連載『Claude Codeで会社を回す』#6 ── 一人会社が Claude Code で回す AI役員チームの実録。人間(@noracorn)がレビューして公開しています。
連載もこれで最終回。前回(#5)まで、AIに「何を渡すか / 渡さないか」の線を引いてきた。最後は、線を引いてAIに判断させた、その判断のゆくえの話。
いい判断をしてくれた。一週間後、本人は覚えていなかった
AIに相談して、いい結論が出た。「これは来週までにやろう」「この件は再来月に再評価」。納得して、画面を閉じた。
一週間後。続きを聞こうと、また相談した。「先週の、あれどうする?」
AIは、きょとんとしていた。 何のことか分からない。新しい会話は、まっさら。先週あんなに切れ味よく判断したことを、本人は1ミリも覚えていない。
当たり前だ。会話が終われば、その会話の文脈は消える。次の会話には、何も引き継がれない。AIは究極の言いっぱなしなんだ。 その場では誰より賢く判断するのに、振り返ると、判断した事実ごと無い。賢いのに、後には何も残らない。
困るのはここ。判断の質が高くても、回収されない判断は、無かったのと同じ。 「来週やろう」は来週には消えていて、誰も気づかないまま期限だけ過ぎていく。
人間も、たいして覚えていない
「じゃあ人間が覚えとけばいいだろ」と思うだろ。オレもそう思ってた。無理だった。
一人会社だと、相談相手はAIで、記録係もオレで、実行するのもオレだ。AIが忘れる分を人間が全部背負うと、今度は人間がパンクする。揮発するAIと、忘れる人間。 この2つを口約束で繋ぐと、決定はだいたい宙に浮く。
ここで前に書いた話が効いてくる。連載 #1 で「会議の少数意見を議事録に必ず残す」と書いた。あれは未来の自分への申し送りだった。今回はそれを、判断ぜんぶに広げる。
やったこと: 判断した瞬間に、台帳へ書かせる
仕掛けはばかばかしいほど単純。AIが何かを決めたら、その場で台帳(ただのテキストファイル)に一行書かせる。 口で言わせて終わりにしない。
台帳の一行は、これだけ持たせる。
- [ ] 2026-06-10 まで | 外注先に契約更新の連絡をする | 担当: 自分 | 出典: 6/3の相談
- [ ] 2026-07-01 まで | この施策の継続/撤退を再評価する | 担当: 自分 | 出典: 6/3の相談
ポイントは3つ。期限を必ず入れる(#3で書いた「それ、いつの数字?」と同じで、日付の無い決定は回収できない)。チェックボックスで未完/完了が一目で分かる。出典を残して、後から「なんでこう決めたんだっけ」に戻れるようにする。
決定の本文そのもの(経緯・却下した案・根拠)は、別の判断ログに残す。台帳は「やること」だけの軽い索引にして、grep一発で「未完のやつ」を引けるようにする。
書かせるだけじゃ、結局たまる。だから「回収係」を別に立てる
台帳に書かせても、それだけだと書きっぱなしになる。未完の行が静かに積もって、誰も見ない墓場になる。一度これで失敗した。
(じつはこの"やり残しを会話の外へ逃がす"発想は、連載を始める前に単発でも書いた → AIに「次やること」を出させても、本人は平気で忘れる話。今回はそれを、思いつき1個じゃなく"判断ぜんぶ"に広げた連載版だ。)
なので、書く役と回収する役を分けた。 これも連載 #4 と同じ発想だ。書いた本人は、自分の成果物に甘い。だから採点役(ここでは回収役)を別に立てる。
- 書く役: 判断したAIが、その場で台帳に積む。
- 回収係: 別の係(別のAI、または定例の自分)が、定期的に台帳をなめて、期限が過ぎた未完・もうすぐ来る未完を抜き出して突きつける。
回収係の仕事は、優しくない方がいい。「これ、期限切れてますよ」「来週これ来ますよ」と、機械的に並べて見せる。判断した時のテンションはもう無いから、第三者の冷たい目で蒸し返してもらうのがちょうどいい。言いっぱなしを、別の係が拾いっぱなしにする。
真似する時の最小形
特別なツールは要らない。テキストファイル1枚と、習慣ひとつ。
- 決めたら、その場で台帳に一行。後で書くは、書かない。判断と記録を地続きにする。
- 一行に「期限・担当・出典」。期限の無い決定は回収できない。チェックボックスで未完/完了を可視化。
- 回収係を別に立てる。書く役と回収する役を分け、定期に「期限超過/直近期限」を突きつけさせる。
- 重い経緯は別ログ、台帳は軽い索引。台帳はgrepで未完だけ引ける状態を保つ。
これだけで、「あの時こう決めたのに、立ち消えた」が激減した。AIの判断力じゃなく、判断を取りこぼさない仕組みのほうが、効いた。
まとめ(と、連載のしめくくり)
6回かけて、ずっと同じことを言ってきた気がする。AIは強い。でも、任せきると事故る。 だから毎回、どこかに人間の線を引いてきた。
- 1体に全部聞かず、9体に割れさせて、少数意見を残す(#1)
- 口調じゃなく判断軸とタブーで人格を固める(#2)
- 判断の前に「それ、いつの数字?」と鮮度を出させる(#3)
- 書いたコードは別のAIに3段階で検品させる(#4)
- 機密は渡す前に線を引く(#5)
- そして判断は言いっぱなしにせず、台帳に書かせて回収する(#6)
並べてみると、全部「AIに丸投げしない」ための仕掛けだ。賢いAIを、賢いまま、信用しすぎない。任せる範囲と、任せない一線。その間に仕組みを置く。 それが、一人会社がAIで会社を回す、いまのところの結論だ。
「いい判断が出た、よし閉じよう」と画面を閉じかけた過去の自分に、最後に言いたい。閉じる前に、一行書け。 AIは覚えてない。お前も、たぶん覚えてない。だから紙に――いや、台帳に、書いておけ。
(前回 #5: Claudeに「渡さないもの」を先に線引きする)
(連載『Claude Codeで会社を回す』はこれで完結です。#1 から通すと、一人会社がAIに「任せる/任せない」の線を引いていく実録になっています。読んでくれてありがとう。)
この記事について
arecore.net の中の人が運用する AI 役員チームの実践記録です。受託開発・SES・自社プロダクト開発をやっています。ご相談・フィードバックは arecore.net からどうぞ。