家電メーカーのいくつかは、既に中国系・台湾系企業に買収されてしまっています。それでも、まだしばらくは、日本での開発は続くと期待しています。ですから、その状況の中で、市場に受け入れられる製品を開発してほしいと思っています。家電製品の分野では組み込みプログラムもあるので、この記事を見つけるエンジニアもいることを期待します。
付記:2023年に統計データの追加とそれに基づく考察を追記しました。
今の20代の行動様式は、今の50代との行動様式と異なっていることを理解しようよ。
-
20代の人は固定電話を持たない。
-
それらと連動して固定電話回線の契約数は10年で半減している。
-
- 引用元(https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/r03/html/nd242210.html) -
20代でも新聞は1割も読んでいない
-
第一子を産んだ後も働き続ける女性の比率が高まっている。
-
「大きすぎるTVは部屋にじゃまなだけ」
-
ミニコンポではなく、ヘッドフォンオーディオ
-
中古衣類のお店や通販が増えている。
-
シェアハウスというライフスタイル
今の20代の社員は、30年前の20代の社員と置かれている状況がまるで違う。
- 勤続年数による昇給はなくなった。
- 寮や住宅補助が少なくなった。
- 銀行よりも利率のいい社内預金はなくなった。
- 人員を拡大しているときと違って、後輩社員が入ってこない。
- 会社で収益をあげている部門があっても、違う部門ではその恩恵にあずかれない。
- 確定拠出年金の場合、途中退職しても、手元に現金は入ってこない(60歳になるまでは引き出せない)。
- 公的年金制度による受給が今の20代について信頼できる値が不明である。
高価格帯の(日本の)家電製品を選ぶ人は減っていく。
- 「低価格帯でじゅうぶん。」
- 「個性的な家電製品」
平均としてみれば、おいしく炊けるこだわりの炊飯器を購入する人の比率もありますが、20代というターゲットだけに限ってみたときに、「おいしく炊けるこだわりの炊飯器」を求める人の比率は5%未満かもしれません。「おいしく炊けるこだわりの炊飯器」よりも「十分おいしく炊けるお手頃な炊飯器」がそれほどの高価格ではなしに売れているということはないでしょうか。それどころか、レトルトパックのご飯を電子レンジで温めているので、炊飯器は使わないという人の比率も増えているかもしれません。
すぐにお湯をわかせる状況では、電気ポット(=ジャーポット)は意味をなさない。
ジャーポットの1996年をピークに出荷台数が半減している。
狭いワンルームに住むときに、洗濯機を所有することは意味をなさない。コインランドリーを使うほうが合理的だ。
-
縦型洗濯機の価格の上昇
-
この時系列を見る限り、洗濯機の開発年度での新製品の投入のタイミングで価格上昇と、値崩れが繰り返されていることがわかる。
-
年度ごとの底値をたどっていっても、縦型洗濯機の価格上昇が起きていることがわかる。
-
また以下のデータは、洗濯機全体についての統計
-
コピー元(https://www.cross-fd.co.jp/kaden_database/washing-machine/)
-
過去10年での出荷台数が増えているのに、出荷金額の合計が上昇しているのがわかる。
-
衣類乾燥機(洗濯機一体型)の普及率の推移 二人以上の世帯(2014〜2021年)
-
2017年をピークに低下している。
「これまで、コインランドリーの利用者の7割以上をアパート住まいの単身者や学生が占めていましたが、今では利用者の8割近くを家庭の主婦や社会的な進出を果たしたキャリアママが占めています。」
引用元(https://laundream.com/blog/column/9290/)
仕事を持つ女性の比率が高くなった時点で、2層式、脱水までの全自動洗濯機は購入に値しないものに変化したということ。
