はじめに
Apache Icebergは巨大な分析データセット向けのオープンテーブル形式で、SparkやTrino、Flinkなど複数エンジンで同じテーブルを扱えるのが強みです。
Google Cloudでもこの流れが強くなり、BigQueryを中心にIceberg対応が大きく前進しました。特にBigQuery上で書き込み可能なIceberg運用や、BigLake metastoreによるカタログ統合が現実的な選択肢になっています。
この記事は、GCPでIcebergを使うときに迷いがちな以下の点を、短い判断フレームで整理するのが目的です。
- どの方式を選ぶべきか
- どこまでBigQuery寄りに任せてよいか
- 何が運用の地雷か
TL;DR
| 方式 | 用途 | 特徴 |
|---|---|---|
| BigLake Icebergテーブル | 新規でレイクハウスを作る本命 | BigQuery標準テーブルに近いマネージド体験を保ちつつ、データは自分のGCSバケットに置ける |
| Iceberg外部テーブル | 既存Icebergの参照 | メタデータファイルを参照する読み取り中心のアプローチ。更新追従や制約に注意 |
| BigLake metastore + REST Catalog | マルチエンジン統合 | BigQueryとOSSエンジンが単一カタログでつながる。2025年後半に現実味が増している |
2つのIceberg方式を押さえる
1. BigLake Icebergテーブル in BigQuery
公式ドキュメントでは以下の位置づけです。
- BigQuery標準テーブルと同等のマネージド体験
- ただしデータは「顧客所有のストレージバケット」に保存
- オープンなIceberg形式なので他エンジンとも同一データを共有
さらにBigQueryからのDML書き込みや、BigQueryのWrite APIを介した高スループットなストリーミング取り込みもサポートされています。
「オープン形式だけど運用はBigQueryっぽく楽にしたい」層に一番ハマる方式です。
2. Iceberg外部テーブル
Icebergのメタデータファイルを参照してBigQueryで読む形式です。
- メタデータの更新や制限事項があり、利用形態によっては手動更新が必要になるケースがある
- 読み取り中心の用途向け
2025年時点の追い風
Google Cloud側のメッセージとして、BigQueryとBigLake Icebergの併用が増え、18か月で利用顧客が約3倍、管理データが数百PB規模に拡大しているとされています。
このくらい明確に数字が出ると、PoC止まりではなく「標準アーキ候補」に上がったと見てよいと思います。
選定の判断フレーム
BigLake Icebergテーブルを選ぶべき条件
- 新規でレイクハウスを作る
- BigQuery中心で分析したい
- ただしデータ形式はオープンにしたい
- Spark/Trino/Flinkなど他エンジン連携も視野
→ BigLake Icebergテーブルが第一候補
外部Icebergテーブルが合う条件
- 既に別環境でIcebergがある
- まずはBigQueryで参照したい
- 書き込みや高度な最適化は後回し
→ 外部テーブルで十分
BigLake metastoreとREST Catalogが重要な理由
Icebergは「テーブル形式」だけでは完結しません。
実戦ではカタログの統合度が運用品質を左右します。
BigLake metastoreのIceberg REST Catalogは以下を狙っています。
- エンジンごとのカタログ分断を避ける
- 単一のソースオブトゥルースに寄せる
- BigQueryとOSSエンジンの相互運用を素直にする
「オープン形式のメリットを最大化する最後のピース」 という位置づけです。
実装の入り口
DataformでBigLake Icebergテーブルを作る
Dataform公式ドキュメントでも、BigQueryでIceberg用のBigLakeテーブルを作る手順が案内されています。
普段の変換管理をDataformで統一したいチームにはかなり相性がよいです。
本番で重要な運用ポイント
1. 「勝手にGCSを触るな」問題
BigQueryが管理するIceberg領域に対して、外部ツールが直接ファイル操作をすると整合性事故の原因になります。
バケット権限と運用ルールを最初に固めるのが重要です。
2. メタデータスナップショットと他エンジン利用
他エンジンからの参照体験を良くするには、BigLake Icebergテーブルのメタデータスナップショットの扱いを理解しておく必要があります。
必要に応じてスナップショットのリフレッシュやスケジュール実行が推奨されています。
3. 型と機能の制限を先に把握する
BigLake Icebergテーブルには以下の制限があります。
- サポートされない型
- スキーマ進化の制約
- マテビュー非対応
後から気づくと移行コストが跳ねるので、設計フェーズで確認必須です。
ありがちな失敗パターン
失敗1: 「オープンだから何でも自由に触れる」と思ってしまう
対策: BigQuery管理領域はBigQueryの管理ルールに従う前提で、外部書き込み権限を絞る
失敗2: 外部テーブルで始めて、そのまま本番中核にしてしまう
対策: 段階戦略にする
| フェーズ | 方式 |
|---|---|
| 参照だけの入口 | 外部テーブル |
| 中核 | BigLake Icebergテーブル |
失敗3: スキーマ進化とデータ契約が未整備
対策: スキーマ変更申請、互換性テスト、利用者通知をCIに組み込む
ユースケース別の適合パターン
| ユースケース | 推奨方式 |
|---|---|
| データ所有権は自社で持ちつつ、BigQueryでサーバーレスに分析したい | BigLake Icebergテーブル |
| SparkやTrinoを併用する組織で、カタログを統一したい | REST Catalogを中心に据える設計 |
| ストリーミングも含めてレイクハウス側で完結したい | BigQueryのWrite APIを活用した取り込み |
まとめ
GCPにおけるIcebergは、もはや「面白そうな将来技術」ではなく、現実的な本番選択肢に入ってきました。
設計判断としては以下の3点を押さえておけば、だいぶ事故らずに進められるはずです。
| 判断軸 | 推奨 | ポイント |
|---|---|---|
| 新規や中核用途 | BigLake Icebergテーブル in BigQuery | オープン形式とマネージド運用のいいとこ取り |
| 既存資産の参照入口 | Iceberg外部テーブル | 制限とメタデータ追従に注意 |
| マルチエンジン時代の鍵 | BigLake metastore + REST Catalog | カタログ統合が、オープンレイクハウス体験の品質を決める |