はじめに
情報セキュリティの世界では、機密性(Confidentiality)・完全性(Integrity)・可用性(Availability) の「CIAトライアド」が重要とされています。
その中でも 機密性を最優先に設計された古典的なモデル が、1970年代にアメリカ国防総省向けに提案された Bell-La Padula(BLP)モデル です。
本記事では、このモデルの基本概念と特徴、図解を用いたルールの理解、そして実際にどのように適用されるかを整理します。
Bell-La Padula モデルとは?
- 1973年に David Elliott Bell と Leonard J. LaPadula によって提案。
- 軍事・政府システムにおける 強制アクセス制御(Mandatory Access Control: MAC) をベースに、情報の機密性を厳格に守ることを目的としています。
- 「情報漏洩を防ぐ」ことに特化 しており、完全性や可用性は対象外です。
基本概念
-
セキュリティレベル(ラベル)
- 情報は「機密区分(Top Secret, Secret, Confidential, Unclassified)」などで分類されます。
- ユーザーやプロセスは クリアランス(許可レベル) を持ちます。
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主体(Subject)と客体(Object)
- 主体:ユーザーやプロセス(能動的に操作する側)。
- 客体:ファイルやデータベースなど(受動的に格納される側)。
-
アクセスモード
- 読み取り(Read)、書き込み(Write)、実行(Execute)など。
主要ルール(BLPの三大特性)
1. 単純セキュリティ特性(Simple Security Property)
- 「No Read Up」
- 主体は、自分のクリアランスより 上位の情報を読めない。
- 例:Secret のユーザーは Top Secret 文書を読めない。
2. *-プロパティ(Star Property, No Write Down)
- 「No Write Down」
- 主体は、自分のクリアランスより 下位の情報へ書き込めない。
- 情報の「格下げによる漏洩」を防止。
- 例:Top Secret ユーザーは Confidential 文書に書き込みできない。
3. 任意セキュリティ特性(Discretionary Security Property)
- アクセス制御行列などに基づいて、個別の権限管理 を追加で行う。
- 強制制御(MAC)に加え、任意制御(DAC)も併用。
図解で理解する Bell-La Padula
Mermaid 図での表現
- 実線矢印:上から下への 書き込み禁止(No Write Down)
- 点線矢印:下から上への 読み取り禁止(No Read Up)
上下関係イメージ図
↑ 読むのは禁止(No Read Up)
│
│ ┌──────────────┐
│ │ Top Secret │ ← 最上位
│ └──────────────┘
│ ┌──────────────┐
│ │ Secret │
│ └──────────────┘
│ ┌──────────────┐
│ │ Confidential │
│ └──────────────┘
│ ┌──────────────┐
│ │ Unclassified │ ← 最下位
│ └──────────────┘
│
↓ 書くのは禁止(No Write Down)
このように、Bell-La Padula モデルは「情報が下方向に漏れること」を防ぎ、機密性を守ります。
具体例
例えば、軍事システムを考えましょう。
- Alice = Secret クリアランス
- Bob = Confidential クリアランス
- 文書 X = Top Secret
- 文書 Y = Confidential
- Alice は文書 X を 読めない(No Read Up)
- Alice は文書 Y に 書き込めない(No Write Down)
➡ 情報は 下方向に漏れない仕組み になっています。
メリットとデメリット
メリット
- 機密性を厳格に保証できる。
- 軍事・政府システムのような 情報漏洩が許されない環境 に適合。
デメリット
- 完全性や可用性を考慮しない。
- 商用システムに適用すると「使いにくい」。
- 柔軟性に欠け、現代のビジネス用途には不向き。
(※ そのため、Bibaモデル(完全性重視) や Clark-Wilsonモデル などと組み合わせて使われます。)
まとめ
- Bell-La Padula モデルは 「機密性最優先」 のセキュリティモデル
- No Read Up / No Write Down という単純かつ強力なルールで情報漏洩を防ぐ
- 図解で理解すると「情報が下方向に落ちない仕組み」であることが直感的に分かる
- 現代でもセキュリティ基礎を学ぶ上で欠かせない存在