高価格・壊れやすいという状況では、洗濯乾燥機を所有することよりも、コインランドリーを利用するということに魅力を生じさせている。
洗濯機の単価上昇による売上の確保という傾向があると読める。
Panasonic の洗濯機事業とAqua社(三洋からハイアールに売却された洗濯機事業)のコインランドリー製造事業では、後者の方が成長を成し遂げているといえる。
パックご飯市場拡大 22年5%増、過去最大
- 過去10年で1.7倍の市場規模の拡大になっている。
- つまり、家でご飯を炊かなくなってきている。
炊飯器の単価の上昇
引用元(https://jpmarket-conditions.com/4002/)
- これは2015年〜2023年の間の炊飯器の単価の推移である。
- 2割前後の価格の上昇を引き起こしていることがわかる。
炊飯器普及率の統計
-「 平成26年調査では,持ち家で平成元年以降に取得したものに限定して調査を行っている。」ので、H21年とH26年での
「主要耐久消費財の1000世帯当たり所有数量の増加率(二人以上の世帯)」の比較を不可能にしている。
所有率の分母が、「持ち家の(二人以上の世帯)」以上に変えたことは、上記の数値を見かけ上向上させたであろう。
借家住まいよりは持ち家世帯の方が、金銭的に余裕があったり、年齢層としても高く、所有率が高くても不思議はない。
実際には、分母を等しくしたら、所有率の低下を引き起こしている可能性が高い。
(出荷台数の推移で推測できないだろうか。)
ジャー炊飯器の年間出荷台数と金額の推移
引用元(https://www.cross-fd.co.jp/kaden_database/rice-cooker/)
- このように、炊飯器製造業が衰退産業になっていることは明白です。
- 問題は、二人以上の世帯の数の変化以上に、衰退していないかということです。
- 仮に普及率が出荷台数に比例するという単純な仮説を採用すると、600万台が500万台に変わるとすると17%前後の普及率の低下を引き起こしている可能性があります。
- 検証を必要とする仮説:
- 炊飯器の出荷台数の減少の中に占める炊飯器価格の上昇の寄与率はどれくらいあるのか。
- 日本国内の世帯数・世帯構成の変化の寄与率はどれくらいあるのか。
- 炊飯器を持たない世帯の増加とパックご飯の市場規模の拡大には関係性を確認できるのかどうか。
大手家電メーカーの経営層は、20代の価値観から一番遠い人たち
事業の意思決定を行うということは、何が市場に受けいれられるのか、どう優位性を創りだすのか、全身全霊で考えぬく必要があります。そのときに、20代の置かれている状況や価値観を理解して行動しているかどうかです。
私見:
- 大卒初任給をあがらないなか、家電製品の価格が上昇している。
- 単身生活者は、洗濯機の所有率を低下させているのではないかと危惧する。
- 2023年の追記:
- 女性の就業率の上昇は、2層式洗濯機・脱水までの全自動洗濯機への需要を低下させているのではないか?
- また、洗濯乾燥機の価格の上昇は、コインランドリーの需要を高めてしまっているのではないか?
組織のマネジメントは、今の時代を反映していますか?
- 日本の電機メーカー各社がここ20年衰退を続けているということは、組織のマネジメントにおいて何らかの欠陥を持っているとは考えられないだろうか?
- 技術者が、分野を変更しても3年もたてば、その分野でしかるべき結果を出せるようになっているはずだ。
- 方向性が出せていれば、人を育成したり、外部から人を招き入れるにも十分すぎる時間だ。
- もし、マネジメントがきちんとなされていれば、何をどのように解決するのかの道筋を見つけて、解決していくのには十分すぎる時間だ。
- だから言う、何かしら組織のマネジメントでなんかしら問題を持っていないのか?
