先に「家電メーカーの考えるべき未来」という記事を書いた。
それへの追記があふれすぎたので、独立した記事に改変する。
積極的にすべき内容と、ありがちな悪癖とを書いている。
長年ソフトウェアエンジニアとして仕事をしていて、ソフトウェアエンジニアとして幸福な状況を作り出すためには、事業の進め方が大事であることを痛感するからである。
それぞれの人が働く会社での事業が成功してほしいと思うし、成功する事業の進め方・開発スタイルを見出してほしい。
HOW思考から抜け出せ/ 価値を生み出すWHAT思考
畑村洋太郎「技術の街道をゆく」にある一節である。
鍵付き冷蔵庫がインドでは新しい価値を生み出したことを述べている。技術的に画期的である必要はないことを述べている。
誠実さ・透明性・チームワークを基本とする組織運営を心がけるべきこと。
- 自分たちが社会に届ける価値はなんなのかを本気で考え抜け。
- それは、市場調査では出てこないものかもしれない。
- 従来型の組織で上司が判断するスタイルは確実に間違える。
- 「どうせ決めるのは上ですからね」
- 有能な若手の能力をチームワークで引き出そう。
- 前向きのメッセージを送り続けよう。
- 人と組織の可能性を信じ続けよう。
社会に届ける価値に応じた組織運営を
- 仮に、子どものいる共稼ぎの家族のライフスタイルにあう新しい価値を届けることにしたのならば、それに応じた組織運営がなおさら必要だ。
- その価値観にそった、社員の働き方をしなくちゃいけない。
- 業務外の飲み会を強要したり、その参加状況を人事の評価に反映させてはいけない。
- 例:職場の飲み会に一切参加しないことをもってして、「協調性がない」と判断することは禁止されなくてはならない。
- 「皆がつまみ易いように串外しなさい」などというものは、子どものいる共稼ぎの家族のライフスタイルにあう新しい価値とはかけ離れたものだ。
- コロナの状況がなくなっても、リモートが当たり前に選べる勤務スタイルが必要。
ありがちな悪癖:「現状のマネージャー層が優秀である」という結論がでるという仕組みが必ず出るような評価基準。
- そういう結論が必ず出るように、評価基準に細工がされていることはあったりしないか?
- 例:その職責にないかぎり入手不可能な情報を元にして判断した内容を、評価基準の中に置く。そうすると、その情報を入手できない人が、その分のポイントをとることができないので、現状のマネージャーが有利な結果に必ずなるように、仕組まれた制度。
- 部下の成果の反映をそのマネジャーへの反映させすぎてはいないか?
人事には、新しい技術の開発の難易度はわからない。
-
故に、難易度の高い新しい技術の開発をした人物であっても、それが評価されることはない。
-
人事は、「それはそれとして、それ以外の点での君の強みは何なんだね」とか、それ以外の価値観のところでの人を過小評価することはいくらでもできる。
- 例:「大学の講義にはあまり出席せず、自分の興味ある分野だけに熱中し」、「学部長と不仲のために助手になれなかった」人物を、あなたはどう評価するだろうか。
- どのようなすごいことでも、大したことのないような言い回しは可能だ。
- 例:「でもそれって、処理速度が速くなったにすぎないよね。」
- 例:「でもそれって、精度が10ポイント改善したにすぎないね。」
- 実際には、精度を10ポイント改善することは必ずしも簡単ではない。ある程度改善がされてくると、改善できる余地は少ない。精度が100%が上限だから、2倍向上するなんてことは、原理的にありえなくなる。
- にもかかわらず、成果主義において指標を数値化してそれに対する達成率で評価するという愚かな行為がなされる。
-
事業の推進に対して重要な資質はなにかという知見がなければ、どういう人を見出さなければならないのかの直感が働きようがない。
- 例:人事の経験だけでは、事業の推進に重要な資質はわかりようがない。
- 例:入社すぐの配属で、採用の担当になる。
- 例:SPIが本当に有益なものかどうかを検証しないまま、新卒理系の採用で用い続けるのは愚の骨頂。
- 提案:今進めているビジネス・開発で必要とされる人の能力や資質が何であるのかを理解している人を人事の組織に取り入れていくこと。
-
ありがちな悪癖:上位のマネジャーが、人を排除してしまった事例に事欠かない。
- 例:粉飾決算をする組織では、まともな人は排除される。
