purpose
という文言が入っています。
つまり、他の法律は順守したうえで使ってね
と言っています。
行政データをOpenDataにした時に、違法な目的で二次利用されたらどうしよう
という、よくある不安がここで解決されます。
個人的には、日本で使うのであれば、少々の改変を加えて、他の法規に準拠して利用してね
という書き方のほうが良いのではないか、とは思っている部分でもあります。
ただし、for any lawful purpose
という文言では、かの悪名高き 良い目的で使う
条項のように曖昧さを含みます。さらに、万が一実際にどこかで訴訟になった時を考えると、後々で利用目的を証明するのはとてもたいへんなことである、はずです。
つまり、for any lawful purpose
という文言そのままでは、法律の運用上でコストが高くなると考えます。それであれば、目的を絞るのではなく、そのまま意図を記述すれば良いと思っています。
個人情報の明確な分離
Personal Information
means “personal information” as defined in section 3 of the Privacy Act, R.S.C. 1985, c. P-21.
個人情報が別途の法律で定められていることを明記しており、モジュールとして切り離しています。
行政が出すデータで個人情報というとピンと来ないかもしれませんが、例えば住所データなどが考えられるでしょうか?
日本でも、個人情報の定義についてはまだ議論が続いています。
この部分をモジュールとして切り離すのはよい手段だと思っています。
利用時のライセンス明示文言の明確化
specified by the Information Provider(s)
情報を利用する際に、情報提供者からの文言指定が別途あることが定められています。
具体的に文言をどう書けばいいのよ
という文言が明示され、あらかじめ指定されているのは、利用する側からすればとても気持ちが楽です。
また、万が一その文言指定が無い場合や、直接的な表示が難しい場合の回避策も記載されています。
文言的にはアプリケーションのどこかで表示しておくこと
となっており、要は、 アプリの about や Help の中に項目作っとけ
となっています。
アプリを実装する側として、これはとても現実に則した内容と思いませんか?
準拠法の明記
This licence is governed by the laws of the province of Ontario and the applicable laws of Canada.
このライセンスを定めた国の法律に準拠することが明記されています。
当然といえば当然ですが、わりとモメることがあるので大切です。
情報
という文言の定義
Information
means information resources protected by copyright or other information that is offered for use under the terms of this licence.
対象となる 情報
の定義、ここはとてもよいところです。
情報提供者 (つまり行政主体) が公開する情報は、その情報が著作権マターであろうが、事実情報マターであろうが、このライセンスのもとで提供されます、という文言です。
この一言のおかげで、データベース権や事実情報などの問題について頭を悩ませる必要がなくなっています。
著作権よりも上位の概念である財産権に配慮し、そのレベルから抑えた文言といえるかもしれません。
非公的条項
Non-endorsement
つまり、このOGL情報を使ったからといって、行政のお墨付きがあるわけじゃないからヨロシク
という内容です。
免責の部分をより明確に記載した内容となっています。
行政が情報を公開する、ということは大変なことです。
提供されたデータにいわゆる「お上のデータ」という権威がある、と誤解するかたがでてくることは容易に想像できます。何かと理由をつけて難癖をつけるかたもいるでしょう。
この部分はそういうかたに向けた、明確なメッセージといえるかもしれません。
ライセンス変更時の運用
Your use of the Information will be governed by the terms of the licence in force as of the date you accessed the information.
将来的なライセンス変更、および、ライセンス変更時には必ずいったん条項表示をさせる、ということを明言しています。
ライセンス、つまり利用許諾を後々で変更することは、(その法的是非はもちろん議論の対象ですが)状況によっては発生してしまうことがあります。
その際に、例えばアプリなどでOKを押して利用条項を表示させることで、明示的にライセンスの更新を行う
という運用が可能になります。
今後の展開について
とりあえずは草の根で、こういうライセンスもあるんだよーっていうことが広まればよいかな、と思います。
例えば、このライセンスの日本版を制定する場合の弱点を考えるための読書会、みたいなものは有益かな?とか考えています。
日本版の制定をしようとした場合
これから日本で活用してゆくにあたっては、これの日本版(日本語版じゃないよ)が必要になってきます。
まだ具体的な動きはありませんが、もしやるならば、CC 4.0で行われたCCの改定は積極的に取り入れても良いと思います。
具体的には以下のあたりです。
- 著作隣接権の明示的な放棄
- 人格権の放棄
ただ、行政主体は人格権を持ちえるのか? とも思っています。
もし行政が法人主体ではない場合は、人格自体がそもそも無いので、無理に文言を組み込むとおかしなことになるかもしれません。
なので、そこは今後も調査が必要かな、と思います。
(例えば、独立行政法人がこのライセンスを利用しようとする場合はどうするのかなー、とか)
これからの日本のOpenDataが、より安心して、より効果的に利用できるようになるためにも、ライセンスの啓蒙と普及は必須です。
そして、どんな状況にも、どんな時代にも常に通用する銀の弾丸はありません。
どんなときでも、手は広く持っておくほうがよい、私はそう思っています。