若いエンジニアの置かれている状況
- 昇給されにくい制度
「仮に年功評価から能力評価に変更したとしても、既存の年配従業員たちは年功評価の恩恵を受けており、今後入社してくる若手の従業員にとっては「上の世代は何もせずとも年齢とともに昇給したのに、若い世代は能力給制度だから、昇給に苦労が伴う制度になって不満」という声も上がってきます。」 - 将来の昇給があてにできなくたった状況では、無理して今の場所にとどまって、わからず屋の上司に我慢する理由はなくなった。
- アイディアを出して、上司を説得して、実装したのが自分であったとしても、人事の書類では、「部下にそういう成果をあげさせた」上司の功績なんてことになってたりはしませんか。
- 結果重視という割には、どんなに優れた結果を出しても、ちょっとした世渡り上手の方がいい評価につながってしまうレベルの評価を行なってしまってないか。(正直者がバカを見る)
- 将来の昇給のあても、その会社の事業の拡大も期待できなければ、さっさと好条件で転職してしまった方がいい。
- それでも、まともな開発スタイルをしているならば、きちんとした開発力もつくだろう。
- 従来型の開発組織では、ここ10年のソフトウェアの開発スタイルや開発ツールに対して不勉強なことがある。
- 理不尽なことに、最新の開発スタイルを知っている人が、その手法やツールを伝えても、「何めんどうなことを言ってくれる」とか「それ本当に使えるの」とかになっていないか。
- コンピュータ言語でも言語仕様が変わったり、ライブラリが充実してきています。それらをまったく無視して、不安定なプログラミングになっていませんか
- 時代遅れの開発スタイルをし続けると、それによって開発者が、自分がダメになってしまうのを嫌います。そうして、会社を離れていくでしょう。
残された時間はもう少ない
- 世の中のからの期待との差が大きくなりすぎると、必要とされなくなる。
- 企業が事業継続をしていくための資金的な余裕は減っている。
- 新たな価値を作り出さない限り、価格は維持できない。
新たな価値を作り出せるのは、現状の商品に不満を持っている人ではないだろうか?
- 家電メーカーでは、部長・課長職を占めるのはそれなりの高齢の年齢層だ。しかも、自分達が何かを成し遂げたと思っているから、現状の
商品に不満を持っているとは考えにくい。 - 現状の商品に不満を持っていて、そのメーカー内部でそれを口にするというのは、どれだけできる環境にあるのだろう。
- 現状の商品に不満を抱いていて、それに対する解決を模索できるメンバーが活躍できる組織になっているか。
あなたはどう考えますか
私の考える「家電メーカーの考えるべき未来」
作り出すべき価値その1: 子どものいる共稼ぎの家族のライフスタイルにあう新しい価値をはっきりさせること。
- 例:学校から帰ってきた子どもが学童保育や、自宅で留守番して過ごす状況で、生活にうるおいを与えるのは何か?
- 例:子どもが自分自身に対して肯定感をもって力強く生きていくことができるような体験を与えること。
- 今後社会が著しく変化していく状況の中で、自分自身に肯定感をもっていることが、必要になる。
作り出すべき価値その2:体力や落ちたり、認知症を患わっている高齢者の生活を安心できるものを作り出すこと。
- 例:軽度の認知症になっている人の生活を、安心できるようにするもの。GPSによる徘徊者の検知はある。しかしそれ以上に認知症の人の負担を減らす製品はまだまだでていない。
- 例:高齢者は、知人が少なくなっていくと、生きるための心が弱くなってしまう場合がある。そのようなことのないように心を支えていく製品・サービスを作り出していくこと。
- 例:高齢者を介護する人の負担を減らす生活を作り出すこと。
作り出すべき価値その3:日本語を得意としない人々が日本社会に増えてくるときに、日本社会が豊かさを享受できるようにするための製品・サービスを作り出すこと。
その製品・サービスが、言葉の壁を減らしていくことが必要になる。
また、日本社会が創りだす製品・サービスを、日本語社会以外の地域に受け入れられるようにしていくこと。それによって日本社会が、世界の中で価値のある活動をして利益をあげられるようにすること。
作り出すべき価値その4(追記):50歳時の未婚率が上昇する社会を考慮した製品・サービス
50歳時の未婚率は確実に上昇している。
組織の進め方
製品名が入っている組織名に引きづられるな
洗濯機事業部 といった製品名が入った事業部があったとする。
だからといって、洗濯機のことだけしか考えちゃいけないなんてことは一切ないはずだ。
農作物の洗浄のための機器を作ったっていいはずだ。
古い2槽式の洗濯機で、じゃがいもを洗うという、そんな使い方勝手にしている人はいるものだ。
飲食店での食器をどう効率的に、人の手をわずらわさずに、洗うことを考えてもいいはずだ。
介護施設などでの洗濯物を、感染などの心配なしに洗濯・乾燥・パッケージ化してもいいはずだ。
個人の住宅に売ることだけ考えなきゃいけないわけでもない。
ものを洗うということから離れてしまってもいいと思う。
乾燥機の技術を、食品加工装置の分野に転用することだってありだろう。
モータの力を使って、足腰の弱った人が、家の中を移動するのを助ける装置を作ってもいいだろう。
とにかく、世の中にとって価値のあることを、自分達の頭で考えぬいて、道を切り開いていくことだ。
洗濯機・炊飯器事業の問題点
- 年度内の価格の変動がのこぎり波の形状をしていることに気づく。
- しかもその変動幅の比率が大きい。
- その変動の底の金額しか商品への価値がないと消費者が思っている可能性は高い。
- 「新製品ですよ」とアピールすることによって、直後の価格の底上げをはかっているようである。
- 洗濯機や炊飯器が、毎年モデルチェンジしなければならないほど、製品の改良が進んでいるとは思い難い。
- 新製品を出すためには、方向性の検証・設計・実装・製造工程への変更などを繰り返さなくてはならず、1年という期間は、本質的な改良を加えるには短すぎる。
指定価格制度は何をもたらすのだろうか
パナソニック「指定価格制度」 家電量販店はどう捉えているのか?