- 例:権力闘争の生贄に、誠実な人が選ばれるのはめずらしいことではない。
-
ありがちな悪癖:権力闘争の中で残った人員では、技術的な誠実さへの配慮は低下する。
- 権力闘争のなかで残りやすいのは、パワハラ体質の人員らしい。
- 例:会社の統合、事業の引き継ぎがあったであろう会社での究極のパワハラ。内定者へのパワハラによる自殺
-
ありがちな悪癖:権力闘争なれした人物は、他者を貶めることで自分の優位性を獲得しようとする。
- だから、新しいアイディアや新しいやりかたや新しい技術がでてきても、必ず貶める表現をする。
- 新しいアイディア新しいやりかた新しい技術は、不完全な状態で生まれてくる。だから貶める理由を言い出せば、必ず貶めることができる。
- 権力闘争なれした人物には、誠実な人を潰すのは極めて簡単なことである。
- 権力闘争なれした人物は、自分の力を誇示するためにだけの目的で反対をすることがある。
- 例:MCAを買収した後の松下電器の経営方針発表会において、他のグループ子会社の社長とどうような扱いでMCA会長をパイプ椅子に座らせたままであった。そこでは、わざわざアメリカから来席してくれているMCA会長に対する敬意は語られることがということである。
- そこには、事業の可能性を切り開いていくという視点はなかったらしい。
-
ありがちな悪癖:粉飾決算をする体質は、まともな技術力をつけることを軽視する体質を作ってしまう。
- 例:「事前に行われた技術審査では、(中略)◯◯グループは最下位タイだった」
- 出世させる人間の技術への判断能力・経営に重要な仕様に対する判断能力を問わなければ、何が今の停滞・衰退の理由がわからない。だから、パワハラもしくはパワハラめいた言動以上に言うべき知見を持ち合わせていない。
- 例:「◯◯電機が22円で落札」
- 自社の技術に対して十分な信頼を置いていれば、そんなばかなやり方をしないだろう。20年前であっても問題がある手法を2020年代の今においてもしているのは、情けなさ過ぎる。
-
ありがちな悪癖:社会の変化に適応する必要があるのは、製品の技術だけで十分だと勘違いしている。
- 例:販売する製品が売れてないのは、社会の変化に製品が対応していないせいだと思っている。それに対する適応は、技術者だけがすればいいことと思っている。営業・経営企画・経理・総務・人事なども、社会の変化に適応して変化しなければならないことをどれだけ理解しているかは疑問である。
- DXというキーワードで、製品を売り込もうとしている会社自体が、旧来型の組織運営をしている。そのため、急激な人員削減をするにいたっている。もし、その会社がその優位な技術をもって、自社の中で変化しつづけていれば、急激な人員削減を必要とすることがないだろう。
-
ありがちな悪癖: 経営に関するデータに虚偽や作為的な加工を加える。
- その結果生じることは、まともなアプローチに基づく改善が不可能になるということだ。
- 正しいデータを使わなければ、要因の分析はできない。
- 虚偽や作為的な加工がなされている状況では、まっとうなアプローチをしている人は忌み嫌われる存在となる。
- そのため、まっとうなアプローチで原因を見つけて改善する作業がされなくなる。
- そのことは、傷口を大きくする結果となる。
- そして、虚偽や作為的な加工があきらかになったときには、もはや救いようがないほど状況が悪化してしまっている。
-
ありがちな悪癖:部下にはエビデンスを求めても、上位のリーダーほどエビデンスを残さない(あるいはエビデンスを忌み嫌う)。
- なぜ、そのような方針を選んだのか、なぜそういう設計にしたのか、その時点で十分な技術的な見通しを確保したのか
- そういったエビデンスを残すことが、技術の開発の現場で必要になる。
- 例:github でソースコードレビューをするのも、品質確保のための取り組みであると同時に、どういう判断で改変を了解したのかのエビデンスを残す作業でもある。
- 例:Redmine で課題管理をするのも、課題の状況を把握し、どう判断して処理していったのかを、エビデンスとして示すものになっている。
- このように、様々な作業は、エビデンスを残すことで、仕事として役割を果たしたことになる。
- エビデンスを残さない電話連絡では、何かと後でトラブルの元になる。
- 組織間の打ち合わせでは、議事録を作って、その内容を共有することもよく行われる。言った言わないのトラブルを防ぐためだ。