パナソニック「指定価格」導入に揺れる家電量販店 メーカー主導の「価格決定」に広がる期待と懸念
会社によって立ち位置は違う。あるべき方向も会社によって違う
従来型家電メーカー、アイリスオーヤマ、バルミューダでは、置かれている状況が違う。
そのため、収益をあげて事業を拡大するための方策は異なってくる。
アイリスオーヤマの場合、家電製品をコストパーフォマンスの良い分野から次第にハイエンド側の機能も充実させており、家電製品全般に強い会社になってきている。
バルミューダの場合には、個性的な独自のストーリーを持つ家電製品を作っている。自社で作るベき積極的な理由がない限り、製品のラインアップを拡大しない。
BALMUDA Phoneの場合も独自のこだわりのある製品となっている。(それが、その製品の場合妥当かは、ここでは述べない。
企業の方向性として、個性的な独自のこだわりのある製品を作ろうとしていることだけをここでは述べる。)
付記(2023年追記):
炊飯器単価の上昇要因としての円安
「パナソニック 加東市の工場での炊飯器生産を来年6月に終了へ」2022.12.27
2023年時点では、パナソニックは、国内では炊飯器を生産していない。
それ以前から中国への移管を進めてきた結果だろう。
パナソニックの家電は輸入産業になってしまっていて、円安は製品原価の上昇にしかつながっていない。
上記のグラフは、円安の進行の寄与率が高い可能性がある。
今後の円安の継続がもたらす悪夢
- 既にパナソニックでは国内には、炊飯器の生産能力はなくなった。
- そのため、円安の進展が進んでも、国内復帰することはできなくなった。
- 国内の家電製品の生産品目についての対応力のあるアイリスオーヤマと違って、事業部の壁の大きいパナソニックでは、国内復帰の潜在的な可能性はないだろう。
- 製造現場と切り離された開発拠点が、意味のある開発をできるかは、組織運営上の難しさをともなうだろう。
成長点を捨て去ったパナソニック
- かつての松下電器グループには、事業分野が約束されていない企業が存在した。
- 松下寿電子工業(株)、九州松下電器(株)がそうだった。
- 企業として存続するために貪欲に新規の事業にチャレンジし続けることが必須だった。
- 松下寿電子工業(株)は、HDDの世界シェア第2位であったこともあるらしい(参照元)。
- 完全子会社化、事業の統合の結果、そのような成長点を失ってしまった。
- 事業構造の変化の中で、新規事業への転換をはかる力量を失ったまま、事業とそれに関連する雇用の蒸発だけを繰り返すのだろうか。
- そうでないことを切に願う。
参考資料
参考資料
山下俊彦「ぼくでも社長が務まった」
城阪 俊吉 「松下電器の技術運営に関わって」
岩瀬 達哉 「ドキュメント パナソニック人事抗争史」
追記
経営層の人の世代的な特徴があるのかもしれないと思っている部分は、
次の記事にまとめている。
「共通一次世代が事業をつぶしていく」