- にもかかわらず、最近の組織の一部では、エビデンスを残さないことがある。
- しかも、組織の上の方でそういうことが増えている。
- そういう悪癖にしたがう限り、事業の推進がうまくいくことはない。
ありがちな悪癖:「事業を買収すれば成長していける。自分たちは変わらなくても」
- ある企業の場合だと、ヨーロッパの部品メーカーを買収したり、中堅の欧米のソフトウェア会社を買収したりと企業の買収に忙しい。
- しかし、企業買収の成果は期待するほど出ていない。
- 事業を買収した自分たちの側が変わっていかなければならないことを理解していないように見える。
- 例えて言えば、医療機器の事業を買収した企業の側が、医療事業とは何かを全く理解しないまま、事業計画に口出ししたとしよう。それがうまくいかないのは容易に想像できるだろう。
- 自分たちが扱えるものだけを買収している日本電産は堅実だと思う。
- 中堅の欧米のソフトウエア会社を買収して成功をあげようとしたら、それによって買収された側の会社の事業が成長しやすい状況を作り出せるかどうかにかかわっている。
- 中堅の欧米のソフトウエア会社を買収して成功をあげようとしたら、買収した側の会社の側が積極的に変わっていかなければならないことを理解しよう。
必要な技術に精通している大学院卒を、好条件で待遇しよう。
- 例:機械学習に精通した人に働いてほしいなら、修士・博士の待遇をよくしよう。
- 日本企業の多くは、賃金の抑制を初任給の据え置き(ドルベースで見れば低下)という形・年齢による給与の引き上げ幅の減少の2つで、若手の賃金を低下させてしまっている。
- また、専門分野や能力によって初任給に差をつけない制度設計をしている。
- このため、機械学習に精通した博士号取得者の雇用条件は、他国に例を見ないほど低いといっていいだろう。
- 「その技術に精通した人物がほしい」はずなのに、「マネジメント経験がない」とか、「リーダーシップが不足している」とか難癖つけて、貶めている。
日本には、技術者に対して不当な評価をされる仕組みがまかり通っている。
- 新幹線の建設費用の本来の見積もりよりも過小評価の金額に対する超過での引責。
- 実験の単位を軽視する教育制度
- 講義の場合は15時間で1単位になりうるのに対して、実験の場合には。少なくとも30時間を1単位には必要としている。そのため、実験の単位は、必要とする時間の割に単位数にならない。
- この制度を作った人は、15時間の講義について予習・復習を30時間行い、30時間の実験をした人は15時間の予習復習をするものと想定しているらしい。
-実際には、実験を行う前には、かなりの予習をしないと安全に実験を行うことができない。特に薬品を使う実験の場合には危険をだし、合成に失敗することがある。 - 実験レポートを書き上げるためには、実験時間以上に時間がかかったりするものである。
- そのことを考えると、この制度は実験を軽視していると思う。
- この制度を作った人は、15時間の講義について予習・復習を30時間行い、30時間の実験をした人は15時間の予習復習をするものと想定しているらしい。
大学設置基準の第21条
「一 講義及び演習については、十五時間から三十時間までの範囲で大学が定める時間の授業をもつて一単位とする。
二 実験、実習及び実技については、三十時間から四十五時間までの範囲で大学が定める時間の授業をもつて一単位とする。」
引用元 大学の単位と、単位に必要な勉強・学習時間の考え方~単位制度と1単位45時間について~
追記(2024.08)
「期待事業を損切り、コニカミノルタが陥った"誤算"の元凶 成長描けず、精密医療から撤退進む」
ありがちな悪癖:「事業を買収すれば成長していける。自分たちは変わらなくても」
として2021年に書いていた記事での懸念にはまり込んでしまった事例があった。
後知恵で申し訳ないが、「数値解析技術、画像処理技術」などというものは、他社が追随できないような技術にはなりえない。
「PET(陽電子放出断層撮影法)イメージング技術を用いた、がん腫瘍部の検出技術やアルツハイマー病の病理画像解析技術を有し、」
も、PET(陽電子放出断層撮影法)イメージング技術も、県に数台しかない状況で、それらのデータを活用して飛躍的に製品・サービスの拡大がするというのは楽観的すぎると思う。
2017年9月25日時点のプレスリリース記事